93話 呼び出し
「呼び出し?」
「ああ、領主様から直々だ」
Cランクに上がってから1ヶ月ぐらい経ったある日、いつものように依頼を終えて戻って来たらシャバラから嫌な話を聞かされた。いつか来るかもとは予想していたが、想像より遅かったのですっかり忘れていた。
「ええ~。行きたくねえ。別に点付きだから従う必要はないよな?」
「義務ではないけど、領主の呼び出しだ。行かないと何されるか分かんねえぞ」
まあ、そうだろうな。嫌だけど、一応行くだけ行ってみるか、無茶苦茶言ってきたらこの街出ればいいだけだしな。
「今回は『カークスの底』としてじゃなくて、『レイ』と『ヒトミ』、『ギン』で呼び出しを受けてるぞ」
「・・・何でそんな呼び出し方なんだ?って聞いても分かる訳ないか。明日にでも行ってくる」
翌日
「はあ?知らん!こっちは何も聞いてないぞ、薄汚い冒険者に領主様が用事などある訳ないだろう」
「大方、自分を売り込みにでもきたんだろうぜ。ほら、帰れ!いつまでもここにいると牢にぶち込むぞ!」
領主の館まで行くと、門番に止められムカつく言葉を吐かれた。かなりイラついたが、こっちはこれで義理は果たしただろう。我慢してその場を後にして、冒険者ギルドに向かう。
「領主の館行ったけど門前払いだったぞ。本当に呼び出し受けてるのか?」
シャバラの所に行き、もう一度確認してみるが本当に呼び出しはかかっているみたいだ。恐らく連絡の不備で門番が知らなかったんだろう。まあそんな事俺達には関係ない、一度館を訪問してるんだ、もう行く必要はない。
「じゃあ、少し依頼みてくる」
「お、おい!領主の所行かねえのか?」
「一回行ったから義理は果たしただろう。あれだけムカつく態度で来られたんだ。もう行かねえよ」
そう言うと頭を抱えるシャバラだった。
「固~い!『岩人形』固すぎるよ!短剣が全然役に立たない!もう!」
フィナだけが『岩人形』相手に有効手段がないのでイライラしている。ヒトミみたいに武器に炎を纏わせてサクサク切ればいいのだが、『青』でも『岩人形』に十分有効なのだが敢えてフィナは使っていない。使うと簡単すぎてつまらないという理由だからだ。
「ふん!フィナ泣き言を言うな!情けないぞ!」
こん棒を振り回し、『岩人形』を砕いているガルラが、フィナに注意する。
「ガル!そんなにフィナに厳しくしないの!武器の相性ってあるから仕方ないじゃない」
戦闘に関してフィナには厳しいガルラにレイが注意する。レイは後ろから魔法で俺達のフォローをしてもらっている。と言ってもほとんどフォローの必要が無いぐらいみんな楽勝で相手している。
「そうは言っても敵はそれを許してくれないぞ。フィナは次期村長だから甘やかすのはやめてもらおう」
「ふ~ん。それならガルちゃんの勉強の時間もう少し増やそうかな?早く読み書き計算出来ないと騙されるかもしれないしね。次期村長候補の義理の姉がこれじゃあダメだもんね」
普段はガルラに甘々のヒトミもフィナが絡むとフィナの肩を持つ。まあ、フィナはまだ見た目小学生だからな・・・見た目小学生がCランクの魔物『岩人形』を4匹引き付けて余裕なのはおかしいと思うが。
「う!・・・ふん!まあ、武器には相性があるからな仕方ないぞ。フィナ」
慌てたガルラが前言撤回する。そんなに勉強が嫌い・・・なんだろうな。ヒトミが教えているが、10分で眠ってしまうって話だし。これでも読み書き計算は大概できるようになって今は割り算を教えている所だ。フィナは既に全て覚えて今は日本語を覚えている。別に覚える必要はないが、ヒトミが一杯持っている本を読みたいらしく自主的に勉強しているから偉い。
和やかに会話をしながらも手は動かしていたので、すぐに『岩人形』の群れを全滅させた。今回は『岩人形』の魔石の納品なので、魔石を回収したら街に戻った。
「ほら、これが魔石な。それにしてもシャバラ!お前あそこに群れがいるの知ってただろ?『岩人形』の群れなんてBランク相当じゃねえのか?」
「ガハハハ。そりゃあ、運が悪かったな。それでもお前等なら余裕だろ、こんなに魔石取ってきやがってもしかして全滅させたのか?」
「全滅かどうかは分からん。適当に向かってきた奴等を相手にしていただけだからな」
いつもの如く依頼を終えて受付でシャバラに文句を言っていると、
「ああ!ようやく戻って来やがった!『カークスの底』!お前ら領主様からの呼び出し無視してどこ行ってやがった!すぐに館まで来い!」
