転校初日
ありがとうございます。
私立海丸高校。
そこそこ名が知れている高校だ。学力は高く、部活にも力を入れている。真の文武両道を志にしている学校。
今日この学校に転校生がやってくる。編入試験満点!などではなくギリギリの点数での転校。だが決してすごくないわけではなく、むしろ転校許可されるだけでなかなかにすごい。
転校してきた少年は見慣れない学校の中を担任に案内されながら横並びに歩いていく。
他の先生はホームルーム中なのかみかけない。
少年と担任の距離は遠い。担任が近づこうとしても少年は距離を離す。
「憩。やっぱり俺は怖いか?」
初めて会って数十分でくる質問ではない。だがやっぱりというのはこういうことが何度もあったのだろう。
「い、いえ、そんなことはないと思いますよ。竹内先生は接しやすい先生かと。」
「本当か?」
「は、はい。」
少年は早口だ。
「うーん、そうだよなぁ。気のせいだよなぁ。うーん・・・・・・。」
今悩んでいる担任は男で竹内先生という。顔がダンディーで髪色は茶色。声が大きく、言動が荒い。そのせいか不良感が出ていて学校では生徒からも先生からも怖がられている。本人は気づいていないが、最近勘付いてきた。
一方竹内先生についてきている少年の名は西井 憩。
憩は背は高いが、外見の第一印象はまさに普通。隠でも陽でも判断しずらい顔をしている。
実際どちらかといえば隠の方に傾いてはいるが、憩は中学校でも真ん中の立ち位置として生きてきた。
(友達1人はできたらいいな・・・・・・。)
そんな憩は今までの立ち位置とは似合わないことを考える。しかも見てわかるほど落ち込んでいる。
「そんなに緊張しなくても大丈夫だ。うちのクラスはいいクラスだから。」
竹内先生は憩を心配したのか気にかけてくれる。
だが憩の顔が緩んだ気配はない。
竹内先生が歩みを止める。
「何が心配なんだ?」
流石にこのまま挨拶するのはまずいと思ったのだろう。
「だって今、秋じゃないですか。1年生の秋からの転校はもうグループができてます。・・・・・・俺が入るところなんてないですよ。」
そう。秋なのだ。
憩は大体ぼっちになる理由は最初にできるグループに入れるか入れないかで決まると考えている。
転校が春や夏だったならまだしも、秋というもうすでにグループができてさらに絆が深まっているであろう時期に転校は乗り気じゃないというか嫌なのだ。
「まぁ否定はしない。確かにグループ内に入るのは至難の技かもしれない。だが・・・・・・。」
「だが?」
「不登校とかだったならまだしも、お前には転校生という特権がある。うちのクラスはみんな興味心身でお前に話しかけると思うぞ。」
「本当ですか?」
「あぁ。だが喋りかけられるだけじゃなくしっかり憩からも喋りかけろよ。そうしたら自然とグループに入れてるもんだ。」
「・・・・・・本当ですね?」
「ああ。もしダメだったら先生が友達になってやる。」
「それは遠慮しておきます。」
「えぇ・・・・・・。」
そのやり取りで憩は少し元気を取り戻す。
竹内先生はそれを感じ取ったのか歩みを再開する。
先生に案内され、これから通う教室にたどり着く。
「ここだ。」
名札には1年4組とかいてある。
教室からは何人かの生徒の声が聞こえる。
よく聞いてみると
「どんなやつがくるんだろうな。」
「女の子かな?」
「男だったらイケメンかな?」
などとこれからクラスメイトになる憩に期待が集まっている。
転校生が来るのは事前に知られていたのだろう。
「あとで呼ぶからここで待っておいてくれ。」
竹内先生がまずクラスに入っていく。説明をしにいったのだろう。
竹内先生が入っても声は絶えない。転校生とはそれほど期待するものだろう。
(入った瞬間ブスとか言われたらどうしよう。)
憩はまたもや落ち込んでいた。
憩の見た目は決して悪くない。それも自覚してはいるが、だがここまで期待されればネガティブになるのは当然だろう。
「入ってきていいぞー。」
竹内先生からの合図がくる。
(こういうのは勢いだよな。落ち込んでると印象が悪い。憩!がんばれ!!)
