34.答えは見つかりました
ジョシュアの部屋に推しグッズらしきものがある。それは私が贈ったものではなく、新たに作られたものだった。
「……ジョシュアにも推しがいる、ということ?」
そう判断できるほど、しまわれたグッズ達には不格好ながらも想いが込められているように見えた。
刺繍やぬいぐるみからは、誰に宛てられたものなのかはわからなかった。しかし、その隣に飾られたコスモスの刺繍は私の胸を酷くざわつかせた。
「……まさか、そんなことって」
その刺繍のさらに隣には、二枚に重なった紙が置いてあった。
「絵が上手すぎる……ここにも紙絵師がいたのね」
コスモスの風景画から始まり、その次には私の似顔絵が描かれていた。
「……そんなことが、あるのね」
描かれていた私の笑顔は、繊細に特徴を捉えて書き込まれていた。
(ジョシュアには、私はこんな風に映っていたのね)
一目見ただけで、ジョシュアが込めた思いが伝わるほどに、惹き付けられる一枚だった。
ガタンっ!!
「!」
大きな物音に、反射的に振り向いた。そこには部屋の入り口に立ち尽くすジョシュアがいて、持っていた資料を全て床に落としていた。
「な、な、な、何で……!?」
顔を真っ赤にさせたジョシュアが、唖然としながら私と絵を見つめていた。
(こんなに動揺するだなんて)
ジョシュアの新しい一面を見れたことに、不思議と嬉しい感情を抱いていた。
「……ごめんなさいジョシュア、勝手に見てしまって」
「……」
固まったまま動かないジョシュアに、申し訳なさが増していく。
沈黙の中見つめ合う私達だが、ようやく思考が追い付いたのか、ジョシュアがこちらへと近付いてきた。
「いいんだ、気にしないで姉様。それ、もらっても?」
「え、えぇ。もちろん」
さっと絵を回収するジョシュアは、もとある場所に隠そうと動きながら会話を続けた。
「それにしてもどうしたの? あ、夕飯だから呼びに来てくれたのかな」
「ううん、違うの。ジョシュアに会いたくて来たのよ」
「ーー!!」
ハッキリとそう告げる。
ジョシュアからすれば想定外かもしれないが、私は自分の答えを決定付けるために来たのだ。
「……僕に? あぁ、そっか。頼んでいた眼帯を届けに来てくれたんだ」
「ごめんなさい、それは今持ってなくて。本当に、純粋に貴方に会いに来たのよ、ジョシュア」
棚に閉まったジョシュアが、再び私の方を振り向いてくれた。落ち着いたかと思えばそんなことはまるでなく、頬は赤いまま何故か目が合うことはなかった。
「あ、ありがとう姉様。……この部屋なんだか暑いよね? 窓でも開けるね」
「えっ」
突拍子もないことを言い始めると、早足で窓へと向かった。
「ま、待ってジョシュア! 今日は風が強いから開けない方がーー」
私の言葉も待たずに、強い風がブワッと部屋に入り込んだ。その瞬間、窓の近くにあったテーブルから何枚もの紙が舞い上がった。
「!!」
驚く様子のジョシュアは、慌てて紙を回収しようとした。
(何か大切な資料よね。手伝わないと)
そう思ってしゃがめば、そこには文字ではなく絵が描かれていた。
「これも……私?」
「!!」
床の至るところにばらまかれるように散った紙には、ほとんど私の様子が描かれていた。
「凄い……」
(これもジョシュアが……)
純粋に感心しながら、本人の様子を見ようと顔を上げれば、そこには両手で顔を覆ってしゃがりこむジョシュアがいた。端っこから見える頬は、先程までよりもはるかに赤く染まっていた。
「お願い、忘れて……」
消え入るような声が耳に届いた。
その瞬間、私の胸は大きく打たれた。
(可愛い過ぎるにもほどがあるわ。……無理。大好き)
自然反射のようにそう思ってしまった。
(推しでもなく、弟でもなくて。……ジョシュア、私は貴方の傍にいたい。傍でずっと見続けたい)
ようやく私は、答えにたどり着いた。
(……ジョシュア、貴方が好き)
もっと近くで顔が見たくて、そっとジョシュアに近付いた。そしてじっと見つめた。
「ごめん、こんなの気持ち悪いよね……ごめんーー」
「私、ジョシュアのこと好きみたい」
「え……?」
謝るジョシュアの言葉を遮るように呟いた。そうすれば、ジョシュアの顔から手が外れ、ようやく瞳を見ることができた。
その瞳を見つめて微笑んだ。
「みたい、じゃないわ。……好きよ、ジョシュア」
過去にないほどに広がる笑顔で、私はジョシュアに答えを渡したのであった。
「え? えっ? ……姉様、それって」
「弟でもなく、推しでもなく。……私は、ジョシュア・ルイスが大好きなの」
ずっと、心のどこかにあった答えが、本人を前にすることでようやく明確化して口に出すことができた。
「…………本当に?」
「本当に」
「幻覚?」
「本物よ」
「夢ですか?」
「現実よ」
そう答えると同時に、私はジョシュアの頬に触れた。
「ほら、本物で現実でしょう?」
「ーーーーっ!!」
すると再びジョシュアの頬が赤くなってしまった。
(あっ、隠さないで)
反射的にそう思ったからか、私は手をどかさなかった。そうすれば困惑したように俯いてしまった。
「…………死ぬ程嬉しいです」
その喜びの言葉は、間違いなく感情の込められたものであり、私の胸にもしっかりと響いた。
「絶対、幸せにしますから」
「ふふっ。私も。必ずジョシュアを幸せにするわ。だから……一緒に幸せになりましょう」
頬に触れた手を移動させて、そっとジョシュアの手に重ねた。
「ほんと、敵わないなぁ……」
「ふふっ」
私の頬も少しずつ赤くなっていった。そして、ジョシュアと二人月夜に照らされながら笑い合うのであった。
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