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最高の誕生日

 更新が遅くなってしまい大変申し訳ございません。よろしくお願い致しします。



 ジョシュアの誕生日がやってきた。

 生誕祭を行う貴族が多い中、ルイス家では催すことはなかった。というのも、〝誕生日という記念日は家族で過ごすべき〟というのが我が家の共通認識になっていたのだ。


(推しに贈るケーキを広めたこともあって、ルイス家にとって誕生日は他のどの家よりも特別なものなのよね)


 今回も例外ではなく、ジョシュアは家族でお祝いすることになった。

 マフラーと手袋を作る傍らで、誕生日ケーキも作りあげた。昨年までは推しケーキと言っていたのだが、今年は込める想いが大きく膨らんでいた。


(大好きなジョシュアが、幸せに過ごせますように)


 いちごをふんだんに使ったケーキは、ジョシュアに大好評だった。


「さすが姉様。僕の好きなものをわかってる。……毎日食べたいな」

「毎日は体に悪いんじゃないかしら」

「……作ってくれないの?」

「……毎年なら作るわ」

「うん、約束だよ」


 テーブルの下でこっそりと手を重ねるジョシュアに、私は一気に鼓動が速くなってしまった。それを誤魔化すように斜め前に座るエリシャに話を振る。


「エリシャ。たくさん作ったから、好きなだけ食べてね」

「ありがとう、おねーさま!」


 試行錯誤した甲斐があったようで、誕生日ケーキはあっという間になくなってしまった。家族との時間を過ごした後、私はジョシュアの部屋へ贈り物を持って向かった。


 一つのソファーに並んで座ると、ジョシュアの方に少し体を向けた。

 去年はさっとプレゼントを渡して終わりにしたのだが、今日は部屋に入ってまで二人だけの時間を過ごせるのが嬉しかった。口角を上げていると、ジョシュアも口元を緩めて私を見ていた。


(あ、改めて二人だと緊張するな……)


 恋人として初めて過ごす誕生日は、喜びと同時に緊張が生まれていた。


「改めて。お誕生日おめでとう、ジョシュア」

「ありがとう、姉様」

「早速なんだけど、これ。お誕生日プレゼント」


 平静を装って箱に入れたプレゼントをジョシュアに渡した。

 ジョシュアは目を見開いたかと思えば、すぐに満面の笑みを浮かべた。


「ありがとう、姉様……‼」

(す、すごい。なんだかジョシュアの背後に花が見えるわ……!)


 きっと喜んでもらえたのだろうと思うと、私の心もすぐさま満たされていった。


「あけてもいい?」

「もちろんよ」


 箱を大切そうに持ちながらも、じっと私の目を見つめるジョシュア。昔は子どもらしい聞き方だったのが、いつの間にか大人らしい声や表情に変化していた。


(昔は可愛かったけど、今はカッコいい……いや、どっちも最高だわ。さすがジョシュア)


 ジョシュアが箱のリボンを外すと、私はじっと彼の表情を観察し始めた。いい反応をもらえるか不安になりながらも、目を離さないでいた。


「これは……!」


 箱を開けると、ジョシュアは驚いたように手袋とマフラーをじっと見た。すっと取り出すと、私に視線を戻した。


「姉様、これは……もしかして……」

「えぇ、手作り。私が編んだ手袋とマフラーなの」

「……‼」


 こくりと頷くと、ジョシュアは大切そうに手袋とマフラーに触れた。そしてそのまま身につけてみせた。


「どうかな?」

(……え、最高すぎる)


 ジョシュアがなんでも似合うとはわかっていたのだが、紫色の手袋とマフラーも着こなしてみせた。


(ジョシュアが私が編んだ手袋とマフラーをつけてるだけでも嬉しいのに…………その、私の色を身につけていると思うと……あぁ、なんだか恥ずかしくなってきたわ……! 今更だけど、これって今後も普通に身につけるのよね。も、もう少しわかりにくい白色に近い紫色にするべきだったわ。これはあまりにも主張の激しい紫じゃない……!)


 似合っているからこそ、色々と考えてしまって動揺してしまう。


「姉様?」

「…………よく、似合っているわ」


 心配そうに呼ばれたことで我に返ると、なんとか絞り出して答えた。


「……もしかして、微妙だった?」

「微妙だなんて! ジョシュアに似合わないものなんてないし、私の拙い手袋とマフラーでも高級品に見違えさせるほどの雰囲気があるわ」

「あ、ありがとう」

「むしろ良すぎるのが問題で――あっ」


 思わず口を滑らせてしまったことで、私は固まった。目を伏せると、ジョシュアがそれを阻止するかのように覗き込んできた。


「良すぎると駄目なの?」

「だ、駄目じゃないの……! ただ……その……」


 誤魔化そうと思っても、ジョシュアの強い眼差しがそうさせてくれなかった。意を決して言葉にした。


「その……好きだという思いを込めたくて、私の瞳の色を軸に作ったのだけど、これからジョシュアが身につけるんだと考えたら――」


 伝えるのはこれで限界だったのだが、ジョシュアは私を引き寄せた。


「姉様、どうしてそんな可愛いことばっかりするの? もう身が持たないんだけど」

「え?」

「最高。本当は汚さずに飾ろうかとも考えたんだけど、可愛い姉様が見られるなら、普段使いにする方が良さそうだね」

「そ、そんな……!」

(もしかして私、墓穴掘った……⁉)


 衝撃を受けながら体を離すものの、ジョシュアの幸せそうな顔を見ると抗議することができなかった。


(こんなにも喜んでもらえたんだもの。……頑張って用意した甲斐があったわ)


 満たされた気持ちになりながら、その後もジョシュアと二人の時間を楽しむのだった。



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