95話 再会
「えええええええええ?もう着いたんですか?」
俺の予想通り5日で着いたと言うとクーミは驚きの声を上げる。1ヶ月の予定が5日だもんな、驚くのも無理はない。ただ今日はもう門が閉まっているから都に入るのは明日だ。
翌日
「すみません。融通が利かなくて、あと申し訳ないですが、私は一足先に到着した事を報告に行きたいので、ここで失礼します。何かあればグレシー伯爵の名前を出してください。それでは門を通ったら貴族街の入口の所でお待ち下さい」
朝少しのんびりし過ぎたのか開門の列は凄い事になっていた。気を利かせたクーミが住人用の通用門から通して貰えないか確認したが、「決まりですので」の一点張りで駄目だった。ただ、クーミだけは通れるので、一足先にノブ達の所へ連絡に向かって行った。
で、今入場の順番をみんなで並んで待っているのだが、やっぱりガルラとフィナは目立つのかさっきからヒソヒソ噂をされているのが聞こえる。
「おい、あれ見ろよ。獣人の奴隷だぜ」、「獣人なんて初めて見たな」、「あ、あの銀髪の獣人って、ま、まさか金棒のガルラじゃねえか」、「オーガと素手で殴り合って勝ったらしいぞ」、「あのパーティ『カークスの底』だ」、「それって二つ名持ちが二人もいる点付きだろ」、「あの女達が『撲殺』と『切り裂き』か?あんまり強そうじゃねえな。二つ名の由来からもっとオーガみたいなの想像してたんだけどな」、「『カークスの底』は金髪と銀髪の獣人連れてるって話だ」、「白い仮面つけてるあっちが『撲殺』だ」、「それにしてもあの獣人何やってんだ?」
噂の二つ名持ちは周りの声が聞こえたのか顔を真っ赤にして恥ずかしそうに俯いて必死に気配を消そうとしているが、ガルラが暇つぶしにフィナを投げる遊びをして目立っているから無駄だろう。
「しかしあいつらが『カークスの底』だとすると、あいつらも兵士になりにきたのかな」
「違うんじゃねえか?だってあの『撲殺』だぜ、誰かの命令聞く奴じゃねえよ」
「ど、どういう事だよ」
「何かムカついたから、グラニカで傭兵団50人殴り倒したらしいんだよ」
「ご!50人!何で捕まってねえんだよ」
「何か捕まえようとすると、暴れて余計に被害がでかくなるから諦められてるって話だ。それで領主からの出頭要請も無視しているらしいぜ」
「マジかよ、貴族の命令無視とか恐ろしい事よくできるな」
混じってる。混じってる。俺とガルラとフィナ?がした『バーダン商会』との一件とかが尾ひれがついてレイのやった事になってるな。『念話』でレイがどうにかしてよと言っているが、噂はどうにもならない事を知っているので諦めるしかない。
「『切り裂き』もヤベえぞ。ソロで野盗団の首を斬りまくってたらな。それで『水都』周辺の野盗は壊滅。戦争でグラニカに移ってきてからも速攻で周辺の野盗団を斬りまくって潰したらしい」
こっちも俺の噂と混じってるな。ヒトミが涙目で訴えているが、こっちも諦めてもらうしかない。
「それじゃあ、あの男が『カークスの底』のリーダーか?」
「名前なんだったか?」
「あんまり強そうじゃねえな」
「確か・・・ギンだ!名前はギンだったな」
レイとヒトミの二つ名が有名になりすぎて、俺の渾名が霞んでしまったな。まあ別に好きじゃなかったからどうでもいいけど。
