8話 冒険者ギルド
商業ギルドを後にした俺は冒険者ギルドに足を向ける。少しドキドキながらギルドの扉を開けて中を見ると、そんなに人はいない様子だ。俺が中に入ると冒険者と思われる数人から視線が向けられるが、すぐに興味を無くしたようで仲間たちとの会話に戻っていく。腕時計はトラブルを避ける為、付けてはいないので正確な時間は分からないが大体15時頃だと思う。だというのに既に酒を飲んで騒いでいる奴、酔いつぶれている奴までいる。
おお、なんか冒険者って感じがしていいな。俺もああして昼間から酒飲んで騒いでみてえ。・・・酒飲んだ事ないけど。
そんな事を思いつつ受付っぽいカウンターまで来ると、青い髪の女の職員さんが対応してくれる。かなり美人なお姉さんだ。
「いらっしゃい。用件は何ですか?」
おお、街に入る時の役人と違って、こっちは顔を見て笑顔で対応してくれる。
「えっと、冒険者になりたいんですけど」
「登録ですね。それでは身分証をお見せ下さい。登録料は銅貨1枚ですけど大丈夫ですか?」
職員さんはお金の心配をしてくれるが、大丈夫、ちょっと自分でもビックリするぐらいお金持ってるから。
「身分証はこれでもいいですか?あとお金はこれで」
そういって仮の身分証と鉄銭10枚渡す。
「えっと、名前は『ギン』で・・・所属はこの街でいいですか?」
所属って何だ?良く分からないから聞いてみるか。
「所属って何ですか?ここにすると何か良い事でもありますか?」
「所属っていうのは、その人がどこを拠点に活動しているかですね。冒険者は長期に街を離れる事があるので、連絡取りたい時はその人の所属ギルドにお願いするのが一般的です。あと指名依頼や手紙なんかも所属ギルドに届いたりしますね。メリットとしてはここの所属になるとこの街の出入りにお金がかからないことです。」
そう言えば街に入る時に薄味スープの少年が別の街のギルド員は銅貨1枚必要って言ってたな。依頼で街の外に出て帰ってきた時に毎回銅貨1枚ってのも馬鹿らしいな。他の街の事なんて分かんねえし、所属はここでいいか。
「所属については分かりましたので、この街で登録をお願いします」
「はい、ありがとうございます。それでギンさんは以前冒険者してたり、どこかの街の兵士の経験とかは?」
「ないですけど、あるとどうなりますか?」
「そういう経験があれば少し上のランクからスタートできるんですが、ギンさんは無いようですので、新人冒険者のGランクからのスタートになります」
やっぱりランクあるんだ。この辺はラノベやゲームでもあるから知ってるな。モンハンとかだと最初はランク低い依頼は採取系依頼が多いけど、こっちも同じかな。
「ランクについて説明を聞かせてもらってもいいですか?」
「ランクは新人冒険者のGが最低で最高がAランクになります。依頼を1回達成すると1ポイント加算されて20ポイント溜めると一つ上のランクに上がれます。依頼に失敗すればポイントが1つマイナスになってポイントの累計がマイナス5になるとランクが1つ下がりますので注意してください。Cランクへ上がるにはまた少しやり方が違いますがその説明はDランクになった時にする事になっていますので、まずはDランクを目指して頑張って下さい。ちなみにGランクの依頼は全て固定です、この板に書かれた10個の依頼をまずは1回ずつ達成して10ポイント稼いでください。次は全く同じ依頼を倍の数討伐又は納品をして下さい。依頼は後で確認して下さいね。あとこちらがギンさんのギルドカードになります。なくすと再発行に銀貨1枚かかるので注意してください。」
嫌な顔一つせず丁寧に説明して依頼の板とギルドカードを渡してくれる職員さん。中々好印象だ。しかしギルドカードってまんまドッグタグじゃん。ハンターさんから奪った奴はギルドカードだったんだ。
「最後に新人冒険者には決まりですので、説明させていただきますが、指導員制度という物がありまして、新人冒険者がすぐに死んでしまわないようにベテランの冒険者が付いて指導してくれるという制度です。ギルドを通しますので同じランクの冒険者を雇うよりはお安いのですが、それでも1日銀貨1枚最長10日間になります。新人冒険者にはかなり厳しい金額ですがご利用致しますか?」
おお、そんな制度あるのかそりゃあ便利だ。ただ1日銀貨1枚って事は1万か新人には少し高いから厳しいのかな?けど俺なら余裕でだせる額だな。これで死ぬ確率下がるんなら安いもんだ。
「はい。お願いします」
「はい、そうですよね・・・安いと言っても新人さんには・・・・・えっ?」
何故か指導員制度利用すると言ったら驚かれたぞ?あんまり利用する奴いないのか?
