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【1巻発売記念SS】義姉は変な人(ジョシュア視点)



 これは、ジョシュアがルイス侯爵家に聞いて間もないお話――。


◆◆◆


 養子に出された。理由はよくわかってないけど、僕の目を気持ち悪いと言っていたあの人達からすれば、喜ばしいことだった気がする。


 生まれた時から左右非対称の色をした瞳を持っていて、両親からは酷く疎まれた。上手くいかないことは全部僕のせいにされた。曰く、不吉の象徴なのだと。僕自身も、自分の瞳は気持ち悪いと思っている。


 そんな不吉な瞳を持っているからこそ、人は寄り付かなかった。

 養子にしたのは伯父であるルイス侯爵様だった。どういう意図で養子を申し出たのか知らないが、僕が気味悪いのか馬車の中では黙ったままだった。それが僕の目には不機嫌な様子にも見えていた。


(……僕はどこに行っても嫌われるんだろうな)


 がっかりしたことはない。

 そもそも期待をしていなかったから。


 屋敷に到着して、ルイス侯爵様の娘という人と顔合わせすることになった。

 どうやら歳は僕と一歳しか変わらないらしい。だとしても子どもに変わりはないのだ。絶対この目を気味悪がるに決まってる。


(見えないようにしないと)


 前髪に触れながら、片方の目が見えなくなるようにいじる。

 扉を開けると、そこには侯爵様とは違う髪色の令嬢が立って待っていた。


 不安いっぱいの心情で挨拶をした。

 普通の貴族令嬢という印象だが、どうやら新しく家にやってきた僕に興味津々のようだった。


(……あんまり見ないでほしい)


 痛いほど視線を感じたが、正直やめてほしかった。オッドアイを見られるのが怖かったのだ。


 無事顔合わせが終わると、空いていた窓から風が入って前髪が崩れてしまった。

 しまったと思った時には遅く、隠していたオッドアイが見えるようになってしまった。


 悲鳴が上がるのも覚悟していれば、聞こえてきたのは予想外の声だった。


「綺麗……」

「え?」


 小さい声ではあるけれど、思わず声が漏れてしまった。

 そこには目を輝かせている義姉のイヴェット様がいた。初めて受ける種類の目線に理解できなくて、すぐさま僕は目を伏せた。


(な、なんだあれ)


 気持ち悪いとか、近寄らないでとか、そういう類いの言葉しか頭に浮かんでいなかった。


(綺麗……綺麗ってなんだ?)


 言葉の意味は知っているはずなのに、自分に当てはまるとは思いもしなかったので、思考が上手くできなかった。

 困惑していれば、いつの間にかイヴェット様は僕に近付いてきて、満面の笑みを浮かべていた。


「ジョシュアというのね! よかったらお話しましょう……‼」

「は、はい」


 結局その後は、イヴェット様と過ごすことになった。

 お話といっても、会話ではなく、イヴェット様がルイス家に関して語ってくれる時間だった。話を終えると、イヴェット様によって屋敷を案内された。


「ここがジョシュアの部屋よ。何か不便なことがあったらいつでも言って」

「……ありがとうございます」


 僕の自室として案内された部屋は、綺麗に整えられている上にかなり広い部屋だった。


(こんな良い部屋、使っていいのか?)


 不安と同時に疑問が浮んだ。

 元々過ごしていた部屋は、もっと狭い部屋だったから。


 悩んだ末に、ルイス侯爵家は広いから部屋があまっているんだという結論に至った。


 ようやく一人になれたからか、ふかふかのベッドが気持ちよかったからか、その日はすぐに眠りに落ちてしまった。




 翌日、目が覚めるとルイス侯爵家の使用人に朝食の時間だと食堂に案内された。

 既にイヴェット様が座って待っている状態だったので、慌てて席に着いた。


「お待たせしてしまってすみません」

「気にしないで! 私が早く来すぎただけだから」


 怒ることなく、むしろ笑顔で迎えてくれたイヴェット様。

 経験したことのない対応に、僕は戸惑うことしかできなかった。


「お父様とお母様はね、今日はお忙しいみたいで、朝食は別で取るそうよ」

「あ……」


 本当に忙しいのだとは思うが、その反面心のどこかで自分を避けているのだろうという思いが過ってしまった。


「最近だと、私もお父様とはあまり一緒に食事しないし、お母様に限っては書斎突撃……こほん。お父様に会いに行ってるだけだから。気にしないで」

「そう、なんですね」


 まるで僕の心の内を読んだかのような言葉だが、驚きよりも安心が勝っていた。

 その後、食事の間は静かになっていたのだが、終了後になぜか謝罪気味のことを言われた。


「ごめんなさいジョシュア、静かにしてしまって。我が家は黙食が多くて黙ってたけど……二人だけならお話すればよかったわね」

「いえ、お気になさらないでください」

「そうだ。ジョシュア、お菓子は好き? 食後のデザートじゃないけれど、ちょっとしたお茶会をしましょうよ」


 屈託のない笑顔で誘う姿は、とても嘘を言っているようには見えなかった。


「……僕でよければ」

「もちろん!」


 断ることもできたのかもしれない。けれども、自然と承諾する言葉が口から出ていたのだ。


(甘い物が食べれる……)


もしかしたら、新しくルイス家に来た僕を物珍しさから構っているのかもしれない。けれども、お菓子が食べられるなら理由はなんでもよかった――。


 そして、一か月経ってもまだ、イヴェット様――姉様は僕をお茶会に誘ってくれる。


(……こんな僕を構ってくれるなんて、姉様は変な人だな)


 不思議な人だと思いながらも、悪い気は一切しなかった。

 気が付けば僕は、自分から姉様の部屋を訪ねるようになるのだった。





 本日より「孤独な推しが義弟になったので、私が幸せにして見せます。~押して駄目なら推してみろ!~」の書籍が発売となりました‼

 これも応援いただいた皆様のおかげです。心より感謝申し上げます。


 今回は発売記念SSとして、書籍に関連したお話を投稿させていただいたのですが、書籍化を記念しまして、番外編を更新させていただこうと思っております! 11月の毎週金曜日、計4回を予定しております! こちらはWEB版第二部のその後中心のお話になっております。よろしければお付き合いいただけますと幸いです。


 書籍、番外編合わせてよろしくお願い致しますm(_ _)m

 寒くなってまいりましたので、読者の皆様もご自愛くださいませ。


 咲宮


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