不安の理由
「ワタシ、不安なの。」
ヒトミさんの口から意外な言葉が出てきた。「不安」?あんなに楽しそうで?時には茶化してきたのに?
「不安?と、言うと?」
ヨシヒロは聞いた。
「うん、不安。」
ヒトミは一息ついて、続けた。
「だって、ヨシヒロくんは25歳、ワタシは37歳よ。こんなおばさん、好きになるわけないって。もし好きになっても、他に若いコが来たら、ワタシは捨てられるって。」
ヨシヒロは呆気に取られた。なおもヒトミは思いを語った。
「最初から、なんとなくワタシのこと好きだってのは、わかってた。その、社会人になってから連絡くれていた頃ね。で、その頃はどんなものかなあと思って、一緒に遊んでたけど。」
しばらく沈黙があった。
「それで、何回かご飯とか行って、ああ、ヨシヒロくんは真剣なんだ、本当にワタシのことが好きなんだなって思った。」
なら、いいのでは?ヨシヒロは思った。
「でも、いつかこれは終わる。ヨシヒロくんは、ワタシのことなんか、そのうち忘れると思ってたの。それなのに、いつもあたたかいし、いつも隣にいてくれるし。」
感情的にならず、淡々と話し続けた。
「だから、なおさら怖いの。ヨシヒロくんがいなくなったらどうしようって。こんなおばさん、いつかは捨てられるって。ヨシヒロくん、会計士だからモテるし、綺麗なコや可愛いコがどんどん寄ってくる。ワタシなんか、ハッキリ言って目じゃないもん。」
ヒトミは目を赤くしていた。
「だから、なおさら怖いの。」
ヒトミは目を赤く腫らして何度も言った。
ヨシヒロはショックだった。今まで、「お試し」と言われてきて、ずっとどうやってヒトミさんに選んでもらうかを考えてきた。ところが、そのヒトミさんは捨てられるかもしれないという恐怖と闘っていたのだ。
「ヒトミさん。」
ヨシヒロは語りかけた。
「ごめんなさい、気づかなくて。」
なるべく、優しく、やわらかく。
「ヒトミさんがそんな風に思ってたなんて。全然気づかなくて、ダメだな、オレ。」
ヨシヒロはうつむいた。
「でもさ・・・、」
ヨシヒロは顔を上げた。
「オレ、ヒトミさんのこと、大好きだから。それ、いつになっても変わらないから。」
なるべく明るく言おうとした。
「だから、安心していいよ。オレ、どこにも行かないから。」
ヒトミも顔を上げた。口元はハンカチで抑えていた。涙を浮かべた目だけが、「本当に?」と訴えかけてきた。
「大丈夫、どこにも行かないから。」
「本当に?」
ハンカチの下から小さな声で聞いてきた。
「うん、本当に。不安にさせて、ごめんなさい。」
いいや、とヒトミは軽く首を振った。そして、ハンカチを口元から離して、微笑んだ。目は真っ赤だったが。
「ありがとう。こちらこそ、ごめんなさい。ヨシヒロくんの気持ちはちゃんと伝わってたよ。」
いつものヒトミの笑顔が戻った。




