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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
5章 風の国境都市のDランク冒険者
93/163

90話 1年後

 

ガルラ達を買ってから約1年経った。



今の所火の国は大人しくしているが、ここ最近また戦力増強を始めたらしく不穏な空気が漂い始めている。結局水の国は戦争に負けて滅ぼされたが、水都のギルマスがいち早く住人に避難を促した為、住人への被害は少なかった。ただ避難民が闇の国の国境都市グレンツェに大量に逃げて来た為、治安が悪くなっているらしい。そして水の国に攻め込んだ火の国は各国から攻め込まれるはずだが、足並みが揃わないのか政治的な何かあるのか未だにどこの国も攻め込んでいない。


 レイとヒトミがDランクになってからガルラとの約束もあるので何度か火の国にも足を運んで獣人の奴隷を解放しつつ、金子達を探しているがあいつら全く見つからない。情報屋を雇ったりして、色々なルートで探らせた結果、水都を落とした後、何故かあいつら急いで戻ったらしいので、火の国にいる事は間違いないらしい。ただ俺達も主要な街は粗方回ったけど、それでも見つからないので、あいつらどこかに隠れているとしか考えられない。こうなるとこっちもお手上げで、向こうから出てくるのを待つしかない。

 ちなみに火の国では浅野と杉山が賞金首になっていたので、俺の偽装工作は上手くいったらしい。一応警戒はしているが、あれから一度も追手が来た事は無いので、もうあんまり警戒する必要もないだろう。


 そうして俺達はというと、この1年レイとヒトミを鍛えて二人とも俺と同じDランクまで上がった。これで俺に何かあっても冒険者として生きていけるぐらいには強くなった。いや強くなりすぎたかもしれない。そして獣人二人も強くなりすぎてしまった。・・・1人は元々強かったけど。






「フハハハハ!いいぞ!もっと私を楽しませろ!ハハハハ!」


 さっきから楽しそうに叫んでいるのはガルラだ。楽しそうだがやっている事はオーガとの殴り合いという、ちょっと理解に苦しむ行動だったりする。


「ガルちゃん。楽しそうだけど女の子がアレはないよ」


 呆れたように言うヒトミは、周囲に大量に倒れているゴブリンから魔石を採取している。ただナイフを使わずに青い炎を纏った手をゴブリンの胸に入れて魔石を回収するといった、おかしな事をしている。そして魔石を抜かれたゴブリンは炎に包まれる。


「ガルもだけどフィナもよ。何で獣人はあんな事できるのよ」


 レイもヒトミと同じように呆れながら言っているが、一人でこれだけのゴブリンを一瞬で倒した奴が言ってもなあって感じだ。さすがにレイはヒトミと同じ真似は出来ないのでナイフで魔石を回収している。



「う~ん。やっぱり難しいな~。お兄ちゃんみたいに出来るようになるには、まだまだだなあ~」


 ゴブリンの腰の入っていない攻撃を上半身の動きだけで躱しながら溜め息を吐くフィナの影は、不自然な形でゴブリンに伸びていた。・・・そう、フィナは影魔法が使えたのだ。『影』だけじゃなくて『火』と『回復』も使える3重詠唱者だった。・・・詠唱はしてないけど。





 二人を購入して1週間経たないうちにフィナが誘拐されたが、その時は速攻で解決したのでフィナに大事なく、それ以来フィナが大分俺達に懐いてくれるようになった。可能性は低いと言われていたけど、実際誘拐されてしまったのでフィナも自衛の為に一緒に鍛える事にした。その時に色々調べた結果、フィナの実力はDランク相当ぐらいの強さだったから驚きだ。

 それからしばらくは体を鍛えていたが、ある時得意属性を調べたら『火』と『洗浄』だったので、俺達流の方法を教えたら魔法が使える事が分かってびっくりした。魔法使いなんて獣人の里全てでも一人か二人しかいないらしく、更にフィナ自身も魔法は使えないと思っていたのに、いきなり使えてビックリしていた。


