準備
「ううう・・・」
結局、心をえぐるような昔を思い出す悪夢を見たためまでしっかりと眠ることのできなかったあたしは、ベットから起きてアドル君からもらった弓の手入れををして心を落ち着かせる。
早朝のゲルググは商人区のみが活気で賑わっていて、他地区では静かな環境なので暮らしやすい。
私の暮らす住民区の家は商会時代に貯金して無理して買ったんだけど小さい。部屋が二つと水浴びをできる場所があるだけだ。
ただ、ファス商会がある商業区に近いけれども、静かだ。
カーテンを開け、窓を開けると精肉の商いのセリの声と小鳥の鳴き声が聞こえる。
部屋にあるあたしに似せたマネキン掛けられた鎧に視線を向ける。
サングリア素材の鎧鉄製の小手と胸当てが装備できるようにしてある。最近、強化を注文していたスカートのようにふわりと広がる形になった腰当てとサングリアの皮ブーツを猪鉄を補強してある。
ギルドとファス商会から紹介されたもじゃもじゃ髭の鍛冶師さんと、とがった耳の妖精のような女性の工芸装飾士さんが腕を振るってくれたことはある。
意外とかわいい。装飾が派手じゃないのが好印象だし、サングリアの皮や毛を桜色に染めてあるのがいい感じ。
頭には髪の毛を覆う桃色に染めてある長いサングリアの長い体毛をあしらった兜。
この兜をかぶっているとウイッグを被ったように桃色の髪でツインテールにしているように見えるから、変装道具として優秀。
受付嬢として学んだ化粧魔術を改良して本当の顔よりもちょっと幼く見えるように顔を魔術で偽装しているんだよね。
これが使えるのもすべて迷宮で手に入れた化粧道具のおかげだわ。
改良してもらった弓にもサングリアの牙が仕込んであるらしいけど、これはまだ秘密。
すべてを着用して、ゲルググの軍管区にある訓練場に向かう。
弓の試し打ちを行うためだ。
矢にすべて雷が付与されてどんどん連射できて気持ちがいい。
矢を放つことに集中していると、後ろから脇腹を触られる。
「おはよっー!ユーノおねえちゃん♪」
「ちょっとっ!なにするのよ・・・・・・ってクロ君かぁ。おはよう」
「おねえちゃん、今日はお仕事じゃなかったの?」
「おねえちゃんはね、商会を解雇されて騎士団の試験を受けないといけなくなっちゃってね・・・・クロ君、力を貸してくれる?」
「いいよ、いつも僕を助けてくれるおねえちゃんの為ならがんばるよ!」
「クロ君、ありがとう・・・」
「おねえちゃんから貰ったこの剣と盾があれば、僕は平気だよ。ようやく一人で地下迷宮の23層を突破できるようになったんだ」
そういえば、クロ君には炎剣【フリート】とミラーシールドをあげたんだっけ。
ゲルググに来たとき、給料が少なくて、食べ物が買えない時があった。
あまりにひもじくて地下迷宮で一人でご飯になりそうな魔物を狩っていた時に見つけた宝箱の中に入っていた両刃の西洋剣と鏡のようになった盾だ。
どうやら、魔法をはじき返すらしい盾と炎を吹き出す剣をあたしが使えなかったから、剣士志望のクロ君にあげた。
鎧は鋼鉄猪の牙と体毛と背中にあった鎧鉄から鍛えたものだから、あげたようなものかもしれない。
あたしは最近、回復魔法も使えるようになったし、魔導書さえあれば、中級魔法までなら扱える。
あー、でも前衛の剣士が8歳の男の子ってなにかまずいような・・・・・
まぁ、かわいいからいっか。
あたしを守ってくれる優しい王子様候補になったりしたらいいな・・・・・なんちゃって。
「また腕上げたの?すごいね。じゃあ凍結熊にだって勝てるかも」
「うん。僕もおねえちゃんがいれば、勝てる気がする」
探知魔法と発光魔法を組み込んだ地図を作り上げて地下迷宮の攻略準備をする。
ポーションとマナポーションを商業区の商店で買い込む。今日のように迷宮探索装備をしていると、化粧魔術と偽装した格好でいるから名前が一緒でも普通はばれない。
まぁ、迷宮に入る許可を取っていたファス商会のムスタファ支配人と正体を知っていたクロ君を除けば、一年間でヤン男爵と知り合いの人たちにばれたので心もとないけれど。
今日一日で準備も終えたし、明日から迷宮攻略だ。
がんばるぞっ!
次回、ゲルググ地下迷宮に潜入開始。
ユーノちゃん、大暴れします。
はたして帝国騎士になるのでしょうか。
そもそも、弓使いは騎士じゃないような気もしますけどね。