86話 魔法の検証
先に宿をとった後、俺たちは装備を整える為に広場にある武器屋、防具屋を見て回る事にした。
「これでいいかな?似合ってる?少し派手じゃない?」
そう聞いてくる武器防具を完全装備したヒトミの格好は赤が目立つ斥候職というイメージだ。太ももには最初の頃に俺が使っていた短剣が予備武器として装備されている。腰のベルトにはメイン武器となる、これまた柄や鞘が赤一色の短剣を装備している。短剣の反対には小さいが丸くて赤い木製の盾、そしてベルトの後ろにはすぐ使えるようにポーションがセットされている。
斥候職っぽいが目立つ赤色をしているのは赤だと火をイメージしやすいから火魔法使いは赤を好んで着ると防具屋の人に教えてもらった。そう言えばガーネットも赤い服着てた。カラミティは水魔法だったから青かったんだな。カイルは・・・土だから何か薄汚れてたイメージだな。
「おお、よく似合っているよ」
「そうね。可愛くて良い感じじゃない」
俺の隣でヒトミより先に装備を整えたレイは白を基調とした服を着てその上に深緑色のマントを羽織っている。そしてレイの太ももにはヒトミと同じく予備武器の短剣が、腰のベルトには俺の片手剣と同じぐらいの長さの白い戦棍を装備している。ヒトミと同じく反対には同じような盾を装備しているが、こちらは色が白になっているのは、レイは光魔法が使えるので白を基調としている。レイが装備しているこの白い服はエルフの里からの流れ物らしくて、素材は不明ながらヒトミの装備より防御力があり、更に魔法の威力を高めてくれるそうだ。ちなみにこの服大金貨5枚で一番高かった。
杉山達の様子から俺の死んだふり作戦は成功しているみたいだし、多分追手が来る心配はもうしなくてもいい。ヒトミも死んだ事にしたし、ずっと部屋に引き籠っていたから顔バレを心配しなくても大丈夫。レイだけは教国で貴族や教会関係者、平民まで大勢の人に顔を見られており、顔バレの可能性が高いので外にいる時は仮面をつけて顔を隠してもらう事にした。ギルドに行く前に仮面買ってればよかったと後悔するが、もう遅い。まあギルドにレイの顔知ってるような人もいなかっただろうし、顔も半分は隠していたから問題ないだろう。
「うん、レイの仮面は仕方ないけど、他は二人ともよく似合ってるじゃないか。見た目は新人冒険者には見えないぞ」
店を出て改めて二人並んで立ってもらい感想を伝えると二人は恥ずかしそうにしていたが、すぐに二人とも何かに気付いたようで顔を見合わせるとほぼ同時に『念話』で呼び出された。
(えっと。買ってもらって今更だけどホントにいいの?)
(やっぱり全部で白金貨2枚は高いよ~。やっぱりお店に返してこよう?)
(二人ともしつこい。買う時に何度も言っただろ。二人を庇いながらだと、絶対どこかで庇いきれなくなる。その時に万が一があって後悔しない為だって。俺はもう二度と大切な人を殺されたくないんだよ。それが嫌ならせめて自分で稼いで装備を揃えた後に返してくれ)
((・・・・・))
そう言うと二人は何も言わなくなった。
「そんじゃあ、次は商業ギルドでレイの『魔法鞄』買うぞ~」
「ええ?まだお金使うの?」
「もうやめておこうよ」
あれ?二人ともノリ悪いな。手を挙げた俺が馬鹿みたいじゃん。
「大丈夫、これで最後だ。まあ何でも最初は出費が嵩むもんだって」
ノリの悪い二人を無理やり納得させて俺たちは商業ギルドに向かい、無事レイ専用の『魔法鞄』を購入した。
「♪~♪♪~」
色々相談して購入したポーチ型の『魔法鞄』をベルトに装備したレイが嬉しそうに歩いている横でヒトミが疑わしそうな目でさっきから俺を見てくる。
「ねえ、あれいくらだったの?結構すると思うんだけど?」
「いや、そんなにしないって。俺もヒトミも無限に入る収納持ってて時間経過無しだろ。レイの奴の容量はちょっと大きなお風呂ぐらいだし、時間経過もするから金貨1枚ぐらいだったな」
