矛盾しているわ
結局、紙を使った魔法は使えない事が発覚したのは良いとして。
彼女達に連れられて、俺はある町に向かっていた。
何でも彼女達は今は、色々事情があってそこの町を拠点にしているらしい。
「そこについたら魔法を教えてあげるわ」
と、俺は火瑠璃に言われて一緒に歩いていた。
そしてそういえば渡し忘れていたと思った先ほどの赤い魔石を彼女に渡し、
「ほら、これ。渡すのを忘れていたから」
「あ、ありがとう。ふーん、忘れているのを良い事に、渡さないでおこうなんてしないんだ」
「別に、そもそもそれの使い方も知らないし」
そこで彼女は目を瞬かせた。
そしてすぐに何かを真剣に考え始めてから、
「アキトの世界には、もしかして魔法がないのかしら」
「無い。というかあったら色々解決しそうな気がする程度に、一般的に存在しないことになっているな」
「それなのにアキトは魔法が使えるのね」
「今日知ったよ、その事実を。本当に困った」
いきなり目の前に変な異世界の神“ハイパーエンジェル・ラブピース”が現れて、突然魔法が使えるようになってゲームのような異世界に放り込まれてそこで兄弟に会ったので逃げたらこの世界に来てしまったのである。
人生何があるか分からないというが、それにしてもこれはないのではなかろうか。
とはいえ自問自答してもどうにもならないので、俺は溜息をつく事しかできない。
そこで火瑠璃と氷子が目を丸くしている。
それは信じられないといった表情だ。
そして火瑠璃が、
「し、信じられない。魔法なしでどうやって生活しているの?」
「あー、科学という物があるからそれで」
「カガク? 魔法に代わるそういったものがあるんだ。一応、その服を見てもある程度の文化はあるようだから……そこそこ高度な文明はありそうね」
「それって重要なのか?」
「もちろん、あまり意識に差があると会話が通じないもの」
そう笑いながら火瑠璃は俺から赤い魔石を受け取る。
そういえば魔石にも色々種類があるようだったなと思いだして、確か、
「確か魔石の種類は、地、水、火、風、闇の五種類だったか?」
「……何で魔法を知らないのに、そんな種類があるって知っているのよ。矛盾しているわ」
「ああ、それはTVゲームで知っていたからだ」
「TVゲーム?」
「えっと、どう説明すればいいかな。小説みたいなものを視覚的に表すような、そういったものなんだ」
「……つまり、その視覚的に現れる物語で、魔法を知っているという事かしら」
「そうそう。俺達の世界ではそういったものが発達しているんだ」
それを聞きながら、火瑠璃は困ったような顔をして、
「それで物語が映像化されているだけ?」
「いや、主人公を自分のある程度思い通りに動かして物語が楽しめるが……」
「それは魔法の訓練をしているって事かしら。魔法がないのに?」
「いや、娯楽だ」
さらに火瑠璃は変な顔をするがそこで深々と溜息をついて、
「別にいいけれど。貴方の魔力は強そうだし、仲間に引き入れられたのは良かったわ」
「そうですか。それでここも含めて世界観を説明して頂けると助かります」
「……ここは、“ユーフェル大陸”の西に位置する国。フィオナ国。その国の中部に位置するサレッタ草原という場所」
「“ユーフェル大陸”? 確かダンジョンで、エルニーニョという世界があったような気が」
「……それはこの世界の名前」
「! そうなのか。だったら少しは場所が分かりそうだな」
「……何で貴方の世界のゲームにそんなものがあるの?」
「さあ。……やっぱり夢の中なのかな。そもそもゲームの中に入れるはずがないしな」
俺は真剣に悩んでいると、そんな俺を火瑠璃は見て、
「良くは分からないけれどそれだけ似ているのなら、何か理由がありそうね。そしてこの世界に来ているのだから、そのあたりも関係しているのか……でもそれは今は保留ね」
だって考えても分からないものと彼女は肩をすくめる。
次に彼女は先ほどの魔石を俺に見せながら、
「ああいった強めの魔物が持つ魔石は、強い力を秘めているの。私達もそこそこ強いのだけれど、私達程度の力では敵と戦うのが難しくて。だから魔石を集めているの」
「そうなのか。そういえば人造魔石である拡張魔石というのがあると聞いたんだが」
「聞いた? 誰に」
「異世界の神、ほら、俺を助けたおっさんだ。“ハイパーエンジェル・ラブピース”って言う名前らしい」
「そう、でもその拡張魔石は全てあちら側に抑えられているから無理なのよね」
「あちら側?」
その問いかけに火瑠璃は黙ってから、次に俺を見て、
「事情を話したら、素直にお手伝いしてもらえるかしら」
「危険のない範囲では」
「……死なないから大丈夫ね」
火瑠璃の言葉に俺は不安を覚えた。
死なないからって、死にそうな目にあうんじゃないかと。
あのへんなおっさんのサポートはあるらしいから、死ぬ事はないと思いたい。
そして、火瑠璃はちらりと氷子を見てから、
「私達は現在、次の王を決める戦いに参加しているの」
そう俺に告げたのだった。