「えっ?ホントですか?冗談ですよね?」
おいおい、ギルドの人が信じてくれなきゃ駄目だろ、お願いしてるこっちが少し不安になってくるじゃないか。
「いえ、だからその制度利用するって言ってるんですけど」
「ほ、ほ、ほ、本当、本当ですか?ちょ、ま、待って、ま、おち、落ち着いて下さい。」
いや、あんたが落ち着けよ。何で利用するって言ってんのにそんなに慌ててるんだ?ギルド公認の制度だろ?
「ち、ちなみに何日を予定されていますか?」
「最長で!」
落ち着いた受付のお姉さんに日程について即答すると、再び慌てだす。
「さ、さ、最長?さ、さい、最長だと10日ですよ!銀貨10枚ですよ!ちょ、ちょっとま、待ってください、誰かギルマス呼んできて!」
ええ?なんで?そんな大ごと見たいになってんの?隣の国では一応追われてたからあんまり目立ちたくないんだけどな。あとお金の価値ってちょっと俺の感覚とズレてんのかな?
「あの新人、まじであの制度利用すんのか?」
「アレ利用する奴初めて見たぞ」
「いや、3年ぐらい前にどっかの貴族のボンボンが利用してるのは見た事あるけど、あいつ『最長』って言ったよな?それこそ、この街のギルド初なんじゃねえか?」
「あの新人ナニモンだよ、見た感じそんな大した装備してねえよな」
「あいつ武器も持ってねえぞ。そんな金あるならまずは武器買えよ」
「ありゃ多分どっかの騎士爵か男爵あたりの三男以下の奴だろ。長男が爵位を継いだから平民落ちして、餞別に家から貰った金で冒険者になりに来たんだろうよ」
俺とお姉さんのやり取りを聞いていた冒険者達が口々に勝手な事を言っているのを聞いているとやたら身なりのいい渋い人がこちらに歩いてくる。背筋もピシッと伸びて歩く姿も様になっていて素人の俺から見てもかなり強者の気配を感じる。
「ああ。ギルマス、すみませんわざわざ。それでこの新人さんがあの制度を利用されると言うんですよ。しかも最長で!」
お姉さんが俺にオッサンを紹介する前に勝手に説明を始める。説明を聞いた渋い人もかなり驚いた表情になるが、受付のお姉さん程、取り乱しはしない。どうやらこの人がギルドマスターみたいだ。
「すまんね。自己紹介もまだなのに説明受けて、状況は理解した。私はこの街のギルドマスタ―のレニーという。君はギンだね」
カウンターに置かれたギルドカードに書かれた俺の名前を見たのか俺が名乗る必要は無くなったので頷くだけにする。
「それで日数最長で指導員制度を利用するってのは本当かな?ちなみに料金は前払いになるが大丈夫か?」
「ええ、大丈夫です。それでお願いします。」
そう言ってポケットから銀貨10枚を渡すとギルマスとお姉さんは再び驚いた顔に変わる。さっきも兜売って銀貨7枚稼いだ俺からすれば大金には思えないんだけど、確かに日本円で10万ってなれば大金か。
「いやあ、この制度利用する新人を見るのは私がギルドマスターになって初めてだよ。確か最長での利用はこの街で初めてだったはずだ。もう一度聞くが、最長で制度を利用するって事でいいんだね?」
「はい、いいです。それよりもこの制度利用するのってそんなに珍しいんですか?ベテランに教えて貰えるなんて結構いい制度だと思うんですけど」
さっきから不思議に思っている事をギルマスに質問すると少し困った顔になる。
「私もギルマスになって多くの新人を見てきた今ならこの制度はいいと思うんだけど、ただ、それを利用する新人たちがこの制度を良く思ってなくてね。大体冒険者になろうって奴は大概お金が無いから利用できないし、金がある奴はこの制度を利用するより装備に金を回すからな」
