フォルクスワーゲンのゴルフ
ヨシヒロはヒトミに告白する前から、ほしい車があった。フォルクスワーゲンのゴルフだ。なんとなく、輸入車に乗ってみたかった。若手の社会人が購入するにはちょうどいいとも思った。
ヒトミにはそのことも話していた。どちらかと言うと、ヒトミの方が車に関心があって、「おお~、いいやん。」と言ってくれた。「ゴルフ買ったら、どこに連れてってくれるのかなあ。」と楽しみにしてくれた。
ディーラーで契約して、頭金も振込んだ。100万円もの金額を動かしたのは、生まれて初めてだ。駐車場の契約も実印の登録も行った。1か月先の納車が待ち遠しい。
水族館に行ってからは、2~3回ご飯に行った。やがて、2人でドライブに行きたくなった。ヒトミの車で行こうとも話したが、レンタカーを借りることにした。「運転することで、彼氏としてリードしたい。」ヨシヒロは思った。
ヨシヒロとヒトミの最初のドライブデートは淡路島に決まった。レンタカーは対岸の明石で借りることにした。
「ヨシヒロくん、運転できるの?」
「できますよ。就職決まってから実際に働くまで、実家の車で練習してました。」
「そうなんや。じゃあ、最初から運転する?」
「いえ、最初はお願いします(笑)」
「えーっ!なんでよ~(笑)」
実際、ヒトミは普段から車で通勤しているうえに、「推し」のライブのために神戸市内まで車で行くこともあった(10年くらい前も「推し」という言葉はあったが、現在ほど流行ってなかった)。ヨシヒロは少し様子をうかがいたくなった。
「じゃあ、行くね!」
「お願いします!」
「何が、「お願いします!」よ(笑)」
結局、ヒトミがハンドルを握った。大橋を渡ると淡路島の入口にあるサービスエリアに入った。
「いやあ、運転ありがとうございます!写真めっちゃ撮れましたわ(笑)i-phone、いいっすね~。」
ヨシヒロはなんとかごまかそうとした。
「全く、結局ワタシが全部運転したじゃない。。」
ヒトミは仕方ないなあという苦笑いを浮かべた。
淡路島のサービスエリアで休憩した後、今度はヨシヒロが運転することになった。車は高速を降りてから道なりに走って、海のそばの公園に着いた。
「めっちゃ、緊張してたね(笑)」
助手席からヒトミが覗き込んだ。
「そりゃ、そうですよ。大切な彼女ですから。」
「え、何?もう1回言って(笑)」
「えーっ(笑)」
ヨシヒロが目をそらすと、ヒトミはヨシヒロの腕をつねった。
「いたっ!」
「ヘヘ~(笑)」
夏の日差しが照りつける中、ヨシヒロはヒトミとともに海辺の公園を歩いた。ヒトミは黒い日傘を差していた。
「やっぱり海はいいなあ。」
「いいですね~。せっかくなら、2人で入りたかったなあ(笑)」
ヨシヒロが茶化して言ったら、ヒトミは
「また、来年ね。」
と微笑んだ。ヨシヒロは「え?来年?」と思った。「来年も付き合っているかな。その頃はもうお試しじゃなくて、本当の彼氏・彼女になってれば。」と思った。だが、それを聞くのは野暮な気がした。
ヒトミは意味深な微笑みを浮かべたまま、日傘を差して、ひとり歩いていった。ヨシヒロはその場に取り残されていたが、ヒトミが振り向いて
「アイス、食べよっか。」
と言ったので、小走りをしてヒトミに追いついた。




