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白粉の記憶  作者: キャロット艦長
第一章
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修学旅行とプール

そもそも、ヒトミ先生は嫌われるようなところはなかった。なぜ嫌われていたのか、今でもよくわからない。新年度が始まってしばらくはいつも笑顔でニコニコしていた。この頃もそれは変わらなかった。子どもながらに教師という仕事に夢や希望を抱いているのも感じられた。


ヨシヒロは、ヒトミ先生のことが好きか嫌いかというと、少し嫌いという程度だった。正直、うっとうしいと思うことはあった。ただ、周りのクラスメイトのようにあからさまに反抗することはなかった。


クラスの方は、それ以降は大きな事件は起きなかった。やがて、修学旅行の季節がやってきた。旅行先は奈良と伊勢だった。東大寺や伊勢神宮に行くという一泊二日の旅程だった。


修学旅行でまた事件が起きるかも。ヨシヒロは少し不安を覚えた。だが、同時にあることに期待した。一泊二日・・・、ホテルに泊まった時、ヒトミ先生の素顔を見れるかもしれない。化粧をしていない顔が、どんなものか見てみたい。ヒトミ先生が厚化粧かどうかはわからないが、化粧をしていない顔を見てみたい、そんな風に思ってしまった。


このことは誰にも言えない。同級生たちはこの機会にヒトミ先生の化粧を剥がしたいと思っているかもしれない。だが、自分は他の子ほどに先生を嫌っているわけではない。もし、そういうイタズラをしようとなって、協力するように言われてもそんなにヒドいことはできない。


修学旅行では何も事件は起きなかった。この頃になると、同級生たちはヒトミ先生を嫌っているけど、暴れ出すほどではなかった。同級生たちは先生から話しかけられた時に、それが授業中でもそうでない時も、冷ややかな反応をするという程度だった。時に反抗的な態度を取るだけで、取り立てて大きなトラブルはなかった。それでも、先生はやりにくかっただろうが。


ヨシヒロはというと、少し残念な気持ちで修学旅行から帰ってきた。みんなが「ヒトミ先生は厚化粧」と言っていたからなのか、先生の素顔を見てみたい気持ちは相変わらずだった。なぜ、そんなことを思うようになったのかはわからない。ひょっとすると、化粧というものを厚い壁のように思っていて、それを壊したいという気持ちだったのかもしれない。


修学旅行が終わると、次はプールの季節がやってきた。ここでヨシヒロは新たな期待をした。


ヒトミ先生がプールに入れば、化粧が落ちるかもしれない。


いつの間にか、ヨシヒロは先生の化粧に関心を持つようになっていった。だが、周りのクラスメイトはヒトミ先生の厚化粧は気持ち悪いと言っている。そんな中で自分も先生の素顔を見たい。そう言ったら一緒に先生をイジメるグループに入ってしまう。それはそれで嫌だった。ヨシヒロはヒトミ先生のことを少し嫌いだったが、イジメることはいけないと思っていた。


結局、ヒトミ先生がプールに入るのを見ることはなかった。水泳の授業では、全学年合同で行われていて、他のクラスの男の先生が率先してプールに入り、子どもたちを指導していた。女の先生でも指導する先生はいたが、プールに入ることはなかった。ヒトミ先生だけはなぜかプールに来ることさえもなかった。同級生たちはうっとうしい先生がいなくて、むしろよかったという感じだった。おそらくヨシヒロだけは心の中で残念に思っていた。


やがて夏休みがやってきた。夏休み中はヒトミ先生のことを考えることはなかった。少年団のソフトボールチームに入っていたので、その大会があった。ヨシヒロたちのチームは弱かったが、初戦はギリギリで勝った。次の試合は大差で負けてしまった。大会の後で同じチームのタツヤと夏休みの宿題について話をした。タツヤはヨシヒロと同じ、ヒトミ先生のクラスだった。


「タツヤ~、宿題やった?」


「いや、まだ全然やわ。」


「一緒にやらへん?」


「ええよ~、アキノリとシンジも呼ぼうぜ。」


タツヤとアキノリ、それにシンジもヨシヒロと同じクラスだった。この4人は周りに流されることなく、ヒトミ先生に反抗してはいなかった。ただ、全員が「少しだけ嫌いかな」という程度だった。

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