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第12話

「遺跡調査よ、ケープ」


 そんな命令を受けた、休日二日目。

 俺一人して晴天の中、馬車に揺られて数十分。

 適当な場所で降ろしてもらい、地味な遺跡に立つ。この辺りなら、魔獣なども出没しないから融通が利く。

 前に言った遺跡の護衛依頼というのは、万が一地下が見つかった場合の話。


「相変わらず、地味だな。お、あれか」


 神殿か、住居跡か、兎に角、柱と石版しか残ってない遺跡に立つ。

 入り口と思しき場所から、俺の倍以上ある石版まで一直線に続く遺跡。

 柱はどれも年月が経っているせいで蔦が巻いていたり、泥にまみれたりと散々な状態。下手をすりゃ折れている。

 本当は、屋根というか天井があったらしいが、崩落している。


「群れると、不気味だな…」


 顔を動かせば、雑草に混じってあの地味花が咲き誇っている。

 単体であればなんとも思わないが、数十が固まって咲いていると、何か不幸を運んできそうだな。

 強い風を受けてそよぐ花々が、どこか不吉さを醸し出す。


「つうか、何で俺が……」


 納得いかない。髪をかき上げ、呟く。

 この調査と、フランがどう結びつくのか全くワカラン。姉貴は何か予測立ててるっぽいが。

 今日は家庭教師という職業を生かして、お嬢様と共に考古学の勉強をしに行くらしいし。

 …明らかに、お嬢様を傘に立てた裏づけ調査だよな。


 まあ仕方ない。ここまで来たんだし、やってやろうじゃねえか。

 気を取り直して、遺跡を睨みつける。姉貴に受けた命令は一つ。


 遺跡の地下室を見つけろ。


「何度も調査してるから、無駄だろ……ったく」


 懐から風の魔鉱石を取り出し、握り締める。


「………」


 目を閉じ、石から漏れ出る魔力に意識を集中する。四方に散り始める魔力を制御して、と。

 俺を中心に、風を全方位に吹かせる。抜け道を知るなら、コレが一番早い。

 狭いとはいえない遺跡の隅から隅まで、風が行き渡るように調整する。

 が、ところどころ崩れているせいで、やりづらい。


「おっ?」


 底無く下へ吹く風を感知する。

 目を開け、その場所へ、石版の真正面まで歩く。

 再度、風を吹きつければ確かに下へ抜けていく。

 ………いや、待とう。落ち着こう。


「本当にあった…のはいいが、こんな簡単に見つかるのに誰も気付かない、のか?」


 見た目にはただの汚れた床だが、開閉するための仕掛けか何かあるのだろう。遺跡だし。

 が、生憎そんなもの探してやるほど、俺は優しくない。

 ならばどうするか?

 何度か風を動かして、床の厚さを確認する。次に……


「よし、誰もいないな!」


 全方向に人間の姿が無いことを確認して、まず折れて地面へ横倒しになった柱へと向かう。

 なるべく、短い柱を選んでその前に立つ。

 手を握り拳をかためる。

 大きく深呼吸し。


「おらあああああっ!」


 勢いをつけて拳を柱へ落とす。

 風を纏った一撃を受けて、見事、短い柱が半分に破壊される。

 俺の拳も痛まない。

 柱の見事な砕け具合に、満足してニヤリと笑ってしまった。おっとイカンイカン。


「変な結界とかねえよな…?」


 遺跡内に戻り、床へ視線を落とす。まあ、やってみるしかないか。


「怨むなら姉貴を怨んでくれよ、っと!」


 床へ向け、遠慮なく拳を叩き込む。

 結界などもなく無事皹が入り、すぐさま軽い音と共に床が粉砕される。

 ぽっかり空いた空間へと、その破片が落下していく。

 その様子を見て、拳についた砂を丁寧に払い落とし、魔鉱石から手を離す。


「これで、次の探索が楽になったな」


 さすが俺。完全に粉砕された床を上から覗けば、薄緑に光る階段が続いている。

 調査が目的のヤツらなら、通路を開くための仕掛けを探すのだろう。が、俺は違う。


 遺跡の破壊は魔物のせいだ。俺は、たまたまその光景を見ただけ。


「よし、行くか」


 言い訳も完璧。

 …ギルド職員が何をやってるんだ、という心の声が聞こえたような気がしなくはない。


 頭を振って幻聴を振り払い、地下へと足を踏み入れる。

 見えた階段だけでなく、壁も薄緑に光っている。明かりは必要なさそうで結構。

 何の機構が働いているのか、空気も外と変わらず乾燥しているが…


「誰か、入ってんじゃねえか」


 おいおい、遺跡の地下は発見されてないんじゃなかったのか?