憩は吹っ切れたようにドアを開け、教壇にたつ。
「じゃあ自己紹介を。黒板に名前を漢字で書いてくれ。」
さすがに他のクラスメイトも静かになる。見渡してみると席が2つ空いている。
一つは憩の席だと思うがもう一つは誰だろうか。
(普通に休みか。)
深く考えずに自己紹介を始める。
「西井 憩です。」
憩はそう言って黒板に名前を漢字で書く。
慣れていないのか読めなくはないが少し乱雑だ。
「趣味は野球で好きな食べ物はカツ丼です。よろしくお願いします。」
定番の自己紹介を言って憩は頭を下げる。
パチパチパチと拍手が送られる。
「よろしくー。」
「仲良くしよーな。」
「なんでもいってくれよー。」
クラスのカースト上位からの暖かい言葉が寄せられる。
クラスの雰囲気はいい。皆話しているが表情がいい。
「この顔は合格だね。」
「ねー。」
(よかったぁ!!)
女子の評価も合格らしい。
(落ち込んで損したな。このクラスは先生が言ってた通りいいクラスだ。)
憩の不安は消えて嬉しさを噛み締めている時。
急にバン!!と扉が開く。
憩とクラスメイトはそちらを見る。
入ってきたのは少女。少女は止まって憩をじっと見る。
転校生を珍しがっているのだろうか。
ぼさぼさな青い髪に髪型はウルフ。ぼさぼさな髪だがそれが気にならないほどにウルフカットが似合っている。
いやそれが引き立たせている。綺麗な顔立ちにスタイルもいい。モデルをやっていると言われても疑問には思わない。道端であえば思わず2度見してしまうだろう。
いわゆる容姿端麗だ。
だがこんな美人が入ってきたのにも関わらず、クラスメイトの顔は引き攣っている。
(こんな美人がクラスメイトなのか!やったぜ!!)
憩がクラスメイトの反応は気にせず、心の中で嬉しんでいる。そうしていると少女が冷たい目をして口を開く。
「こっち見ないでくれる?汚れるから。」
その言葉は淡々と当たり前かのように発せられた。
「・・・・・・?」
憩は初対面で汚れると言われた経験はない。故に思考が追いついていない。
「汚れるから見ないでって言ったのよ。」
「はぁ?」
憩は思わず言い返してしまう。急にそんなことを言われればイラッと来るのは当然だろう。
それを見ていたクラスメイト達は
「あの子またやっちゃったよ。」
「憩、ドンマイ。」
「まぁしゃーない。切り替えてこ。」
クラスメイトの反応を見るとおそらくこのようなことが何度もあったんだろう。
憩は困惑する。意味がわからないからだ。
(え?なんなの?もしかして俺やばいことやっちゃった?)
