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ミッション!手を測定せよ


 ジョシュアの誕生日まで一週間となった。


「で、できた!」


 贈り物の一つであるマフラーを完成させると、私はソファーにぐったりと横になった。


(思ったより時間がかかっちゃったわ……今年はケーキ作りにも力を入れたいから、急いで手袋の製作に取り掛からないと)


 数十分横になり休憩すると、再び起き上がって作業をすることにした。


(基本的にはマフラーと同じ色にして………………)


 毛糸を手にして縫い始めようとした瞬間、私は手が止まってしまった。


(……まずい! 私、ジョシュアの手の大きさを正確に知らないわ‼)


 手を繋いだことはあっても、それは数えるくらい。サイズぴったりの手袋を作れるほどに記憶してはいなかった。


(これは緊急事態よ。贈り物としてあげる以上、小さすぎても大きすぎてもいけないわ……!)


 だからといって、測らせてと言うこともできない。今回の贈り物は、こっそり作って驚かせることを目標にしているのだ。あからさますぎる行動はできない。


(参ったわ……でもこうなったら、さりげなく手を触って、感覚で測るしかないわね)


 こうして私の第二のミッションが開始したのであった。


 翌日。学園へ登校する時間となると、馬車に乗る際にジョシュアがいつも通りエスコートしてくれた。


(今よ!)


 じっとジョシュアの手を見つめながら、気持ち長く手を重ねて大きさを感覚で捉えた。何事もなかったように座ると、すぐに馬車が動き出した。


(指先だけでも私より大きいのは確定ね。……あぁ、もっと触れないと駄目だわ。全体像がつかめなかったもの)


 エスコートでは、手のひらまで到達することはできなかった。


「姉様? どうかした?」

「……いいえ。何もついてないわ。今日のジョシュアもカッコいいなと思っていただけよ」

「姉様がそう言ってくれるのは嬉しいな」


 手だけを見ていたらいけないと思って、ちらちらと見ていたのが却って目立ってしまったようだ。話を逸らしたこともあって、手の話題には全くならなかった。


(下りる時に手のひらに触る? ……いいえ、駄目ね。エスコートの形に反するもの。ジョシュアが驚いてしまうわ)


 いつもと違うことをしてしまうと、それだけで勘付かれてしまう。細心の注意を払って手に触れるというのは、なかなかに難しいことだった。


 結局、指先にしか触れずに下りてしまった。

 学園での休み時間、私は大きなため息をついていた。


「はあぁぁ……」

「深刻なお顔ですね、イヴェットさん」

「エリーザさん。ごきげんよう」

「ごきげんよう。どうかされたの?」

「……実は」


 登校してきたエリーザ様が、心配そうに尋ねてくれた。私は相談するか一瞬考えると、もしかしたら解決策が生まれるかもしれないと話すことにした。


「凄いわ。マフラーに手袋まで作られてしまうだなんて……さすがね、イヴェットさん」

「エリーザさんも絶対に作れますよ。刺繍ができる方なら、楽しくできるはずですから」

「まぁ、そうなの? それなら、もしよかったら今度教えてくださらない?」

「もちろんです」


 セラフィス殿下と想い合った今では、エリーザ様は推し活というよりも贈り物作りに特化していた。時々二人でいるところを見かけるのだが、とても幸せそうだった。


「それにしても手の大きさね……以前セラフィス殿下に、知らぬ間に指の大きさなら測られていたことならあったけど」

「その話、詳しくお聞きしても?」

「えぇ。殿下は、手だけ触れた日はないからわからないかもと仰っていたわ。頭、頬、肩、腰……色々と触れられる場所はあるから」

「なるほど……意識を他のことに向けさせるんですね」

「だと思うわ」


 どう測ろうとばかり考えていたので、どう触れようと考えることの方がいいことに気が付いた。


(遅くとも今日の夕方には作り始めないと……下校の時間が勝負ね!)


 意を決すると、私はその日の授業中に何通りかの方法を考えて想像するのだった。


 下校時間になると、ジョシュアが先に馬車の前で待機していた。

 行きと同じくエスコートでは小細工はせずに、普段通り腰を下ろした。


「お疲れ様、姉様」

「ジョシュアも。……あ、頭に何かついているわ」

「本当ですか」


 まずは頭から触ることにした。

 私が取ると言って手を伸ばして頭を触った。しかし、ただごみを取って終わりになってしまった。


(うっ、この作戦は失敗ね。確かに頭と手は同時に触れないわよね……次よ、次!)


 自然な流れで触るようなこともなく、私の手は膝の上に戻っていた。すぐさま切り替えると、私は二つ目の作戦に移った。


「それにしても寒くなってきたわね」

「そうですね。もしかして姉様、寒いですか?」

「え? そんなことは――」

「よく見たら少し頬が赤いですね。すみません、すぐ気が付くべきでした。熱はないですかね?」

「えっ」


 本当は私がその論でジョシュアの頬と手に触れるつもりだったのだ。しかし予想外なことに、ジョシュアが私の頬に触れる形になってしまっていた。


「……少し熱い気が」

「そ、それはジョシュアが近いからよ……!」

「……可愛い」


 ジョシュアの美麗過ぎる顔がこれでもかという程ドアップに映ったので、鼓動が速くなってしまったのだ。


「だから熱はないわ。……ジョシュアこそ、寒くなってきたから風邪をひかないようにね」

「姉様も」

(うぅ……私が触れたかったのに……!)


 嬉しそうに微笑むジョシュアは、なかなか私から手を離さなかった。その手を羨ましそうに見つめていた。


(……あれ? もしかして今がチャンスじゃない⁉)


 ハッと気が付いた私は、そのまま自然な動きで私の頬に触れるジョシュアの手に自分の手を重ねた。


「……ジョシュアの手が冷たいわ。寒いのはジョシュアの方じゃない?」

(やっぱり手が大きいわね……手の形を覚えないと!)


 内心で違うことを考えながら、ジョシュアの意識を手以外にも向けていた。


「そうですか? 姉様の方が冷たいかと」

「そんなことは……」


 ジョシュアの手は頬から離れたかと思うと、私の手に触れ直した。確かに指先なら私の方が冷たかった。


「……それならジョシュアが手を温めてくれる?」

「もちろんですよ」


 機転を利かせた言葉であり、心から出た言葉でもあった。


 ジョシュアは私の手を包み込むと、そのまま屋敷まで温めてくれるのだった。



 お読みいただきありがとうございます。

 当初の予定を変更して、次週番外編最終回とさせていただきます。よろしくお願いいたします。


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