「日本だととんでもない値段になりそうだけど、こっちだとそんなものなんだ~。」
ヒトミは俺の答えに納得した様子だが実際は大嘘だ、ホントは金貨15枚でした。受付に値段を言わさずに購入するって高難度ミッションだったが、無事達成できてよかった。これでまたブーブー言われる事はないだろう。
一安心した俺だが後日この噓がバレて二人から2時間お説教された。
「そう言えば、二人に確認しときたいんだけど、日本に帰りたい?帰りたいなら真面目に色々調べようと思うけど?」
夕飯も食べて、後は寝るだけって時に、二人の意思を確認していない事に気付き質問してみた。
「ギンジは?どうするの?」
「水着窃盗事件の時に俺の事を信用してくれなかった親の所に帰るつもりはないな」
「・・・ご、ごめんなさい」
「レイの事はもう許したって言っただろ。謝らなくていいから。悪いのは金子達だろ」
「・・・それなら私も帰らない。多分帰っても大学卒業したら好きでもない人と結婚させられると思うから、ギンジと一緒にいるよ」
嬉しい事を言ってレイは俺の体に腕を回して更にくっついてくる。
「好きでもない人と結婚って・・・今時政略結婚とかってあるのか?」
「あの人達は私を道具としか見てないから・・・会社を大きくする為ならそれぐらいやるわよ」
・・・親をあの人達って・・・この話題は地雷だな。あんまり深入りしない方がいいか。
「レイの考えは分かった。ヒトミは?」
「う~ん。弟達は気になるけど、帰りたいかって言われたらノーだね。ようやくギンジ君の彼女になれたのに、別れる事になるのは嫌だよ」
ヒトミも嬉しい事を言ってくれる。けどこれって俺が帰るって言えば二人ともついてくるパターンかな?帰るつもりはないけど。
2人の意思を確認して、今後の方針を話しあった所、日本に帰る方法は無理して探さない。手がかりが見つかった時は軽く調べるって事でまとまった。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「ホントに気を付けてね」
「危なくなったらすぐに逃げてね」
2人から何度も心配されながらも、俺は野盗討伐に火の国との国境を目指す。今日ギルドで酒を振舞った時に野盗の情報を仕入れていたので、ある程度の目星は付けている。
ふう。これで後は野盗の宝を売って終わりだな。あ~でもダルクさんがいないな。どこに売ろう。あんまり目立ちたくないしな~。でも俺が『首渡し』ってこの街でもバレたから目立たないって無理か・・・まあ売るのは金に困ってからでいいか。
いつものように野盗を全滅させて、捕まっていた人が近くの村に入っていくのを見送りながら、野盗の宝の処分に頭を悩ませていた。
◇◇◇
「あんまり目立ちたくないから、それでいいんじゃない?」
「そうだね、それが一番いいよね」
翌日新人クエストの薬草採取している2人に野盗の宝の処分について相談すると、金に困ったら少しづつ売っていき、ダルクさんみたいに信用できる商人を見つけた時に全て売り払おうと決まった。
「採取終わった~、腰痛いな~『治癒』、瞳もいる?」
「あ~お願い。・・・ふあ~楽になった~。って何かお婆ちゃんみたい・・・・」
薬草採取が終わったのかしゃがんでいたレイが立ち上がり、腰をトントンしながら『治癒』を使い、ポテチでもあげるような感覚でヒトミに『治癒』している。俺の聞いた話だと『治癒』ってそんな手軽に使っていい物じゃないんだけどな。
「・・・・え?」
突然何かに気付いたようでヒトミが驚いた声を出す。俺も瞬時に警戒態勢に入るが、マップには反応無いから敵ではないはずだ。
「れ、れ、怜ちゃん!今、詠唱かなり端折ったよね!何で?どうして使えたの?」
ヒトミの疑問に俺もようやく今の異常さに気付いた。レイは今、『治癒』としか言っていないのに魔法が使えた。