「何で魔法使えないって思っていたんだ?」

「『生活魔法』覚える前にまずは魔法が使えるか下級の『壁』の詠唱唱えて確かめるんだよ。その時に使えなかったから」


 フィナが言うにはその時に使えなかったら魔法の才能はなく成長したとしても使える事は無いらしい。だからフィナもいきなり使えた事に驚いたそうだ。ちなみに『生活魔法』も覚えていないガルラは才能があるか不明だが本人が詠唱覚える気がないので、才能があっても使えないだろう。

 

 それからはレイとヒトミがついてフィナに魔法を教えたので今では無詠唱で『火』の中級と『上級治癒』までは使えるようになった。ただ、フィナの才能はここまでらしく、この先の上級と呼ばれる『火嵐』(ファイアストーム)は何度やっても使えなかった。この辺は才能によるものらしいが、それでも腐る事なく今度は俺に影魔法を教えて欲しいとお願いしてきた。



「どうすれば覚えられるか分からないからな、取り合えず明るい所で地面に手を振りながら影を良く見て、それで手を振ってるから影が動く、じゃなくて影が動いたから手も動くって逆に考えてみるとかかなあ?」


 俺自身良く考えずに使っているので教え方が正しいのかあまり自信が無かったが、実際に実演して見せると、フィナは早速練習を始めた。


「お兄ちゃん。ぎこちないけど出来たよ!」


 1週間後採取依頼を終えて『自室』に戻って来ると、満面の笑みでフィナが俺に報告してきた。


「出来てるな」

「すごい」

「出来てるわね」

「まさか・・・フィナが」


 地面のフィナの影だけがゆっくりと手を振っていた。そこからは俺も魔法の訓練に加わり今に至る。今日のフィナは『影でゴブリンの足を止めながら回避に専念する。その時に影の捕縛は離さない』を意識させている。本人はあまり納得していないみたいだが普通に出来ている。





「ちぃ!馬鹿が!!」


 舌打ちするガルラに目をやると、相手のオーガが近くの武器?丸太?を手に取る所だった。そしてオーガの持つ丸太が力任せに横薙ぎに振るわれるが、ガルラは手にした金棒でそれを難なく受け止める。受け止めるとすぐに金棒を振り上げて顎にクリーンヒットさせ、崩れ落ちるオーガの頭に振り上げたこん棒を振り下ろして叩き潰した。


「武器がなければいい勝負だったものを・・・」


 ガルラが少し不満そうにぼやいている、これは不完全燃焼だな。あとで俺かレイが訓練手伝う事になるだろうな。


「フィナ~、もう終わりよ~」

「は~い」


 フィナは軽い返事をしながらも手には無詠唱で生み出した青い火。それをゴブリンに投げつけると、当たったゴブリンは炎に包まれ絶命する。




・・・・この1年で一番成長したのはフィナだろうな。




「レイ、今からいいか?今日こそは破壊してやる」


 ガルラが戻って来るなりレイにお願いしている。アレで暴れたりないのかと驚きはするが、まあガルラだしな。


「はあ~。分かったわよ。この辺の片づけ終わるまでね」


 そう言ってレイが手を振り下ろすと目の前に紫の壁が現れた。


「はあああああ!・・・があああああああ!!!」


 レイの出した紫の壁にガルラは全力で攻撃を加え始める。ただその壁は全く壊れる気配がない。この紫の壁は『光壁』(ライトウォール)の上位互換だが、恐らくレイしか使えないだろう。

 ある時『光』の大きさを変えずに魔力を込めて行くとどうなるか実験したら、20倍ぐらい魔力を込めた所で色が白から薄い紫に変わった。それをいつもの様に『光矢』(ライトアロー)として使ったら何故か20倍以上の威力になった。そこからは各魔法に応用してこの紫の壁もその一つだ。ただし通常の『光壁』よりかなり固いので、俺とガルラでも破壊できない。



「えっと。オーガは骨と角と牙が素材なんだよね。そうすると・・・・青にしとくか・・・えい」


 ガルラの倒したオーガの前でヒトミは素材の部位を思い出しながらブツブツ独り言を言った後、青い火をオーガに放つと一瞬で骨だけになる。ヒトミもレイと同じように『火』に魔力を込める事によって魔法の色が変えられる。しかもヒトミの場合は2段階で『火』に魔力を込めて赤から青に、そこから更に魔力を込めると白に変わる。威力も当然白の方が強い。ただ、この白い火は何でも燃やすというか溶かすというか、取り合えず凶悪過ぎる為、許可なく使用は禁止している。ちなみにフィナも『火』を青までなら変えられる。


