88話 奴隷商
翌日、
レイとヒトミは今日はスキンケアの日だそうで護衛用の奴隷を購入しに1人奴隷商人の店に向かう。奴隷商の店はまだ二人には刺激が強そうだから一人は丁度いい。そして購入する奴隷は二人を守れるぐらいの強い女だと納得してもらっている。
「いらっしゃいませ。本日はどのような奴隷をお探しでしょうか?」
店に入るなり身なりの整った店員が尋ねてくる。当たり前だが見える範囲に奴隷はいないな。
「強い女の奴隷を探している」
そう伝えると店の奥に通され、ある一角まで案内される。やっぱり二人を連れて来なくて正解だった。
「この辺りが戦闘もできる奴隷になります」
「少ないな」
案内された牢屋の中を見渡すと全裸の女が5人座っていた。全裸だけど、恥ずかしくないのか慣れているのか俺を見ても隠そうとする素振りを全く見せない。
「なにぶん、女の戦闘職と限定されますと、このぐらいしか・・・男なら20人程ご紹介できるのですが・・・」
「いや、男はいい。それであいつらはどれぐらい強いんだ?」
「一番強いのが、真ん中のでかい女で元Eランク冒険者、次が・・・」
最初の一人目の説明で既に牢屋の中の奴隷から興味を無くしてしまった。代わりにさっきからピリピリした殺気が別の牢屋から向けられているのでそっちの方が気になった。マップでは赤丸だから俺の敵みたいだが、知り合いでもいるのかと疑問に思いそちらに歩いて行く。
「ちょ、ちょっと、お客様。そっちはまだ躾が終わってませんよ」
慌てて声をかけてくる店員を無視して俺はその相手の場所まで向かう。そいつは薄暗い牢屋の奥に手足を拘束されて座っていた。この薄暗さだと人がいる事ぐらいしか分からないだろうが、『暗視』スキルのおかげでよく見える。ボサボサの長い灰色の髪、目つきは鋭く俺が何かしたのかこちらをすごい睨んでくる。そして、その頭には犬みたいな耳がついている。獣人の女だ。体つきもしっかりしているが酷く汚れている、そして右腕の肘から先が無かった。
「なあ、お前俺の事知ってるのか?」
「知らん」
牢屋の奥に向かって声を掛けると話しかけてくるなという感じがヒシヒシと伝わってくる一言だけが返ってくる。
「なら何でそんな殺気を向ける?」
「お前ら人族が村を滅茶苦茶にしたんだ。人族を憎むのは当たり前だろう」
こいつも誰かを憎んでいるのか・・・俺と同じだな。いや、こいつは人族全体だから俺の方がまだマシだよな。
「お前、俺に買われる気はないか?ちょうど強い護衛を探しているんだ。お前なら何となく俺が安心できるぐらい強そうだ」
「断る!人族を憎んでいると言っただろう。それに私は獣人だ!自分より弱い奴に従う気はない!」
「って事は俺がお前より強ければ従うって事だな。それなら勝負して勝ってやるよ」
「・・・お前は馬鹿か?獣人の私が片手だけと言っても人族なんぞに負ける訳ないだろ。簡単に殺してしまうぞ?」
マジで?獣人ってそんなに強いの?いやいや、流石にギワンやドミル程はないだろ。俺も『身体強化』使えば結構強いし大丈夫だろ。
「そんなん、やって見なけりゃわかんないだろ。まあ、口で言っても信じてくれなさそうだし、取り合えずやってみようぜ」
「ほ、本当によろしいので?こいつは犯罪奴隷で、ここに来る時も大暴れしてかなりの人数にケガを負わせたぐらいですよ。ホントに殺されますよ」
今までのやり取りを聞いていた店員が心配してくれる。聞くと一応武器はギルドの訓練場で使うのと同じ木の棒みたいなので死ぬ事は無いだろう。気にせず戦える場所まで案内してもらう。
「・・・ホントに馬鹿か?今更もう後戻りは出来んぞ、死んでも文句言うなよ?」
案内された場所は鉄格子に囲まれた部屋だった。鉄格子で囲まれているのは逃亡防止だろう。この部屋に案内されてしばらく待つとボロ布で胸を隠し、ボロボロのズボンを穿いた獣人が入ってくると扉が閉められ、鉄格子越しに手足の枷を外された獣人は軽く体をほぐし始める。さっきみたいに全裸のままだと戦っている最中にあのヒトミと同じぐらいの胸の揺れに気が散って仕方ないから隠してくれて良かったと思う。
「久しぶりに体が軽くなった。そこだけは礼を言っておく」
「別に礼はいい。それで俺が勝てば言う事聞いてくれるんだな?」
「いや、勝つのは前提だ。他にも色々言いたいが、まずは私に勝ってからにしろ」
人族を殺したいと言っていたが、鎖を外されてもいきなり殴りかかってこないし、意外にも会話が成り立っている。向こうは負けるつもりなんて無さそうだし余裕なのか。木の棒を手にした獣人は構える訳も無くただ棒を持って立っているだけだが、隙がない。
「行くぞ」
向こうが頷いてたのを確認してから俺は走り出す。
ガッ!