「普通に使えるでしょ?何驚いてる?」
当の本人は何でもない事のように答えているが、俺やヒトミにはかなりの驚きの出来事だ。
「いや、いや使えないよ。詠唱はしっかり唱えないと魔法は発動しないって教えて貰ったから」
「そうなの?私は女神様へしっかり感謝を込めれば使えるって教えて貰ったわよ。・・・あれ?でもそう言えばみんな真面目に唱えていたなあ・・・まあ詠唱短縮は効果が落ちるけど、実際に使えたでしょ?」
実際使えているからその通りなんだろうけど、レイの奴なんか適当だなあ。
「・・・・・・」
レイの言葉にヒトミは何も言えず呆然と立ち尽くしている。ヒトミの今までの常識が目の前で実際に崩されたから当然だ。そう言えば俺も影魔法使う時に詠唱もしていない事を今頃思い出した。
どういう事だ?詠唱っていらないのか?それとも影魔法が特別・・・いや『魔法』ってつくんだ、原理は同じだろう。『尾無し』の時カイルは同じ詠唱を唱えて『土槍』使ってたから、詠唱は決まっているんだろう。・・・いや今レイが『治癒』だけで使えたから決まっているわけじゃないのか?良く分からんな・・・これは検証が必要だな。
「二人ともまず確認だけど、詠唱って必要なのか?」
「・・・絶対必要って教えてもらった」
「いるでしょ」
今までの常識が崩れたヒトミは自信無さげに、レイは迷うことなく答える。レイの中では短縮詠唱はアリで、無詠唱はナシって感じなのかな。
「俺は唱えてないぞ。頭のイメージだけで影が動くぞ」
そう言って影を広げたり縮めたり、影で手を作り二人の手を握ったりする。当然この時は何も言葉を発していない。
「・・・そ、それは影魔法だからじゃない」
「・・・・」
今度はレイが自信なさそうに答える。ヒトミはもう何も言葉を口にせず色々考え込んでいる。
「じゃあ、二人とも無詠唱で魔法使ってみてくれ。レイは『治癒』だと分かりにくいから光魔法で頼む」
お願いすると、二人は武器を手に魔法を使おうとするが発動しないみたいだ。
「『光矢』使おうとしたけど上手く発動しないよ。やっぱり影魔法だから無詠唱で出来るんじゃないの?」
「ごめん、私は元々詠唱しても上手く出来ないから、よく分かんないや」
う~ん。無詠唱でも出来ると思うんだけどな。
「じゃあ、生活魔法はどうだ?こっちは無詠唱でいけるか?」
「こっちは簡単よ。でもこれは魔法じゃないから」
「私も生活魔法ぐらいなら出来るよ」
俺の後に続くように二人とも滑らかに『火』から『闇』まで無詠唱で発動させる。これはおかしい。
「生活魔法を無詠唱で使える奴ってかなり珍しいって知っているか?それを今2人とも簡単に使ってる」
「珍しくても無詠唱で使える人はいるんでしょ。だったら勇者の私達が出来ても不思議じゃなくない?」
「それじゃあ、これはどうだ?片手で『水』反対で『闇』出来るか?」
2人に分かり易いように目の前で実演して見せる。
「出来た」
「うん、出来るよ」
二人とも簡単に使えた。そして当然それを合わせた合成魔法も使えたし、片手で合成魔法も発動させる事が出来た。
「二人とも、今の生活魔法を同時に発動させるってのは、今まで俺以外使える奴はいなかったし、聞いた事もなかった。それを二人とも簡単にやったけど、結構凄い事らしいんだ」
「そうなの?って言っても『生活魔法』だし、私達なら簡単じゃない?」
「うん、勇者って魔法のエキスパートって教えて貰ったよ。普通の人に出来て私達に出来ないって事はないと思うな」
「じゃあ何でヒトミは火魔法を上手く使えないんだ?俺の知り合いの奴でも火魔法使ってた奴はいたぞ」
ガーネットに『火矢』で焦がされそうになった事を思い出す。
「そ、それは、属性魔法って使える事自体珍しいって本で読んだよ、魔力があっても才能が無いと発動出来ないって」
