表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天狼の騎士と白銀の戦姫  作者: 未来カコ
序章  出会い
2/12

1話 『正義の味方』の少年

 



 ――――少年は闇のなかを漂っていた。




 そこは上も下も右も左も前も後ろも時間の感覚さえも分からず、そもそも自分がどこにいるのかすらわからない虚無の世界。


(ここは、あの世なのかな…………?)

 ぼんやりとした意識のなか少年はそう思った。

 このよくわからない空間に来た経緯はよくわからない。

 最後にある記憶は敵、自身もふくめて巻き込む形で放った自爆のような一撃の瞬間…………、そこで意識が途切れてしまったことだけがわかった。

 その断片的な記憶と知識から導き出した考えがこのなにもない空間をあの世と連想してしまった理由である。

 だが少年の思考には恐怖の色はなく、どちらかというと寂しさや落胆の色のほうが強かった。

 ……ここがもしあの世であったならばもう一度だけ会いたい人達がいたからである。

 生に執着が無いと言えば嘘になるが、彼女達に会えるんだとすればその命は惜しくない。

 …………僕が『守る』と約束していながらも守りきることのできなかったあの大切な二人にもう一度会うためならば。

 憎悪や恨み言をむけられることは覚悟の上だけど不思議と彼女達はそんな感情をむけてこないだろうと予想する。

 それは。

 彼女達が死の間際、僕に残した『生きて』と言う言葉とこちらを安心させようとする笑顔を最後に浮かべてきたからだろうか。

 大切な彼女達を失って挫折し、夢も信念も忘れ後悔や罪悪感に包まれ絶望して死んでしまおうかという所をギリギリの場所で踏みとどまれたのは彼女らのおかげであった。

 ――死ぬ、というのは彼女達の言葉を裏切る行為であったからである。

 せめてどんな風に死ぬとしても彼女達に顔向けできるような、誇れるような生き様を貫こうとおもった。

 

 だから。

 

 夢であり、信念であり、僕の生きる理由でもある。

 


    『正義の味方』

 


 になるためもう一度―――立ち上がることができた。

 

 それからは戦いの明け暮れる日々であった。



 ――たたかって

 

 ――戦って


 ――闘って



 理不尽な暴力にさらされている人のために拳を振るった。

 自暴自棄になったわけではなく、自分が自分であるために戦いに身を投じたのだから。

 だから彼女達に胸を張って伝えたい。

 特撮やマンガのようなヒーローのようにカッコよくうまくいかなかったけど最後まで理不尽な暴力から人々を守れたと。

 最後の最後まで正義のために拳を振るい。

 僕が信じ憧れた『正義の味方』であり続けることができた、と。

 

 だが。


(……あっ、もう限界か…………)

 そこまで考えを巡らせていたら自身の身体の限界が来たことを悟る。

 この空間に時間という概念があるか分からないがこの場所にきてから身体がこの闇に除々に蝕まれているということに気付いた。

 

 ゆっくりゆっくりと体が消失していく感覚があったのにもかかわらず、どうにもできなかった。

 そして蝕まれているのは体だけでもなく意識までもぼんやりとしてきた。

 希薄していく意識を必死に繋ぎとめようとしたが無理であった。 とうとう体も右腕と顔以外はそこにあるのかさえわからなくなり。

 もう自分が消失することは避けれないと理解する。

 結局、ここがあの世で魂が今まさに消滅しようとしているのか、

それとも今から死んでいくかがわからずじまいであったが、ただ自分が構成している様々なものが消失していくことだけがわかった。


 そして最後に意識を手放しかけたその瞬間――――










 ――――『助けて』――――――









 ――――途切れかけた意識が覚醒する。


(声?)

 確かに聞こえた。

 誰かの助けを求める声が、

 僕に届いた。

 ……でもどこから? と考えてると。


 ――――『誰か助けて……!』


 今度は、はっきりとさっきより確かに右のほうから声が届いた。

 幼い少女の痛々しいほどに悲嘆の感情を含んだ声が。

 そちらに視線をむけると、そこには光が輝いていた。

 その光から声が聞こえたのだと直感する。

 久しぶりの光に目を細めながらもそちらにほとんど感覚が無い右手を意識を振り絞り緩慢な動作で伸ばす。

(ッッ!?)