 そして俺の方は、相手が『身体強化』を使うと結局は元の状態の強さに左右される事はギワンから学んでいたので、ガルラに一から鍛えてもらった。そのガルラの鍛え方は半端ないから、多分今ならBランクのドミルとスキル使わなくても互角に戦えるぐらいに強くなったと思っている。

 更に影魔法の事を教えても問題ない仲間が出来た事で影魔法についても検証や修行を行う事が出来た。まずは射程、日中は日の強さによって変わり、だいたい半径50~200mぐらい、夜になるとこっちも月明かりによって変わるが射程は1~2㎞ぐらい広げられる。当然森や洞窟なんかだと日中でも射程は伸びる。

 そして一直線に影を伸ばした方が射程は伸びそうだけど、円状に広げた場合と射程は変らなかった。そして限界まで影を伸ばすと、影槍やオブジェを作ったりは出来なくなるので限界までは広げない方がいい事が分かった。次に影の強度について、これは俺から近い所と離れた所に影のオブジェを作ってガルラに殴って貰った所、固さはあまり変わらなかった。

 そして俺の天敵『光』。水の国で克服できたと思ったけど、不意をつかれると結局駄目だったので、不意をつかれても大丈夫なように練習して、今では完全に克服した。俺と一緒に訓練していたフィナも克服したが、俺より早かったので少し悔しい。


◇◇◇

「調査依頼だったけど、討伐してきた」


 オーガの頭蓋骨と魔石をカウンターに置いて、気に入らないがシャバラに報告する。今回の依頼はオーガ率いる群れの巣の調査だったが、ガルラがオーガと戦いたいと我儘言ったので、そのまま殲滅戦に突入してしまった。多分こうなったのはシャバラの思惑通りだから気に入らない。


「いや、別にこの後は討伐依頼出すつもりだったから、こっちの手間が省けて文句はないが、本当に倒してきたのかよ。お前らまだDランクだろ。何でBランク依頼を達成できてるんだよ」


 ワザとらしく驚くシャバラを見て、やっぱりこいつの思惑通りだった事を確信した。


「そりゃあ、ガルラ様様だよ。今回もオーガはガルラが倒したぞ」

「また、ガルラか。全く奴隷にしておくのが勿体ないな」


 呆れるシャバラにいつもの様にガルラのおかげだったと嫌味を込めて言うと、これまた同じ事を返してくる。ガルラもフィナも俺の奴隷なので、ギルドでは物扱いとなり、冒険者登録は出来ない。

 シャバラとしては奴隷期間が終わったらガルラは冒険者になって上位ランクの依頼をガンガンこなして欲しいと考えているみたいだ。ギルドもその方が依頼料が入って嬉しいだろうけど、ガルラにその気はないみたいだ。


「奴隷から解放された後は村の状況を見てから決めようと考えていたが、主殿達といる方が面白そうだ」


 ガルラに聞いたらこう返って来た。


 そうしてガルラの強さが知れ渡ると金払うから譲ってくれという奴等もたまに現れるようになったが、当然全て拒否した。たまに諦めの悪い奴がいたが、ガルラが「自分より弱い奴に従うつもりはない」とボコボコにしていたので最近は絡んでくる奴も少なくなった。


代わりに、


「よお。お前らが『カークスの底』か?『レイ』と『ヒトミ』だな?」


 魔法が使えると知られたレイとヒトミの勧誘が多くなった。二人は対外的には中級魔法までしか使えない事にしているのだが、それでも頻繁に勧誘されるのでこの世界では思っている以上に魔法使いは貴重な存在らしい。まあ、二人とも女だからそっち目的の奴等も多いけど、当然全て断っている。