後ろから怒鳴り声が聞こえてきた。厄介毎の気配がするなとか思いながら後ろを振り返ると、想像通りこの街の衛兵だった。衛兵二人はすぐにこちらにズンズン歩いてきて、俺達の目の前で怒りの形相で立ち止まる。
「領主の所にはこの間行ったぞ。門前払いにあったけどな」
「そんな事は知らん。ほら!早く来い!全く手を煩わせやがって!」
・・・イラッ
こっちは一度訪ねたっていうのに、こいつら何でこんなに偉そうなんだ?やっぱり貴族はムカつくから関わらない方がいいな。レイとヒトミも若干イラついてる気がする。ガルラはいつもの様に腕を組んで立っているが、フィナは尻尾を股下に挟んでオロオロした顔で俺達と衛兵を交互に見ている。
「ふざけんな!こっちは一度館まで尋ねたからもう行かねえよ。大体用があるならそっちから来い!偉そうに呼びつけやがって何様のつもりだ。」
「き、貴様!冒険者の分際で領主様を呼びつけるとは何事だ!平民は素直に言う事に従え!」
「呼びつけてねえよ、用があるならそっちから来いって言ってるだけだ。別に来なくても構わねえよ。それに俺達は点付きだからな、貴族の言う事に従わなくてもいいんだよ!」
ホントに点付きは貴族に従わなくていいのか分からないが、義務はないんだから拡大解釈で従わないって思って大丈夫だろう。
「そういえば、明日からまた依頼受けるからな、次はかなり遠出になるだろうなあ。1ヶ月は帰ってこないだろうな」
ムカついたので、更に衛兵二人を煽る発言をする。ヒトミとレイは俺の煽りに少し呆れた表情をしているが、気にしない。ムカついたので、徹底的に煽ってやろう。
「き、貴様!いい加減に!・・・・?」
「おっと、武器を先に出したら衛兵さん達でもどうなるか分からないよ?」
衛兵が剣の柄に手を置いたと同時にフィナが柄頭を手で押さえたので、思った通り剣が抜けずに不思議そうに視線を下に降ろす。見上げたフィナが忠告した事で自分の今の状態に気付いた衛兵は、更に顔を真っ赤にする。
「こ、このガキ!俺の剣に手を触れるな!薄汚いけも・・ガハ!!」
フィナに向かって怒鳴りつけた衛兵は更に獣人を差別する言葉を口にしようとした所で、ガルラから首を掴まれ持ち上げられたので最後まで言葉に出来なかった。
「すまんな衛兵。その言葉は無しだ。私達は言われ慣れているから何も感じないが、主殿達は本気で怒るからな。命が惜しかったらその言葉は口にしない事だ」
持ち上げられた衛兵は苦しそうに手足を振り回しているが、それに当たってもガルラは微動だにしない。
「き、貴様ら!いい加減にしろ!早く手を離せ!」
もう一人の衛兵がビビりながらガルラに命令しているが、武器に手を掛ける様子はない。まあ片手で軽々と武装した男を持ち上げているんだ。そりゃあ怖いだろう。
「いい加減にするのはお前らの方だ。お前らの前にいるのは二つ名持ちだぞ。怒らせたらどうなるか分からないのか?ほら、もういいからさっさと帰れ」
そう言ってガルラは持ち上げていた衛兵を片手で入り口の向こうまで投げる。一人残された衛兵は慌ててギルドから出て行った。
「ふう~。ほら、主殿もレイもヒトミも顔が怖いぞ。全く何度も言っているが、あの程度の侮辱言われ慣れているから、私もフィナも怒る気にもならん、だから主達も気にするな」
「それは無理だよ。ガルちゃんもフィナちゃんも馬鹿にされてるんだよ。大事な家族が馬鹿にされたら当然怒るよ」
ヒトミの言う事に俺もレイも文句はない。今やガルラもフィナも俺達の家族みたいなもんだ。特にレイとヒトミは冒険者になった頃は何度もガルラに命を助けてもらったからな。今ではこの街の冒険者ギルドでガルラとフィナを侮辱する奴はいない。言うと俺達がマジ切れするからだ。
あの時ガルラとした約束を俺が守る代わりにガルラは本当に自分を犠牲にしてまでレイとヒトミを守ってくれた。その都度自分が傷ついて、時には腕が切り落とされたり、腹を切り裂かれたりしてもだ。いくらレイの『回復魔法』があると言っても異常だった。
「ああ?あの時ガルフォード様に誓っただろう?ガルフォード様との誓いは絶対だ。それに主殿達は私とフィナを大切にしてくれるから、3人とも気に入ったぞ」
ガルラに聞いたらこう答えてくれた。確かガルフォードって建国王の奴隷だった獣人だったはずだけど、ガルフォードへの誓いって獣人の中だと絶対らしい。
「はあ~。これからお前らどうすんだよ。領主様の部下に手を挙げたから、兵士が捕まえに来るぞ。今の内にこの街から離れろ」