「ああ、確か『ヒモ』のギンって渾名だったな。女4人のハーレムパーティだからな、どんな面してるのか気になってたが、あんまり格好良くねえな」
「アッチが凄いんじゃないのか?」
「だよな、二つ名持ちを二人も侍らせてるんだ何か特技が無いとおかしいよな」
・・・クソ!誰が『ヒモ』だ。俺だってちゃんと働いてるぞ。後、どうにもならないから顔の事は言うな。
(ククク・・・ヒモだって・・・ギンジが一番酷い渾名付けられてる)
(レイちゃん笑ったら可哀そうだよ。ギンジ君私たちより働いてるじゃん)
(色々変な渾名付けられたけど、今回は結構酷いな)
こうして周りから言いたい放題言われ、好奇の目に晒されながらも何とか無事都に入る事が出来た。
そしてクーミの言う通り門から大通りを歩いて行き中央広場から更に奥に進むと街の中に更に門が見えてきた。多分ここが貴族街の入口だろう。あんまり近寄りたくはない場所なんだけどな。
門番が近づいてくる俺達を警戒しているのが分かる。多分クーミが来るまでこの先には行けないだろうと思い、門の前でしばらく待ちながら今後の予定を話合う。
「この後、レイとヒトミは水谷の所行くんだろ?俺はノブの所行ってくるから別行動になるな。二人には念の為ガルラとフィナを護衛でつけておくけど、何かあったら『念話』で教えてくれ」
「分かった。もしかしたら話が長くなってアユムの所に泊るかもしれないから、その時は連絡するね」
軽く打ち合わせをしていると、クーミが馬車に乗ってやってきた。その馬車に門番が気付くと慌てて姿勢を正して敬礼をする。
「す、すみません。お待たせしました。アユム様とノブタダ様の家に馬車が無い事を忘れてまして、慌てて実家から借りてきたので、遅くなりました」
門番が慌てて敬礼しだしたのは伯爵家の馬車だったからかな?この馬車についてる〇の中に3つの〇が入ってるのがクーミの家のマークなのかな?そう言えば父親に買って貰ったっていう鎧にも同じマークついてたから多分そうだろう。
「どうぞ、お乗り下さい」
そう言ってクーミが扉を開けてくれるから門番がビックリしている。見た目冒険者で平民にしか見えない俺達に、伯爵家の人間がエスコートしてるんだから、そりゃあ驚かれる。ちなみに乗ったのはレイとヒトミだけ、俺は馬車嫌いだから歩いてついていく。ガルラとフィナもあんまり馬車が好きじゃないそうなので歩いてついてきた。
「それでは先にアユム様の屋敷に行きましょう。そこでレイとヒトミを下ろしてからノブタダ様の屋敷に向かいます」
しばらく歩くと、『念話』で呼び出される。相手はガルラだった。
(主殿、この街にも獣人がいる。街の入口よりも今の方が臭いが強いから貴族街の中にいる。恐らく二人)
(そうか、そう言えば今まで都に来た事なかったな。今夜にでも助けに行くか)
特に驚く事無くいつものように助けに行く事を了承する。
(うむ?良いのか?主殿は今日はその探していたノブとか言う奴と話があるんだろ?)
(まあ話はあるけど、夕方までには終わるだろ。だから大丈夫だ)
(すまんな)
それで『念話』を終えるとガルラは周りを少し険しい顔で見始めた。仲間のいる大体の場所を絞っているんだろう。
「着きました。こちらがアユム様のお屋敷になります」
そう言って馬車を止めた所は本当に屋敷ってレベルの大きさだった。え~っと。水谷って結婚してないって話だよな。こんなでかい家に一人で暮らしてるのか?