 ガルラと違いこっちの勧誘は諦めの悪い奴ばかりで、その癖弱い奴も多かった。ただ、あまりにもしつこい奴等はフィナが訓練場に連れていって、おもちゃにして遊んでいた。


 そして俺達のパーティ名は師匠達と同じ「カークスの底」にした。俺にとって一番思い入れのあるパーティ名だし、俺が入る予定だったから師匠達も文句は言わないだろう。

 一応みんなに確認したが、レイとヒトミは喜んで賛成してくれた。嬉しい。

 

 ガルラとフィナは興味なかった。



◇◇◇

「どうだ、ガルラ?」

「いる、こっちだ」


 ガルラを仲間にしてから捕まっている獣人の解放という仕事が増えた。依頼で立ち寄った街、近くまで来た街には必ず立ち寄りそこで捕まっている獣人を解放して回っている。今回は街のでかい屋敷に囚われているようだ。


「大丈夫か?」


 影移動で簡単に屋敷に侵入した俺達は地下牢に閉じ込められていた獣人を発見する。ここでガルラが事情聴取している間に、俺は気付かれないように隷属の首輪を収納する流れになっている。

 今回囚われていたのは成人した獣人だったので、2~3日『自室』で休ませた後は、一人で大森林まで帰ってもらった。獣人は森の中で逃げに徹すれば人から捕まる事は無いらしいので、心配はしていない。子供の獣人は心配なので、大人の獣人を見つけるまで待って貰ってから一緒に帰ってもらっている。

 風の国に来てからは既に10人以上の獣人を解放しているので、『獣人の解放者』とまんまの通り名で呼ばれているが、姿を見られるヘマをした事が無いので、その正体は不明のままである。

 フィナには何度も一緒に大森林に帰るように言っているが、その度に『これがあるから』とニコニコ笑いながら隷属の首輪を指差して断られている。それだったら、と首輪を回収しようとすると、尻尾の毛を逆立てて滅茶苦茶怒るので訳が分からない。





◇◇◇

「よお。ギン、依頼完了か?」


 俺達が依頼を完了させて受付までいくと、シャバラが満面の笑みで俺に話かけてくる。こいつがこんな笑顔の時はろくでもない話を持ってくる事は分かっている。


「ああ、『鎌折れ』倒してきたぞ、これが証拠な」


 今回の依頼は賞金がかけられている巨大蟷螂『鎌折れ』の討伐依頼だったので、討伐の証であるでかい鎌を取り出す。


「おお、これが、噂の奴の鎌か。途中で折れて長さはないけど太さは3倍ぐらいあるな。こうなるともう鎌ってより斧だなこりゃあ、アハハ!」


 討伐の証を見ながらシャバラは笑っているが、目がこちらを観察している、いつ話を切り出そうかタイミングを伺っているな。


「なあ、そろそろレイとヒトミもランクアップしようぜ、ついでにギンもな」

「断る」


 大体分かっていたが、思った通りランクアップの話だった。俺は既に20ポイント稼ぎ終わって、事ある毎にシャバラからランクアップを勧められているが、当初の予定通り断って『D止め』している。ヒトミとレイにもCに上がると義務が生じる事を説明したら、二人とも『D止め』すると言って誘われても断っている。


「なあ、頼むぜ。この前この街唯一のCランクが『風都』に移籍したから、商業ギルドの奴等がますます調子に乗って肩身が狭いんだよ。お前等ならCランクの依頼なんて余裕だろ。助けると思って、な?ギルマスからもお前ら説得しろってきつく言われてるんだよ」

「断るって言ってるだろ。俺達は誰かに命令されたりするのは嫌なんだよ」

「・・・チッ!相変わらず頑固な野郎だ。まあその話はまた今度な。それより指名依頼が来ているぞ」

「受けるつもりはないって何度も言っているだろ」


 俺達はDランクなのに顔も知らない奴から、たまに指名依頼が来るようになった。C以上なら不思議じゃないけどDに指名依頼とか顔見知りの奴以外から来るのは珍しい。大抵は報酬が少ないのにC以上の難易度の依頼で、俺達を利用しようとしているのがバレバレなので全て断っている。


