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第2話

 引き続き、お願いします。

「ケープお帰り」

「あれ? 姉貴か。早いな」


 どっかの偉い人の屋敷で家庭教師をしている姉貴。

 珍しくリビングで本を読んでいて、俺の帰宅に気付いて顔を上げる。


 眼鏡をかけているせいか、冷徹に見えるが姉貴は美人である。

 性格も見た目どおり冷徹だが、これでも意外と世話焼きだ。

 表だって美人だの優しいだの言うと、ブリザードの目で射抜かれる。

 本人は照れ隠しのつもりだが、殺気交じりで睨まれているとしか思えない。

 そんな姉貴が、本から顔を上げて俺を見てくる。


「グランスの新製品じゃない。今度の子はどこのお嬢様?」


 今度の子。つまり、新しい彼女。姉貴は俺が彼女をとっかえても、ひっかえても、全く気にしない。

 が、大概別れる原因が目の前の姉貴だからなんとも言えない。

 ん?

 何かが引っかかり、首をかしげる。ああ、そうか。


「悪いが最近はフリーだぜ、俺」

「そう? アンタからグランスの香水……ソーブだったわね、匂いがするわ」

「グランス?」


 香水のメーカーかなにかか?

 俺が分からないことを理解している姉貴は、これ見よがしにため息をついてみせる。


「いい加減、ブランドぐらい覚えなさい」

「俺が愛してるのは、中身だからな」

「ホント、面倒臭い弟」


 うっせ。

 だが、香水のどぎつい女には会った覚えがない…

 仕方ねえ。

 鞄をテーブルに置いて、椅子に座る。


「姉貴さ、その香水、人気あんの?」


 本に視線を戻した姉貴へ、訊ねる。

 一応女の子の端くれである姉貴は、それなり…どころかかなり知っている。

 高貴な方の家庭教師をしているからか、お偉様のお茶会などにも顔を出すため、こういった知識は豊富だ。

 今回も顔も上げず答えて下さる。


「グランスは最近人気が出てきた店。香水と花屋を経営してるわ。

確か代替わりして、そのトップが色男らしいわよ」


 心底、仕方なさそうに教えてくださる。その突き放しっぷりで俺の精神がガリガリ削れていく。

 眉を少し寄せ、姉貴は続ける。


「アンタの臭いの元はソーブって名前の香水。グランスの新製品で、店に出ればかなりの値段になるらしいわ。

 一人持っていて、その匂いがまさにアンタと同じ」


 言って、俺を細い指で示す。

 香水を俺の体臭扱いしないでください。が、反射的に服の匂いを嗅いでしまうのが、俺。

 くさくない。


「俺、臭い?」

「相当匂うわよ。私、強い匂いが好きじゃないの」


 すいません。

 ああ、だから嫌そうなのか。

 慌てて窓を開けて換気をする。涼しい風が通り抜けるのを確認して、二階の自室へ向かう。


「ごめん。着替えてくる」

「男ったら、ホント匂いに鈍感ね」

「悪かったな」


 事実だが、追い討ちをかけないで欲しい。

 が、姉貴の言葉は続いていた。


「でも、その対応は好感度アップよ、ケープ」

「姉貴の好感度あげてもなあ」


 俺が少し嬉しいぐらいじゃないか。

 階上から見れば、姉貴はまた本に目を落としていた。



「高級な香水? あらやだ、ケープちゃんいつの間にお嫁さん見つけたの?」


 そう言って、母親は勢い溢れる平手を背中にかましてきた。華奢な体なのに、繰り出される手の威力は強力。

 人がモノ食ってるだろっ!


「っ? だ、から! 俺じゃ、ね、えって!」


 むせながらも、叫ぶ。

 夕食時、試しに女子である母親に聞いてみたら、これだ。


「グランスってお店よね? 可愛い瓶がたくさんあったわねえ」

「お母さん、興味あるんだ?」


 姉貴も少し興味が沸いたのか、夕食から顔を上げて会話に参加してくる。


 ちなみに、父親は『海を渡った新天地でビックになって帰ってくる!』といって、家を一年以上開けている。

 大口叩いているようにみえるが、実際は単なる単身赴任。

 父親が働いている会社は、魔動石の採掘とその流通を管理している。

 土地土地によって採掘される石の種類が違うため、また、その国や町によって使用方法が異なるため、文化を仕入れるのも仕事に入っている、らしい。

 時折届く手紙には、母さんに会いたい、あれそれの料理が懐かしい、お姉ちゃん、クーラの笑顔が懐かしい、と二人の女性へのラブレターになっている。

 ヤツの脳内に俺は存在してない。俺の脳内にも、ヤツは存在してない。


 それを毎度、半ばまで読んで焼き切るのは姉貴の役目。燃え尽きた手紙に関して、特段感想はない。


「一昨日、えっと、新しい…カーブって香水のお披露目会があるって、お友達と一緒にお店まで行ったわよ」

「お母さん、ソーブよ」

「ああ、それそれ!」


 手を叩き、はしゃぐおっとり系の母親は、間違いなく美人である。

 父親の顔なんざ忘れたが、母親は側頭部の金髪がくるくるしていて、羊の角みたいな面白い髪型をしている。

 これが寝癖だと誰が信じられるだろうか。

 たまに、スリッパ履いて買い物に出かけるほど、抜けている母親だ。

 

