表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/18

第10話

「なるほど」


 何がナルホドなのか。自分で言ってワカラン。

 ただ、俺が酷く場違いなのは全力で理解した。

 右を見れば、小瓶に群がる女性の群れ。左を見れば、小瓶に群がる女性の群れ。

 前に顔を戻せば、会計に群がる女性群れ。


「姉貴連れてくれば良かった…」


 まあいい。贈与用の香水を買いに来たってことでいいだろ! 要は気分の問題!


 休日に足を運んでみたのは噂の香水店、グランス。

 店構えは老舗風だが、外から見た時から嫌な予感はしてたんだよ。熱気というか…な。

 気を取り直し、商品を見ていく。

 こういう時、周囲より頭一つ高い背が役に立つ。


「しかし凄い数だな」


 効能が書かれた棚に並ぶ、何百もの小瓶。それぞれ形も、中身の色も異なる。

 見本の使用は、別の場所で行うらしい。こんだけモノがあれば、臭いが混じるからな。


 漏れ聞こえる話に耳を傾ければ、誰それがどうこう出来ただの、必死に効果があることを喋っている。

 普段なら鼻で笑うところだが、それを話している人間の年齢層が広すぎる。

 若い女性から、奥様まで。


「本当に効果、あんのか?」

「試してみますか」

「っ?」


 背筋がぞっとするほど冷たい声が耳にかかる。

 振り向いた俺は顔が引きつっていたかもしれない。なにせ、気配どころか足音すら感じなかったから。

 俺が男を認めた途端、店内に嬌声が響く。そのやかましさに、思わず眉が寄る。


「なるほど。アンタが噂の社長サンか」

「おや、私のことをご存知でしたか」

「ああ。有名だぞ」


 茶髪に灰色の目。白磁の肌に嫌味なほど均整がとれた身体。通りがいい声。

 

 そして、蛇みたいな冷酷な雰囲気。


 店中の嬌声を受けても、その冷淡な声は俺の耳に入ってくる。

 確かに、姉貴には似合わないな。アレでいて、可愛いもの好きだから。


 香水店グランスの社長であるイアロス。彼は微笑むと客へ手を振る。一層嬌声が増す店内。

 そのまま接客しててくれ。

 視線を香水に戻し、効能を確認していく。


「わざわざ来てくださって、有難うございます」

「……?」


 俺に向けた言葉かと思えば、さすが社長、いつの間にか客に囲まれていた。

 やれやれ、イアロスが来てから店内の人口密度がうなぎのぼりだ。

 …とっとと退散するか。


 店から出る瞬間、社長サマと目があったような気もしたが……



 続いてやってきたのは、さほど離れてない場所にある花屋。

 だが、こちらは客もそんなに多くない。

 花を趣味にしていそうな人間か、贈り物を探してるような客しかいない。

 …繁盛してるんじゃないのか?


 花屋に興味はないが大雑把に眺めてみると花だけでなく、木まで置いてある。

 それらは地域別に分かれているようで、色とりどりの花が咲き乱れている。

 凄い量だなと思えば、店先で作業していた男性が俺に気付いて笑顔を浮かべて立ち上がった。


「いらっしゃいませ」

「うんっ?」

「何かお探しですか?」

「あ、いや、まあ……」


 その顔を見て反射的に香水屋、グランスへと視線を向ける。

 その店先まで女性客で溢れていることを確認して、顔を戻す。

 一連の行動で男性は俺が何を確認したのか気付いた様子で、微笑む。


「僕は彼の弟ですよ。驚かれました?」

「あ、ああ……双子とは聞いていたが、本当にそっくりなんだな」


 茶色の髪に、灰色の目。白磁の肌に均整がとれた身体。

 ただ、弟、コワルトは全体的におっとりとした空気をまとっている。

 人が良さそうな、フランと似た雰囲気を覚える。

 しかし、コワルトは首を振る。


「あまりそう言われませんけどね」

「そうか? 冷酷……あ、向こうの方が表情が硬いぐらいで、そっくりだろ」

「冷酷……ええ、そうですね…」


 うわぁ、やっちまった! 思わず本音がぽろりと! しかも、バッチリ聞かれてたし!