「うわ、大きい」
「大きいね~」
「まあまあ大きい所ね」
馬車が止まるとフィナがその大きさに驚きの声を上げるが、馬車から降りて来たヒトミとレイはリアクションが薄い。多分ヒトミはずっと城で暮らしていたからだろう、レイも教国で手厚く保護されていたらしいから、でかい屋敷で暮らしていたんだろう。俺?俺は初日から住み慣れた1Kマンションだ。
「じゃあ、何かあったら『念話』で連絡してくれ」
「あれ?アユムに挨拶していかないの?」
「だってよく知らねえもん」
「・・・・知らないって・・・まあアユムちゃんには私達からギンジ君の事話しておくね。そっちも津村君に宜しくね」
そうしてすぐに馬車が出発すると、屋敷からなんか小っちゃいのが飛び出てきたのが見えた。
ああ。思い出した。水谷ってあいつか・・・何かキャンキャン吠えて五月蠅かった奴だったな。
屋敷から出てきた小っちゃいのを見た瞬間思い出した事はそれだけだった。まあ水谷の事もノブに聞けばいいかと深く考えずにいると、すぐに馬車が止まった。勇者は超VIP待遇なのかこれまたでかい屋敷の前だった。
「それでは行きましょう」
馬車を帰してからクーミが俺を促してくる。
「あれ?クーミは馬車に乗って家に帰らないのか?」
「いえ、今はノブタダ様から部屋を与えられていますので、こちらで暮らしています」
そう言えば、ノブの奴露出まがいのプレイをしてクーミを困らせてるって言ってたな。まあ、これだけでかい屋敷だから1人ぐらい住まわせても気にならないか。
そうして屋敷に入りでかい扉の前でクーミがノックする。
「どうぞ~」
聞き覚えのある声が向こうから聞こえてきた。
「失礼します」
そう言って扉を開けるクーミの向こうに部屋の様子が目に入ってきた。部屋の真ん中に置かれた豪華な机とイス。そしてそこに腰かけている人物。俺の知っている学生服姿ではなくこっちの貴族みたいな格好をしているが、顔は俺の記憶とほとんど変っていない。見た目イケメンインテリ眼鏡っぽく見えて中身が変態の俺の親友だ。
「よお。久しぶりだな、銀」
「そっちこそ。無事でよかったよ。ノブ」
「・・・・・プ、プ、ブハハハハ」
「・・・・ク、ク、クハハハハ」
最初の挨拶を済ますと二人とも沈黙し、それから二人で笑い出した。良かった。この様子だとこいつ元気にしていたっぽいな。
「お前、何だよその格好、貴族みたいじゃねえか、しかも似合ってる所がムカつくな」
「そっちこそ何て格好してんだよ。よくそれでここまで来れたな。門番に止められなかったのか?」
「クーミが馬車で迎えに来てくれたんだよ。お前クーミの家に迷惑かけるなよ」
「はっはっは、クーミが来るまで馬車持ってない事に気付いてなくてよ。慌てたぞ、慌ててクーミの家に手紙出して馬車借りたんだよ」
「全く相変わらず抜けてんな。後でクーミにお礼言っとけよ」
「いえ、ギン。ノブタダ様のご命令ですからお礼はいりません」
側で控えていたクーミが俺の言葉に慌てて会話に混ざってきた。
「そうだった。こいつ連れてきてありがとうな、クーミ。陛下にもクーミがちゃんと依頼達成したって伝えておくからな」
「・・え?・・・いえ・・・そんな・・・陛下に私なんかのお話をして頂かなくても」
「ノブなんかに遠慮しないでいいぞ。礼金たっぷりもらっとけ。っていうかクーミも座ればいいのに、いつまでそこで立ってんだ?」
「い、いえ、ギン達をお連れしたのは仕事の一環ですから、お礼は必要ありません。あと、仕えている方と同じ席に座る訳にもいきませんので」
そうなのか?と思ってノブに目をやると、さあって感じのジェスチャーが返って来た。こいつクーミのこの態度が一般的な反応なのか分かってないのか?
