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2-2

 翌日。今度は目覚まし時計の鳴る時間に起きる事が出来た。

「ふあ――ねむ」

 あくびしながら身を起こす。昨日は遅くまでとはいえ、日付の変わる頃くらいまでしかナズナさんと話してない。彼女の都合もあるだろうしな。

 ドアを開ける。台所に行くと、母さんがまだ朝食の支度をしてる最中だった。

「ああ、今日は早いじゃないか」

 母さんが俺の方に振り返る。いつも仕事に行く時の、しっかりとしたスーツ姿だ。どうやら昨日寝過ごして学校を休んだ事は母さんには伝わってない事と見える。

「朝飯は作っといたからな。ちゃんと食ってけよ」

「解ってるって」

 昨日とは違って、体調もいい。学校に行く事も支障はなさそうだ。

 と、そういえば思い出した。彰の奴がなんか貸してくれるって話してたな。専門用語ばっかり言われてたからうろ覚えだけど。普通以外にも行く理由が出来た。

「じゃああたしは行くからな。勉学に励めよ洋一」

「はーい」

 と、母さんは家を出ていく。今ここに居るのは俺一人。

 ……ふとマイコンの事が気になったけど、今それに構う時間はないんだ。

 目の前のテーブルには焼き立てのトーストとコーヒー。

 早めにそれらを平らげて、学校へと登校していった。ああ、今日もまたつまらない日常の時間だ。




 放課後。真っすぐに帰る事もなく、彰の居るだろうマイコン部への戸を開く。部室を覗いた時、彰は画面に向かってカタカタとキーボードを打ち続けていた。

「おーい、彰ー」

「……ああ、洋一」

 声を掛けて、彰はようやく俺の存在に気付いたみたいだった。どんだけ集中してたんだよ。

「相も変わらず熱心な事だな」

「こっちもそう暇じゃないんだよ、っと」

 彰が立ち上がって、俺の方に来る。

「それよりも昨日どうしたんだよ。マニュアル持って来て待ってたのにさ」

 ああ、そう言ってたな。なんか俺の拾ったのは98とか言うマイコンの種類で、そのマニュアルを貸してくれるって。

 ……昨日どうしてた、か。

「ここだけの話でいいか?」

「なんだよ。込み入った話っぽい雰囲気で」

「徹夜してた」

「……そんな事だと思った」

 呆れ顔で彰が言う。まあこんなちゃらけたやり取りはいつもの事だけど、俺は一つ、重要な事を彰に言ってない。

 なんとなく、ナズナさんの事は伏せておいた方がいいと思った。ずる休みの件もそうだけど、あの人との会話を他の目に晒す、っていう事で嫌な気分になりそうな感じがしたから。

「洋一ってたまに周りが見えなくなるからなあ。あれに集中し過ぎて気付いたら朝だったって所?」

「自己分析なら間に合ってるぞ」

「まあ約束は約束だからね。マニュアル持って来てるから持って行く?」

「ああ」

 彰が部室の奥へ入っていく。俺も続いて入って行った。彰が鞄を漁って、そこから一冊の本? が出て来た。

「ほらこれ」

「分厚いぞ……」

 手渡された本は、電話帳みたいな厚みがあった。多分鈍器として使っても充分な威力があると思う。

「文句言わないの。これで大抵の事は何とかなると思うからさ」

「おお、これでゲームが出来るんだな」

「マニュアルだけで出来る訳ないでしょ」

「なにいっ! なんで出来ないの!」

「だから結局ソフトが要るんだって。やり方は載ってるから後は自分でなんとかしてよ」

「……どこに?」

 ぱらぱらとページをめくる。中身は殆ど文字だらけで、これを全部頭に入れろと言われたら速攻ギブアップする自信がある。

「マニュアルの最初、目次があるでしょ。そこから探してよ」

「その目次も文字だらけなんだけど」

「言ったでしょ。マイコンは根気が要るんだって」

 見てるだけで頭が痛くなって来る。勉強やら何やらは得意分野じゃないってのに。

「……まあいいや、役に立つなら貰っとくありがとう」

「いやだから貸すだけって言ってるでしょ」

 またも彰は呆れ顔をする。本当こいつはなんで俺の友人なんてしてくれてるんだろうな。腐れ縁だからか? 或いは俺の人徳からかもな。


 マニュアルは貸して貰った。とはいえ、暇だから彰のマイコンをいじってる様子を後ろで見ていた。

「なあ、今ってそれ何してるんだ?」

「プログラミングだよ。多分見てても面白くはないと思うけど」

「そんな事ないぞ。これが世の中の何に役立つんだろうなあ、って物思いに耽るくらいには面白い気がする」

「微妙な評価だよねそれ」

 ……マイコン部ね。具体的に何をしてるのかは解らん所だけど、もうちょっと詳しくなったらちょっとは入部を考えてやらんでもいいかもな。

 ちょっとだけな。いずれ気が向いたら。

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