「そうよ、生活魔法と属性魔法を同じで考えてもいけないわよ」
レイとヒトミの言葉に俺はどんどん自分の考えが正しいのではと思ってしまう。
「それだよ!俺は同じ物じゃないかって考えているんだけど、だって普通の人は生活魔法で自分の得意属性調べるんだぞ?」
「そうなの?私は変な機械だったな。それに手を触れて出て来た日本語読んでくれって言われて自分の属性分かったけど」
「俺たちも同じだったから、実際どうなのか少し実験しよう。ヒトミ、『火』以外の生活魔法に力を込めて大きくなるようにイメージしてみてくれ」
「・・・・・・駄目だよ、何か弾かれる感じがする」
やっぱり火魔法しか使えないヒトミは想像通り『火』以外は弾かれるのか全く大きくならない。
「じゃあ『火』でやってみてくれ」
「うん」
そう言って『火』を当たり前のように無詠唱で発動させると、その火がどんどん大きくなっていく。
「ちょ、ちょっと瞳?」
「ど、ど、どうしよう。まだまだ大きく出来そうだけど怖いよ」
「・・・・・」
思っていた以上に大きくなった。ヒトミの掲げた手にはものすごくでかい火の球が浮かんでいる。しかもこれ以上大きく出来そうとかヒトミ、凄いな。
「取り合えず俺が合図したら思いっきり向こうに投げようか。投げたら影に沈むけどヒトミは怖がらなくてもいいから俺から離れないように」
唯の生活魔法の『火』だけど、ここまで大きくなれば何かしらの危険がありそうなので、ヒトミが火の球を投げた瞬間3人で影に潜って避難する事にした。
「よし、いいぞ」
3人で体半分程影に潜った所でヒトミに合図を出す。
「・・・えい」
「ばっ!近!!」
「『光壁』!」
投げた火球は思った以上に近くに落ちたので影に沈むのが間に合わない、と思ったらレイの魔法だろう白い壁が目の前に出現して魔法が着弾した時の爆風を防いでくれた。そのおかげで影に沈むのが間に合った。危なかった。
「瞳~」
「ご、ごめんなさい、ギンジ君もごめんね」
レイから頬をつねられたヒトミが謝ってくるが、俺はそれに返事が出来ずに潜った影から上を見上げている。
・・・すげえな。辺り一面消し飛んでるこの威力・・・しかもこれでまだ余力があるってヤベえな。・・・熱っ!これは少し離れてから影から出た方がいいな。
影から出した指が熱気で軽く火傷したので、少し移動した所で影から出た。
「・・・・すごいね」
「・・・・これ生活魔法よね?」
「・・・・」
俺は言葉が出ない、火球の着弾地点を中心に半径50メートルぐらいが魔法の範囲内だったみたいで中心付近は何も残っていない。端の方の木は何本か燃えているので、まずは3人で手分けして消火活動をしながら、色々考えてみた。
「レイは『光』を手に持ったままにしてくれ」
消火活動も終わり検証を再開する。
「はい、これでいい?」
「じゃあ、この丸い形から細長くしたりとか形を変えられるか?」
「??・・・・うん。出来るわね」
俺の指示を不思議に思いながらもレイは器用に『光』の形を変化させる。
「じゃあ、それを矢の形にして、あの木に向かって投げてくれ」
「・・・・・えい」
ボン!!
言われた通りに投げると太い木に当たり音だけ鳴って消えた。
「じゃあ、次は光魔法の『光矢』を同じ岩に向けて撃ってくれ」
「光よ。輝き敵を撃て『光矢』」
ボガン!!!
木に当たると大きく爆発して岩が欠けた。
「よし、レイ。もう一度『光』だ。今回はいつもの倍ぐらい魔力を込めてくれ」
「・・・出来たけど、倍ピッタリなんて分かんないわよ。おおよそだからね」
「それを矢の形にしてまたあの木に向かって投げてくれ」
「・・・ギンジ君・・・もしかしてこれって」
俺が何をしたいのかヒトミも分かってくれたようだ。
「・・・・えい」
ポン!!
これも何も起こらず岩に当たると消えた。そうしてある程度魔力を込めていくと
ボガン!!!
