表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/12

3-1 マイコン少女

 急いで家に帰る。電話代に異常があったなら、まず真っ先に俺の関与が疑われる。そしてあのマイコンが見付かってしまったら、言い訳なんて通じる筈がない。

 絶対に、説教を喰らうだけで済まないだろう。どうしたらいいかなんて、解る筈もない。誤魔化しなんて出来る訳もないだろう。

 部屋に着いた。鍵を開けて中に入ると、

「んあ、お帰り」

 家には既に母さんが居た。テーブルの椅子に座って、また煙草をぷかぷか吸っていた。

「どうしたよ息切れしてるぞ」

 全力で走って来たんだ。そりゃあそうなるよ。

「母さん、あの……」

 だけどしまった、もう母さんが帰って来てるかもって事は全然考えてなかった。このままだと俺に対する追求が――。

「あ? なんだ、変な事でもあるか?」

 ……あれ、特に追求はない。もうとっくに電話代の通知は来ている筈なのに。

「いや、今日の夕飯が何かなって」

「昨日の余りだよ知ってんだろ」

 そりゃあそうだ。昨日も母さんの手伝いで夕飯を作ってたんだから。

「ああそうそう。ちょっと俺宿題しとく」

「ああ、頑張れな」

 ……普通に話が終わってしまった。

 仕方なしに自室に戻るけど、根本的な問題は全然解決してない。

 そしてすぐさま鞄をベッドに放り置いて、服とかに埋もれさせていたマイコンを見やる。彰の言う事が正しいとしたら、これはとんでもない金食い虫だ。

 放ってはおけない。だけど通信はやめたくない。その反する二つの考えに、頭を抱える。

 ……拾わなきゃよかった。見付けなきゃよかった。

 だけど、後悔してももう遅い。時間は戻りはしないんだから。

「おーい洋一ー」

 母さんの声。呼び掛けられる度、びくびくする。

「な、なに?」

「ちょっと買い出ししてくるわ。留守番しといてくれな」

 買い出し。何か食材が足りないんだろうか。

「解った」

 そう答えて。少しして玄関のドアが開いて、閉まる音が。

 ……やるなら今か。

 自室を出る。探し物をする為に母さんの部屋に。

 極力痕跡を残さないように、電話代の請求書を探してみる。母さんは豪快に見えるけど几帳面だから、こういった重要物は纏めて保管してある筈だ。

 タンスの中を漁ってみる。するとやっぱり、請求書の束があっさりと見付かった。

 電気代。水道代。ガス代。そして、電話代の請求書も見付かった。

 今月分の請求書。間違いない。恐る恐る金額の欄を見てみると。

 ……四桁台の数字が。

 高い金額じゃない。普通に一月分のものとして考えられる金額だ。母さんは仕事とかでたまに長電話をする。俺はあんまり誰かに電話を掛けるって事はしないたちだし、それを考えると妥当な額ではあるだろう。

 もう一度確認する。先月分のものも見付けて比べてみたけど、やっぱり、今月分の金額に間違いはなかった。

 ……電話代が増えてない?

 まさか。回線はちゃんと電話線で繋いでる……筈。でないと誰かと会話とか、出来る筈がないのに。

 通信はしていた。ナズナさんと、いっぱい。

 なのになんで。

 俺は、本当に?

 ナズナさんは、本当に?

 電話代が示す通り、通信をしていないとしたなら。

 ならあのナズナさんは、どうやって。

 想像してた悪い結果は回避出来たと思っていいんだろうけど、代わりに違う問題が生まれ出たように思う。

 ……確かめたい。

 もしかしたら、通信を利用するのに何かの抜け道的なものがあるのかも知れない。

 そんな裏技を利用して、俺と話をしていただけかも。

 ……部屋に戻って、マイコンの電源を付ける。

 ナズナさんの書き込みは、まだない。

「気にし過ぎ……だよな」

 そう、気にし過ぎてるんだよ。ナズナさんは少なくとも俺よりは知識があるのに違いない。何か抜け穴を知ってたとしても不思議じゃない……筈だ。

「ただいまー」

 玄関から母さんの声がした。すぐにマイコンの電源を消す。出来る限り、このマイコンの存在は母さんには隠しておきたかった。

 やましい事と思っていなかった。最初は。

 だけど今となっては、これはもう爆弾に等しい。いつ爆発するか解らない不発弾だ。

 ならいっそ、もう一度捨てに行けばいいとも思った。元々これは不法投棄されてたものだし、彰の言う通り万単位の電話代が来たとしても、ブツがなければ一度くらいは誤魔化せよう。ナズナさんとの繋がりは断たれてしまうけど、先々の事を考えればそれがいい事と思う。

“――本当に?”

 心の中で、何かが呟いた気がした。

 そりゃあそう。ナズナさんとの話は楽しい。楽しかった。それを断ってしまう事も気が引ける。

 ……もう少し。もう手遅れかも知れないけど、もう少しだけナズナさんと話が出来れば。

“そう”

 もう少し。もう少しだけ――。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