前世の記憶を思い出したら、いきなり最強でした。
ズバッ
俺の視界が赤く染まる
バタン……
俺は……死ぬのか?
「いやっ!やめて!!」
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「助けてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!」
民たちの悲鳴が聞こえる。助けに行かなくては……
「ムソウ・ヘイル・テラフォード……英雄と呼ばれたお前も死ぬ時はあっけないものだな」
俺の名を呼ぶ声は、やけに遠かった。
これからこの国は植民地と化し、民は奴隷として搾取されるだろう。あの国の奴らはそういう考えしか持ってない。
これも全て負けたからこうなったのだ。俺を慕ってくれた民たちも皆失ってしまう。
敗北さえしなければ……
そう強く思いながら、俺の意識は途絶えた。
「オラァッ」
ドンッ!
「ぐはっ」
俺はムソウ。今、俺は理不尽にも暴力を受けている。理由は簡単。俺が奴隷だからだ。
「あぁスッキリした。」
「……」
「ムソウ。その目はなんだ?生意気な目してんじゃねぇぞっ」
そしてまた殴られる。それでも俺たちは文句一つ言えない。奴隷だから……
「この奴隷がっ!生活させてやってるだけありがたいと思え!」
「……はい」
「あ、そうだ。ついでに家中の掃除と食器洗いもやっとけよ。今日中にだ。そしたら今日の残飯は食わせてやるよ」
そして今日もろくに物も食べられないまま、かたい床で眠りにおちる。あのクソジジイマジで許さねぇ。
「……して……い出して……」
「誰だ!?」
「思い出して」
「お前は何者だ?」
またこの夢だ。物心ついたときから延々に繰り返されるこの夢。一体何を思い出せっていうんだ。
「あなたは私を知っている」
「だから知らな……ゔっ……頭痛がっ……」
今日の夢はいつもと違っていた。
「今一瞬見え……」
誰かの顔をうっすら思い出しかけたとき、身体が燃えるように熱くなった。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
なんだこれは!?誰かの記憶が流れてくる。いや違う。これは………………“俺の記憶だ”
『敗北の回数、規定値到達。
喪失量、許容量超過。
ーー負内 無宗への進化を開始します』
目が覚める。壁にかかった鏡を確認する。顔はイケメン。黒い瞳。程よく筋肉がついた身体。そして黒い髪。何も変わりがな……い?
「なんだこれ。アホ毛?」
ぽっこりしたアーモンドのようなアホ毛が2つあった。
一本は元気よく立ち上がり、
もう一本は力尽きたように横へ寝ている。
邪魔だ。なおせるかな…
ぴょこっ
「アホ毛が動いた!?ゔっ……頭の中に……何か流れ込んでくる」
なんだこれ。どこに誰がいて何を話してるのか全部わかる。あぁ……そっか。これ全部前世の力だ。
前世の記憶全てを思い出す……
伝説の勇者、最強の魔王、全属性を操る大魔術師ーー
そんな“規格外”な前世を、俺は全て思い出した。
ってことは……
「ザワノスシステム、起動」
『システムが起動しました~』
脳内に女の子の萌え声が響いた。
俺が作った脳内常時発動型の特殊システム。
相手の能力鑑定や解析、その世界についての情報鑑定を瞬時にこなし、検索や質問をすると完璧な解答が返ってくる。
つまり最強のバーチャルアシスタントだ。
「ザワノス?俺の力は今どんな状態なの?」
『今の無宗様は前世の能力全てを自由自在に使用でき、“悪意的干渉無効”で攻撃やスキルは効かず、“強化模倣”で他人の能力でも強化した状態で使うことができまーす。それ以外にもチート能力がいくつもあり、もはやこの世界のバグに近い存在となってます。つまり……やばいってことです』
システムなのになんか軽い感じなのは気にしないでほしい。
しかし、ザワノスが今言ったことは本当なのだろうか……
鏡の自分を見つめる。いたって普通のどこにでもいるような青年だ。
「実感湧かないな。もし今軽く殴ったらこの壁とか壊せるってこと?」
『あ……ちょまっ……それはおすすめできませ……』
「えいっ」
バァァァァァァァァン!!
今の一撃で家が吹っ飛んでしまった。
「……」
『無宗様が私の警告を無視したので家が壊れちゃいました。どーするんですか』
「ヤバいっ!何とかしなきゃ!!」
“クロノ・リバース”
時間が巻き戻り何も無かったかのように世界は動き出す。
「ふぅ……何とかなってよかった」
「はぁ……ほんと、気をつけてくださいね。無宗様」
気軽にグーパンできねぇ…今後は気をつけ…
「ハァックションンッ」バボォォンッ!!
くしゃみで家の壁を破壊してしまった。いや、くしゃみって……なんでやねん。これは先が思いやられる。
「な……なんだこれは!俺の家の壁がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
お……ちょうどいいあのクソジジイにグーパンで復讐……ってあぶねっ。また家を破壊するところだった。
俺は怒りを抑え、平常心を保つことにした。
「お前かムソウ!とりあえず1発」
ゴンッ!
あれ?殴られても何も痛くない
「なんだこれっ……殴ってもビクともしねぇっ!」
『無宗様は悪意的干渉無効で攻撃は効かないでーす。例えこのスキルがなくとも相手とのステータスに差がありすぎるので攻撃は成立しないですよ』
「そうなのか?」
「何ひとりでボソボソ言ってんだ…って痛ッ!?て…手から血がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
勝手にダメージ受けてやんの。ワロタ。とりあえずデコピンで気絶させよっと…
バゴォォォォォォぉぉぉぉンッ!
