だーいすきだったの!
ヨシヒロとヒトミ先生が好きなバンドは、その年のゴールデンウイーク明けに大阪でライブを開催することになった。ヨシヒロも先生も、都合のつく日程だった。
ライブの当日、ヨシヒロが待ち合わせ場所に立っていると、ヒトミ先生が後ろから覗きこんできた。
「おまたせ~。」
先生は水色のワンピースに紺色のアウターを着ていた。
ライブは心斎橋のバーで行われた。カクテルなんかがズラリと並ぶ、オシャレなバーだ。こんなお店に女の人と2人で来たことはない。先生の方はと言うと、バンドに夢中でテンションが上がっていた。
ライブの途中、休憩時間にヒトミ先生に聞いてみた。子どもの頃を思い出して、ふと気になっていたことだ。
「そういえば、先生っていつも笑顔でしたよね?小学生の頃、なーんか印象に残ってるんです。」
そういうと、ヒトミ先生は少し上の方を見て、
「あ、そう?それは意識してなかったけど。」
と言った。そして、続けて
「でも、あなたたちのことが、だーいすきだったの!」
と言って手を伸ばし、満面の笑みでヨシヒロの方に両方の手のひらを向けた。
ヨシヒロは驚いた。教え子に嫌われていたのに、学級崩壊していたのに、それでも「だーいすき」って言えるのか。ヨシヒロは、
「先生、僕も先生のことが好きでしたよ。」
と明るく言った。真剣に言うと、本心がバレそうだった。先生が「ありがとう。」と微笑んだ。休憩時間が終わり、ライブが再開された。
ライブが終わってから、ヨシヒロはヒトミ先生にささやいた。
「先生、今度はイタリアンとか行きませんか?夜景が綺麗なところ、知ってるんです。」
本当はそんなところ知らなかった。学生時代に彼女がいたことはあったが、社会人が行くようなお店には行ったことはなかった。それでも、ヒトミ先生はこう返してきた。
「おおっ?!まさか、連れてってくれるの?」
先生はおどけてきた。これは、OKなのだろうか。ヨシヒロはなおも誘ってみた。
「はい。いくつかあるんですけど、また行けたらなあと思って。」
「どうしよっかなあ~(笑)」
なんか、まんざらでもなさそうだ。
「1回、来てみてくださいよ~。ボク、先生と行くのが夢なんです。」
思わず本音が出た。これは、踏込みすぎたと思った。先生も一瞬、驚いたような顔をした。だが、なおもおどけてこう言った。
「そぉ~?うーん、わかった。じゃあ、また連絡してね。」
これは、お酒の力なのだろうか?バーの雰囲気の力なのだろうか?いずれにせよ、また先生とお会いできることになった。そのお店を、今から探さなければいけない。