この世界ではそういうもんなのかな。俺は安全にいきたいから利用するけどね。
「まあ利用してくれるならこちらとしては喜んでちゃんとした指導員を探そう。ある意味新人からギルドへの依頼みたいなもんだからな。それでギンの戦闘スタイルはどんな感じか教えてくれるか?できれば同じスタイルの方が指導しやすいからね」
おお、結構親身になってくれてる。これなら指導員も期待できそうだ。でも俺のスタイルってどんな感じだ?『探索』で敵の位置を把握して影で捕縛、収納してから離脱して『自室』へ逃げ込むだけど
「えっと、敵の位置を把握して隠れて攻撃って感じですかね」
多分大体合ってる。嘘はついていない。
「そうか、それなら斥候系か。あと武器は何を使う?見た所何も持ってないようだけど」
「本当は片手剣ですけど、田舎からこの街に来る途中でゴブリンとの戦闘で失くしました。今は短剣しかないのでそっちの使い方を教えてくれる人がいいです」
実際は片手剣も1回しか使った事ないんだけど手持ちにハンターから奪った短剣が3本あるからまずはこっちを使っていきたい。兵士から奪った装備は全部マーク付きだったので、外では使えないし。
「うん。分かった。明日までに指導員は探しておくから、明日の昼にギルドまで来てくれるかい。今日は・・・この時間だからもう街の外に出ない方がいいだろう。」
辺りを見渡すと日が落ちて夕方になっており先ほどより冒険者の数が増えている。依頼を終えたのかカウンターでお金を受け取っている人や、モンスターの一部と思われる物を職員に見せている人、食事をしている人、酒飲んで騒いでいる人結構賑やかになってきている。
「分かりました。明日のお昼にまた来ます。ありがとうございます」
お礼を言って立ち去ろうとした所、お姉さんが申し訳なさそうに俺の服の袖を引き耳を貸すように合図する。
「本当に申し訳ないのですが、私が取り乱したせいでギンさんが指導員制度を最長で受ける事が周りに知られていまいました。それでギンさんをお金持ちと勘違いした人がその、・・・言いにくいんですが・・・後を付けてきて」
ああ、やっぱりそういう定番イベントが起こる可能性があるのね。まあ兵士達と1ヶ月遊んだ影魔法あるから多分大丈夫だろ。
「それでお詫びといっては何ですが、今日は私の家に泊っていって下さい。さすがにギルド職員がついていれば絡まれる事はないと思うので・・・」
ええ?こんな美人なお姉さんの家に泊っていいのか。いや、さすがにそれは色々まずい気がする。それに万が一絡まれたらお姉さんの前で影魔法は使えないから大変だ。いざとなれば『自室』に逃げればいいし。
「さすがにそれは色々とマズいので遠慮させて下さい。まあそんな悪い人なんてそうそういないですよ」
『探索』
・・・・・いるな。秒でフラグ回収しちゃったよ。言っても二人以外マップに赤はないから大丈夫だろ
「えっと、それでも本当に気を付けてくださいね。何かあればすぐに助けを呼んで下さい。この辺は大声出せばすぐに衛兵が駆け付けますから、くれぐれも狭い路地とかに入ってはいけませんからね」
受付のお姉さんは本当に俺の事を心配してくれる。
こっちに来てからこんなに心配されたの初めてだ。ギルマスも良い人っぽいしこの街に来て良かった。
