恋人の誕生日は悩みがいっぱい
番外編開始となります!
更新が遅くなってしまい大変申し訳ございません。よろしくお願い致します。
ある日の休日の話。
「二週間後はジョシュアの誕生日ね……」
相思相愛になってから初めての誕生日。
今までは姉弟として、ジョシュアが読みたがっていた新書の本やカフスなどの装飾品などを贈っていた。
(今年は気合い入れたいのよね……でもどうしたらいいんだろう)
別に今まで手を抜いていたというわけではない。ただ、今回はいつもと違う何かがいいという漠然とした考えを持っていた。
(今回は姉弟じゃなくて……恋人、なのよね)
ジョシュアは意外と弟扱いと恋人扱いの違いを気にしているので、なにか差別化をしたいのだが、何も案が浮かばなかった。
ソファーに座って頭を悩ませる中、自室を見渡した。
「推しグッズならすぐに浮かぶんだけどなぁ」
創作意欲ならあり余っているので、なかなか悩むことがなかった。
「……にしてもグッズ増えたなぁ」
入学前はちょっと量の多いコレクション程度で、棚一つ埋まっているくらいだった。今となってはその棚がもう一つ埋まり、それに加えて室内の至る所に飾られているほどだった。
立ち上がって棚の方に近付くと、グッズを手に取って小さく呟いた。
「グッズが誕生日プレゼントなら考えやすいんだけど、推し活なんだよね…………あ‼」
弟扱いに加えて推しとしての接し方よりも、やはり求められているのは〝恋人としての接し方〟なのだ。正直今回の誕生日プレゼントは、一歩間違えれば失敗する可能性が高い。そうわかっているので慎重になっているのだが、これだという答えが見つからなかった。
「恋人……恋人かぁ」
思い浮かぶのは両親である、オフィーリアとユーグリットの姿だった。
すれ違いを解消して以降、二人はずっと仲睦まじい様子で日々を過ごしている。
お母様とは今も尚推し活をする仲なのだが、思えば贈り物をしている姿を見ていなかった。
(お父様の誕生日は毎年手作りケーキって決まっているのよね……うーん私もケーキ作りっていうのは流石に安直すぎるわ)
それに、お父様の誕生日やそれ以外でもケーキを作ってきたからか、新鮮味や特別感がなかった。
「でも、手作りっていうのはいいかもしれない……!」
これがグッズとどう差別化するのかが難しいところだが、やはり手作りが一番だ。
(使えるものがいい気がするな……眼帯みたいな。でもそこに恋人らしさを加えたら……)
今世の経験や記憶の中に恋人らしいものはなかったので、前世まで引っ張り出すことにした。現在のアルヴェンテ王国の季節は冬。冬っぽいシチュエーションを思い浮かべた。
(冬の恋人かぁ……寒いから一緒に手を繋いで……いや、寒く無くても手は繋ぐよな。違うことといったら……服装かな? 手袋してるでしょ、マフラーしてて――あっ‼)
「手袋とマフラーだ‼」
興奮したように一人自室で大きな声を出した。
ようやく誕生日プレゼントが思い付いた喜びで、少しだけ口を開けて固まっていた。しかし、時間が限られていることに気が付いたので、すぐさま動き出した。
「材料揃えなきゃ……!」
急いで自室を飛び出ると、出てすぐに誰かと思い切り衝突しかけた。
「わっ」
「あっ、ごめんなさ――」
ぶつかると思った瞬間、優しく抱きしめられる形になった。
「大丈夫? 姉様」
「ジョ、ジョシュア……! え、えぇ大丈夫よ。受け止めてくれてありがとう」
(どうしよう。もしかしてさっきの大きい声、聞こえたかな……⁉)
これは色々とまずいかと焦りを感じていると、ジョシュアが抱きしめる力を強めた。
「ちょうどよかった。今姉様に会いに行こうとしてたんだ」
「私に?」
「うん。会いたくて」
昔は可愛らしいと思えた言葉も、今となっては鼓動を跳ねさせるものへ変化していた。少しの間抱きしめていると、ジョシュアはパッと離して嬉しそうに私の顔を見た。
「急いでたみたいけど、どこか行くの?」
「えっとね、買い出ししようかと思って」
「買い出し……?」
(しまった……! 口が滑った‼)
これは墓穴を掘ったかと冷や汗が流れる。
「新しいグッズ……ハンカチに刺繍しようとしたんだけど、使いたかった色の刺繡糸がなくて」
「なるほどね。買い出しなら僕も一緒に行くよ」
(一緒……一緒か……!)
嬉しいという感情と、目的が達成できない不安がせめぎ合っていた。別日にするか、断るか悩んでいると、ジョシュアの満面の笑みを見て首を横に振れなかった。
「えぇ、行きましょうか」
「うん。じゃあ準備してくるね」
「私も。三十分後に玄関前に集合しましょう」
「うん」
一緒に行くことを承諾すると、私は自室に戻って深呼吸をした。
(……よし。これはミッションよ。ジョシュアに勘付かれずにマフラーと手袋の材料を購入するの。ラッキーなのは、刺繡糸と同じお店に欲しいものがあるから、ごまかしはきくはず……!)
そう意気込むと、私は急いで出かける支度をするのだった。