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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
5章 風の国境都市のDランク冒険者
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87話 『自室』の検証

魔法の練習に満足して、すっきりした表情の二人と街に戻ると何やら街が騒がしい。何かあったのかと不思議に思いながらもギルドに向かい、シャバラのいる受付に座る。


「薬草10個ずつな、手続きを頼む。なあ、何かあったのか?」

「街の近くに火竜が現れたらしい。大きな音がしたから近くにいた冒険者が様子を見に行ったんだよ。そしたらブレスでも吐いたのか、辺り一面吹き飛んでいたそうだ。で、今は何人か雇って火竜の行方を捜索中だ。お前らも心当たりがあれば報告してくれ」


・・・・・・。


「それって北門から出て北東に少し行った所か?」

「ああ、お前ら何か心当たりでもあるのか?」


あるなあ。あり過ぎて困るな。


「い、いや、ない。採取中にそっちの方から何か音が聞こえたなって思い出してな」


俺は黙っている事にした。多分バレないだろう。


「そうか。ならいい、くれぐれも気を付けてくれよ。あと手がかり見つけたら絶対報告してくれよ」


話も終わった俺達は受付を離れて無言で宿まで戻り、『自室』に入った所で、ようやく話始める。


「ねえ、この騒ぎの元凶って瞳じゃないの?っていうか瞳よね?」

「・・・うう・・・・やっぱり私かなあ・・・どうしよう」

「このまま放置でいいだろ。2,3日して火竜が見つからなければ街も落ち着くさ」


そうしてその間に俺は北と東の野盗団を潰して回った。幸い2つの野盗団に捕まっている人はいなかった事、宝をどこにも売り払わなかったので話題になる事はなかった。火竜騒ぎは1週間ぐらい話題になっていたので、ヒトミが申し訳なさそうにしていた。そして、俺は2人を指導しながら新人クエストをこなしていった。





◇◇◇

「きゃああ!!」

「瞳!!」


ヒトミの叫び声とレイが心配する声が上がったので、慌ててそちらに目をやるとヒトミがゴブリンから攻撃を受けていた。幸いゴブリンが手に持つのは木の棒で、ヒトミも盾で攻撃を防いでいるのでケガはないが、怯えながら攻撃を受けているのでこのままではいつか攻撃を食らい本当にケガをしそうだ。


「チッ!」


舌打ちしてから影を広げ相手をしていた2匹のゴブリンを影で貫く。その後はヒトミを攻撃していたゴブリンまで影が伸びたので同じように影で貫く。


「・・・はぁ、はぁ。ご、ごめんなさい」


気が抜けたのか地面にペタンと腰を下ろしてヒトミが謝ってくる。レイはこちらに近づいてくると、いつものように『治癒』(ヒール)をかけてくれる。


「無事ならいいさ。ただ、う~ん。ゴブリン3匹で影魔法使う事になるとは・・・困ったな」


本当に困った。今、俺たちは新人クエストのゴブリンの魔石集めをしているが、ゴブリン3匹に苦戦してしまった。俺一人なら余裕で倒せるが、ヒトミとレイを庇いながらだと思った以上に難しい。中級以上の魔法は人を巻き込む心配があるので、二人には初級魔法だけ使用を許可しているが、まだまだ慣れていないのか魔法が当たらない。それで距離を詰められてさっきの様に俺が影魔法を使う事になってしまった。二人が成長すれば俺がフォローする事はほとんど無くなると思うんだけど、成長するまでに万が一があったら大変だ。そうなると選択肢はかなり限られてくる。




「奴隷を買おうと思う」


ゴブリン討伐後の帰り道二人に俺の考えを伝えると、良く分からなかったのか二人はキョトンとした顔でこっちを見つめる。


「今日のゴブリンで俺は影魔法使っただろ。影魔法使いって世間一般じゃ不吉の象徴だから、極力人前で使う訳にはいかないんだよ。けど今日みたいな事は今後も起こる可能性があるから二人の護衛として、もう一人パーティに入れたい。ただ、パーティ組むとなると俺達が勇者だって事を秘密にしておくなんて絶対無理だと思う。だから俺達の秘密を絶対に喋らない仲間が欲しい。その点、奴隷なら魔道具で主の命令は絶対破れないから丁度いいかなと思って、それに二人の護衛だからな、女にしようとは思っている」

「ギンジ君の言う事は分かったけど、奴隷か~。なんか嫌だな」


俺も嫌だけど、二人の安全の為に我慢するしかないので二人にも我慢してもらおう。それに奴隷って考えなければいい。


「奴隷って考えるから駄目なんだよ。普通のパーティメンバーだと思えば大丈夫。俺もそのつもりで接するし、無茶な命令はしないつもりだ」

「・・・そっか。そうだね。メンバーだと思えばいいのか」


ヒトミは納得してくれたが、レイは何か言いたそうに俺を見ている。まだ何か思う所があるのかな?だったらはっきり言ってほしいんだけど。


「その奴隷に手を出したら浮気だからね」


・・・レイは何言ってんだ?大丈夫か?


