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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
5章 風の国境都市のDランク冒険者
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91話 商業ギルドからの指名依頼

本日2回目です

「ど、どうも初めまして。私はバーダン商会代表、ウィリアと申します。ギン様その節は大変ご迷惑をお掛けいたしました。どうかお許し下さい」


 待ち合わせの広場に着くなり、身なりのいいおっちゃんがこちらにやってくると頭を下げて謝ってきた。周囲にいる50人ぐらいの完全装備の傭兵共も一緒に頭を下げてくるので目立って仕方ない。


「顔を上げて下さい。あの時はこちらも少しやり過ぎたと思っているので、その事はお互い水に流しましょう。今日はあなたが依頼主ですから、色々と指示をお願いします」


 シャバラの言う通り向こうは本当に最初から平謝りだ、しかも『探索』で赤くないのでこの人は嘘を言っていないだろう


「そう言って頂けると非常に助かります。そして今回の依頼受けて頂きまして本当に有難うございます。少し強引にいかせて頂きましたが、受けて頂いて大変助かりました」


 やっぱり強引なのは自覚しているんだ。





?!!


 翌日朝食の準備中にマップに反応があり、こっちにかなり速いスピードで何かが向かってくるのが分かった。そうしてその何かがこちらに向かってくる振動が大きくなった時、向こうから土煙が立ち上ってそれを引き起こしている原因の魔物が見えた。


 『尾無し』・・・じゃないな地竜か。あれが普通の地竜か・・・オタマジャクシと蛙の中間ぐらいの奴がでかくなったって感じだな。



「うわあああ」、「ひいいいい」、「逃げろ地竜だ!!」


 地竜の接近に気付いたのか辺りが大騒ぎになる。この騒ぎは誰かがわざと起こしたのか?と思い俺は警戒を強めるが特に何もなく、どんどん地竜がこっちに走って向かってくる。


「レイ!『壁』で地竜を止めるぞ。このままだと何人か巻き込まれて被害がでる」


 いままで誰一人打ち破った事のないレイの紫の『光壁』(ライトウォール)なら地竜の突進でも止められるだろうと判断して前に出る。


「ええ??!無理だよ、怖いよ!」


 流石にあれだけでかい魔物と今まで戦った事はないので、怖がって断ってくるレイだけど俺は大丈夫だと判断している。


「大丈夫だって!俺が隣にいるから、いざとなったら影・・・には人がいて沈めないから抱っこして逃げてやるからさ」

「・・・・う~ん。分かった。・・・でも!危なかったらすぐに抱っこして逃げてよ!」


 俺の説得に渋々納得してくれるレイ。ガルラは少しごねたが周りに被害が出る可能性もあるので戦う事を我慢してもらい全員で配置につく。俺とレイは前に出て、ヒトミとガルラが後ろの方で離れて様子を見ている。何かあればガルラがヒトミを抱えて逃げる事になっているが、あいつ金棒肩に担いで構えているから戦う気満々じゃないか。そしてフィナは、高い木の上に登って見学している。


「おい!お前ら!何やってんだ!逃げろ!」、「あいつら地竜とやり合うつもりか」、「いくらあいつらでも無理だろ」、「早く逃げろ!」


 俺達の様子に気付いて逃げている奴等が何か言っているが無視して、こちらに向かってくる地竜を見つめる。




「まだだぞ、俺が合図したらだ」

「・・・・ちょっと、まだ?もういいわよね?」

「待てって、まだだ。・・・・・・・・今!」

「ヒィイイイイ」


 俺の合図と共にレイが情けない悲鳴をあげながら手を振りかざすと、地竜の目の前に大きな紫の壁が現れる。破られた時の保険だろうか、後ろに4枚同じ壁が現れている。どんだけビビってんだ。


ドォオオオオオオオン!


