2人の夜
「本当にこんなオバサンでいいの?」
ヒトミは何度も念を押した。ヨシヒロはそのたびにヒトミの髪を撫でた。やがて、ヒトミが恍惚とした表情を浮かべた。
ヨシヒロは幼き日の欲望を叶えた。ヒトミ先生の素顔を見たい、化粧をしていない顔を見てみたいという、胸の奥に閉まっていた欲望だ。
力ずくで化粧を剥がしたわけではない。ただ、目の前にいるのは素肌をさらけ出したヒトミだ。
小学生の頃、同級生たちはヒトミ先生が厚化粧だと言って気持ち悪がった。今、ヨシヒロはヒトミの素肌を見ながら、あながち間違ってはないかもと思っていた。まあ、だからといって学級崩壊はいけないが。
実際、ヒトミはやや日に焼けている感じだった。大きなソバカスも、左の頬にあった。30代後半ということで、肌の崩れが始まっているとも思った。だが、そこがヨシヒロの欲望を刺激した。
ヨシヒロはヒトミの右の頬に唇を当てた。続いて2人とも目を閉じて唇を重ねた。長い口づけの後、そのままヒトミの身体を抱き寄せた。2人はそのまま身体を重ねてベッドの上に沈み込んだ。互いの肌の温もりが感じられた。
「ヒトミさん、あたたかい。」
ヨシヒロは顔を上げてヒトミに微笑みかけた。
やがて、ヒトミは一糸まとわぬ姿になった。ヨシヒロがそうしたとも言えるし、ヒトミが自らそうなったとも言える。だが、そんなことは問題ではない。
互いに肌の温もりを感じていたが、やがてヒトミは無防備な体制になった。ヨシヒロの全てを受け入れる意思を示した。
ヨシヒロもまた、己の欲望を徐々に露わにしていった。ヒトミの身体をゆっくりとゆっくりと味わっていった。
この夜、2人はひとつとなった。ヨシヒロが「ヒトミ先生」への想いに気づいた日から、13年の月日が経っていた。
やがて、2人の夜は明け、朝になった。
もう「お試し」はやめませんか?
そんなことを聞く必要は、なくなっていた。