 積もった埃が、足型に凹んでいる。どうみても、人間の靴跡だ。

 眉間にシワが寄る。警戒するに越したことはない。


「一旦、引くか?」


 だが、秘密の通路は塞がっていた。さて、どうするか。

 

 しばし考え、自分の足音だけが響く通路を歩き続ける。

 魔物の気配も、他の生物の気配も無い。それならば、行くとこまで行ってやろうじゃないか。

 決心はしたが、この地下どうやら一直線らしく、分岐もない。ただひたすら、薄暗い通路が続くだけだ。

 それほど進むことなく開けた空間にたどり着く。

 折角冒険気分だったのに、コレはない。反射的に口が開く。


「……終点、早すぎるぞ」


 この遺跡、何のために造られたのか。今更そんな疑問が浮かぶ。

 それほど何もない、狭い空間だった。

 三方の壁には巨大な花のような文様があり、近づいてよく見れば、その文様は文字に見えないこともない。

 それ自体が発光しているところを見ると、まだ動いている。天井を見れば、赤い文様が…時計のように動いている。


 そして、空間の中央には台座が、いかにもワケありな体で鎮座している。

 俺より先に侵入したダレかさんの足跡も、白色の台座へ続いてるしな。


「何もねえし」


 期待はしなかったが、上から覗き込んだ台座には何もなかった。ただ、片手に収まるほどの長方形の穴が開いてるだけ。

 そこに何かがあったのだろうが、先客がお盗りになられたらしい。遺物は教会の管理だが、こりゃ完全に着服なさってるな。

 しばらく穴を睨んでたが、何が起きるわけでもない。

 視線を外して、天井を睨む。


「ミッション完了か」


 姉貴に報告して、終わりだな。

 台座の窪みと三方の文様が気になるところだが、一介の受付職では知識が無さ過ぎる。


「ここを見つけるとはね。さすがだ、ケープ君」

「なっ?」


 突然誰もいないはずの空間に声が響く。昨日を彷彿とさせるような冷たい笑い声が。


「しかし遺跡を破壊するとは、感心しないな」

「先客は、アンタか」


 やはり気配に気付けなかった。振り向いて、初めてソコにいると分かったぐらいだ。

 空間の入り口に立つその姿。そして、漂ってくる例の匂い。

 灰色の目は、笑っている。その白磁の手が、遺跡の壁をなぞり冷笑を浮かべる。


「君の親友が悲しむな」

「やっぱ麗しの彼女はお前か。そりゃアイツも挙動不審になるわけだ」


 友人も姉貴と同じで蛇が嫌いだからな。

 俺の皮肉に香水屋の主、イアロスは楽しそうに笑う。


「なるほど。どうやら君も理解しているようだ」

「…全然理解できてねえよ。どうしてアンタがここにいるのか、とか、あの穴に何があったのか、とかな」


 台座を指差してやるが、見向きもしない。


「ここにいる理由は簡単だ。中に入られると困るのでね」

「困る?」


 お忙しい社長サマがここに来ざるを得ないほど『困る』理由…?

 考える俺に、足音一つ。

 裏を見せない笑みを浮かべ、イアロスが一歩、また一歩、近づいてくる。

 さて、どうしたもんか。色男の顔をぶん殴ると、後が怖いからな。

 …顔じゃなければいいよな!

 風の魔鉱石を取り出して握り締める。ある程度の距離を置き、イアロスは足を止めて立ち止まった。


「そこには、コレがあったのだよ」

「…わざわざ持ってきてくださったのか」


 その手には、白い箱のようなものが握られていた。

 飾りも何もない、のっぺりとした表面に、横一文字の亀裂が入っているだけの箱。

 だが、ただの箱がこんな大層な場所に置かれているはずがない。

 どこか人を見下したような笑みと共に、箱を見せ付けてくる。


「これがないと落ち着かないのでね。そう、ケープ君。まずは落ち着こう」

「落ち着けるか。アンタ一体何者なんだ? ただの香水屋が気配を消す技術を持ってるとは思えないな」


 そりゃもう、自分は怪しいものですよと公言してるようなモンだ。

 どの角度から見ても不審者なイアロスと、距離をとる。が、背後は壁。逃げ場はない。

 …まずいな。


「そうだね。だがまあ、君にはフランを人質にとっていると言えばいいのかな?」

「……ったく、変なモノに好かれやがって…」


 今更ながら、アイツの忠告の真意を知る…コイツが俺を監視してるってことだ。

 遅い! はっきり言え!

 脳内で友人の顔をぶん殴っておく。


「アイツのどこに、執着する要素があるんだよ」

「外にも中にも興味はない。今の私にはあの力だけが必要なのでね」

「お前もかよ……めんどくせえ」


 そういうことか。っていうか、きっぱり魅力ないとか言ってやるなよ。結構気にしてるんだぞ、アイツ。

 イアロスは箱をしまい、余裕の笑みを浮かべる。

 見た目は貧弱だが、どうも油断できない。


「フランは相当君の事を心配していたな」

「余計なお世話だっての」

「親友だというから、少々興味を持って偵察をだしたのだが、気付いたかな?」

「ていさつ…? 偵察?」


 全身に嫌な予感が駆け巡る。

 そういえば、最近香水の匂いを良く感じる……


「ってまさか!」

「遅い。が、速いな」


 慌てて握り締めた石の力を借りて風を巻き上げる。。

 吹きすさぶ風を受け、イアロスは勝ち誇った笑みを浮かべる。


「この場所で、この匂いをどこに逃がすというのかい?」

「時間稼ぎかよ! セコイぞ!」

「付き合った君が悪いのだよ。君にとって不幸なことに、この壁は私を逃さないために頑丈でね」


 上と同じようには破壊はできんよ、と嘲笑する。

 ならば、と一歩踏み出せば。


「っ?」


 強烈な匂いを感じて体が傾ぐ。

 すぐに、埃にまみれた床が目の前に。


「急速に空気を撹拌するから、こうなる」


 完全に馬鹿にした声が上から突き刺さる。


「少しは考えたまえ」

「くそ、ったれっ!」


 倒れた痛みも無く、そのまま意識が落ちていく……

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