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織姫と彦星と未来都市  作者: 楠木あいら
モンスター
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その後

「プライベートタイムに入りました。 緊急感知機能を除いた全てのサウンド映像機能をOFFにします」


 メインエネルギールームに海値の姿があった。

 海値はメタル色の巨大容器を見上げるたびに、2度と田崎を肉眼で見ることが出来ず、悲哀になってしまう。


 『悲しまないでください』と海値の頭に言葉が流れてきた。

 これが涙羽が揺西に送り込んでいたテレパシーなのであろう。

 田崎の『声』は人間の時と変わらない優しさが含まれていた。

 海値は田崎の声に微笑み、それからガラスに閉じ込められた、自分と同じ姿のアンドロイド風、機械を見つめた。

 立体的な鏡を見ているようで、未だに戸惑ってしまう。

「田崎さん。皆、元気でやっていますよ」

 外夢がエネルギーモンスターの役目を終えた時点で戸立は施設から離れていった。同じ役目を終えた涙羽の世話をするために。

「涙羽は走れるようになったんだよ」

 開放された涙羽には保障された生活が待っていた。

 ただしアンドロイドとして生まれたクローンに戸籍がない。それを隠すために隔離されているようなものだが、彼女は無邪気に笑っていた。

 揺西や揺西以外の者と会うことができるのだから。

 最初、海値にとって涙羽は、そう素直に受け入れられることはできなかったが。涙羽と会い、無邪気に笑う姿を見るたびに警戒心が溶けていった。

「居荒さん、会社を辞めようか迷っていたって、言いましたよね。辞めないって『バカで間抜けな後輩を置いて、自分だけ新しい人生を始めるわきにはいかない。地獄の底までつきあってやる』って言ってたよ」

『ははは。先輩らしいです』」

「私の方は、そろそろ進路を決めなければならないんだ。

 進路っていったって、まだ何をしたいのかわからないから悩んでいるの」

『焦る必要はありませんよ。たった一度しかない人生です。ゆっくり考えましょう。ってモンスターになった私が言える言葉じゃありませんね』

「………」

 海値は何も言わず、両手と顔を容器に触れる。

「田崎さん。あなたは優しいまま、変わらないんですね」

『揺西君と何かありましたか?』

 海値は首を横に振った。

「田崎さんはモンスターになってしまったのに、私を恨むことなく、私に接してくれる。

 あなたはどうして優しくなれるのですか?」

『私はあなたを愛しています。

 そして、1度だけとはいえ、私の願いが叶ったのだから。どうして恨むことができましょう』

「………」

 海値は顔を離しメタル色の容器を見上げた。

『海値さん。進路がんばってください。

 それから、また、会いに来て下さい』


「海値…」

 エレベーターが開き待ち合わせの休憩所に到着した海値は、出迎えていた揺西の胸に頭を静めた。

「…。田崎さんの優しさに、何も答えられない。自分が恥ずかしい」

「海値が罪悪感を感じることはないんだよ。海値は何も悪いことをしていないんだから」

「………」

 2人を遠くから眺めていた居荒は、背後から近づいてくる足音に振り返り、手招きに従う。


「怪我の方はどう?」

 辞めたと聞いていた戸立は私服姿だが、手にはファイリングケースを抱えている。

「とっくに完治しました。

 そういうあなたは?ここで会えるとは思えませんでしたよ」

「涙羽の成長報告書を届けにね。あの子の記録は、研究データーになるから」

「………」

 居荒は何も答えなかった。それを欲しているのは自分の会社なのだから。


「事件関係者は皆、罪の償いになってしまった」

 ポツリと呟いた居荒の言葉に、戸立は無言で肯定した。

「居荒さん、知ってる?エネルギーモンスターが放つAngを」

「それが核反応を起こしてエネルギーにするしか知りませんよ」

「Angは『負の思想』つまり『執念』よ。田崎さんの場合、愛憎になるわ」

「………」

「みっちゃんの話からして。田崎さんは優しい一面しか見せていないようね」

「みっちゃんがいなくなった途端、ヤツは暴走をしているってことか」

「エネルギーは十分すぎるほど放出され、しかも安定しているようよ」

 居荒は振り返り、今は壁で見えない少女を思い浮かべた。

「知らぬが仏だな」

「ええ。でも、いつかは知ることになるでしょう」

「ああ。そうだな」

「大丈夫よ。みっちゃんには揺西君がいるわ。

 天の川を跳び越えて、結ばれた2人なんだから」

 戸立の言葉に居荒はうなづいた。

 そして開かれた回転式自動ドアを通り、エネルギー施設の塔を後にした。



 おわり







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