「そんなに心配しなくても大丈夫ですって。それではまた明日。昼に受付にくればいいんですよね」
「はい、私が対応できるようにして待っていますので、ギルドまで来たら声を掛けて下さい」
それから俺はギルドを後にしたのだが・・・・やっぱりついてきてる。俺がギルドを出るとすぐに後を付けてくる二人組がマップに見えている。
さて、どうしようかな。このでかい通りだと絡んではこなさそうだ。少し狭い路地に入って釣ってみるか。
そう考えて大通りから一本狭い路地に入って少し歩くとすぐに背中から声がかけられる。
「おい、そこの新人、ちょっと止まれ。」
声を掛けられるが無視して歩くのを止めないと慌てたように声を掛けられる。
「おい!聞こえてんだろ!新人!ちょっと待てや!」
ここで俺はようやく足を止めて振り返り声を掛けてきた二人と大通りまでの距離を確認する。
うん、これぐらいなら影魔法使っても誰からも見られないかな。こいつら見た目まんま世紀末だな『ヒャッハー』とか言ってそう。
こっちはこれで準備万端だが一応間違いかもしれないので確認はしておこうと思い少し話をする。
「俺ですか?えっと、何か用ですか?知り合いではないですよね」
「ああ、てめえに用があんだよ、ぐへへ。ちょっと俺らにお前の荷物渡してくれねえか?」
やっぱり勘違いじゃないか、せっかくこの街に良い印象あったんだけどな。
「はあ、嫌に決まってんだろ。馬鹿かお前ら。今ならまだ見逃してやるから捕まりたくなかったら帰れ」
こいつらにはもう乱暴な口調でもいいかと思い手を振ってぶっきらぼうに答える。こいつらのせいでいい気分が台無しだ。
「ああ?てめえ何ふざけた事言ってんだ?」
「こいつは新人教育が必要だな」
そう言って二人は腰から短剣を取り出して凄んでみせるがこの1ヶ月捕まれば死ぬ鬼ごっこをしていた俺からすれば少しも恐さを感じない。良く見れば二人の腰には長剣と斧がそれぞれぶら下がっているので、こいつらの本当の武器はこっちだろう。
まあどうでもいいか、影はもう足元まで伸ばしてるし、ほい、捕縛・・・・全裸にするか・・『収納』はい終わり。この後は、
「うわああああああああ。変態がいる。衛兵をよんでくれえええええ」
影で捕まえている奴らの脇を通って大通りに出るとすぐに捕縛を解除して路地を指差しながら大声をあげる。
大通りを歩く何人かが俺の指差す路地を覗き込んで次々に叫びを上げる
「うわああああ、マジで全裸の奴等がいる!早く誰か衛兵を!」
「きゃあああああああああ!」
騒ぎになりすぐに路地を覗こうとする人で道が塞がり俺からは絡んできた奴等が見えなくなる。更に遠くからこちらに走ってくる兵士が見えるので、もう大丈夫だろう。辺りの人たち全員が路地に目を奪われている隙にあいつらのパンツとか靴下なんか要らないものを影から通りに放り出してそのまま商業ギルドへ足を運んだ。
う~ん、全部で銀貨2枚かあいつら冒険者ランク低かったのかな?まあ新人からカツアゲするような奴等だしこんなもんか。商業ギルドで二人から奪った装備を売り払った後は商業ギルドおススメの宿に泊まった。
夜依頼書を確認すると
①薬草10個納品
②魔力草10個納品
③スライムの魔石10個納品
④ゴブリン10匹討伐
⑤角兎の肉10個納品
⑥ラチナの実10個納品
⑦大鼠10匹討伐
⑧ドアールの湧水10本納品
⑨巨大蝙蝠10匹納品
⑩毒森蛙10匹納品
10個の依頼はこんな感じだった。難易度はどんなもんか分からないけど、指導員が教えてくれるだろう。