「なあ、頼むよヒトミ~。何とかギンの奴説得してくれよ。今回は商業ギルドからの依頼だけど大本は王宮からの依頼だって話なんだよ~」


 クソっ!ターゲットをヒトミに替えてきやがった。


「そうなの?・・・だったら受けた方がいいんじゃない?」


・・・ぐっ・・・彼女に言われると賛成したくなるが、後ろでシャバラが手を握って喜んでいるのが見えた。


「ダメだ。今回は何か嫌な感じがする。冒険者ってのは勘も大事だからな。この依頼は受けるべきじゃないって俺の勘が言っている」


 心を鬼にして断る。


「はあ~。ギンにはこれでも結構色々便宜を図って稼ぎのいい依頼教えてきたんだけどな~」

「噓つけ!お前のおススメ依頼は大概近くにCランク以上の魔物がいて、なし崩し的に戦うように仕向けているじゃねえか!この間のオーガの巣の調査とかガルラが我慢できないの分かってて勧めてきただろ!」

「・・・」


当の本人はギルドの壁に背中を預けて腕を組んで目を瞑って冷静に見せているが、尻尾が忙しなく動いている。


「はあ~あ。今回は水竜らしいんだけどな。ギン達が受けてくれないと困ったな~」


ピクッ!


 シャバラのわざとらしい言い方に忙しなく動いていた尻尾がピタリと止まり、ガルラはゆっくりと目を開けた。その目はキラキラしていた。


「ほう、水竜か。見た事は無かったな。主殿も見た事はないだろう?どうだ、見るだけでも話のタネになるし、自慢できるぞ」


・・・・ちょっと見たいと思ったじゃねえか。でも駄目だ、シャバラの奴絶対何か隠してやがる。


「ギンジ、あんたの負けよ。どうせヒトミとガルラの二人からお願いされたら、結局言う事聞く事になるんだからさっさと諦めなさい。ギンジもちょっと水竜見たいとか思ったでしょ?あとシャバラさんは顔に出し過ぎ、ひねくれ者のギンジはその顔見たら意地になって受けようとしないって何回も教えたでしょ」


 今まで黙ってみていたレイが口を挟んできた時点で勝負は決まってしまった。これ以上言っても無駄な事は分かっているので、俺は諦めて依頼を受ける事にした。


「さっきも言ったが、依頼はここから二日程進んだ湖に住み着いた水竜の討伐だ。・・・当然商業ギルドの方のレイドで、頭は商業ギルドのギルマスだが実際は『バーダン商会』だ」

「はあ?マジかよ。それで何で俺達なんだよ?」

「・・・『バーダン商会』ってあそこだよね?」

「そう、ガルラとギンジが大暴れした所!」

「あの時はフィナも暴れてたぞ」


 ここ風の国は『建国王』の御用商人だった『商業王』リドラルテが興した国で、冒険者ギルドより商業ギルドの方が強いという商業が盛んな国だ。この為、各商会の動かす金額も大きく、個別に傭兵を雇っているのが一般的だ。だから少しでも強い冒険者はすぐにスカウトされて傭兵として雇われる事が多い結果、冒険者より傭兵の方が強く、数も多いので商業ギルドがでかい顔をしている。ついでにそこに雇われている傭兵もだ。


 当然俺達も何回も色々な所に勧誘を受けた。その都度丁重に断っていたのだが、『バーダン商会』・・・この国境の街ウインドグラニカで最大規模の商会・・・ここだけは最初から偉そうだった。入れてやるからさっさと契約書にサインしろって態度だったので、少し手荒く断ったら、


「チッ!俺らに逆らってこの街で生きていけると思うなよ。お前らもこんな奴、さっさと見限って俺らの所に来た方がいいぜ。たっぷり可愛がってやるぜ」


 その時の一番偉そうな奴が、そう言いながらヒトミの胸に触ったのが見えた瞬間、俺がキレて殴ったそいつは壁まで吹っ飛んでいった。そこからは冒険者ギルド内でそいつの手下約50人をボコボコにしてやった。ガルラもノリノリで参加していたのは言うまでもない。ただ、時々視界に小っちゃい女の子が見えたのは気のせいだろう。全て気絶させてギルドの外に並べた後、フィナが良い笑顔をしていたのは俺の見間違いだと思っている。

