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天狼の騎士と白銀の戦姫  作者: 未来カコ
第一章 正義の味方と白銀の戦姫
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5話 編入生

狼谷かみや 信道しんどうです。えーと、これからはよろしくおねがいします」

 信道はある教室の一つの教壇の上で、大量の視線にさらされながらもなんとかクラス全員に向けて挨拶することができた。

 教室には同年代の少年少女数十名がイスなどに座っている。

 もっと気の利いた冗談や自己紹介ができればよかったが数十人単位の視線を向けられているとさすがに緊張してしまいそれどころではない。

 挨拶を言ったたあと教室は静かなざわめきに包まれた。

『ホントに編入生が来たぞ』

『ということはあの噂も本当かもしれないな……』

『黒髪黒目、という事はキョクトウ方面の人間か』

『顔は……、うーん。ちょっと緩いけどありっちゃありかなー』

『えー? 私はちょっと微妙かな』

 などなど、と。

 信道から視線を外さぬまま隣同士なのでヒソヒソ話をしている。

 視線には好奇心などの感情しかないが、もし視線に物理的作用があるならいまごろ穴だらけになっているだろう、と思われるほど注目されていた。

 どこか興奮した口調からして編入生がとてもめずらしいようだ。

 簡潔な自己紹介おえて手持ちぶさたになった信道はどうすればいいのか? と、教壇の横で気だるげに、イスに座っている女性に判断をあおいだ。

「あー、オマエら黙れ。騒ぐなら私のいないところでしろ。コイツに質問したいヤツはあとにしろ。……要約すると私の仕事を増やすな」

 この聞くからにして自分本意の女性は、いちおう教師であり、遺憾ながらもこれからお世話になるクラスの担任である。

 名はユリアーネ=アードルング。

 スラリとした長身で、目つきが鋭い……というよりも目つきが悪く、口調も態度も率直にいってやや悪い。

 なにより目立つのは右手に握られている木刀だ。

 見たかぎりだいぶ年季が入っており使い込まれているのがわかる。

 赤黒く変色したその染みはなんなのか、とても気になるが精神衛生上知りたくないという複雑な気分にさせる一品だ。

 

 黙れという言葉とその眼光に威圧されたのかいままで騒いでたのが嘘のように静かになった。……一部の生徒が異様に慌てていたことから命令は絶対で逆らうと即鉄拳制裁の可能性が高そうだ。

