嘘臭いんだよな
だがそのお願いをすると彼女は不思議そうに首をかしげた。
「“虹の破片結晶”? そんなものを欲しがるなんて、貴方、異世界人かしら」
「そうだと思う。……でも俺自身はまだ夢の中なんじゃないかという気がしているんだが」
「私が夢の世界の住人だと? その冗談はつまらないわ」
「そうだよな。俺もそう言われたら同じ気持ちになるし、言うと思う」
「だったら言わないでよ」
「現実逃避したいんだよ! ある日突然こんな世界に連れてこられたら誰だってそうなるわ!」
そう俺が叫ぶと彼女は困ったような顔をして、
「貴方、何かに巻き込まれたの?」
「おそらく。突然異世界の神というさっきのおっさんが現れて、ここに来る羽目に……」
「ふーん、異世界の神、ね。それに貴方、この世界に疎いんだ。そして“虹の破片結晶”を探しているのね」
「はい、それがないとここから出られませんし」
それさえあればダンジョン? なこの世界からまずは抜け出せる。
そしてその後はどうにかして元の世界に戻ればいい。
一番良いのは熱中症で倒れていて目が覚めたら病院だったという夢落ちを期待したい。
はっきり言ってこんな悪夢のような展開はこりごりだ。
俺はごく普通で平凡だ。
親兄弟と違って、そう思っていると、俺に話しかけてきた彼女が、
「貴方、何ができる?」
「ええっと、呪文を唱えずに火を出したりとか、ですか?」
「呪文なしに? じゃあ魔力は結構あるのかしら」
目の前の彼女がにこっといい事聞いちゃったという風に微笑んだ。
俺は嫌な予感しかしなかった。
これは絶対に何か妙な事に巻き込まれる……そう俺が思っていると、
「火瑠璃ちゃん、突然走り出すから……」
「氷子、貴方が遅いのよ」
「酷いよ……その人は?」
そこで彼女は俺に気付いたらしい。
じっと見て首をかしげて、誰だろうという風に俺を見て、
「さっきの蛇がこの人を襲おうとしていたから急いで助けに来たけれど、必要なかったみたい」
「あれ? さっきの蛇、火瑠璃ちゃんが倒したのかと思っていたかも。また強くなっていたんだねって思ってたのに……」
「氷子、やっぱり眼鏡、新調した方が良いと思うの」
「この魔道式硝子コンタクトレンズがお気に入りなんです! でもこんなにあっさり、さっきの蛇を倒すなんて、随分と優れた魔法使いか何かなのですか?」
氷子と呼ばれた少女が目を輝かせながら俺に詰め寄る。
こんな期待に満ちたまなざしの彼女に、異世界の神が俺を死なないようにサポートしてくれているからですなんて言えるだろうか。
答えは、無理だ。
なので俺は沈黙した。
そこで火瑠璃と呼ばれた少女が、
「何だか知らないけれど、こ何時は異世界の神だか何だかに守られているの」
「ええ! ……冗談?」
「多分ね。無理やりここに連れてこられて錯乱しているのかも。でもそういった謎の生物に守られているのは確実みたい」
「ふぇえ、それで火瑠璃ちゃん、この人をどうするの?」
「今は考え中。でもちょっと実力には興味があるかしら」
悪戯っぽく火瑠璃が笑う。
そして俺に、
「その火を出す魔法を使ってみて。その大きさである程度貴方の実力が推定されるから」
「分かった。確かこうやって、炎でろ……」
俺は二人のいる方向とは反対方向に手を伸ばして、炎が出るように念じてみる。
あの時はあのへんな異世界の神がいたのでたまたま出たのかもしれない……つまり何かのトリックだったのだ!
といった妄想を頭の中に浮かべつつ、でも今は出て欲しいですと必死に念じてみた。
ぼっ
俺の掌から少し離れた場所に炎が上がる。
先ほど部屋で出したものよりもふた周りは大きい。
やはり自分の部屋に火を付けるのに俺自身戸惑いがあったようだ。
そしてその炎を見た火瑠璃が火を出していない方の片手をぎゅっと握り、
「貴方、お名前は?」
「……彰人です」
「アキトね。よし、貴方私達と一緒に行動しない?」
「え? いえ……良いのでしょうか」
「ええ。貴方の力はすごく強いし、でもよく周りの状況が分かっていないみたいだし」
「……やけに親切ですね」
「貴方の力に惚れた、それではダメかしら」
「いえ、でも俺こんな風な事しかできませんよ?」
「大丈夫大丈夫、そっちは私が手取り足とり教えるし」
随分と好条件だ。
それに俺を助けようと思ってきてくれた彼女達は、悪い人間ではないのだろうとは思う。
だから俺は素直に厚意を受け取って、
「よろしくお願いします」
「受けてくれて嬉しいわ。それに、“虹の破片結晶”を探す手伝いもするわね」
「? 珍しいものなのですか?」
「とてもね。そして厳重に管理されている。でも私達と一緒に来れば、手に入るかもしれない」
その含みのある言い方に俺は嫌な予感を覚えた。
それは手に入りにくくさらに面倒な目に遭うのではないかと。
いざという時は自力で手に入れる方法を探さないとなと俺は考える。
そこで、火瑠璃が一枚の紙を取り出した。
「これは?」
「貴方が必要だって言ったんでしょう?」
そういえばいったなと思って紙を受け取る。
この紙を使ってカードを操る魔法が使えるらしいのだが……。
「嘘臭いんだよな」
「何が?」
「いえ、独り言です」
そう俺が答えて、適当に紙に念じてみる。
けれど、その紙には幾ら待っても特に変化はなかったのだった。