俺の横薙ぎの攻撃を片手で持った棒で受け止められる。一応こっちは両手で持っているのだが、押してもビクともしない。これでもスキル無しでもDランクの実力はあるはずなのに・・・少し凹む。こいつはパワー系だと思うから、正面から向かって行っても駄目だと判断し、後ろに回り込むように移動する。ただし背後に回ると見せて、そこから更にグルリと相手を回り込んで結局元の位置に戻ってから攻撃を加えるが、こっちも簡単に止められた。俺の動きについてこれるって事は動きも遅くないのか。取り合えずまた動き回って隙を見つけよう。そう考えて再度攻撃を仕掛けようと動く。
「ふむ。やっぱり弱いのと戦ってもつまらんな」
獣人が呟いた途端、殺気が膨れ上がる。初めて獣人が攻撃に転じた。・・・ヤバい!!
攻撃を急遽止めて体をのけ反らせながら回避を行う。何とか向こうの横薙ぎの一撃は回避できたが、無理な態勢で避けた為、そのまま地面に仰向けに倒れこむ。見上げると獣人が足を上げて俺を踏みつぶそうとしていた。
クソッ!
咄嗟に体が動いて転がりながら回避する。少し距離をとった所で跳ね起きると、さっきまで俺がいた所を獣人が踏みつぶしていた。地面に放射状の亀裂が入っているから食らってたらタダでは済まなかっただろう。
「ちぃ!思った以上にすばしっこいな」
「お前今マジで俺の事殺そうとしただろ。危ねえなあ」
「ふん!今更怖気付いたか?だがもう遅い、お前には悪いが憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ」
イラッ!・・・こいつ既に勝った気か・・・仕方ない。思っていた以上に強いからな。少しズルい気もするがスキルを使わせてもらおう。
「今からスキルを使わせてもらうが、構わないか?」
「ハハハ、スキル使わなかったのは負けた時の言い訳作りか?口だけなら私より強そうだな。だがまあいい、使っても結果は変わらん。少しは私を楽しませてみろ」
言い方がアブナイ奴なんだけど、こいつ戦闘狂なのか。
「行くぞ」
再び俺は武器を構えて走り出す。
ガッ!!
再び俺の横薙ぎの攻撃は受け止められるが、『身体強化』を使った今回はさっきまでビクともしなかった相手を押し込めていく。
「むっ?・・・フン!」
押し込んでいくと顔色を変えた獣人は空いた方の手で殴りつけてきたので距離をとって躱す。・・・今殴りつけてきた方は肘から先が無い方だけど全く躊躇いなかったな。殴っても痛く無いのか?
「フハハハハ。中々楽しませてくれるじゃないか。こっちも本気をださせてもらうぞ」
なんか悪役みたいなセリフを吐くと獣人は初めて構えをとった。と言っても、今まで持っていた棒を肩で担いだだけだが、さっきよりも威圧感が増している。
「今度はこっちから行かせてもらう」
そう言って俺に向かって駆けだしてくる獣人。・・・速い!
ガッ!!!
向こうの振り下ろしを俺は棒を振り上げる形で受けて膠着状態にしようとしたが、今度は俺が少し押し込まれる。ポジションの有利は向こうにあっても『身体強化』使ってる俺が片手の女に押し込まれるとは思わなかった。こいつのこの馬鹿力、何かのスキルか?
