05.公爵令嬢はただの可愛い方でした
更新を止めてしまい大変申し訳ございません。今後ともよろしくお願いいたします。
入学してから一ヶ月ほどが経過した。
クラスではエリーザ様と二人でいることが多くなり、親しくなるのにそう時間はかからなかった。
親しくなればわかる。
エリーザ様は本当に可愛らしい方だった。
ある日のお昼休み、昼食を食べ終わった私達は雑談をしていた。
「ル、ルイス嬢? もしよろしかったらイヴェットさんと名前で呼んでもよろしいかしら」
「イ、イヴェットさん。次は移動教室なのだけど、一緒にどうかしら?」
「その……お昼ご飯ってどなたかと食べたりされる?」
最初の怖そうだな、という印象を次々に薄めていき、同時に交流を深めようと勇気を振り絞って話しかけてくれる姿は好感しか生まなかった。
おかげで私が持っていた警戒は完全に解けて、今ではお互いに名前を呼んで仲良く過ごしている。
そして紅茶の茶葉を教え合うまでに仲は進展していた。
「エリーザ様。先日いただいた紅茶の茶葉、本当に美味しかったです」
「本当に? イヴェットさんのお口にあってよかったわ」
必要以上に安堵しながらも、圧倒的な破壊力の笑みを見せるエリーザ様。茶葉を渡される時でさえ、エリーザ様は私の好みに合うか心配されていた。
「イヴェットさんからいただいたお紅茶の茶葉も本当に美味しかったわ。毎日飲みたいほどよ」
「よかった……お口に合うか心配だったのですが」
「とてもよかったわ」
ふわりと微笑むエリーザ様。その笑みはとても美しく、真顔からはとても想像できないほどの優しさを感じられる。
最上級の褒め言葉であると同時に、エリーザ様から発せられるのがお世辞ではないことは一ヶ月の間で把握済みだ。
エリーザ様は想像以上に気遣いに優れているが、だからといって自分の意見を出さない方ではない。
例えば自分の口に合わない場合は「ごめんなさい」と申し訳なさそうに、正直に伝えてくれる。
もちろんその態度が苦手な人もいるかもしれないが、私の場合問題ない。
(曖昧に褒められるより、好みが明確にわかやすいもの)
どうやら私とエリーザ様の性格は絶妙にマッチしたことも、親しくなれた理由の一つだと思う。
かなり褒められたので、そのまま話を繋げることにした。
「もしよろしかったら、今度放課後お茶をしに出掛けませんか? 実は良いお店を知ってるんです」
「放課後のお出掛け……!!」
弾むような声が返ってくると、私まで嬉しくなってしまう。
(エリーザ様の願い、叶えてあげたい)
そう、私は知っているのだ。エリーザ様が友達としたいことリストを書いていることを。
目撃したのはただの偶然だったのだが、エリーザ様がメモ帳くらいのノートにリスト化しているのを発見した時は「え……さすがに可愛すぎるんだが!?」と興奮したのは内緒の話になる。
ちなみにこのリストには、一緒にお昼ごはんを食べる、一緒に移動教室に向かう、等も書かれていた。
この事実を知ったからこそ、可愛らしいという評価に至ったのだ。
喜びを見せるエリーザ様だったが、何かに気が付いたように不安げな表情へ変わった。
「あっ……でもイヴェットさん。放課後よね? その、お邪魔にならないかしら」
「え?」
お邪魔、と言われるがその意味がわからなかった。
「お昼ご飯のお時間も奪ってしまったでしょう? ……だからその、放課後は申し訳ないわ」
「ま、待ってくださいエリーザ様。申し訳ない、とは。……もしかしてジョシュアのことですか?」
「もちろん」
放課後と言われて思い浮かぶのは、一緒に下校をしているジョシュアだった。
ただ、何を申し訳なく思うのかがわからずに直球に尋ねれば、逆に驚かれてしまう。
「だって学園内じゃルイス姉弟が仲が良いのは周知の事実じゃない。特にルイス侯爵子息はイヴェットさんとお昼ご飯を一緒にしたい中で、わたくしに譲っていただいてるから」
「…………」
周知の事実。
この言葉に驚きすぎて言葉を失ってしまう。
(……私何かしたかな?)
確かに姉弟仲は良い。ただ、それがどうしてそこまで多くの人に認知されているのかがわからなかった。
「エリーザ様……その、どうして周知の事実なのでしょうか?」
「あら。ご存じないの? イヴェットさんはともかく、ルイス侯爵子息はご友人を作らないで有名じゃない。近寄りがたい雰囲気をこれ以上ないほど感じるみたいよ」
(嘘でしょ、ジョシュア……!?)
全く知らなかった。
何故ならジョシュアはあまり自分のことを話さない上に、そんな素振りを少しも見せなかった。
(穏やかそうに、楽しそうな姿しか見なかったけど……まさかの友人ゼロ)
別に友達を無理に作って欲しいのではない。ただ、友人がいないという状況がどうにもあのゲームのジョシュア様に重なってしまうのだ。
(……ゲームのように)
もしかしたら不幸な道をたどる、嫌でも考えてしまった。
「反応を見る限り知らなかったのね……ということはあれもーー」
「あれ!?」
「!」
エリーザ様の言葉に過剰に反応して、彼女を驚かせてしまう。
「す、すみません。知らなかったもので」
「いいのよ。わたくしが噂に敏感なだけだから」
アプリコット家の令嬢として、家にとって不名誉な噂話が出た時にすぐに対処できるようにしているのが、エリーザ様の本意だった。
正直、噂の火消しはしておくにこしたことはない。これはお母様から学んでいることの一つだ。
「それで……よろしければお聞かせ願いますか? あれとは何か」
「もちろん構わないわ」
頷いたエリーザ様から出た言葉は、とんでもないものだった。
「何でも、ルイス侯爵子息に恋慕しているご令嬢がいるみたいよ。その方だけは、臆せず話しかけているみたいで」
その瞬間、嫌な予感が過った。
(……まさか、ヒロイン……?)