『えっと……今の無宗様の一撃で直線上10キロ以内の物質全てが消失しました』
「だからなんでだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
俺は時を戻した。
その後俺はクソジジイ一人を気絶させることに苦戦し……
“念力”
『衝撃波で一部地形が崩壊しました~』
「なんでっ!?」
“ファイヤーボール”
『大爆発の影響で地球の平均温度が40度まで上昇しました~』
「普通に困るからやり直し!」
はぁ…はぁ……これで17回目……
“気絶付与”
「意識が……」
バタンッ!
やっとクソジジイを気絶させられたようだ。
「最初からこれでよかったやんっ。クソッタレ」
なんかめっちゃ疲れた。まぁ、過ぎたことはしかたがない。とにかくこれからどうしたものか。
奴隷生活のせいであまりこの世界のことは知らない。いっそのこと旅に出てみるのもありかもしれないな。よしそうしよう!
旅に出るなら心構えがなきゃね。
ここで一つ、俺が心に決めていることがある。
それは負けないこと。敗北は全てを奪う。金、地位、尊厳、大切な人、時には命でさえ。前世ではいつも敗北で大切なもの、築き上げてきたものを失った。
ズパッ……ゴトン……
「助けて……ムソ……ウ……」
もうごめんだ。勝たなくていい。ただ、二度と負けない。
それが全てでそれこそが正義だ。
せっかく力があるんだ。満足のいく人生にしてみせる。
となると、さっそくしなければならないことがある。それはこの首輪だ。これは奴隷の証である。
これつけてたら俺が人生の敗北者みたいじゃないか。そんなの絶対にNO!マジでNO!俺のポリシーに反することだ。
さぁ消えてもらおう。
ガシャンッ
俺は隷属の首輪を破壊した。これで俺より上の立場の存在はいなくなった。そもそも俺が負内無宗になった時点で自分より上の存在などないのだ。
もう俺を縛るものはない。誰も俺をとめられねぇぜ、邪魔するやつはシバく。
「……ふ、ふふ……はは……デュハハハハハハハハ!!」
俺はガンギマった目で不敵な笑みを浮かべ、体をのけぞらせ、聞いたこともないような笑い声をあげてハイになっていた。
そんな俺を観察するやつがいた。
「ゴホンッ。何か用かな?」
声優だった前世の能力を使い、誰もが堕ちるイケボで質問をした。
「あ……いまさらカッコつけても遅いです。全部見てましたから。あとキモかったです」
「うっ……」
無敵の俺にもこの一撃は効くようだ。
目元まである直線を描いたような前髪、肩まで金髪を伸ばしてピンクサファイアのような瞳で俺を見つめる少女。
この子は確か、俺と同じくあのクソジジイの奴隷だった……
「えっと……ルナちゃんだっけ?」
「ちゃん呼びキモいですね」
華奢な見た目に反して、不釣り合いな鋭い言葉を投げてくる呪言使いの彼女に背を向け俺は歩み始めた。新たなる旅に胸を踊らせながら。泣いてなんか……ねぇし……ぐすんっ。
「待ってください!まだ話は終わってません!あと私は呪言使いでもありませんから!!」
「普通に俺の心読むな。能力者か?」
「違いますよ。私をなんだと思ってるんですか」
「で……用件は?」
ルナはモジモジして顔を赤らめながら言った。
「わ……私をあなたの奴隷にしてくれませんか?」
「え?」
「二度も言わせないでください。……恥ずかしいです。」
これは大丈夫なのだろうか。ていうかむしろ奴隷から解放して欲しいっていうのが普通じゃないのか?
「一応聞くけどなんで?」
「あなたのそばにいれば危険な目にあいそ……じゃなくて新しい日常を歩みたいんです」
(きっと……この人なら世界を壊せる。私はそう確信していた)
怪しい。けどこんなに目を輝かせてるってことは嘘じゃなさそうだし……
「俺はお前を奴隷から解放できる。それでもお前は俺の奴隷になるのか?」
「はい」
ルナは真面目な眼差しで頷いた。
「絶対後悔するぞお前……」
「後悔はしない。だって私が選んだ道だから」
どことなくルナの強い意志を感じた。
“隷属変更”
互いの右手に赤い紋様が浮かんだ。これでいいのかな?
『報告でーす。ルナが奴隷に登録されました。ルナのステータス確認、管理が可能になりまーす』
「やっぱり。隷属変更は奴隷商人の専用スキルのはずですが……ご主人様ならできると思ってました」
「え……そうなの?」
ちゃっかりやばいことしちゃったのだろうか。いや大丈夫か。
「さぁさぁ早く。ご主人様!危険なことするんでしょ?何するんですか?やっぱりダンジョンですか?ダンジョンですか!?」
隷属契約をしてさっそく思ったのだがこの子はもしかしてやばいタイプの人なのだろうか……
というわけでルナが仲間になった。(奴隷になった)
俺は奴隷からご主人様に昇格した。
しかし、この時点で俺はまだ知らなかった。
ダンジョンも、国家も、世界そのものも――
俺を「災害」扱いし始めるようになることを。
※活動報告に、無宗とレミアのキャラクターイメージ立ち絵を載せています。
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