第5話
「おいおい、お前にはまだ早いって。ちょっと自重しとけ」
難易度高い討伐依頼を持ってきた兄ちゃんをあしらい。
「お姉さん、そこのモヤシ連れてくとイイコトあるかもよ?」
重装備の女性へ、補助系魔術師をお勧めして。
「オッサン、邪魔! オラ少年、ここ書いて、そっちに血を垂らして……」
クマみたいなオッサンの子どもに、ギルドカードの記入を教えていく。
ギルドの受付というが、本当に何でもある。つうか、迷子の保護までさせんな馬鹿。
大体は討伐、採取、探索依頼の斡旋、引き受けだが、各種証明書の発行もしている。
証明書については、役割が被っている教会と分担をしているが、それでも仕事内容は多岐に渡る。
「お姉さん、初顔だな。何をお探し?」
きょろきょろと落ち着かなく顔を見回していた私服のお姉さんに声をかける。
服装からして恐らく、依頼の申し込みだろうな。
「す、すいません。依頼をお願いしたいのですが…」
カウンター越しに声をかけた俺を認めて、予想通りのことを言いながらお姉さんはおずおず近づいてくる。
さて、どんな依頼かと予想していると。
「ん?」
仄かに香る花の匂い。昨日今日と香水の話をしたからか、今日はよくこういった匂いが鼻に付く。
意外と世の女性は香水を使っている、ということか。
少しは勉強した方がいいかもな、と思いつつも、カウンターから空欄の依頼書を取り出して書き方を教える。
「上から出来るだけ詳しく書いていってくれ」
「あ、はい…あの、報酬はどのぐらいがいいのでしょうか? 私、こういったの初めてで…」
「この程度だったら――」
十分ほどで書き上がった依頼書をチェック。不備がないことを確認する。
「書き漏れなし、と。多分四日もあれば持ってくるだろうから、気長に待ってくれ」
「有難うございます!」
さっぱりした表情で礼を言うお姉さん。
ふと、その目がカウンターの奥へ注がれる。
「皆さん、忙しそうですね」
「そりゃまあ、なんでか迷子預かったり、観光案内までしてるからな」
俺らの仕事じゃなくね?
そう思いつつ、一緒に振り返る。
忙しそうに走り回る職員や、裏口から飛び出して行く職員。
そんな慌しい職場内で我が友人は、書類作製の最中。アイツの机は、年中書類の山。
フランのヤツは一度集中すりゃ、恐ろしい勢いで仕上げていくからな。
「――今日は有難うございました」
「まだ依頼完遂してないんだから、礼はあとあと。じゃな」
「はい!」
「気をつけて帰れよ」
顔を戻して、笑顔でお姉さんを送り出す。
続いてやってきた馴染みが、すがるように依頼書を出してくる。
その顔を見た瞬間、用意していた依頼書をカウンターへ置く。
「プー、この依頼頼む!」
「プーじゃねえよ! テメエはコッチ十セットやってろ!」
「おいプー! それじゃあ俺が食いっぱぐれるぞっ?」
「だから十セットやりゃあいいっつてんだろ! プーじゃねえ! 俺は受理しねえぞ!」
「っ? アンナ、聞いてくれよおお! またプーが苛めるんだ!」
「…ケラス、アンタウザイ。ケープが正しい」
「アンナあああ、キミまで酷いよぉおおお!」
やってきた女性に引きずられ、馴染みは退場していく。
毎度ながら、実力ギリギリの依頼を見つける目は流石だが……
「ギリギリじゃダメだな。ハイ次!」
「ケプー、コレとコレな!」
笑顔で人の名前間違えやがったヤロウの頭を、ぶん殴った。