少しだけ受ける角度をずらして向こうの攻撃を流し相手の態勢が崩れた所に、横を走り抜けながら棒を振ると手応えがあった。と思ったら頭に警報が鳴ったので慌てて前方に向かって飛ぶと頭の上を何か・・・多分向こうの手にした棒が通り過ぎていった。あぶねえ~、咄嗟に飛んでなかったらくらってた。飛んだ後は一回転してから起き上がり状況を確認すると、向こうは既に棒を肩に担いでいた。俺の一撃のダメージはあったのか少し眉間に皺が寄っている気がする。俺は一瞬だけ視線を巡らせ、獣人と奴隷商達の位置を把握する。そして俺が状況確認を終わった途端再び攻撃を開始してくる。俺を待ってるなんて律儀な奴だ。
今度は向こうの振り下ろしを俺も同じように振り下ろしで受ける。今度は位置的有利は無いのでこっちが押し込んでいく。
「ハハハハ、おもしろい、おもしろいぞ、お前。まさか私とここまで張り合える人族がいるとはな」
そう言いながら獣人は空いている右手で俺を殴りつけてこようとする。実際互角だが、こいつは右手にハンデを負って俺と互角。しかも鍔迫り合いになると、右手がフリーになっている向こうが有利。
殴ってこようとするので再び距離をとり、もう一度視線を巡らせ位置取りを確認すると、向こうは間合いを詰めてきていた。このまま壁際まで追い込まれて膠着状態まで持っていかれたら、殴られて俺が負ける。だからこれ以上は押し込まれる訳にはいかない。
ボオオオオ!!
「!!・・・チッ!!」
『火炎放射』を使うと獣人は舌打ちしてから距離を詰める事を諦めて俺から離れるが、そこには俺が『水』を設置してある。
「!!」
『水』に気付いたのか獣人は慌ててその場から飛びのく、そのままその場にいたら水浸しになっていただろう。ただそれだけなんだけど、勘が鋭いおかげで『水』を見上げる事もなく咄嗟に飛びのいた場所は俺が追い詰めたかった部屋の角。ここが一番影になっていて奴隷商達から遠いのでここに追い込みたかった、ここなら奴隷商達にバレる事はない。恐らくこいつは両手があればAランクのギワンよりも強い。だから何としても仲間になって俺の彼女達を守ってもらいたい。
ガッ!!
三度目の鍔迫り合い。但し場所は俺が追い詰めた一番奥。
「ハハハ。どうした?それだとさっきと結果は変わらないぞ」
獣人が右手を引く。さっきと同じように俺を殴ろうとするが、
———ズッ
足元から影を這わせてこいつの右腕を拘束する。
「??・・・な!何をした!貴様!」
右手が動かなくなった事に驚きつつも無理やり動かそうとするが、俺の捕縛は破られないようだ。自分のスキルだけど相変わらずチートだなと思う。
「悪いな。俺のとっておきだ。このまま勝てせてもらう」
「う、動かん!・・な、何故?」
自分の足も動かなくなっている事に気付き動揺しているので、武器を持つ手への注意が散漫になる。
今だ!