 こちらに勢いよく走ってきていた地竜は目の前に現れた壁に対応できるはずもなく、そのままの勢いで壁に激突する。当然最初の一枚はヒビも入っていなかった。やっぱり固いな。


「・・・・やっつけた?」

「いや気絶しているかな。ちょうどいい、レイ魔法を纏って殴ってみてくれ」

「・・・うん。分かった」


 そう言って俺の手を握りながら恐る恐る地竜に歩いて行くが、少し歩き方がおかしい。ビビりすぎだろ。


 そして手を伸ばせば地竜の頭に触れるぐらいの距離まで近づくと、レイの体が紫の光で包まれる。

 二人は魔法の形を自在に変化させる事が出来るので、色々検証というか遊んでいた結果、形を変えても威力は特に変らない事が分かった。ただ体に纏わせた場合は別だった。こっちは検証した結果、『身体強化』と同じみたいな状態になっている事が分かった。

 ここからは仮説でしかないけど多分俺の『身体強化』も魔力で身体を覆っているんじゃないかと思っている。俺は純粋な魔力を使っているから外見からでは分からないが、レイ達は属性のある魔力だから、色が付いているので使うとバレバレだけど。

 ただし、今は通常より魔力を込めた紫でレイは覆われているので、純粋な力だけなら『身体強化』使った俺より強い。


「えい」


バギ!!!!!!


 可愛い掛け声だけどそんな力で殴ったんだ、地竜の首から変な音がしておかしな方向に曲がった。マップでは・・・うん、死んでいる。師匠達があれだけ苦労して倒した地竜をこんなに簡単に倒すとは。


 呆れている俺にレイから何故か『念話』が入る。


(ギンジ~。あの、服を今すぐ着替えたいんだけど、誰にもバレないようにサッと着替えさせてくれない?)

(・・・・・)


 情けない声でおかしな事を言ってくるレイに目をやると、一瞬だったがレイの下半身が湿っていたのを俺は見た。すぐに元に戻ったので『洗浄』を使ったんだろう。


「・・・・はあ~。動くなよ」


 そう言ってレイを抱きしめて、俺のマントで体を隠して影で着替えさせる。


「ちょっと、二人とも倒して嬉しいからってイチャつかないでよ。私も混ぜてよ」


 イチャついてると勘違いしたヒトミが文句を言いながら俺に抱き着いてくるが、イチャつきとは程遠い事をしていたんだけどな。


「あれ?レイちゃん今日そんな服だった?」

「・・・な、何言ってるのよ。今日はこれだったでしょ」


 ヒトミの指摘に慌てて誤魔化すレイ。今は予備の装備に着替えているが色合いはそこまで違わないのでこのまま押し切るつもりなんだろう。


「レイお姉ちゃん、凄いね。地竜一撃ってガルラお姉ちゃんでも難しいんじゃない?」

「ふん。やってみなければわからないが、多分大丈夫だ。主殿。次に地竜がいたら私にやらせてくれ」


 フィナが煽るからガルラが変な対抗意識を燃やしてしまった。まあ、ガルラなら地竜を一人で討伐できるかもとか考えている。





「・・・地竜っておしっこ臭いんだね」


 フィナが今、言ってはいけない事を口にしたもんだから、俺とレイは大慌てだ。そうだな、臭いなとか言いながら『風』で辺りの空気を払っている。幸いヒトミは気付いていないようだが、困り顔のガルラは俺と目が合うと、ソッと視線を逸らした後は尻尾が落ち着きなく動いていたので、分かっているみたいだ。



「お、おい。これって」、「あ、ああ、死んでるぞ」、「マジかよ地竜だぞ。一撃って」、「地竜を殴り殺すってどんだけ馬鹿力なんだよ」、「撲殺した」、「やべえ、やっぱり『カークスの底』は化物ぞろいだ」、「殴って殺すとか可能なんだな」


「え・・ち、違うよ。今回は偶々だから、偶々コツンって当たった所がものすごく良い所だっただけだからね。そんなに殴ったとか乱暴な人みたいに言わないで!私普通の女子だから、力全然無いからね!」


避難していた傭兵達がこちらに戻ってきながら、感想を口にしているが、レイがそれを必死に否定している。コツンとか可愛い音はしてなかったぞと突っ込みを入れてやりたいが、少し涙目になって大声で否定しているレイが可哀そうなのでやめておいた。





「いやあ、素晴らしい。まさか地竜を一撃とは。それでギン様この地竜どうされるおつもりですか?」


代表のウィリアがニコニコ笑いながら近寄ってくるが、その目は商売人の目をしていた。


「いや、今回は『取り割戻し』ですよね。どうもこうもないですよ?」


そう、今回俺達は指名依頼だけど、レイド戦なので討伐した素材は全て一度ギルドに売り払う事になるはずだ。レイが一人で倒したけど、そこは最初から決まっていたからごねる事はしない。


