エルネシアとファーレンの係争
エルネシア帝国は、その成立時から東の隣国ファーレン皇国とよく紛争を起こしていた。それは、初代皇帝とファーレンの創設者の人間関係が原因だといわれる。
エルネシアに伝わる昔話を調べると、初代皇帝ソールは初代魔王を攻め滅ぼしたパーティのリーダーで、剣術と鍛冶に長けていたそうだ。
隣国、ファーレン皇国を建国したリコリスは【聖女ナミル】の血を引いた賢者で、ソールとリコリスは痴話げんかをする仲だったらしい。
しかし、あるときにアミティシア大陸の統一国家の運営方針で対立し、喧嘩別れのまま、お互いの故郷の街をもとにそれぞれの国を建国したそうだ。
その二か国間では、初代の遺志を継いだかのように、それぞれの方針が現在の国家の方針として現れている。
エルネシア帝国は鉱工業と軍事を中心とした大国に。ファーレン皇国は観光と経済を重視した大国に。
他にもウェルスタ王国はその時に宗教と魔法を中心とした国造りを行ったらしい。その他の国について情報はこの昔話には出てこない。
エルネシアとファーレンはたびたび国境地帯で領土紛争を起こしており、そのなかでも特に被害が大きいものとしては12年前の紛争による村落消失事件があげられる。
エルネシアでは「ルナス村消失事件」と呼ばれ、当時、エルネシアで開発が終わった新兵器や新しい火炎魔法を村に攻め込もうとしたファーレン軍に使用したところ、敵どころか村そのものを吹き飛ばしたという、ここのところ100年以上エルネシア帝国史で起こらなかった大惨事である。
12年前―――――
エルネシア・ファーレン国境からエルネシア側に二日ほど入った位置にあったルナス村は小麦とビートを中心とした農耕と牧畜を行っていたのどかな村だ。
この村には、帝国から防衛軍として帝国の騎士達が駐在していた。
総勢、400名の帝国兵は士官クラス以外は村の外の小川沿いに天幕を張り、駐留していた。
この防衛軍はエルネシア領の『古の戦場』を奪還すべく、一番近いこの村にまで進軍していた。
「おい、兵長!ファーレンの野郎どもはどう動いているんだ!」
「はっ、ファーレン軍はこのルナス村目前に迫っております」
「うむ、ではこれより、我が帝国魔道師団の大火炎魔法を発動、大砲で追撃後、爆発弾を大砲で砲撃後、奪回するぞ!」
「おー!」
「全軍、ファーレン軍を追い払え!」
地を震わすような馬脚の音と武器がこすれる音、兵士たちの掛け声が草原を騒がしくする。
大銅鑼で攻撃の合図を行ったエルネシア軍は一気呵成に攻撃を開始する。
ファーレン軍もその音に気づき、迎撃をし始めたようだ。
既に前衛は騎士同士で剣と剣を交えて戦っている。ファーレン軍はその背後から弓と魔法で援護射撃を行っており、エルネシア軍の旗色は悪い。
死傷者も出始めた頃、ついにエルネシア軍の反撃が始まる。
「兵長、生き残った騎士団員全員でスキル・犠牲盾術を使用、全力で魔導師隊を守れ。」
「はっ!野郎ども、ここからが勝負だっ!後には退くな!」
騎士たちがその体を犠牲にしてまで魔導師隊をかばう。
鎧や盾やボロボロでもうすぐ壊れそうだ。
後ろにいた魔導師隊のリーダーらしき人物がフードを上げながら怒鳴りながら声を上げる。
「・・・・いけます、騎士団のみな様の犠牲は無駄にはしません。
極大火炎魔法・テガフレーンッ!」
ゴウッ、という音とともに漆黒の夜空の中に、太陽のような大きな火球が突然現れ、流星のように空から降ってきている。
「なんじゃ、ありゃ・・・・」
「話に聞いていたが、これほどとは・・・・・」
ファーレン軍を一瞬で消し去った火球だったが、エルネシア側の兵士もファーレン軍の近くにいた者から1000度にもなるような炎に焼かれ、灰すら残さず燃えていく。
唱えた魔導師や騎士団は全滅したようだ。
後方にいた士官クラスの貴族は逃げ出しているようだ。
しかし、魔法によって生み出された火球の熱はその貴族すら焼いて行く。
そして、その熱はルナス村に帝国軍が大量に保管していた爆発弾を爆発させ、ルナス村の半分を爆発で吹き飛ばし、残りの半分も大火に飲まれていく。
帝国軍に促され、村の郊外に逃げていた住人の大半は命拾いはしたものの、馬車などのスピードの出る乗り物に乗りこんでいた者以外はその身体を灰へと変えていった。
その極大魔法は地面を溶かし、ぐつぐつと煮え立った地面から焔があがる。
村の近くにある森の木々は発火して立ったまま、黒い炭を作っていき噴煙を上げる元ルナス村。
そして、かつてルナス村のあった地域はすべて溶岩と灼熱に支配された【ルナス灼熱渓谷】と名を変え、エルネシア軍は多大な犠牲も出しながらその領地の奪還に成功した。
なお、このことを知るのは、先代エルネシア皇帝とファーレン皇族、両国軍の生き残った者のみである。
これ以降、エルネシアとファーレンの間では小競り合いはあれど、大きな紛争や戦争へと発展することがなくなった。