「今、あなたなんていったの?」
少女の目は敵でもみるような目をしている。
(なんなのこの人・・・・・・。俺を見る目も怖いし。汚れるとか言われるし。・・・・・・なんかイライラしてきたな。)
「は?って言ったんだよ。そういうお前はなんなんだよ。初対面であれは失礼だと思わないのか?」
これは正当防衛と思い、強気に出る。
少女の眉がピクッと動く。
「・・・・・・私に言い返すとはいい度胸ね。」
少女が憩に向かって歩いてくる。憩は身構える。
(女の子と喧嘩なんかしたくないんだがな。でもあっちからくるならしょうがない。)
そこで竹内先生が2人の間に入ってくる。そして少女を見る。
「日和そこらへんにしておけ。憩は転校生だ。初日からそれはあんまりだろう。」
数秒の間が開く。生徒たちも黙っている。
「・・・・・・まぁいいわ。」
竹内先生の覇気に圧倒されたのか少女はくるりと後ろにまわっては教室から出て行く。
「なんだあいつ。」
「まぁ許してやってくれ。あと10分後には授業だから席に座れ。憩の席は一番右後だから。」
「・・・・・・はい。」
憩は不服そうに自分の席まで行き座る。
クラスメイトからの視線は同情に変わっていた。
「初日から災難だったなあ。」
隣の席の髪色が緑でセンター分けの少年が憩に話しかける。
「あいつはなんなの?」
(この少年の名前を聞く前にあの少女の方が気になる。)
「翠花 日和。狼女だ。」
憩は首傾げる。
高校生を表す表現で聞いたことがない単語がでてきたからだ。
「お、狼女?なに?月を見たら変身するの?」
「違う違う。誰にでも噛み付くように攻撃するから。」
「・・・・・・わかったようなわからないような?」
「ちょっと説明が足りなかったな。あいつウルフカットだろ?」
「あぁ。悔しいけど恐ろしく似合ってる。」
狼女はウルフカットの代表例のような似合いっぷりだ。
「そうそう。ウルフカットで誰にでも言葉で攻撃するし、あと目つきが怖くていつも1人。だから狼女。」
「へぇー。そうなんだ。」
「あ!一番大事なの忘れてた!」
「なに?」
「言葉とかじゃなく実際に噛み付く力がめっちゃ強いらしい。」
「それは狼女だわ。」
(いつも1人、目つきが怖い、攻撃的、ウルフカットで噛み付く力が強い。これは狼女だ。)
憩と横の少年が喋っていると前の黒髪で髪の短い少女がこちらの会話を聞いていたのか会話に入ってくる。
どうやら喋りかけてくるのは本当らしい。
「昔からああなんだよ。悪口ばっかで怖がられてるの。」
「昔からだったら誰か何か言わなかったの?」
例えば芸能人の真似は誰かに言われてやめるものだろう。
「喋りかけても悪口いわれるか、無視だからね。あとあの子すごい美人だから嫌われること皆いいたくないのよ。」
なるべく容姿がいい人には嫌われたくないものだ。
「あー。そういうけいね。」
「まぁこの話は置いといて。俺、鈴木 陸。よろしくな。わからないことがあったらなんでも頼ってくれよな。」
こんな話をしていても意味がないと思ったのだろう。過ごしていればだんだん慣れてくるからだ。
「私、佐藤 由香。よろしく。私にも頼っていいよ。」
「あぁ。よろしく。何かあったら言うよ。」
(仲良く慣れそうで安心した。)
扉が開き、先生が入ってくる。その後ろには狼女もいた。
「授業始めるぞー。」
「鈴木、いきなりで悪いけど教科書見せてくれない?」
「教科書まだもらってないの?」
「もらったんだけど忘れちゃった。」
「ハハハ。はい、貸してやるよ。」
実際は忘れてなどいないがこうした方が仲良くなれると思ったのだ。
このやりとりを6回ほど繰り返して帰る時間になる。休み時間にはいろんな人に話しかけられ、昼ご飯にも誘われた。結局1人で食べたが。
(これなら最悪の事態でも喋りかけられる人がいないなんてことはなさそうだ。)
憩はコミュ力はあるほうで、喋りかけられてもそつなく話せていた。
(あの狼女、朝以来話しかけてこなかったな。てか誰ともはなさずずっと本を読んでたし。自分の敵以外は興味ないってことだろうか。)
クラスメイトも不運だったねとはいうが、それ以外は狼女については言及しない。
(慣れろってことなのかな。・・・・・・帰りの挨拶したら喋りかけてみるか。)
興味本位。あとは朝の態度は自分にもしかしたら何か落ち度があったかも知れない罪悪感。
ただこの選択が憩の運命を大きく変えることになる。
読んで頂きありがとうございます。
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どんな意見でも歓迎です。
結構長いので誤字が多いかも知れません。自分でも点検しますがご了承ください。