「・・・する訳ないだろ!レイとヒトミがいるのに」

「そっか、そうだよね。ならいいよ。良かった、私達飽きられたのかと思ったじゃない。でも本当に手を出したら駄目よ。浮気だからね!」


レイはそれだけが心配だったみたいで、それ以外は何も言って来ないけど、他はいいんだろうか。


「でも、そうなると、家が狭くなるなあ」

「ああ!そうよ、駄目じゃない。その子がいるとできないじゃない!」


ヒトミはそういう意味で言ったわけじゃないので、呆れた目でレイを見ている。俺も呆れている。


「ねえ、ギンジの『自室』って私達にも使えないの?使えたらすっごく便利なんだけど」


レイの言う通りこれがあると、野宿の心配ないし、部屋にいれば安全だしとかなり便利だ。けどどうしたら出来るかは俺にもよく分かっていないんだよ。


「・・・『自室』・・・やっぱり出来ないね。ギンジ君は使う時やっぱり自分の部屋を頭に思い浮かべているの?」


ヒトミが1回で諦めて俺にコツを聞いてくる。諦めるの早くないか。


「そうだな、自分の部屋を意識してる気がするな」


そこからは俺の両隣から『自室』の単語しか聞こえてこなくなった。正直五月蠅い。


「もう、全然出来ない!魔法が使えて少しは出て来た自信がどこかに行きそう」


しばらくすると軽く拗ねたような感じで珍しくヒトミが怒っているので頭を撫でて宥める。そんな簡単にスキル覚えられない事は後で話しておこう。俺なんて『身体強化』覚えるのにいくら使ったか。


「出来ないからって怒るなって、ほら、一緒にやってみるか。まずは頭の中で自分の部屋をイメージだ。それでイメージしたら手を前に出して・・・いくぞ。せーの」


「「『自室』・・ひゃああ」


2人で『自室』を唱えた途端、ヒトミが奇声を上げてその場にペタンと座り込んだ。


「・・・ど・どうした?ヒトミ、大丈夫か?」


いきなり座り込んで訳が分からないが、取り合えず心配して声を掛けると、少しトロンとした顔でこっちを見上げる。


「ギンジ君、今私に何かした?」

「いや、してないけど。どうかしたのか?」

「今、マッサージしてもらった時のような気持ち良さが体に駆け巡ったの。何だろ、疲れが取れたような感じする」


疲れが取れたような感じって、『治癒』されたみたいな感じと違うのか?よく分かないな。使える聖女さんは、さっきから彼方に向かって『自室』と叫んでいる。


「大丈夫か?取り合えず街に戻るまで部屋で休んでた方がいいかも」

「体の調子は逆に良くなった気がするけど、取り合えず少し部屋で休むね」


そう言って部屋に行こうとするヒトミを支えながら『自室』に向かう。


「レイ!ヒトミの様子がおかしいから一緒についていてくれ」

「どうしたの?『治癒』(ヒール)いる?」


彼方に向かって叫ぶのをやめてヒトミを心配そうに声を掛けてくる。レイって本当に手軽に『治癒』使うけど、魔力とか大丈夫なのかな。


「それは大丈夫らしいけど、急に体調悪くなったみたいだから、一緒についていてほしい。何かあったら『念話』で知らせてくれ」


そうお願いすると、ヒトミを部屋に運ぶ俺の後ろをレイもついてくる。そして部屋までヒトミを運んで取り合えず部屋の隅に瞳を座らせる。


「今から布団敷くから今日はもう寝て休んでた方がいい。多分ゴブリンとの戦いで自分が思っている以上に疲れたんだろ」

「そ、そうかなあ。別に調子は悪くないっていうか逆に良いんだけどなあ~」


不思議そうに自分の体を見渡しながら答えてくるヒトミの横で俺は布団の準備をする。そう言えば大きい布団買ってなかったので明日買いに行こう。奴隷も見に行きたいし、明日は休みだな。


「ぎ、ギンジ!ちょっとこっち来て。何かおかしな扉が増えてる!」


増えてるって何だ。そんな物が増える訳ないだろ。なんて考えながら部屋から出ると、レイが驚きの表情で扉を指差す。・・・確かに増えてる・・・風呂の折れ戸とトイレのドアの間に見た事ない扉があるのでマジで驚く。しかも風呂とトイレの間にドアが入るスペースなんてなかったけど。今は普通にスペースがあるから玄関から扉までの通路が少し長くなっている。更に驚く事にその扉には『ヒトミ』と書かれたプレートがぶらさがっていた。


俺は驚きの表情のまま、後ろ手でまだ閉めていない扉を開けて部屋の中へ振り返る。ちょうどヒトミが寝間着に着替えはじめようとして、ズボンに両手をかけて下ろす直前だった。


