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2-3

「ただいまー」

 団地の部屋に帰って来て、玄関を開けるとそこに母さんの靴があった。

「おー、お帰り」

 今日は母さんの方が先に帰ってたらしい。あんまり聞かない、一人挨拶の応えが返って来た。

「遅めだったな。友達か?」

「まあ、彰とね」

「ふうん」

 言ってる間に、自室のドアを開けて中に入る。制服を脱いで、普段着に着替えた。

 彰から借りたマニュアルは早々にベッドに放り出した。少しでも内容を知っておいた方がいいのは解るけど、既に俺にはネッ友が居るんだ。急ぐ必要もないだろう。


 いつも通りに夕飯を食べて、その後は自室に引き篭もる。マイコンの電源を付けて、ナズナさんの通信を待つ。

“おこんばんはー”

 ナズナさんが何だか京都チックな挨拶で入って来た。

“居るかなーヨウイチ君”

“うん、居ますよ”

 ナズナさんとの、簡単な挨拶。ここからまた、二人だけの話が始まる。

“今日もお勉強頑張って来た?”

“うん、いつも通りに”

“いいねいいね、学生の本分は勉強ですよ”

 うん、この豪快な性格、俺は好きだ。

“ナズナさんは? またお酒ですか?”

“そうそう。控え目にしてるけどね”

 最初のテンションからしてそうだと思ってたけど。だけど傾向からして、まだまだ呑んでぐだぐだになっていくんだろうなあ、ナズナさんは。




 そんな時から数日が経って。その間、俺は結構な頻度でマイコン部に寄らせて貰っていた。

「本当、ここに入部したらいいのに」

 と彰は毎回のように言うけども。何かに縛られるとか、所属するとか、性に合わない癖があるんだ。

 だけどここ最近、ずっと入り浸りだし、世話にもなってるからなあ。

「考えとくよ」

 そう答えをはぐらかす。

「大体洋一、あのマイコン活用出来てるの? キーの早打ちくらいは出来てるみたいだけど」

 ここに来てる理由の一つに、ゲームするとかあるけども。確かに最初の頃よりは文字の打ち込みに慣れてると言える気がする。

「まあ、練習してるからな」

 その辺りについては、ナズナさんとのやり取りのお陰だ。人間熱中すると、学ぶ速度も上がるものなんだな。

「ゲームでも買ったの?」

「いや、別方面」

「ってなんだよそれ」

 詳しい事は口を閉じる。ナズナさんとの事は大切な事と思うから。

「専属の先生って所だな。通信程度は出来るようになってるから」

「ふうん……」

「なんだよその微妙な物言いしたげなリアクションは」

「言い忘れていたんだけどね。マイコン通信って結構お金が掛かるものなんだよ」

「……はい?」

 金が掛かる? そんなの初耳だぞ。

「通信料。電話回線を使うものなんだけど、ずっと電話に繋ぎっぱなしにしているようなものだから、軽く万単位になったりするかもね」

 その言葉を聞いて、血の気が引く思いがした。そんなもの考えもしなかった。ちょっとのめり込んだだけなのに、万単位の金が吹っ飛ぶとなれば、確実に母さんからの追求が来る。そうなれば終わりだ。マイコンを使わせてくれる訳がない。

 どうしようどうすればいい。

「……もしかして」

 何かを察した様子で、彰は俺をじっと見る。

「いやなんにもないなんにもない、嫌だなあ彰よはっはっは」

「その様子からして、すっごい嫌な予感がするんだけど」

「いや大丈夫。でも急用を思い出したから、先に帰ってるな彰それじゃあ」

 逃げるように部室を飛び出る。今までずっと、電話線にケーブルを繋いでナズナさんと話しをしてた。彰の言う事が本当なら、俺に特大の雷が落ちるのは時間の問題だ。

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