嫌われ者の先生
「あのセンコー、今日も化粧濃いよな。」
「ホンマそれ~、マジでキモいねんけど。」
「ワタシなんか、さっき手ぇ触れられたで。」
「うわぁ、サイアク~。」
ヨシヒロのクラスでは、毎日このような会話で盛り上がっていた。盛り上がっていた、というのは適切ではないかもしれないが、男子も女子も同じ話題について、日々かしましく話していた。
ここは兵庫県内の小学校。6年生のクラスを受け持つのは若手のヒトミ先生だった。小柄で丸顔、ポニーテールが可愛らしい女性教師だった。太っているわけではなかったが、ほんの少しふくよかな雰囲気があった。小学校6年生ともなると、男子では先生より背の高い子も1人、2人はいた。厚化粧かどうかはともかく、色白であった。
通常、若い先生は教え子との年齢が近く、人気者になりやすかった。だが、大人の醜い部分だけを吸収したかのような小さな悪魔たちに、そのようなことは関係なかった。この後、小さな悪魔たちの毒牙は少しずつ先生を蝕んでいくのである。
「なあなあ、あのババァに手紙書かへん?悪口いーっぱい書いた手紙。」
「ええなあ、面白そうやん。」
「書こ、書こ!めっちゃ悪口書いたろう!」
「そうやな!まずは何書く?やっぱり化粧濃いってのは外せんよな!」
新年度が始まって2ヶ月くらい経った頃、ヒトミ先生のクラスで、このような会話が聞こえてくるようになった。はじめは、ヒソヒソ話だったが、子どもたちは段々と隠す気もなくなってきたようだった。今思うと20代そこそこのヒトミ先生にババァとは、それだけでも失礼な話だ。
手紙を書く話をしていたのは、40人くらいのクラスの中のおそらく数人。一部だけの悪だくみだったが、この件はいわば公然の秘密となっていた。もちろん、ヒトミ先生だけは知らない。
いつ・どのようにして手紙を渡したのか、そして本当に先生が手に取ったのか、詳細はわからない。放課後、机の上に置くとか言っていたような気もするが、詳しくは知らない。だが、ある日を境にこんなヒソヒソ話が広まっていった。
「あのババァ、泣いとった。」
「化粧の上を涙が垂れとったなあ。」
「厚化粧、グチャグチャになったかな。」
「そこまではわからんかったな。」
「これで先生辞めへんかな?」
「ホンマや。てか、もう辞めたらええのに。」