そのまま棒を押し込んでいくと俺の棒が相手の首筋に触れた。
「つっ!!!!く、くそ!私の負けだ!」
意外に素直に負けを認めてくれたので、距離をとりつつ影をもとに戻す。獣人は捕縛が解かれて動き出すようになった右腕と両足の裏を念入りに確認するが、当然おかしな所は見つからない。
「はぁ。はぁ。お前強いな。ホントに最後の手段まで使わされるとは思ってなかったぞ」
「・・・・ガルラだ。私の名前だ」
「おお、宜しくなガルラ。俺はギンだ。それで俺の仲間になってくれるのか?」
「・・・他にもある条件を聞いて納得してもらってからだ」
「いやあ、すさまじい戦いでした。ガルラに1対1で勝つとはギンさんは、さぞ名のある冒険者なんでしょうね」
応接室に戻ると先ほどの戦いを見学していた店員が揉み手をしながら俺に話しかけてくる。気のせいかもしれないけど何か企んでそうな顔なので警戒しておこう。
「取り合えずガルラの事は気に入った。買うつもりでいるが、ガルラから他にも条件があるって事だからそれを聞いてからかな」
「いえ、ギン様。奴隷に条件を付ける権利等ありませんよ。こいつの代金大金貨1枚支払って頂ければ、あとはギン様がお好きになさって大丈夫です。ただガルラの場合はもう1人獣人を買う事をお勧めします」
この店員さっきは売り物じゃないって言っていた割には進めてくるな。しかもセットで売ろうとしてくるのはアレか、抱き合わせ商法みたいな奴なのか。
「いや、それでガルラが言う事聞いてくれなくても困るから、まずはちゃんと話を聞いてからにする」
取り合えず先にガルラの条件を聞こう。まだ何か言いたそうな店員を手で制してガルラに視線を送る。
「一つは、私の同胞を見つけた場合は助けると約束しろ、二つ目はこれでも婚約者がいるから夜の勤めは出来ないという事だ。後は人族を殺して回りたいが、流石にそれは駄目だと分かっているから我慢する。」
最後のお願いは流石に自重してもらおう。
「こいつは前の主人に強引に夜の相手をさせられそうになった時に、あそこを蹴り潰したんですよ。前の主人も嫌がる様がいいとか言って命令していなかったそうなので、自業自得な所もありますが、それでこいつは腕を斬り落とされたのです。更に主人に怪我を負わせたって事で借金奴隷から犯罪奴隷にされたので、ソッチは十分気を付けて下さい」
・・・男としては店員が教えてくれた話は色々な所が縮み上がるが、別に俺にはレイとヒトミがいるからそう言う事をするつもりはない。
「夜の相手については、俺には恋人がいるから心配はいらない。それよりも同胞についてだけど助けろって言っても、もし今の暮らしに満足してたらどうする?」
「・・・無いと思うが、その時は相手の意思を尊重する」
それなら特に文句は無い。
「分かった。約束するよ。それで一応聞いておくが、この街にガルラの同胞はいるのか?」
「いる。それもここにだ!まずはそいつを助けろ!」
チラリと店員に目を向けると、連れてきますと言って席を離れていった。セットで売ろうとしていた奴かな。商人が部屋から出て行き壁に鎖で繋がれたガルラと二人きりになった所で気になっていた事を聞く。
「えっと。俺から仲間になれって言っといてアレだけど、俺達も人に言えないヤバい秘密あるからな。秘密を知ってからやっぱり仲間にならないとか言い出すなよ」
「さっき言った二つの約束さえ守ってくれたら、負けた私は言う事に従うさ」
「言ったな?ホントにホントだな?後から後悔するなよ。あと恨んでいるって言っても許可なく人を殺すのも無しな。油断させて俺達を襲うのも無しだからな」
「はあ~。それなら獣神ガルフォード様に誓ってやる。これでいいだろ?」
・・・ガルフォードって誰?獣神って言ってるから獣人の神様的な奴かな。ガルラの言い方からそのガルフォードに誓うって事は約束を破るって事はしないって考えていいんだろう。
ピクッ!
話しているとガルラの大きな耳が何かを聞き取ったのか大きく動き尻尾が忙しなく動きだす。
「・・・お姉ちゃん!・・・あう!!」
「貴様!フィナに乱暴するな!」
扉が開くと店員がかなりやつれて怯えた顔の子供の獣人を連れてやってきた。すぐにその子はガルラに気付くと顔を輝かせて近づいていこうとしたが、首に繋がった鎖が店員の手に握られていた為、感動の再開は阻まれた。ガルラ早速威嚇しているけど本当に約束守ってくれるのかな。
「いくらだ?」