「そ、それではギン様の報酬は白金貨2枚で宜しいでしょうか?勿論レイ様が一人で討伐した栄誉は傷付ける真似は致しません」

「あれ?それって高過ぎじゃないですか?俺は大金貨5枚はいかないなって思ってたんですけど?」


今回は俺達含めて9パーティが参加している。賞金の掛かっていた『尾無し』、それに『尾無し』の時は8パーティだったから当然報酬は減ると予想していたが、逆に増えるとは考えていなかった。


「ギン様には正直にお話しますと、この間のお詫びと今回こちらは被害ゼロで終わったお礼が含まれています。被害ゼロというより消耗品の使用もゼロなので、私達はタダで地竜の素材を手に入れた事と変わらないです。ですのでこの値段をお支払いしても私も十分利益がありますので、如何でしょう?」


そんなに感謝してくれるとは思ってなかった。ここまで正直に話してくれるならみんなに確認してOK貰えたらそれで良いな。ただ、例の乱闘騒ぎのおかげなのかあの時の偉そうな態度が消えて、今は誠心誠意俺に向き合ってくれているのが不思議だ。


「それはこの間のギン様達との騒ぎで私達の商会がどれだけ目の敵にされていたか知ったからですよ。こちらの戦力50人をしばらく戦闘不能にされたので、今がチャンスとばかりに各商会が協力して我が商会を潰しにきましてね。一応対外的にはこの街一番の商会となっていますが、現状はもうボロボロで、今は色々きり詰めて規模を縮小して立て直しを図っている所なんですよ。ああ、どうせ遅かれ早かれ各商会が潰しにかかってきたでしょうから、ギン様達を恨んではいません。それで先代は責任をとって引退。私は貧乏くじを引かされたって訳ですよ。このまま潰そうかと思いましたが従業員が路頭に迷うのも可哀そうだと思って頑張って足掻いているって所なんですよ」


・・・うっ。このまま潰れて罪のない従業員が路頭に迷うと俺も責任を感じてしまう。幸いウィリアさんは良い人っぽいし、代替わりして心を入れ替えたんなら立て直しに協力してもいいな。


「分かりました。白金貨2枚で何も文句はありません。あと、これはお礼です。俺の『魔法鞄』に入れて街まで運びます」


皆に素材がいらない事を確認したあと、俺はウィリアさんの提案に従った。地竜の死体を『影収納』に入れると周りから驚かれたが、すぐに地竜討伐の話題に戻ったので、あんまり気にしなくてもいいだろう。


そしてその日の夕方ごろに目的地の湖に到着した。


「地竜の舌ですか?別にタダでいいですよ。一番いらないって言われている部位ですし、食べても美味しくないですよ?」


明日の打ち合わせが終わった後、ウィリアさんに地竜の舌を買い戻せないか聞いたら、こう言われた。やっぱり舌の価値は低いみたいだし、竜タンは広まっていないみたいだ。



◇◇◇

「それでは当初の予定通りまずは餌になる魔物か獣を探して捕まえて来て下さい。船で運ぶので大きくてもゴブリンぐらいのにして下さいね」


朝、準備も終わった所でウィリアさんが周囲の傭兵に声を掛ける。今から餌となる魔物か獣を見つけてから水竜を釣り上げ、軽く弓と魔法を撃って倒せなかったって言う形で撤退する予定だそうだ。それで何とか都を納得させられるって話だけど、俺としてはその辺はあんまり気にしていない。


そして全員森に餌を探しにいった中、俺はヒトミとフィナの3人で湖の畔に立っている。ガルラはレイと森の方で餌を探しにいってもらったが、張り切っていたけどあいつ生餌にするって理解しているのかな。



「よし、フィナ。やってみろ」

「はい。・・・むむむ、やあ!」


難しい顔をしていたフィナが何かを解放したかのように手を広げる。今フィナは『探査』を使って水竜の居場所を探っている。この『探査』もホントのスキルかどうか分からないが、俺が考えたなんちゃってスキルだ。自分を中心に魔力を周囲に広げて何か障害物に当たり魔力の広がりがおかしくなった所を感じ取るって奴だ。