「席は……ああ、ちょうどいい。お姫様の隣が空いてるから、そこにしろ。そしてわからないことがあったら私ではなくアイツに訊け」

 木刀のサビならぬ染みにならぬために逆らわないようにしようと心に刻んでいるあいだに話が進行していた。

「ほらさっさと行け」

「はい。わかりました」

 ユリア先生はあごでくいっと動かし速くいけとうながしてきた。

 ノロノロして文句を言われてもたまったものではないのでそそくさと、指定された席に向かう。

 席は最後列の窓際に位置する二人用の机であった。

 その一つに座っているは白銀の髪をした女子生徒。

「やあ、ミラ。また会ったね」

「カミヤ。まさか貴様が同じクラスになるとはな……」

「うん。奇遇だね」

 数時間まえに別れたミラへ親しげに話しかけながら隣のイスに腰をおろす。

「僕もさすがに同じクラスの隣の席になると思わなかったよ」

「……はぁ。なれなれしいというか、マイペースとよぶべきか」

 彼女はすこし呆れたようにかぶりを振りため息をひとつこぼす。

「あれ? なんか迷惑だった?」

「そういうワケではない、こちらの話だ」

「? まあ迷惑じゃなければいいや、それと改めてよろしく」

 そう言いながら右手をさしだし、握手を求める。

「……。こちらこそよろしく」

 数瞬、さしだされた右手を彼女が驚いたふうに見たあと同じく右手をだして握手してくれた。




「――よう。おまえら二人さんは知り合いなのか? オレらもちょっと混ぜてくれよ」

 と、握手をおえたタイミングを見計らっていたのか、手を離した直後、唐突に男性らしき者の声をかけられた。

 発信源はちょうどひとつ前にある同じ列の場所にいる男子生徒からだ。

「まずは自己紹介か。オレの名はオレルス=レクロース。気軽にオレルスと呼んでくれ」

 そのオレルスと名乗った男子生徒は特徴的な容姿をしていた。

 目をひくのが褐色の肌と色素が抜けた白髪。

 その皮膚と髪の色は数十人もいるクラスのなかでもただ一人でとても目立っていた。

 上背は180センチくらいであり、体格もガッチリしてよく鍛えられているのがはた目から見てもよくわかる。

 目つきは猛禽類のように鋭く、瞳はブルーで、顔つきも野生的な精悍さで白髪の髪はオールバックにして整えている。

 その猛禽類のような目つきとは裏腹にフレンドリーに話しかけてくるので意外と気のいいタイプなのかもしれない。

「そして。隣にいるコイツがオレの妹。アイリス=レクロースだ」

 ポンと隣に座る女子生徒の頭に手をのせてグシャグシャと撫でる。

「きゃっ! お兄様。頭を撫でないでくさい。髪が乱れますし、みなさんが見てて恥ずかしいです」

「おお。悪い悪いこんどからしないように気よつけるからよ、そんなに怒るな」

「……お兄様はそういっても結局、またおなじことを繰り返すじゃありませんか?」

 おざなりに謝罪したオレルスにアイリスと呼ばれた妹が抗議の声をあげるが飄々(ひょうひょう)とした態度で受け流している。

「オレルス。そうやっていつもアイリスをからかうな。彼女がかわいそうだろう、兄なら兄らしく毅然とした態度をとれ」

 いきなり厳しい口調でオレルスをたしなめたのは、隣にいるミラであった。

「オイオイ。これはちょっとした兄妹きょうだいのスキンシップだぜ?」

「そんなスキンシップはゴミ箱にでも捨てておけ。いつもいつも貴様のために苦労しているアイリスの身にもなってみろ!」

「ミ、ミラちゃん。だ、大丈夫ですよ。お兄様はちょっと子供みたいなところがありますけど真面目にやるときはやりますからっ」

 オレルスがからかい、ミラが強くたしなめ、アイリスがフォローするという三者三様の行動をしていた。

「みんな、仲がいいんだね」

 信道は笑みを浮かべながらその言葉を口にした。

 その言葉を受けて我にかえったのかミラやアイリスは動きをとめ、オレルスは『ま、こんなもんか』と、からかうのに満足したのか笑みよ浮かべている。




「えっと、初めまして私はアイリス=レクロースと言います。そして存じてのとおり隣にいるのが私の兄です」

 礼儀正しく透きとおるような声で自己紹介してきたのはオレルスの妹である。

 さきほどの騒ぎを恥じているのかまだ頬がうっすらと赤い。

 容姿は肌の色は真珠のように白く。髪は綺麗なウェーブがかった金髪であった。

 顔の造形は天使のように綺麗で愛らしく、兄とは似ても似つかないほどであった。唯一、兄妹きょうだいの共通点は青い瞳だけである。

 背丈は小柄でミラよりも身長は小さい。

 だがある特定部位だけ発育が良い。

 ペコリとお辞儀しただけでユサっと柔らかそうに揺れる胸。

 たまたま視界に入ってしまったので赤くなった顔を慌ててそらしたら、ミラと目があった。

 すると、

「いたっ!?」

「ふんっ」

 足に痛みが走り、つい声をあげてしまった。

 隣をそっ、とうかがうとミラが不機嫌そうに窓から外を見ていた。

 ……なんかしたかな?

 足を踏んだ犯人はおそらくミラのはずであるがいきなり足を踏まれる理由がないので困惑しているのだ。

「……あの。どうかしましたか?」

「……いやっ。なんでもないよ」

 心配そうに信道の顔を覗き込んできたアイリスに、あはは、と笑いかけながら誤魔化した。




「ま、とりあえず名前だけは確認できたからよしとして。本格的な自己紹介もしていきたいところだが――――」

 オレルスは声をいったん止めると、視線を教壇にゆっくり向けた。

 そこには、

「――――血の海に沈まれかねない」

 無言で木刀を素振りをしていたユリア先生がいた。

 ただ黙々と振り続ける姿になぜか恐怖を感じる。

 気づくといつのまにか教室は完全に無言で木刀の素振り音しか響いてないという状況であった。

 するとこちらの視線に気づいたのか素振りをやめて鋭い視線を向けてきた。

「……で、なにか言うことは」

「「「「うるさくしてすみませんでした」」」」

 信道、ミラ、オレルス、アイリスは立ち上がると、腰をおり謝罪した。

「フンッ。今日は編入生ソイツが一日目だから許してやるが……、あまり私を怒らせるなよ? ……はーだから子供ガキは――」

 肉食獣のような剣呑な笑みを一瞬浮かべたが、すぐにまた気だるげそうな顔に戻った。

 ……その様子を確認して胸をなでおろしたのは言うまでのことではないだろう。




「よし。じゃあ、オマエらー。いつもの場所にいって適当に時間を潰しにいけ」

 と、教師らしからぬぞんざいな指示をだすと教室から後にした。

 すると息を吹き返したかのように活気が教室に戻った。

 そしてガヤガヤと音を立てながらぞくぞくとクラスメイトがどこかに移動しはじめる。

「さて、オレたちもいくか」

「みんなどこに行くの? まだ授業は始まったばかりなのに」

 オレルスがそういうとアイリスやミラも立ち上がって移動しはじめる。

 それにならってシンドウは立ち上がるとミラと並ぶ形で歩きながら質問した。

「外に向かっているのだ」

「そうそう。シンドウは初めてかもしれないが、おまえ運がいいぜ。一発目の授業がコレなんだから」

 ミラの返答に続く形でオレルスも楽しそうに笑いながら言った。

「心配しなくても大丈夫ですよカミヤさん。実技や座学と違って楽しいはずですから」

 アイリスからも柔和な笑みを浮かべながら諭すように言われたのでいってからのお楽しみということで、信道はおとなしくついて行くことに決めた。












 


 

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