「白金貨1枚になります」
「ほら、これでいいだろ、鎖を離してくれ」
白金貨1枚とガルラの代金大金貨1枚を机に置くと、店員は俺の言う事に従い鎖を離してくれた。
「お姉ちゃん!!」
「良かった。フィナ無事だったか。ケガはないか?」
今度こそ本当の感動の再会だ。俺に対して塩対応のガルラだったが、今は本当にうれしそうな表情と安心したような表情で連れて来られたフィナと言う女の子を抱きしめている。
「他に獣人はいないのか?」
「はい、獣人自体珍しいので当店にはこの2名だけになります。私が二人を買い取った際に聞いた話ですが、ガルラは首輪だけでは抑えられず隙あらば暴れたらしいので、それを抑えさせる為にこの子供とセットで最初から売られていたそうです。それでこの二人を買った前の主人はガルラにあそこを潰されたから、獣人はもういらんって事で私の店に売りに来たんですよ。こっちの小さい獣人もセットでおススメしようとしていたので、このまままとめて買って頂ければこちらも有難いです」
「ああ、二人とも購入する。それにしても金額に差がありすぎじゃないか?」
小さい獣人が白金貨1枚で大人のガルラが大金貨1枚、10倍違う。別にガルラは不細工じゃない、逆に凛々しい顔でかなり整ってると思うし、戦力としては片腕でもAかBランクはあるだろうからもう少し高くてもいいと思った。
「子供の獣人は躾る事で隷属の首輪無しでも主人の言う事に逆らわないように出来るのですが、ガルラ程になるとさすがに無理なんです。それでも大人の獣人は人気はありますから普通は大金貨5枚なんですが、ガルラは普通の獣人以上に反抗的でしたから商品にならないと思って困っていたんですよ」
へえ~。大金貨4枚も得したのか。いや、Aランク並みの戦力が手に入ったんだ、それ以上に儲けた気分だな。
「それではギン様、契約を行いますので、こちらへ。お前たち後ろを向いて首を見せろ」
店員の言い方にガルラは怒るかなと思ったけど、不貞腐れた顔をしながらも素直に言う事に従い後ろを向いてしゃがむと髪をどかし首を出す。首には良く分からない文字っぽいものが書いてある首輪が装着されていたが、読めないので多分文字じゃないだろう。
「それではギン様、この首輪にギン様の血を一滴でいいので垂らして下さい。それで契約成立です」
言われて渡されたナイフで指先を切り、血を一滴ずつ言われた通りに垂らすと、首輪が光り出した。
「・・・く!」
「・・・くああああああ!」
首輪が光ると二人とも苦しそうな声を上げるので焦る俺。
「お、おい。これ大丈夫か?苦しそうだぞ」
「・・・・はい、終わりました、これで契約成立です。これからはギン様がこの二人の主人となります。注意点ですが、奴隷のしでかした事は全てギン様の責任になる事、ガルラは犯罪奴隷ですので逃亡されない事、不要となった奴隷は必ず奴隷商人に売却する事ですね。他の細かい注意点については、この紙にまとめておきましたので後で読んでおいてください」
「こっちの子は何奴隷なんだ?奴隷から解放するにはどうすればいいんだ?」
「借金奴隷になります。今回の白金貨1枚分をギン様に返却すれば奴隷から解放されます。その時はこちらにお越し頂ければ隷属の首輪を外させてもらいます。ちなみにガルラは犯罪奴隷なので10年は奴隷から解放できません」
フィナの方はすぐに解放できそうだから問題ないが・・・ガルラは10年か長いな。まあ、レイとヒトミが強くなれば故郷に返して期間中静かにしておいてもらおう。それで10年経てば解放すればいいか。
「他には何かありますでしょうか?」
「あの二人の服をくれ。あんまりボロくない奴で、かといって豪華すぎるのも無しだ、まあ普通の町人みたいな格好で頼む」
ガルラはさっきの戦闘で身に付けていたボロ布だけ、フィナの方は何も着ていないので、さすがにこのまま連れて歩けない。すぐに店員が誰かを呼び二人を連れて行ったので丁度いい、聞きたい事を今聞こう。
「あと、この街の影商人を紹介して欲しい」
「・・・影商人ですか・・・知ってはいますが簡単には紹介できませんね。まずは理由を教えて下さい」
いくら高い買い物したからと言って今日会ったばかりの奴にそんな事教えてくれる訳ないよな。それなら俺も正直に話すしかないか。お金に困ったらって話だったけど、さすがに首はずっと持ち歩いていたくない。影商人なら首だけでも買ってくれる、または買ってくれる奴を紹介してくれそうだな。
