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魔法少女 誕生 3

 その姿は鳥に似ていた。黒いロングコートは風になびき羽のようだった。爛々と輝く瞳は獲物を狙う鷹の目のようで。白い手袋にはナイフが装着されており、猛禽類特有の鋭い爪に見えた。


 男は人の部屋の壁をぶち抜き侵入し、今現在俺の目の前にいる。床には粉々になったコンクリート片、誇りだらけで転がる青い狸、そして血まみれのオッサン。


「ヤー!始めまして。俺はアーダルベルト。ピエロなんて呼ぶ奴もいるが…。呼んでたのは床に転がってるそいつだかな」

 

 場違いな陽気さで男は喋る。状況を理解できない俺は間抜けな顔で男を見上げている。


「おかしいな。ここに魔法使いと魔法少女がいるはずなんだけど…。逆探知は苦手なんだよなぁ。探知系はまどろっこしくてね」


 そう言うと、男は床に転がるオッサンに近づいて行った。オッサンは先ほどからピクリとも動かない、まさか、死んでいるんじゃないか。


 男はオッサンの横まで行くと、しゃがみこんで首を鷲掴みにし持ち上げた。そして顔を覗き込む。


「駄目だなこりゃ。もう壊れてやがる。魔法使いってのもこの程度なのか。加減ってのは難しいな。なぁ兄ちゃん?」


 俺か、俺なのか。こんな時はなんて答えれば良いんだ。チラチラ見える死亡フラグは気のせいか。だがここで黙っているのもまずい気がする。


「あ…」


 と、言葉を発しようとしたその時。瓦礫が爆ぜた。あの辺りには…シェルがいたはずだ!


「叩き潰せ!神無槌!」


 どこから現れたのか、シェルの手には人の頭程の大きさのハンマーが握られていた。武骨なハンマーは何故かロケットの噴射口のようなものが付いており、超速度で男に叩きつけられる。その余波で本棚が犠牲となった。が、悲しむ暇は無い。男はそれを片手で止めていた。


「ヤー!狸のぬいぐるみに殴りかかれらるなんて!こいつははじめての経験だ!」


 喜々とした表情の男。不意打ちをしたというのに軽々と受け止められた。


「放せ馬鹿!」

 

 言われるままに掴んだハンマーを放す男。地面に転がる落ちるかと思ったが、シェルは低空で停滞していた。


 …飛んでる…だと…。


 先程までの緊張はどこへやら、俺の目の前には空飛ぶ狸VS他人の家で凶器を振り回す謎の外国人という珍妙な光景が広がっている。ここまで派手な破壊行動をとれば警察が来るだろう、と思っていたのだが、冷静に現状を把握しようと周りを見渡し、その淡い期待はかなわないと知った。


 さっきまで明け方だった空が再び夜に戻り、空には赤い月が浮いていたのだ。


「貴方、アーティファクト回収に協力していたレイドね。私達に牙を剥く意味がわかっての行為?」


「ヤー…。俺は残念でならないんだ。俺を中心に回っていた世界が壊された気分だった。わかるかお嬢ちゃん?そこに転がってる魔法使いが俺になんて言ったか。わかんねぇ、わかんねぇよなぁ・・」


 男はゆっくりとシェルに近づいていく。


「おどけるのも限界だった。笑ってるのも我慢ならなかった。だからよぉ、会いに来たんじゃねぇか。会いに来てやったんじゃねぇか。だから会わせろよなぁ、隠してんじゃねぇぞ魔法少女を!」


 男は左腕をシェルに伸ばす。シェルは手を躱し、男の股をくぐり抜け、背後をとった。


「話にならない!少し眠ってなさい!」


 再びシェルのハンマーが火を吹き、男の後頭部めがけて叩きつけられた。普通なら頭が吹き飛びそうな勢いだったが、どう加減したのか男の頭は強打されただけで済んだようだった。効果はあった、男は膝を地面に付き前のめりに倒れこんだ。


「終わった…のか?」


「気絶させただけだけどね。ご丁寧に結界まで張ってたみたいだけど、おかげで外界とは隔離されていたから騒ぎにはならないはず」


 よかったよかった、などと言える状況ではない。部屋は散々たる状況で、どこから手を付けていいのか見当もつかない。それに…。


 倒れている侵入者と、血まみれのオッサンを見る。物はまだいいが、この二人はどうすれば。


「本当にイレギュラーなことばかり起き…」


 シェルが驚いたように倒れていた男を見た。俺も釣られて男を見る。


「自分の行為の意味がわかってるか、だと?話にならない、だと?」

 

 男は依然として倒れていた。だが、男を中心に、円を描くように淡い光が広がってきていた。それはまるで魔法陣のような複雑な図柄を描き出している。


 先程のダメージがまったく無いように男が立ち上がる。


「その言葉、そのまま返すぜ糞狸ぃぃぃ!!」


 咆哮。それが引き金となり、魔方陣は俺やシェルをも飲み込んだ。


 次の瞬間、世界は姿を変えていた。壊れた壁も、本棚も、ベットもその姿を変えていた。全てが姿を変えた世界。壁は口がついていた、時折うめき声を発している。本棚は目がつき、辺をキョロキョロ見渡している。ベットはその両方だ。趣味の悪い悪夢、そんな言葉がぴったりの世界。


「俺の行為の意味、わかるか狸?」


 ニヤニヤと締まりのない笑みを浮かべる男。


 俺は後ろにいたシェルに助けを求めようと振り返った。そして、絶句。


「話にならねぇなぁ、狸?」


 眼前にいたはずの男がそこにいた。刃のついた右手をシェルに伸ばし、刃はシェルの腹部を貫いていた。

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