 …子ども以上に子ども染みている。


「お店って、本社よね。噂のロメオに会えた?」

「ロメオさん? 有名な方かしら?」

「いや、色男ってことだよ。香水屋の社長に会ったかって聞きたかったんだろ、姉貴」

「そう。名前はイアロス」


 興味あるのかないのか分からん素っ気なさ。まあ、興味あるから訊くのが姉貴だ。

 その分かりにくさが、勘違いされるんだよなあ。顔も性格もいいのに。


「なに?」

「いや。で、母さん、会った?」


 お姉サマから視線を逸らし、母さんに尋ねる。

 うーん、と料理を口に運んでいた母さん。思い出したように笑顔を浮かべる。


「あっ! いたわよ。茶色の髪で、灰色の目の、蛇みたいな人でしょう? 

 夏でも冷たくて気持ち良さそうだったわあ。あっ、そういえば黒い服を着た護衛の人がいたわねえ。

 あら、あの人、有名な方だったのね」

「………」

「………」


 毎度思うが、母さんはどこを見て人間を格好いいと判断しているのだろうか。

 完全にマイナス評価が入っているが、生憎、母さんは本気で褒めている。嫌味などいえないのだ。

 しばし無言が続く。母さんが不思議そうに首をかしげた頃、姉貴が口を開く。


「その人がイアロスね。見れてよかったじゃない」

「格好いい人だったけど、クーラちゃんのお婿さんには、ちょっと似合わないわねえ」

「ぶっ?」

「ごほっ! ごほっ!」


 母親の爆弾発言に、今度は二人してむせる。


「あらあら、二人ともどうしたの?」

「分からない…お母さんの考えが…分からない」

「俺もだよ…」


 水を飲み、落ち着いたところで、話を続ける。ええと……なんだったか?


「ああ、香水だ。香水の話だよ、母さん」

「ケープちゃん、香水が欲しいの?」

「違うって。ほら、新しい香水の話だろ」


 どうして女性用の香水を、俺がつけなきゃならんのだ。

 いえば、手を打つ。


「香水って瓶がキレイよねえ。私も一個買えばよかったかしら? でも、私使い方が分からないわ」

「母さんはそのままで十分魅力的だから、いらないよ」


 どうせ、買ってきたことを忘れるからな。この人は。

 適当なお世辞にも関わらず、母親は照れる。


「まあケープちゃんったら!」

「で、母さん。新製品は?」

「お母さん覚えてるわよ。青い小瓶の、お花の匂いよねえ。社長さんからプンプン匂ってきたわよお」


 プンプンて。異臭騒ぎみたいな言い方すんなよ。

 苦笑が途中で止まる。ふと、意地悪心が芽ばえた。


「あれじゃねえの? 母さんのお友達はこぞって社長様に突撃してったんじゃね?」

「あら、どうして分かったの? そうそう、みんなあのお花の匂いが好きみたいで、大変だったわねえ」


 いや、それさ…どう見ても、ここぞとばかり社長に群がっただけだろ。


「当然、母さんも」


 ちら、と姉貴が呆れたような視線を向けてくる。

 はん、一年も顔も忘れた父親と離れてりゃ……


「お母さん、人ごみが苦手だから、別のお店で買い物してたわ」

「……さいですか」


 こういう人だった。

 思わず頭を抱えてると、それみたことか、と口の端を吊り上げた姉貴の視線とかち合った。

 くそ、楽しそうだな!

 勝ち誇った姉貴は表情を戻して母親へ問いかける。


「その香水って数量限定という話だけど、店でも売ってたか分かる?」

「えっと、お店には置いてなかったみたい。お友達が買えなかったって残念そうだったわよ」

「ん? 姉貴、どゆことだ?」


 俺の異臭元は、恐らく親友兼玩具のフランが原因だ。肩を叩いたときに漂った匂いがソレだろう。

 が、実際その香水は最近発売したもので、店には並んでない。

 じゃあ、友人の彼女はどこからその香水を手に入れたのか。


 答えを知っているであろう姉貴は、何てことないように言う。


「お得意様だけのプレゼントよ。原料の調達が安定しないから、配られた先も多くないそう。

 さて、アンタから漂ってきた匂いは、どこのお嬢様からのものかしら?」

「マジかよ」


 最後だけは楽しそうに言う姉貴。

 おいおいフラン君、一体どこからそんな雲上人の彼女を仕入れてきたんだい?

 どこぞのご令嬢とキミが並ぶ姿など、想像もつかないぞ。


 後書き、前書きのテンションが低いのは仕様です…ハイ。

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