ミッション!秘密の買い物 後
更新が遅くなってしまい大変申し訳ございません。こちら22日分の投稿となります。よろしくお願い致しします。
なぜだかわからないが、ジョシュアが動揺して隙が生まれたので、私は思い切って提案してみた。
「ジョシュア、向こうの棚が気になるから見て来るわね。すぐ済むからここで待ってて」
「えっ、あっ、うん」
時間がかからないと言えば一緒に行くと言いづらいと思ったため、私は早口で告げるとそそくさと毛糸のある棚へと移動した。
(ジョシュアがこっちに来る前に、急いで毛糸を取って戻ろう)
そう動き出したのはよかったものの、じつは何色で作るかは定まっていなかった。今回作る手袋とマフラーは推し活とは違って、恋人としての誕生日プレゼント。推し色の青色を避けて作ろうと思うものの、結局ジョシュアに一番似合うのは青色なのだ。
答えの出ないまま毛糸が並ぶ棚に到着した。
(せめて寒色系にする? うーん……例えば真っ白のマフラーと手袋とか。……めちゃくちゃ似合いそう)
なにせジョシュアは顔がいいので、よほど変な物でない限り上手く着こなしてくれる。それは私がこれから作る贈り物も例外ではなさそうだ。
(よし、白色にしよう! せっかくなら手袋とマフラーは合わせるとして……けっこう必要になるかも)
ほしい色が決まると、白い毛糸を探し始めた。すると、一番上にずらりと並んだ毛糸が目に入る。手を伸ばしてみたが、あと少しのところで届かなかった。
(私の身長だと駄目みたい……困ったな。ジョシュアを呼んだら本末転倒。自分でどうにかするしかないわ)
あとちょっとだからと思うと、一生懸命背伸びをして、白い毛糸に手を伸ばした。
(もうちょっと……!)
指先が毛糸に触れた瞬間、上からひょいっと手が伸びてきた。
「ほしいのはこの色かい? イヴ」
「スチュアートお兄様! はい、ありがとうございます」
にこりと微笑みながらスチュアートお兄様は私に毛糸を渡してくれた。
「スチュアートお兄様がこのお店にいらっしゃるなんて珍しいですね」
「王都に用事があってね。帰るところで、この店前にルイス家の馬車が停まっていたから、気になって入ったんだ」
「そうだったんですね」
「イヴはお買い物みたいだね。この毛糸で今度は何を作るの?」
純粋な興味で尋ねるお兄様に、私は少しだけ相談してみたくなった。
(私はどうしても推しフィルターがあって、寒色系が似合うと思ってしまう……けど、スチュアートお兄様なら客観的にジョシュアに似合う色を知っているかもしれないわ!)
それに、スチュアートお兄様は私とジョシュアの関係を知っている。相談役にぴったりの人だ。私は意を決すると、事の経緯を説明した。
「実は――」
ジョシュアの誕生日が近く、その贈り物を内緒で作りたいこと。それがマフラーと手袋なのだが、何色が良いかということまで全て話した。
「なるほどね。ジョシュアに似合う色かぁ」
「私は寒色系……水色や白色が似合うと思っているんですけど」
「確かに……でもそれはイヴからの贈り物なんだよね?」
「はい」
スチュアートお兄様の問いかけに、私は不安が生まれた。もしかしてありきたりすぎて、贈り物らしくなかっただろうかと。しかし、その気持ちはすぐに消え去った。
「それなら紫色がいいんじゃないかな?」
「紫色、ですか」
考えた事がなかったが、もちろん紫色も似合う。ただ、他の色の方が似合う気がしてしまった。
「イヴ。考えていることはなんとなくわかるよ。でもね、イヴから贈る紫色は、ジョシュアにとって特別なんじゃないかな?」
そう言いながら、スチュアートお兄様は自身の瞳を指さした。
(瞳……はっ!! 私の瞳の色は紫だわ!!)
お兄様の意図に気が付くと、私はもう一度毛糸の棚を見た。紫色の毛糸を見つけると、白色と交互に見つめる。
「贈り物は、やっぱり気持ちが一番大事じゃないかな?」
「そうですね……紫色にします……!」
答えが出たところで、スチュアートお兄様はよしよしと頭を撫でた。
「……お兄様、私はもう子どもじゃありませんよ?」
「僕の従妹に変わりはないからね。可愛くてしかたないよ」
(……それは結局子どもってことなのかな?)
嬉しそうにするスチュアートお兄様は、そのまま紫色の毛糸をいくつか手に取ってくれた。
「色々な紫色があった方が便利だよね?」
「はい、ありがとうございます」
スチュアートお兄様から毛糸を受け取り始めた瞬間だった。
「姉様、誰と何をしてるの?」
(ま、まずい! 思ってたより時間がかかってしまったわ。これじゃジョシュアが怒るのも当然ね……)
棚の向こう側からどこか冷たい声がしたかと思えば、ジョシュアはすぐさま私達の前に姿を現した。
「スチュアート兄様」
「やぁ。ジョシュアも来ていたんだね」
「ごめんなさいジョシュア、待たせてしまって」
「ううん。大丈夫だよ」
すぐさま謝罪をした甲斐があってか、先程感じた冷気が消え去った。
(いやいや、安心してる場合じゃないわ! このままじゃジョシュアに毛糸の購入現場を見られて勘付かれちゃう……!)
どうしようと頭を悩ませた瞬間、スチュアートお兄様は私の手からすぐに毛糸を取った。
「イヴに毛糸選びを手伝ってもらったんだ。王都帰りに、家のお使いでね」
「そうでしたか。お疲れ様です」
「ありがとう、ジョシュアもね」
(スチュアートお兄様……!!)
スチュアートお兄様のフォローに感動している隣で、彼はジョシュアと何気ない会話をして気を逸らしてくれた。
「姉様、気になるものは見つかった?」
「え、えぇ。でも今日は刺繡糸だけ買おうと思うわ」
「そっか。それなら僕も買おうかな」
「それなら一緒に買いましょう」
「うん」
結局刺繍糸だけ買うことにしたのだが、スチュアートお兄様は帰り際にこっそりと毛糸を渡してくれたのだった。