いつもは平面に広げるだけだが、今回は湖の底も調べるので魔力を球状に広げなければならないので難易度が高い。恐らくこれを更に発展させたら『探索』になるのではと考えている。ただ、このなんちゃって『探査』と『探索』はかなり難しいらしくヒトミとレイは早々に覚える事を諦めている。ガルラ?ガルラは野生の勘があるとか訳分かんない事を言って覚える気が無い。『生活魔法』も何とか説得して『火』、『水』、『洗浄』だけは覚えさせたが、他は必要ないと言って覚えてくれない。


「・・・・こっちの方の・・・あの丁度真ん中辺りだと思うよ」


少し自信無さげにフィナが答えるが、俺の『探索』でも反応があり合っているので頭を撫でて褒めてやる。フィナはこのままだと『探索』も習得しそうだ。ホントにこの子は才能の塊みたいな子だ。


「じゃあ、俺達も餌探しに行くか」


フィナの練習も終わったので俺達も餌となる魔物を探しに森に向かう。


うん?・・・・あれ???・・・やば・・・来てる!フィナの魔力に反応したのか?



「二人とも!水竜が来る!気をつけろ!!」



キシャアアアアアアアア!!!!


俺の注意と同時に水面から水竜が現れ威嚇してくる。迷いなくこっち向いているからやっぱりフィナの魔力に反応したんだろう。


「・・・なんかに似てない?見覚えあるな~」


ヒトミの奴かなり余裕そうだ。俺が助けてくれるって信じているからか?いや俺の命に代えても絶対助けるけど、少しは緊張感持って欲しいなあ。


「ヒトミ、それを考えるのは後だ。ブレスが来る!防げるか?」

「は~い」


俺の指示に従って軽い感じでヒトミは手を水竜に向けると、手から青い炎が放射され、水竜のブレスを相殺する。相殺したはいいがブレスは水なのか蒸発して辺りが蒸気で白く包まれた。


「見えなくなったから、次は無理だよ」


ヒトミが注意してくるが、ブレスの後は隙が出来るってのは本当みたいで、水竜はさっきの場所から全く動いていないから何とかなりそうだ。


「ヒトミ、水竜はさっきの場所から動いてないから『白』使って『斬ってくれ』」

「いいの?分かった」


俺の指示を聞くと再び軽い感じで答えて短剣を抜くと、短剣が白い火に包まれる。更にその白い刀身がどんどん伸びていく。そして水竜まで届く距離まで刀身が伸びると、


「やあ!」


気の抜けそうな声と共にヒトミが剣を振ると、『探索』では死んだ事が分かった。しばらく待つと蒸気が風に流されて首を斬られた水竜が湖に浮かんでいた。


「あれ?これなら青でも良かったかもしれないよ?」


斬った本人は手ごたえのなさに驚いた後、一段下げてもイケたかもと言ってる事に俺はドン引きしている。やっぱり属性魔法って極めると、影より性質が悪そうなんだよな。


「一振りだったよな?」、「水竜を切り殺したのか」、「首を切断って」、「あれ?何の魔法だ?」、「ガルラもオーガを殴り殺したとか聞いたぞ」、「マジでこのパーティどうなってるんだ?」


いつの間にか戻ってきていた他の連中が離れた所からヒソヒソ話をしている。水竜を警戒し過ぎていて周り気にしていなかった。ヒトミの『白』が見られたけどどうするか・・・幸い見た奴は数人だから、聞かれたらスキル万能説で何とか誤魔化そう。

そして既に事切れているオークジェネラルを引き摺ってきて呆然と立っているガルラは放置だ。何でそんなでかいの狩ってきた?生餌にするって言ったよな?




「ああ!分かった!水竜ってリュウグウノツカイに似てるんだ!」


周囲の傭兵が地竜の時と同じように騒いでいるが、ヒトミは気になっていた事が分かって満足したのか笑顔で気の抜ける事を言っている。・・・確かにリュウグウノツカイに似ているな。


そうしてまたまたウィリアさんが笑顔で近づいてきた。今回失敗するつもりの依頼が損害ゼロで簡単に成功になったので嬉しいらしい。今回俺達は達成報酬として白金貨2枚と地竜を売った結果、今回のレイド戦だけで白金貨4枚稼いだ。





◇◇◇

「お兄ちゃん、私もようやく『探索』覚えたよ」

「おお。良かったな。これでいきなり敵が襲ってきても大丈夫だな」

「・・・いや、油断してたら無理だよ」

「常に発動していれば分かるだろ」

「いや常時発動とか無理だからね」


・・・無理なのか?


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