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35.ルイス家の家族会議です




 ジョシュアの告白は、当然ながら婚約者という意味合いも込められていた。その話をどうするかは、まさかの家族会議が開かれることになるのだった。


「おめでとう、二人とも! シュアちゃんにならイヴちゃんを任せられるわ」

「オフィーリア。確かにそうだが、もう送り出すような風に言わないでくれ……」

「あら、ユーグリット様。祝福はしないとですよ?」

「当然、そのつもりだが……」


 どうやら娘が旅立つことに複雑な心境のお父様は、戸惑いの表情を浮かべていた。


「……そのご様子は、お二方とも受け入れられてると取って良いのですね?」


 私が不安そうに尋ねれば、朗らかな声色が返ってきた。


「もちろんよ! 個人的にシュアちゃんの恋路はずっと応援していたの。二人が全く血が繋がらないことも知っていたから」

「ずっと……私は本当に最近気が付いたのに」

(さすがお父様。どことなく鈍いところは健在なんですね。……私はそこが似たのかな?)


 思わず笑みをこぼしながら、二人にお礼を告げた。


「ありがとうございます。でも納得しました。ジョシュアに推し活を教えたのはお母様だったんですね」

「そうなの。シュアちゃん、思いの外才能があってね」

「あ、ありがとうございます……」


 お母様が教師ならば、推し活を教授する上で申し分ないものだろう。


「私もそう思います。特に絵が上手で」

「まぁ、そうなの! まだ私は絵を見たことがないの。シュアちゃん、よかったら今度見せてちょうだいね」

「……わ、わかりました」


 恥ずかしそうに頬を赤くするジョシュアだが、浮かべた笑みは嬉しそうなものだった。


「……それでユーグリット様。二人の婚約はどうしましょうか」

「手段は色々あるが……二人はどうしたい?」


 これは家族会議が始まる前に、ジョシュアと二人で相談した話になる。


「父様……僕の戸籍は今、ルイス侯爵家でしょうか」

「あぁ」

「それを移していただくことは可能ですか? ……できることなら、新たに他の家の養子になり、ルイス侯爵家に戻ってきたいです」


 ひとまず、婚約をするのであれば戸籍の問題が出てくる筈だ。


「その選択を取るのなら、養子に取ってくれる家を見つけてある」

「本当ですか。一体誰が……」

「ジョシュアの産みの母であるラミレス伯爵家だ」

「「!!」」


 お父様は、ステュアートお兄様が動かれた段階でラミレス伯爵家に接触を試みていたと言う。


 ジョシュアの産みの母であるラミレス嬢こそが、不義を働いた本人だが、常識を欠いているのは彼女だけのようだ。


 ラミレス伯爵家自体は非常に堅実な家であり、娘の償いができるのなら、何よりも自分達と縁を結んでくれるのならと好意的に提案を受け入れてくれた。


「ですが……その堅実な家が、僕と姉様の婚約を認めたのですか……!?」

「そんな時のための私よ」

「母様……?」


 自慢げに微笑むお母様は、何があったのか一部始終を教えてくれた。


「シュアちゃんがいかにイヴちゃんを好きなのか、イヴちゃんがいかに素敵な子なのか。ラミレス伯爵夫妻が知らないことを、全て伝えてきたの」

「正直、控えめに言ってもオフィーリアの話は上手だった」

「まぁユーグリット様ったら」


 隙さえあれば惚気る夫妻だが、私達にとっては見慣れた景色だった。


(……何だか浮かぶなぁ。お母様が“これ程までに尊い愛はありませんのよ!?”って言いながら説得する姿が。……ラミレス伯爵夫妻は根負けした可能性もあるな)


 それほどまでに、推し活を熟知して変化したお母様はお強い。


「ありがとう、ございます……」

「礼には及ばないわ。こうしてまた、シュアちゃんと家族になれるのなら、これ以上嬉しいことはないのよ。ねぇ、ユーグリット様」

「あぁ。手続きには少し時間がかかってしまうが、それまで待っていてほしい」

「もちろんです」


 そこまで決まった所で、もう一人の家族にも意見を聞くことに話が進んだ。


「エリシャ、いらっしゃい」

「しつれいします!」


 お母様に呼ばれて、エリシャは隣に座る。


 大人の話の時だけ席を外してもらったが、ここからはエリシャにわかりやすく話す番だった。


「……つまりお兄さまは、お兄さまじゃなくなるということですか?」

「「「!!」」」


 大粒の瞳には、うるうると涙を浮かべていた。家族全員がその涙に驚き、たじろぎ始めたが、私がゆっくりと首を振った。


「いいえ。名前は変わってしまうけれど、ジョシュアはエリシャのお義兄様よ」

「ほんとうに?」

「えぇ。私はエリシャに嘘をついたことはないでしょう?」

「はい!」

「だからこれからも、私達は家族よ」

「それならいいです!!」


 パアッと笑顔になるエリシャ。最後の一人からも承諾を得られたのであった。


 こうして、私はジョシュア・ラミレスと婚約を結ぶことになった。ラミレスという姓に変わるまでは、ルイスとして、弟としてしばらくの間学園に通うことになるのだった。


 正式な発表があるまではお互い変わらない態度で振る舞おうと話し合った結果、馬車も変わらない姉弟の会話が続いた。


 学園へ到着し、それぞれの教室へと別れると、そこにはいつもと違う光景があった。


「……エリーザ様?」


 どこか重苦しい様子のエリーザ様に、そっと近付き肩に触れると、今にも泣き出しそうな顔で見上げられた。


「イヴェットさん……わたくし見てしまったのです」

「えっと……何をでしょうか?」


 さっと隣に座り込むと、暗い声色で衝撃的なことを言い放たれた。


「セラフィス殿下が……リスター嬢と一緒にいらっしゃる所を……!!」






 ここまで読んでいただきありがとうございます。

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