「・・・『首渡し』って知っているか?あれ俺の事なんだよ。で、今野盗団の首や宝を持っているけど、いい加減どこかに売りたいんだ。この街に来たばっかりで知り合いの商人なんていないから、影商人に売るのが手っ取り早いって思って」
「『首渡し』!まさかギン様が!この街に来ているって噂はありましたが、まさか・・・いや、あの強さ・・・証拠!何か証拠はありますか?」
「う~ん。証拠と言っても野盗の首とか宝ぐらいしかないけど、どれか証拠になるか」
カバンから野盗のボスの頭2つと高そうな貴金属をいくつか取り出すと、店員が目を開く。
「こ、これは、こいつらは・・・賞金首の・・・ギン様、お願いがあるのですが、こいつらの他にも首があればこちらで買い取りたいのですが宜しいでしょうか?」
「引き取ってくれるなら構わない。いつまでも首を持ち歩きたくないから、むしろ助かる」
そう言って手持ちの首を全て取り出す。2つの野盗団を潰しただけあって生首が50個あるのは仕方ないが、こうやって並べるとすごい光景だな。店員さんは全く動揺する事無く賞金首のリストと生首を照らし合わせている。
「それではこちらが代金となります、それとお願いなんですがこの首を売った事は内密にして頂きたいのですが・・・」
大金貨5枚渡してきた店員がニヤリと笑うので口止め料込のようだ。むしろ俺も黙っていてもらいたいので問題ないが理由を聞きたい。
「それは私達の店にこいつらを壊滅させる強い奴隷がいると話題になるからです。そうすると、客も増えますので私達も利があります」
そういう下心があるってのは逆に安心できるな。それなら今度から首はここで売るか。
「当然、買取させて頂きますが、可能であれば生け捕りにして頂きたいのです。それならそのまま奴隷として売り払えますので・・・ああ、この国では野盗は捕まれば死ぬまで犯罪奴隷として強制労働ですから復讐される事は無いのでご安心下さい」
俺が微妙な顔をしていたのか、慌てて付け加えるが別に復讐が怖いわけではない。生け捕りにするってのが少し納得いかなかったが、死ぬまで強制労働なら文句はない。
「じゃあ、それでいい。ただ、ゾロゾロと連れて帰ってこれないからな。アジトで縛って転がしておいて、場所を教えるでいいか?」
「それで十分・・いえそうしてくれた方が我々が野盗を連れて街に戻って来た時に討伐したと印象づけられるでしょう」
なし崩し的に野盗の扱いが決まった。嫌ならこの辺で野盗をしなければいいだけだ。そもそも野盗してる時点でこうなる事は覚悟しているはずだ。
「すまん。待たせた」
話もまとまってしばらく待つと町人の格好をしたガルラとフィナがやってきた。ガルラはどう見ても男物の服を着ているが、フィナは少し色のくすんだワンピースを着ている。
「そう言えば自己紹介がまだだったな。俺はギンだ。・・・フィナって言ったな、怖くても名前はちゃんと名乗れ」
師匠からはムカつく奴でも冒険者がしっかり挨拶してきたらこっちもしっかり返せと教えられているので、ガルラの後ろに隠れようとするフィナに注意する。冒険者じゃないけどフィナもそこはしっかりさせておく。ガルラも分かってくれたのかフィナを前に出す。
「・・・が、ガルフィナです。お、お願いします」
「よし、よく名前言えたな!本名はガルフィナか。俺もガルラみたいにフィナって呼んで良いか?」
頭を撫でながら呼び方を決めるとコクコク頷いているので大丈夫なんだろう。
そして二人を連れて街を歩いている。獣人の二人が色々注目を集めている気がするが気にしない。・・・俺は全く気にしていない。
「主殿、さっきから言っているがおかしいぞ!」
気にしているガルラがさっきから抗議しているがそれを無視して、俺は葡萄を美味しそうに食べるフィナと手を繋いで歩いている。いつの間にかガルラから『主』って呼ばれてるけど認めてくれたんだろうか。
奴隷商に聞いたけど一般的に獣人は人族の下と認識されていて、その奴隷の扱いは人より酷いものらしい。そういう扱いのはずなのに主人の俺が何も食べず、奴隷のフィナが食べ歩いているのはおかしいとガルラがさっきから文句を言ってくる。だけど俺は二人をパーティメンバーとして見ているので奴隷扱いをするつもりはない。ガルラの抗議を無視して宿に辿り着き店主が文句を言ってくる前に銀貨1枚渡して黙らせてから部屋に戻った。