 慌てて手を振って否定する。


「わ、悪い! 別に、そういう意味で言ったわけじゃ」

「少し前までは、あんな冷たい兄じゃなかったんですけどね…」


 しかもあまり触れて欲しくなかったっぽい。

 目を伏せたコワルトは自嘲の笑みを浮かべる。


「すいません。お客さんに」

「い、いや。俺こそスマン」

「それで、何をお探しですか?」

「その……だな…」


 これ、今の今で聞いていいのか?

 あんまりなタイミングだが、仕方あるまい。

 気まずい雰囲気の中、決心して口を開く。


「ソーブって香水の元になった花を見たいって姉貴に言われてな」

「ああ、そうでしたか。こちらにありますよ」

「えっ? あんのか?」


 意外な言葉に、まじまじと相似の顔を見つめてしまう。


「はい。兄さんがアレを発表してから注文が殺到してるので」

「いや…」


 そうじゃなくてさ。

 香水の原料になった花を、そんな簡単に明かしていいのかってことなんだが。

 それに、原料の調達が難しいとか言ってなかったか?

 姉貴だって『できるなら』って前置きしてたし。


 だが、困惑する俺に構わずコワルトは店の奥に入っていく。慌てて、その後姿に続く。


「いいのか? そんな簡単に」

「平気ですよ。香りの抽出方法や調合比率さえ分からなければ」

「そんなもんか」

「……それに……兄さん以外が作っても効果はないから」


 ぽつりと何かを呟いたらしいが、後ろを歩く俺には聞こえなかった。


「え?」

「それに、あの香水は当分店に並びません。ですからせめて原料でも、と考える方が多いみたいで」

「ははあ、なるほどな」


 んで俺もそんな一人、と見られてるわけか。

 見たこともない花々が並ぶ店内を歩くことしばし。

 店の奥にある小部屋へと、案内される。


「この三種ですよ」

「へえ…」


 コワルトが手で示した場所には、小振りな鉢がずらりと整列していた。

 一つは、細長い茎が幾つも分離し、それらの先端に紅色の小柄な花を数十つけたモノ。

 根元近くに葉が広がっている。

 二つ目は、こう言っちゃ悪いが、茶色の腐った色の花が一つ咲いたもの。葉は花のすぐ下についている。

 最後は、巨大な白い花が何個も付いたもの。茎も花を支えるためか、かなり太い。

 売約済みということか、複数の鉢に紙が貼り付けられている。

 花屋の言うとおり、世の女性方は原料であっても興味があるようで。


「こんな地味なのが、原料なのか」


 一通り観察するが、自然と二つ目の花に目が行く。これが香水の原料とは、思えんな。

 コワルトも同調するように頷く。


「皆さん、よくそういわれます。ですから三種の中でもコレだけはあまり売れないんですよ」

「観賞用……には難しいもんな」

「そうですね。実際は花でなく葉を原料にしているんですけどね」

「ふうん。しかし、よく知ってんなあ」

「たびたび質問されるので、調べていまして」


 鉢には、花の名前らしきプレートが刺さっている。値段も安い。

 客に聞かれるから、か……

 色々知ってそうだな、店主よ。

 鉢を指差し、尋ねてみる。


「これってさ、どこら辺で自生してるんだ?」

「えっ? え、ええ、これは町はずれの森に。こちらは高山の中腹辺りです」

「で、この地味なのは?」


 まさか、地味花の場所を聞かれるとは思ってもなかったのか、若干慌て気味のコワルト。

 訊ねる客なんていないよな。俺、いや、姉貴ぐらいか。

 少し目を彷徨わせ、思い出したように口を開く。


「それは……遺跡の近くですよ」

「遺跡って、あの、町外れの?」

「ええ」

「また、えらく地味な場所に生えてるな」


 町外れの遺跡。

 何かの建物跡らしき遺跡が、町をでてしばらく馬車で揺られると見える。

 アレに興味を示す人間はそう多くないが、定期的に遺跡探索の護衛依頼が来る。

 地下があるらしいが、依頼を受けたヤツらに聞いても見つからなかったという報告しか受けたことがない。

 祭壇跡という説が有力な、未だに何のために建てられたのか分からない遺跡だ。


 説明を終えたコワルトは、遺跡について思い返してた俺を見て首をかしげる。


「それで、どうしますか? 購入は二つだけにしておきますか?」

「ん? ああ、全部買うよ。姉貴に全部買って来いって言われたからな」

「分かりました。では向こうでお待ちください。今、そちらに持って行きますので」

「ああ、頼む」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