「まあ、それならクーミは今日はもう休んでいいぞ。長旅で疲れただろ。あっ、休む前にミルとルルを呼んできてくれ」
そう言ってクーミが部屋から出ていった後、ノブが前のめりになって、俺に聞いてくる。
「おい、銀、お前のパーティ獣人いるんだろ?どう?可愛い?っていうかどこだ?」
・・・こいつ・・一番に興味があるのがそれかよ。今まで何してたとか、帰る方法知らないかとかじゃねえのかよ。
「今日はレイとヒトミの護衛で水谷の所だからいないぞ。先に言っとくけど獣人には手を出してないからな。お前の期待する話は答えられねえぞ」
どうせ、この後この変態に聞かれるだろう質問を先にブロックする。それを聞いたノブは凄い不満そうな顔をしている。
「何だよ。つまんねえな。ケモミミとか尻尾とかどうなってるのか聞こうと思ってたのに、エルフはどうだ?見た事あるか?」
「見た事ねえよ。相変わらず興味あるのそっちの方ばっかりかよ。俺が今までどうしてたとか興味ねえのかよ」
「いや、興味はあるが、先にこっちを聞いておかないと、ミルとルルの前じゃ聞けないからな」
そうノブが言った途端、タイミングよく扉がノックされた。ノブが許可を出すと、扉が開かれ緑色の髪をした女が二人入ってくる。二人ともかなり美人だが、顔が良く似ているので恐らく姉妹だろう。髪の長い方が姉で短い方が妹って所かな。姉は二十歳前後、妹は俺達と同じぐらいの年だろうか。二人は部屋に入ってくるとノブを挟む形で両脇に位置する。
「銀。クーミから聞いたかもしれないが、二人とも俺の嫁だ。こっちが姉のミル、こっちが妹のルルな」
「「はじめまして、ギン様。ノブタダ様のかなり親しいご友人と聞いていて、お会いするのを楽しみにしていました。どうぞごゆっくりお寛ぎ下さい」」
2人は双子もびっくりのシンクロ率で挨拶してくれた。と思ったら、
「はい、よくできました。もういいぞ。銀は貴族じゃないからな作法とか言葉遣い気にしなくていい。肩ひじ張らずにリラックスしてくれ」
ノブがネタ晴らしをしてくれた。どうやら最初の挨拶は初めから予定通りだったようだ。二人はピシッとした姿勢から少し楽な態勢に変わりノブの隣に腰かける。
「き、緊張しました」、「私もです」
2人は腰かけた途端ノブに体を預けリラックスしている。
「よお、色男。両手に花でいい身分だな」
美人を両脇に侍らせるノブにムカついたので軽く嫌味を言ってやる。
「ハハハハハ、いいだろ。っていうかお前はどうなんだよ。お前のパーティメンバーのヒトミとレイって委員長と大野さんだろ?どういう事か一から説明しろ」
◇◇◇
「・・・・ちょっと待て。情報量が多すぎる。ある程度調べていたが、これ程とは思ってなかった。少し頭を整理させてくれ。ミル何か飲み物を、ルルは風呂の準備を頼む」
俺の今までの行動を説明した後、ノブは頭を抱えながら嫁に指示を出す。俺もノブからの情報を頭でまとめる時間が欲しかったので丁度いい。
ノブ達はこの国に召喚された時期は俺達と同じか、しかも4人・・・ノブと原田と外山と水谷か・・・原田は影の薄い奴だが顔は分かる・・・ただ外山って誰だ?思い出せねえって事は絡んだ事無い奴だな。
で、召喚されてから今までこの国でずっと保護されていたのか。その間、魔法や剣の訓練もさせられているらしいから、この国も勇者を戦力と見てるのかもな。召喚された理由は予言の通りって事でさっぱり分かってない。当然帰る方法の手がかりすら無しか。
結婚してるのがノブだけで他は未婚だが、外山って奴は公爵家の奴と結婚する予定になってるのか。
俺がレイとヒトミを騙してるって水谷は考えてるから注意しろってどうすりゃいいんだよ。