 その時のヒトミとレイは、『光壁』内で俺があれだけキレた事で自分達が大事にされていると分かり喜んでいたらしい。


 そんな因縁のある相手が頭のレイドに指名依頼で参加する事になるとは・・・絶対何か起こるぞ。


「それが今回の指名依頼、向こうからお前らを参加させてくれって泣きつかれたんだよ。俺もお前らが暴れたの目の前で見てたからな、最初は断ったんだけど、どうしてもって言われてな。・・・ああ、今回はホントに敵対する気はないみたいだ、お前らに会ったらまずは頭を下げるって言ってたから下げなかったら帰っていいぞ」


・・・・そこまで言うんなら参加してもいいかな・・・いや、参加は決定か。ただ因縁付けてきたらすぐに帰ってやろう。


「分かったよ。但し向こうがムカつく態度だったら依頼の途中だろうが帰るからな」

「ああ、いいぜ。助かるぜギン!やっぱり持つべきものは友達だぜ」


 友達になった覚えはないぞ。調子のいいシャバラに呆れつつ依頼内容を確認する。


「今回は向こうが出す8つの傭兵パーティとお前等の合計9パーティだ。さっきも言ったがこの依頼は王宮からの依頼らしいから、もし討伐しても水竜は全て商業ギルドが持って行く事になる。まあそれでも報酬は1パーティ白金貨2枚だそうだ」


『尾無し』の時と比べたら報酬高いな。あの時は大金貨5枚ぐらいだったっけ?


「まあ、それも成功した場合だけどな。ただ、どうやら商業ギルドでは今回失敗を想定して動いているらしいぞ」

「はあ?何でだよ。それなら俺達に指名依頼が来た意味が分かんないんだけど」


 依頼受ける前からやる気無くなるな。やっぱりやめておくか。


「待てって。相手は水竜だぞ、この街の面子で討伐出来る訳なんてねえだろ!ただこの依頼の大本は王宮からだって言っただろ。失敗するにしてもそれなりの面子で挑んだって事にしないと、上から何言われるか分かんねえんだよ。だからこの街最大手の商会の傭兵とこの街最強の冒険者パーティで挑んで失敗したって事にしたいんだよ」


 確かにそれなら文句言われてもどうしようもないだろうな。ただいつの間に俺達がグラニカ最強パーティになってんだ?


「グラニカ最大手バーダン商会の傭兵50人を倒した自覚はねえのかよ。まあいい、それと今回依頼失敗しても大金貨5枚は出るからただ働きにはならない、安心しろ」

「はあ?何で依頼達成してなくても賞金が出るんだ?」


そんな話聞いた事ないぞ。


「商業ギルドが今回お前達を参加させてくれって泣きついてきたって言っただろ。ただお前等とバーダン商会の因縁があるからこっちもかなりごねてたら、こうなった」


こうなったって・・・怪しさ満点じゃねえか。・・・・警戒はしておくか。


「王宮もそんなに水竜が欲しいなら騎士団や『風都』の腕の立つ傭兵、ランクの高い冒険者に依頼すればいいのにな」

「今は火の国が怪しい動きしているだろ。騎士団はもちろん実力者達もすぐに動けるように『風都』から離れないように言われているんだよ」


 そう言う理由なら納得できるけど、ただ失敗前提ってのが気に入らない。まあ依頼は受ける事にして、広場で出発前に準備を整えて翌日ギルドに向かった。




「おお、明日から出発だから準備頼むぞ」

「・・・は?」


 受付に行くなりシャバラから言われて固まる。昨日の今日で何で準備が出来ている?早くないか?


「ああ、みんなお前らが戻ってくるの待ってたんだよ。これだけでもガチでお前らを必要としてたって分かるだろ。ただ、お前らを嵌めるってセンもあるから気を抜くなよ」


 シャバラの注意は言われるまでもなく分かっている。あの時の復讐って線も考えているけど、明日会えば『探索』でどっちか確定するだろ。そうして出発当日を迎えた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 面白いです でもヒトミって安請け合いして主人公死んだら引き篭もるくせに考え足らなすぎじゃない? 一年以上異世界で行動してんだったら主人公の意見尊重しろよって思いました
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