依頼内容
「もう一度聞くが、鋼鉄猪の討伐したのか!?」
「はい、確かにサングリアです。クロ君と一緒にゲルググ地下迷宮に潜って狩りをしてただけですよ、ヤン男爵様」
「ありえん!いや、しかしギルド長は・・・・・」
かなり驚いた様子のヤンと頭上に疑問符を浮かべていそうな表情のユーノ。
ヤンがじっとユーノを見るとぼそっとつぶやいた。
「まさか、とは思うが・・・」
「まさかってなんですか?とにかく支配人を呼んできますのでこちらの応接室でお待ちくださいね」
「なにごとだい?」
建物奥から支配人が男爵の大声に気が付き、表に出てきたようだ。
「あ、ムスタファ支配人!すみません、ヤン男爵を抑えることが出来なくて申し訳ありません・・・」
「ヤン男爵でしたか。いくらお得意様とはいえ、騒がれるのは困ります」
「すまない、しかし、ゲルググのヒータル領主殿が貴商会のユーノどのの士官を要請しておりましてな」
「うちの看板娘に帝国から士官命令ですか」
「そうです」
流石にいくら一年の間に大きくなったとはいっても、まだまだ新興商会のファス商会では逆らえない。帝都の商品を地方で売るこの商会ではヤン男爵やゲルググ市領主に頭が上がりづらい。
貴重な人材を手放すことは苦しいはずだ。
「はぁ、仕方ないですね・・・・ただし、引き継ぎが終わるまでは正式士官を待っていただけませんか」
ムスタファは一度、間を開けてから、諦めたような声で言った。
「帰ってきたくなったり、冒険者として復帰できそうにない怪我をしたら、いつでも我が商会はユーノちゃんを雇いますのでその時は私に会いに来てください。後程、私の宣誓契約書を送っておきますで確認をしておいてください。
その書類があれば、私は必ずその契約を守りますので。」
それだけ言うとムスタファは奥へと引き下がっていく。
「ちょっ、ちょっと待ってください!ムスタファ支配人!」
「待て、ユーノちゃん」
あとと追おうとしたユーノをヤンは止める。
「ユーノちゃん、よく聞くんだ。
君が倒した鋼鉄猪は地下20層のボス魔物で、今までその階層を突破できた冒険者はベテランぐらいのDクラス以上と異世界人しかいないほど少ない」
「え?」
「よって、我が帝国に必要な人材として君は『白百合騎士団員』として試験を設ける。試験内容はクロという冒険者と組んででも良いから、30層の氷結熊を討伐してくること。」
「はあ・・・・」
あたしは商会の同僚と支配人に別れの挨拶を済ませ、家と帰る。
どうやら、エルネシア帝国にファス商会を強制的に解雇されたらしい。
そして、これから騎士団入団試験を受けさせるみたい。
嫌、受けたくない。
あたしたち家族の故郷を焼き払ったエルネシア帝国騎士団とファーレン皇国魔導師隊なんか、なりたくない___________
家と帰ると、ベランダから夜空を見上げる。
そうだ、あの日もそうだった。
こんな、綺麗な二つの三日月が夜空にかかる日だった。
騎士団を憎む気持ちを思いだしてしまう。
幼いころの記憶でぼんやりとしたものだけど、記憶に残っているのは故郷の村を丸ごと消滅させられた後を見た記憶のみ。
焼かれる家々と、逃げ惑う人々。
生きた人間や獣人、牛や馬の焼けるにおい・・・・・
人が焼けていく甘いような腐るようなにおい。
なんだか胸がむかむかして焼けるような苦しさがまたこみあげてくる。
なんとか村から逃げ出して近くの村々に受け入れを頼んでも断られ、落ち込んでいる両親の背中。
ようやく、メルナ村に落ちついても、命からがらで逃げ出した私たちを疎ましく思う人たち。
食べ物や、住む場所と引き換えに多額のお金や物品を請求されて、村の外へお金を稼ぐために出て行ったお父さんとお兄ちゃん達。
お母さんも、あたしを生かすために外に稼ぎに行ったっきり・・・・
覚えているのはいつも泣いてるお母さんだった。
メルナ村で暮らしているときの励みになったのは仕送りと一緒に届くお母さんの手紙。
あとは時々届く騎士になった長男のダリウスお兄ちゃんの映像結晶と手紙。
次男のダイお兄ちゃんは下級役人になったあとは連絡が来ない。
これだけだった。
メルナ村ではアドル君は仲良くしてくれたけど・・・
あまりいい思い出は無い。
いや、いやぁ・・・
ひとりにしないで・・・・・・
涙が止まらない。
みんな、ホントに生きてるのかな。
その日は眠れなかった。