原田は結婚してないけど、子供たくさん作って異世界満喫してるそうだ。『勇者』の子供は魔法の才能を引き継ぐ奴が多いからだそうだ、そう言えば水都の前原も毎晩違う女と寝てるとか言ってたな。
「ふう。お前どんだけ波乱万丈な人生歩んでんだよ」
ミルの持って来た紅茶を一口飲んで落ち着いた後、呆れたようにノブが言ってくる。
「仕方ねえだろ、召喚された初日に殺されそうになったんだ。生きてくのに必死だったんだよ、それよりも水谷だ、あいつの誤解解かねえと面倒臭い事になりそうだ」
当面一番の問題を口にする。このまま誤解されたままだと、戦争になった時に色々厄介な事になるかもしれないので、誤解は解いておきたい。まあ駄目でも戦争には勝手に参加するけどな。
「ああ、それなら明日俺から水谷さんに話をしておくよ。今日も委員長と大野さんが話をしているから大丈夫だろ」
「そうか、なら大丈夫そうだな」
レイとヒトミなら誤解を解いてくれるだろうと思い少し安心した。
「おし、それなら風呂も沸いたみたいだし、銀は風呂に入ってこい。風呂なんて久しぶりだろ?俺の家の風呂は少し拘ってるからな、日本を思い出すぞ。召喚組も原田以外はたまに入りにくるからな」
「まあ入らせてもらうけど、お前の家メイドとか執事とかいないのか?普通こんだけでかい家ならいるだろ?」
「ああ、今日は帰ってもらった。お前っていうか勇者に関する話を許可された奴以外に聞かせる訳にはいかないからな」
やっぱりこの国でも勇者に関する事は極秘事項なんだな。
そしてノブが胸を張ってドヤ顔で自慢してきた風呂は、いつもレイの家の檜風呂に入ってる俺を驚かせる事は無かった。
まあ、こっちで檜風呂っぽい風呂ってのはすごいと思うが、シャワーが無いな。後、シャンプー類も泡立たないしゴワゴワなるし、汚れが落ちた気にならないし駄目だな。
ノブ自慢の風呂は俺からすればあんまり良い物ではなかったが、『自室』が使えないとかなり重宝するレベルの風呂だとは思う。
それでこの箱は何だ?鍵がしてあるな?まあ俺には関係ないんだけどな・・・・・何だこれ?ブヨブヨして、スライムみたい・・・・あの変態、こんなもんどこか別の場所で保管しておけよ。
「どうだった、良かっただろ?あの風呂結構拘ったんだぜ」
風呂から上がるとノブが期待に満ちた目で俺を見て、風呂の感想を聞いてくる。ここは正直に答えておこう。
「ああ、こっちで檜っぽい風呂は素直にすごいと思ったが、シャワーが欲しいな。後、風呂場にあったスライムみたいなの、あんな物見られる場所に置いとくなよ」
「あれ?ルル、鍵は?」
「えっ・・・いえ・・先ほどお風呂準備する時に鍵がしてあるのしっかり確認しましたが・・・」
俺の指摘に顔を真っ赤にしてルルが答えている。ミルとルルもいるのにこの話をしたのは少し悪かったかもしれない。
「ああ、悪い。俺のスキルで鍵は無効化できるんだよ。まあ、そう言う奴もいるから必要な時だけ持ってくるようにした方がいいぞ」
「そんなの、気にしてたらキリがないだろ。水谷さんから文句言われたから鍵掛けた箱で保管してるのに、必要な時にすぐ使いたいからこれ以上は対策できないぞ」
「この変態が!こっち来ても相変わらずだな」
「へっへっへ~。これでもミルとルルに色々やってもらったから、欲求はかなり満たされたぞ」
だからそういう話は夫婦の中だけで終わらせとけよ。ミルもルルも顔真っ赤じゃねえか。今までどんだけノブの変態プレイに付き合わされたんだよ、かわいそうに。
「それでよ、銀。お前冒険者やってるなら、触手持ってるような魔物とかって心当たりないか?ずっと探してるんだけど見つからなくてよ」