 伸ばした瞬間、頭に鋭く凄まじい痛みが走った。

 それはこの空間が逃がさないといわんばかりというほどの痛みであった。

(助けないと……ッ!)

 だが頭を埋め尽くさんばかりの激痛を気合で押さえ込みながら、

今さっきまで消滅しかけていたと思えないほどの力強さで手をさらに伸ばし抗う。

 『助けて』と呼ばれたのにこんなところで消えるわけにはいかない。

 声の主は何者のなのかは分からない。

 だけど声を聞いた瞬間から、……ただ助けたいと思った。

 『正義の味方』としてはもちろんのことで、

 それ以前に僕の――一人の人間として、心の奥底から助けたいという思いが湧きあがってくる。

 なぜなら、この声は世界のすべてに絶望した声であるのだから。

 その感情はよく知っている。

 だからこそ――――僕は伝えたい。

 世界は優しさは無く、絶望に満ちているけども。

 世界にはまだ、希望や救いがあることを、僕が君に証明したい。

 だから。

 そんな悲しい声で泣かないで欲しい。

 いますぐ、そっちにいくからッ!。


 そして――――、指先が光に触れた瞬間。

 いきなり光が爆発したかのように輝きを増し、その光の奔流が僕を包み込みどこかに吸い込まれていく感覚があった。



     

       ◆◇◆





 ――そして、少年は世界の壁を越えた。





       ◆◇◆

 



 光をくぐり抜けたその場所の先は、




 ――――――空の上であった。



「――えっ?」

 

 一瞬の滞空。

 

 そして、

 

 落下。


「うわああァァァああァァァッッ!?」 

 情けない悲鳴を上げながら地面にむかって行く。

 突然の事態に混乱する。

 だが、

「クッ!」

 混乱は一瞬だけであり、とっさにスカイダイビングの見よう見マネで両腕と両足を広げ、姿勢を安定させた。

 いままでの戦いと修練で養ったとっさの判断力であった。

 だけど安心するのはまだ早い。

 風圧で見づらい視界で確認する。

 すると見えた風景は、

 見渡す限りの森林と、そのなかにあるポッカリと穴の開いたかのようにある大きな湖を目で捉えた。

(――どうしよう)

 思考を冷静に高速に回転させながら考える。

 このままでは十秒もしないうちに落下して地面に叩きつけられて死んでしまう。

 そう普通・・の人であれば、

(着地の瞬間に能力で衝撃を殺せればっ!)

 だけど助かるためには今の姿では無理だ。

(早く『変身』しないと!)

 能力を使うためには姿を変えなければいけない。

 そのためすぐに変身しようと意識を集中しよとしたところで身体の違和感に気付く

(……あれ? ……能力が使えるようになってる!?)

 身体に変身しなければ使用できない能力が使えるようになっていることに気付いた。

 『変身』したときよりも、振るえる力が大幅に下がるが着地するだけならば充分つかえるようだ。

 なぜそんなことになっているのか気がかりであるが今は目先の危機に対応しなければいけない。

 いちおう万全を期すために変身するかどうか検討をする。

 


 そのとき、

 


 落下予測地点である湖の周りの木が生えてないところにある地表に人影が二つあることを視界が捕らえた。

 そしてその人影たちの詳細を確認した瞬間――


(――っ、間に合えッ)

 

 あと数秒で着地するにもかかわらずとっさに態勢を崩し足を地面にむけ、両腕を上にあげ少しでも早く着くために空気抵抗を減らしさらに自身の能力を発動させ急激に加速する。

 着地地点を微調整し、人影と人影の間に割り込むように猛スピードのまま地表に向かって突き進んでいった。

 

 






 ――少年はただ突き進む。


 ――様々なものを失いながらも。


 ――自分の信念にしたがい。


 ――悲劇を阻むために。


 ――人々を救うために。


 

 ――――『正義の味方』の道を歩み続ける。
















評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