衛兵二人がギルドから出ていくとすぐにシャバラが俺たちに声を掛けてきた。今のやり取りを見ていた冒険者連中はドン引きしているが、気にしないでおこう。シャバラはもう俺達が何しようが諦めの境地に達していると言ってた。
「ああ、面倒くさくなったらそうするわ、でも今日はもう疲れたから帰って寝る。明日また来る」
そう言って翌日ギルドに行くと、
「うわ、これって昨日の仕返しかな?」
「え~。これはちょっと・・・」
「ふむ。まあ運動くらいにはなるかな」
「よ~し。お姉ちゃんには負けないから」
ギルドに入ると、衛兵がいた。それも大量に。昨日の今日だから少し警戒するが特に敵意はないようだ。獣人二人は既に戦う気満々なのは何でだ?落ちつけ。二人を抑えつつもギルドに足を踏み入れると、身なりのいいオッサンが衛兵に囲まれながらこちらに向かってきた。
「お前たちが『カークスの底』だな。言われた通り来てやったぞ。これで話は聞いて貰えるんだろうな?」
すごい不服そうな感じを隠す事もなく俺達に話しかけてくるオッサン。多分この言い方から領主様直々に足を運んだんだろう。なんとなくこの態度からこいつは嫌な部類の貴族だと思う。
「ああ。お前がこの街の領主か?」
「き、貴様!領主様に何て口を!」
俺の言葉に周囲の衛兵が騒ぎ出し、すぐにマップで赤色に変わったが、領主が手を挙げた事で騒ぎが収まる。領主自身も俺の言葉使いが気に入らないのか額に青筋立てているが、口はにこやかに笑っている。
「ああ、そうだ。この間と昨日は部下が失礼した。今日はお前たちに会いたいと言う人が都から来たので連れてきた」
素直に謝った事は偉いと褒めてやりたいが、平民に謝った事が不満なのが表情から分かる。ただ、この領主がここまで我慢するって事は俺たちに会いたいって人は領主より立場が偉そうだ。
「は、初めまして。クーミ・グレシーと申します。『カークスの底』のレイ様、ヒトミ様、ギン様で間違いないですか?」
領主の後ろから出てきたのは俺達と同じ年ぐらいの若い女の人だった。鎧を装備しているが、その鎧表面の光沢は素晴らしく、実践用ではなくて儀礼用の鎧だと思う。その鎧だけで身分が高い事が分かる。何故そんな人が俺達を?『念話』でみんなに確認したが心当たりは無いらしい。
頷いて自己紹介すると、クーミは少しホッとした様子だった。
「良かった~ようやく会えた。それでお三方にお手紙を預かっていますので、まずはこちらをご一読下さい。手紙の主は読めば分かるはずだとの事です。」
「??それなら先に誰か教えてくれませんか?」
「いえ、手紙を読むまで名前を教えるなと言われています。申し訳ございませんがご勘弁を」
このクーミって人さっきから俺達に対して偉く低姿勢だな。身分が低いのか?でも領主直々に案内しているからそれはないと思うんだけど。
「そ、それではこちらになります」
各自手紙を渡されたので中を確認する。
「会いに来い!馬鹿銀! 津村」
俺への手紙は1行だけ、でかでかと書かれており名前が小さく隅に入っていた。
・・・あいつこの国にいたのかよ。言われなくても会いに行ってやるよ、ノブ。
「ギンジは誰からの手紙?私たちは歩からだったよ。なんか水竜倒したお礼が言いたいみたい」
「俺はノブからだったよ。取り合えず会いに行ってみようとは思うけどどうだろ?」
「津村君か・・・ギンジ君ずっと探してたから見つかって良かったね」
「良かったと言う所だけど、あいつ何で自分から会いにこないで、わざわざ呼び付けるんだよ。呼び出し無視してやろうかな」
「だ、駄目ですよ!ノブタダ様の呼び出しですよ!!会いに行かないと騎士団が捕まえにきますよ!」
俺達の会話が聞こえたのかクーミが割って入ってくる。この言い方だとノブってかなり身分が高いのか?このクーミも身分は高そうだが、ノブは更にそれ以上のような気がする。
(多分『勇者』だからよ。私も教国にいた頃は国のナンバー2の大司教達でさえ神様みたいに扱ってたから、他のクラスメイトも大事にされてるんじゃない)
念話でレイが教えてくれたが、俺はそんな扱い受けてないぞ。速攻で殺されそうになったんだけど・・・この扱いの違いは酷くないかな。
待遇の差に少し不満に思いつつも俺達は翌日からこの国の都のある『風都』に向かう事にした。シャバラやウィリアさん達には都に呼び出しを受けた事を伝えたら、露骨に嫌な顔をされた。基本都の呼び出しは碌な用件じゃないらしい。今回はノブからだし大丈夫だと思っているけど、一応準備はしておいた。それと、もしかしたらこのまま所属を変更する可能性もあるとだけは伝えておいた。