「・・・お前は相変わらずブレねえな。海の魔物に「巨大烏賊」、火山に「赤触手」、大森林に「緑触手」ってのがいるって聞いた事はあるぞ」
ノブの奴が触手プレイをしたいのが分かっているので、聞いた事ある魔物の名前を教えてやる。どれも倒した事はない。
「おお、さすが点付きの冒険者だ。早速ギルドに依頼出すか」
「お前そんな下らねえ目的の為に冒険者使うなよ。自分で探しに行けよ」
「これでも忙しいんだよ。・・・うん?何だこれ・・・っておい・・まさか・・・これ」
ギルドに下らない依頼をしようとしているノブに文句を言いつつ、さっきの風呂の不満を解消するシャンプー類を机に置いて行く。当たり前だがそれが何かに気付いたノブはビックリする。
「ああ、日本のシャンプー類だ。全部やるよ」
「ちょ、ちょっと待て、何でこんなもん持ってんだ?もしかして召喚された時に持ってた・・・訳ないよな」
「ああ、俺のスキルだ。『自室』」
ノブなら見られても特に問題ないので、目の前に扉を出す。但し思い浮かべるのは俺の1kマンション。
「お・・おい・・・これって・・お前の家じゃ」
「ああ、上がっていいぞ」
「お、おう、お邪魔します。・・・マジかよ・・・どうなってんだ?普通に銀の家じゃねえか」
あれから色々質問されたが、答えられる所は正直に答えて、分からない所は正直に分からないと答えて、今はノブが俺の家に置いていたポテチをみんなでつまんでいる。
「ノブタダ様、これ凄く美味しいです」
「このカップラーメンってのも食べてみたいです」
さっきからミルとルルはポテチを夢中で口に入れている。お土産に持たせたカップラーメンにも興味深々みたいで、ずっと眺めている。
「なあ、銀。お前この国で一緒に暮らさないか?お前達なら陛下に話せば、俺達と同じ待遇で迎えてくれると思うぞ。どうだ?」
ミルとルルを優しい目で見ていたノブがいきなり真面目な顔で俺に提案してくる。だけどその提案には乗れないな。
「悪いな。俺はやる事やったらドアールの街に帰るつもりだ。みんなを手厚く埋葬して、あの街を復興させたいんだよ」
俺の心は決まっているのでノブの誘いを断る。やっぱり最初に俺を受け入れてくれたドアールには思い入れがあるからな。
「そんな顔するな。火の国との戦争は俺も参加するから心配するな。それが終われば平和になるからいつでも遊びにこれるだろ」
俺が断ると少し悲しい顔に変わったノブに気楽に答える。
「金子達か~。強いって聞いてるけどどうなんだろうな。今や『火の国の悪魔』って呼ばれてるから強いんだろうな」
「レイが言うには『隕石』使える奴がいるみたいだから、そいつは注意しないとな」
「はあ~。やだな~。戦いたくねえな~」
その後もしばらくノブと話していると日も暮れてきたので帰る事にする。
「は?帰るのか?今日泊っていけよ。飯も用意するぞ?」
「いや、お前の露出プレイなんて見たくねえから泊まらねえよ。あと、今日の晩飯はカップラーメンだろ。久しぶりだから味わって食べろよ。ああ、こいつもやるよ」
ノブの誘いを断りつつ、インスタントラーメンやポテチをミルとルルに持たせる。
「おい、しばらく風都にいるのか?」
「さあ、分かんね。取り合えず明日みんなと話をしてからどうするか決める、ああ、そうだノブにも『念話』接続するから、何かあれば呼び出してくれ」
そう言ってノブの頭に手を置いて『念話』を接続して、軽く使い方を説明する。
「お前、『自室』とか『念話』とか凄いスキルばっかり持ってるな」
若干呆れた様子のノブに見送られながら、俺は屋敷を後にした。貴族街から出る時に門番からジロジロ見られたが、特に何も言われなかった。