「な。何かな?そんな見られると恥ずかしいよ」


俺が凝視している事に気付いたヒトミが文句を言ってくるが、そんな事気にならないぐらいの事が発生している。俺は表情を変える事なく、謎の扉を指差す。


「え?何?お風呂先に入れって事?・・・うん。分かった・・・何ならギンジ君も一緒に入る?・・・なんてね~」


普段、この手のギャグを絶対言って来ないヒトミが珍しくボケてくるが、それすら反応出来ない出来事が現在進行形で発生している。


「??ホントにどうしたの?」


ようやく俺の様子がおかしい事に気付いたのか、服を脱ぐのをやめてこっちに向かってくる。


「はっ?・・・何これ?・・・私の・・・部屋?」

「そ、そうよね、どう見ても瞳の部屋の扉よね。・・・入っても大丈夫なのかな?」


さっきから固まっていたレイがヒトミの質問に答える。仲が良いって言ってたし家に遊びに行った事もあるんだろう。


「いいと思う。・・・待って!私が最初に入る」


入っていいと言われたので俺が先頭で入ろうとしたが止められた。言われた通りヒトミが軽くドアを開けて中を覗くと、すぐに部屋に飛び込んでいった。


「な、何で?まんま私の部屋だよ。これどうしたら出来たの?」


部屋の真ん中で辺りを見渡しながら不思議そうに言っているが、俺も良くわかっていないので答えられない。


「ギンジ。私も自分の部屋欲しい」


隣にいるレイから服をクイクイ引っ張られながらお願いされるが、どうしたら出来るのか分からないのでまずは色々検証しないといけない。自分の部屋を珍しそうに眺めているヒトミを置いて俺とレイは外に出る。そしてさっきのヒトミと同じようにレイの手を握って同じように『自室』を唱える。すぐに扉を開けて中を確認するが、さっきと変わらずヒトミの部屋があるだけだったので、扉を閉めて再度チャレンジするが、やっぱりレイの部屋は現れない。


「瞳、ちょっとこっち来て教えてよ」


未だに自分の部屋の物を懐かしそうに見ていたヒトミをレイが引っ張ってきて、やり方のコツを聞いているが、さっき俺が教えた事と全く変わらない。


「それじゃあ、いくわよ。せーの」

「「『自室』」・・ひゃああ」


さっきのヒトミと同じように奇声を上げて座り込むレイ。俺は何かしたつもりは無いのに、何故そんな顔で睨むんだ?


「怜ちゃん。もしかして今気持ち良くなかった?マッサージされてる時のような感じ?」

「そ、そうね。そんな感じで気持ち良かったし、何か疲れが取れた気がする」

「じゃあ、多分成功していると思うよ。私もそんな感じあったから」


ヒトミがそう言うとレイは慌てて立ち上がり家に入って行くので俺も後をついていくと、あった。ホントにさっきと同じ場所に違う扉が設置してあった。レイが扉の奥を確認するとやっぱり自分の部屋だったみたいだ。


「あれ?私の部屋無くなってるね。やっぱりギンジ君にくっついてないと出てこないのかな?」


って事で色々検証した結果、最初の内はレイとヒトミが自分の部屋をしっかりイメージして俺にくっついていないと扉は出てこなかったが、二人の部屋があるのが俺の家と認識したら二人が触っていなくても扉は出現するようになった。そして誰かが部屋の中にいると部屋の中は変化せず、消耗品等の補充もされない事が分かった。

そしてレイとヒトミだけ『自室』に入ってから外に出てきてもらうと、俺がどこにいようが最後に扉を出した場所に出てくる事が分かった。これは二人には『自室』に入って貰い俺だけ移動して別な場所で扉を出せばレイ達は『自室』にいながら移動できる事になる。あとはドアストッパーなんかでドアが少しでも開いていれば扉は消えないようだ。そして『自室』にいてもレイ達は『探索』に反応するんだけど、外からでは反応があるだけで姿は見えないし、触れる事も出来ない。あと『念話』も普通に使えた。


「自分のスキルだけど良く分かんないな」


色々検証してみたけど、結局何でそうなるのかは分からなかった。


「そうだね。でも更に便利になった事は確かだね」

「そうね。服も・・・まあ家の中なら着れるでしょ。あとは化粧水とか日焼け止めが手に入ったのは大きいわ。」


そう。二人とも普段使いしていたスキンケア用品が手に入ってかなりご機嫌だ。そこまでご機嫌になる理由はよく分からないが、下手に口出すとブチ切れられる事は姉貴で学習しているので、俺は何も口にしなかった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] あれ?すでに自室に入ったまま移動出来たはずだけど? 委員長を火の国から救い出した時に使ってたやん。 それとは別の事?わかりやすく教えてよ。
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