見る必要の無い夢
上手にオチていないから注意
「夢を見なくなった人間ほど、あわれな者はないわ」
淡々と、修平の前に立つ彼女は、言った。窓から差し込む夕日に照りつけられ、彼女の顔色はうかがえない。どう反応を返すべきか迷った。
「でもさ……、挫折って人生の付き物じゃないの?」
「修平がどんなふうに夢という言葉を解釈したのか分かりやすい返答ね」
「悪いかな」
別に、とそっけなく返される。機嫌を損ねたわけでなく、本当にどっちでも良い、という反応だった。こういうときは、決まって修平はおいてけぼりにされてしまう。たぶん自分がいなくとも、彼女の禅問答に変化はないのだろうと思う。
「まあいいや。それで椿さんはどうなの?」
「私? そうね、修平が思っているよりも夢に満ち溢れていると思うわ」
「どっちの夢さ?」
「それはご想像にお任せするわ。私はまだ夢を見れている、これは確かなことよ」
椿の禅問答中にこれほど会話が弾んだことは初めてだった。その上、珍しいことに彼女は笑っていた。
「さて、帰りましょうか」
椿が立ち上がった。長い間夕陽に当たっていたせいか、しきりに目を閉じたり開いたりしている。
そんな彼女の様子を見て、思わず修平は噴き出しそうになった。椿が笑ったことといい、さっきの目の運動といい、今日は珍しいことが重なるものだ。
「……そうだね、そうしよう」
元気よく返事をしたものの、ここにきてやっと修平は周りの違和に気付いた。
「あれ?」
おかしい。違和感どころか、おかしいことだらけ、矛盾点だらけだった。
見上げるとやはり、そこにはこの部屋に一つしかない窓、天窓があった。天窓から差し込む光は確かに夕陽である。嫌な汗が修平の背中を伝った。
青ざめた修平に、微笑むようにして椿が口を開く。
「夢をみないのは哀れ。でもね、今は居ない人間を夢に見続けるのは、それは愚かっていうものよ」
「う、うううう……」
彼は思い出していた。思い出した時には、次に起こることが良く分かっていた。
部屋が、夢が消えていく。意識が浮上していくのが分かる。
「『夢に出るくらい』心配しなくても大丈夫よ。私はへまを踏まないわ」
「う……」
「必ず、戻ってくる。必ず、ね」
そのくらいは信じて、と聞こえたのが最後だった。瞼が開く、眩しい朝日が差し込んだ。
行き当たりばったりですね。申し訳ありません。ふと思い立って書きました。
いつの日にかどこかでバックストーリー程度に使ってみたいものです。