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魔法少女 誕生 2

「本当に申し訳ないことを」


俺の目の前には再び土下座する狸がいた。


日に二回も狸に土下座された人間は人類多しといえど俺だけではないだろうか。


「昔から頭に血が昇ると暴言を吐く癖があって。ごめんなさい」


シュンとしおらしくなる狸。


「もうわかったって。それより、さっきからゴンスとかゲスとか言わなくなったようだけど」


「ああ、あれはキャラ作りです」


「キャラ…作り?」


「ええ、この世界に来る際に文化を少々勉強したのですが、ああいった語尾に特徴をつけることで個性を強調できると文献で読みました」


「個性を強調してどうする気だったのやら…」


「それは勿論!魔法少女の愛くるしいパートナーとなるんですよ!」


「魔法少女…!いるのか!魔法少女が!」


「お兄さん怖いです、そんな顔を近づけないでください」


「で、魔法少女はどこに?俺とすったもんだ色々ありながら恋に落ちるであろう美少女は?」


「ちょっと言ってる意味が…」


「だから!これはアレだろ。平凡な俺という浪人生の元に突然現れる美少女!だが彼女はただの美少女では無く魔法少女だった!日常は突然の来訪者により非日常へ!」


「…」


「紡がれるバトルあり涙ありラブありな雑味満載な物語…」


「別の世界に入ってる所悪いんですが」


「なんだい狸君」


「お兄さんです」


「…何が?」


「魔法少女」


「はい?」


「魔法少女の証はその青い石、つまりベルコアです。それを持ってるということで、お兄さんが魔法少女なんです」


「嘘だろ…」


「本当です。まぁ魔法少女っていうのは語弊がありますね。少女だって聞いていたものですから。実際には男だったので、仮面ライダーマジシャン的な感じでしょうか」


「美少女は?」


「いません。お兄さんのサポートはこのシェルが担当ですから」


シェルを凝視する。


柔らかで寸胴のようなボディ。


ニョキりと伸びた短い手足。


愛嬌はあるが先程のバトルで中から綿が飛び出している首。


そしてボタンを二つつけただけのつぶらな瞳。


これと一緒に…何をしろと。


「この世界には腹を割って話すという言葉がありますよね?」


そう言うとシェルは机に置いてあったカッターを手に取り。


腹を縦に裂き始めた。


「論より証拠、という言葉もありますし、実際に見てもらいましょう」


え?何を?こんなグロ画像見たくないよ俺は。


シェルの腹はそうこうしている内にどんどん裂かれていく。


中からは…、腸では無く、人形なので綺麗な綿が。


「この人形は私が魔法で遠隔操作していますが、内部は私のマナが凝縮され異空間になっています」


そう説明すると、今度はその裂かれた腹に腕をねじ込んだ。


すごい光景だ。


これは絶対夢に見るぞ。


恐怖に言葉を失っていると、シェルは手をゆっくり引き抜いていく。


そして外に出てきた手に持っていたのは…、小剣をモチーフにしたようなネックレスが一つ。


実用性のある物というよりは、豪奢な装飾品のように見えた。


「残念ながらベルコアは半分になっていますが…。それでも十分強力なはずです。さ、どうぞ」


どうぞと言われても。


恐る恐るシェルの手から小剣を受け取る。


触ると、手にしていた石と小剣の宝石が光を放ち始めた。


誰に命令されるわけでもなく、自然と手は石を宝石へと導かれていった。


そして。


石は宝石の中へと吸い込まれていった。


瞬間、閃光が宝石から放たれる。


眩しいはずなのに眩しくない、不思議な光。


金具が外れるような音がする。


見れば小剣は鞘から解き放たれ、その刀身をさらけ出していた。


光が弱くなっていく。


「私も初めて見ますが、これがベルコアを取り込んだアーティファクト…」


「俺には何がなんだかよくわからないんだが」


「徐々にわかっていけばいいですよ。お兄さん、まずはこれからよろしくお願いします」


さしだれる手。


それを俺は、心なくたたき落とす。


「流されてたまるか!」


「意外と抜け目ない人ですね。強い光と理解できない展開、大体の人はこれで混乱して落とせるのに」


「でもベルコアは回収、アーティファクトは封印を解除、所持者も発見、コアが半分だったこととすぐさま契約ができなかったことは残念なので80点くらいですかね」


「俺的には採点不能なんだが」


「お兄さんはもう少し状況に流される技能を習得したほうがいいですね」


「彼女できませんよ?」


狸にそんなことを言われる日がこようとは。


だが内心、これはチャンスなんじゃないかという思いもあった。


魔法少女、もとい仮面ライダー的な能力が俺に備わるとして、それって凄く素敵なことなんじゃないだろうか。


どうせ浪人の身で半ばやけくそ気味なところもあったし…。


「目的次第では・・、手を貸さんこともない」


「話が早くて助かります。念話のチャンネルを仲間に合わせますので詳しくはそこで。お兄さんの疑問も全て解決できると思いますよ」


ピーとかガーとかいう音が頭の中に流れる。


チャンネルというだけあってラジオの電波のようなものなんだろうか。


「ヤーヤー、聞こえる?聞こえてる?」


突然声が入ってきた。


男の声。


「お前…、誰だ」


「ヤー、俺はあんたの仲間だろシェル?」


「逃げろ…!シェル…!こいつは…!」


鈍い音が響いた。


誰かが鈍器で人を殴ったような、そんな音。


「ヤー、すまない。邪魔が入った」


小さくうめき声が聞こえた。


「話は簡単だ魔法使い。そこのお兄ちゃんをこっちによこせばいい。それだけであんたの仲間は助けてやるよ」


「話にならない。交渉にもならない。状況も、説明もなしに何を鵜呑みにしろと」


「ヤー、説明が必要かい?じゃあ自分の目で見るんだな」


ブツリ、と念話が途切れた。


次の瞬間、俺の部屋の壁が弾けた。


砕けた壁の残骸が容赦なく襲いかかる。


なんとか致命傷だけは避けようと咄嗟に頭を抱えしゃがみ込んだ。


何秒経過しただろう。


不思議なことに体は傷一つおっていないようだった。


恐る恐る顔を上げた俺の目に飛び込んできたのは血まみれのオッサン。


逆さ吊りになったオッサンが苦悶の表情を浮かべ俺を見ているのだった。


状況が理解できない。


「ヤー、来てやったぜ」


さっきまで念話で話していた男の声が、今まさに俺の目の前から聞こえてきた。

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