表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
玉の輿は何処に?   作者: 筒井 綾乃
プロローグ
1/18

おてんば村娘

早朝のメルナ村。

太陽が昇り始め、鶏の鳴き声が聞こえ、村の人間が次々と起き始める。

メルナ村の村娘ユーノは、明らかに先ほど起きましたという寝ぼけた顔でふらつきながら村はずれにある川に水汲みに向かう。

眠い……目をしばたたかせながら、ユーノは今日も作業を行う。

そんなユーノの横におどけた少年が話しかける。

「おはよう、ユーノ。今日も眠そうな顔をしているね」

「ふわぁぁ・・・・おはよぉー、アドル君」

ユーノはまだ夢うつつなのか、大きな欠伸をしながらアドルとよばれた10代ぐらいの青年に挨拶をする。

水汲みを終え、川で顔を洗い終えたユーノは粗末な小屋へと帰り始めた。




ユーノとアドルは幼馴染だ。けれども、その待遇は大きく違う。


ユーノは14歳の女の子。父親のシリウスも母親のエメラも村の外のムスカという都市に傭兵や乳母として出稼ぎに行っている。一番上の兄ダリウスと二番目の兄ダイもエルネシア帝国騎士や地方下級文官として地方都市リンデンに行ってしまった。

ユーノもいずれ、村の外に出なくてはいけないのだ。

一方のアドルは、メルナ村の村長の息子で歳は16歳。顔も器量もいいし、村の若い女の子からデートに誘われることも多いアドルは次期村長として大切に育てられてきた一人っ子。

茶色の髪と爽やかな顔立ちの彼は村の子どもたちのリーダーだ。


エルネシア帝国とファーレン皇国の紛争で国境付近の村落に住んでいたユーノの家族は両国の紛争で代々住んできた土地を捨て、命からがらでこの村に逃げてきた。

末っこのユーノが成人するまでの間に限るという条件付きでこのメルナ村での居住を許可されてこのメルナ村で暮らしている。

派手にいじめられることは無かったが、アドルと何人かの友人以外はあまり話しかけてくれなかった。

アドルはそんなハブられがちなユーノをよく遊びに誘ってくれた。

一緒に釣りをしたり、川で水遊びをしたりして遊んだ。

アドルとその友達と鬼ごっこや木の実集め、兎や鳥の狩猟をし、大人をからかって怒られることもしばしばあった。

もちろん、集めた木の実をこっそりと食べたり、取れた獲物を村の大人に見せずに裁こうとして失敗して血まみれで村に帰って怒鳴られたりした。


村の老人は良く、そんな子どもたちを悪戯っ子といいからかうことはあったが、仕事に迷惑を掛けなければいいらしく、よっぽど変なことをしない限り怒鳴ることもなかった。


しかし、一度村の大人たちを怒らせたことがあった。

それはアドルが8歳、ユーノが6歳の春の話。


朝の水汲みや畑の耕作作業や手伝いを終え、村長の家でこの国の地理を習った後のこと。

その日もユーノ達は村はずれの川に来ていた。


「ねえ…アドルくん、きょうはなにしてあそぶの?」

川沿いにある水車小屋の「秘密基地」に集まった村の子供たち。

リーダーであるアドルと一緒に遊ぶ時間ができてご機嫌なユーノがきく。

「うーん、ユーちゃん。今日はね・・・・・」

アドルは自分の父親からこっそりとくすねてきた村周辺の地図を指さして言った。

「冒険するよ。大人たちがいつも行っちゃダメって言っているこの洞窟にお宝探しをするんだ!」

「おぉ、俺にも見せろ見せろ」

アドルンの友人である男の子が地面に置かれた地図を見る。

「わぁい!あたしはなにをすればいいの?」

「ユーちゃんは俺の後ろで宝物を探してくれ」

「わかったー」

彼らは地図を頼りに村はずれの川を渡り、村の近くにある木の鬱蒼と茂った山へと入り、道なりに進む彼らにとって怖いものなど何もなかった。


他の子どもたちと手分けして洞窟に入ったものの、幾重にも別れた寒い風が吹く不気味な闇に満たされた洞窟の中ではほとんどの子どもたちは危機感を感じ、その場で引き返して入口で待つものが多かった。

しかし、アドルとユーノはたまたま一緒になったチームで一番奥深くまで進んでいたためか、すぐに迷った。

「アドル君、もうあるけないよぉ・・・・おうち帰りたいぃ、うっううぅ・・・・」

凍えるような寒い風が奥から吹いているので、小さな彼らの体では体温が奪われ体力がどんどん削れていく。

「ユーちゃん、泣かないで。きっと帰れるから。」

松明を持っていて多少は暖かいとはいえ、アドルの目にも涙が浮かぶ。

「ねえ、ユーちゃん、あそこなにか光ってる!あそこに行こう」

「ううぅ・・え・・・?うん・・」

彼らはその光を出している場所へ向かった。

アドルが見つけた”光”へと彼らは向かう。

二人が入れそうな壁のくぼみには光る透明の宝石のようなものが壁に埋まっていた。

風が入ってこないことに気づいたアドルは松明を壁側に置いて今にも倒れてしまいそうなユーノを松明の近くに座らせるとユーノ背中側から抱きかかえるようにかぶさり、暖を取っていた。

そんなユーノ達は泣きつかれて眠ってしまう。


翌朝、外で待っていた子供たちがなかなか帰ってこないアドルとユーノを不信に思い、村の大人たちに知らせた。

その結果、二人は洞窟のくぼみでうずくまっていくところを二人を捜索していた村の大人に発見される。

このあと、村長と長老にこってりと絞られた二人はそれ以降、日が沈む前に返ってくるようになった。


ただ、それからというものの、アドルは村の村長の一人息子として学ぶことが多くなったのかなかなか構ってくれなくなり、ユーノは仕事の量が増えたことは二人にとって大きく環境を変えるきっかけとなったのだろう。

そんな日々を送ってきた二人だったが、ついにユーノが大人として認められたことにより別れの日が来た。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