『光矢』ぐらいの爆発が起こり岩が同じぐらい欠けた。大体10倍ぐらいの魔力を込めるといいみたいだ。
「・・・・・・」
「・・・・・・ねえ。これって」
ようやくレイも気づいてくれたようだ。ヒトミは驚き過ぎて黙っている
「これで無詠唱の『光矢』完成だな」
笑いながらレイに言う。俺の思った通り生活魔法は属性魔法のお手軽版だったみたいだ。でもターニャでさえ2倍ぐらいしか魔力込められないって言ってたから、その辺はやっぱり才能なんだろう。でも何でレイとヒトミはこの方法を教えて貰ってないんだろう?この覚え方特殊なのかな?魔法使える奴なら自分の得意属性調べる時にこの方法に思い当たってもいい気がするけど・・・今度ガーネットに会ったら聞いてみよう。
少し考えていると、マップに反応があった。フォーメーションを組んでいるから人、恐らく冒険者だろう。俺は周囲の惨状を確認する・・・ちょっとマズいかもしれない。
「レイ、ヒトミ部屋に戻ってくれ。少し移動する」
目の前に扉を出しながら二人に声を掛ける。
「えーなんで?練習したいのに」
「私も練習したいんだけど・・・」
二人とも不満そうだが、さすがにその意見は聞く事は出来ない。
「ダメだ、こっちに誰か向かってくる。周りの様子見てみろ。色々聞かれるぞ」
周囲の焼け焦げた惨状をようやく分かってくれたのか、二人は慌てて部屋に戻って行ったので、俺もその場から離れる。そして1時間程移動して練習に丁度よさそうな場所を見つけてから二人を呼び出す。目の前には大岩があり辺りには草木が生えていない荒野が広がっている。
「ねえ。やっぱり戻ってちゃんと謝った方がいいんじゃない?」
「そうだよね。悪いのは私だから謝らないといけないよね」
出てくるなり二人はさっきの場所に戻って謝るつもりでいるようだ。
「あそこは誰の土地でもない。あえて言えばグラニカの領主の物だけど、管理している訳じゃないから怒られないぞ。それよりもあの惨状を引き起こしたのが俺らだってバレると五月蠅くなりそうだから、このまま知らん顔しとくのが一番いい」
「そうなの?ギンジ君がそう言うならそうなんだろうな」
「ふ~ん。まあそう言うなら分かったわ」
今の話はホントの事だし、俺だから簡単に信じたんだろうけど、二人はもう少し疑う事をした方がいいな。他の奴等には注意するように後で教えておこう。
「それより、ほら、ここなら魔法の練習思いっきりしてもいいぞ。ただ落石が怖いから大岩からは離れておく事、あと人に向けて魔法は撃たない事」
2人に注意した後、俺は二人から少し離れて魔法の練習をしばらく眺める。元々火魔法を上手く使えなかったヒトミはノリノリで魔法の練習をしている。
「魔法使えて良かったな」
「うん、すごいよ。詠唱完璧に覚えて発動をイメージしろって教えられたのは何だったんだろ?『火矢』、『火壁』、『火槍』、『火球』初級、中級までは全部使えたよ。今から上級の『火嵐』使うよ、見ててね」
そう言って手を掲げるとサッカーボール大の火の球を15個発生させ、グルグル回転させる。グルグル回していると渦が大きく早く回転してきて、周囲に熱気が漂う。
「・・・・えい」
手に持っている凶悪な魔法とは反対に人畜無害っぽい掛け声で『火嵐』を大岩に向かって投げる。その『火嵐』がぶつかると大岩が火に包まれ火柱があがる。大岩と言っても人によっては岩山とか言いそうな大きさの物が見えている範囲全てが炎に包まれる様子は圧巻だ。
「すご・・・」
「えへへ~すごいでしょ。でも最初の『火球』15個だったから数を増やせばもっと威力大きくできると思うよ」
あんなヤバい魔法が使えるなんて全く感じさせない笑顔で恐ろしい事を答えてくる。
「そ、そうか。すごいな。今はしなくていいけど、たまにここに練習に来て威力の確認はしないといけないな。俺たちが巻き込まれたら大変だしな」
「おお、そうだね!やっぱり冒険者長いと考え方が違うね。じゃあ、今日はこれで最後にしておく。最上級の『隕石』いくね」
やっぱり良い笑顔でヒトミはヤバい事を口にする。最上級って俺ここにいて平気か?術者のヒトミの近くにいれば流石に大丈夫か。・・・レイは?
「レイ!ちょっとこっち来てくれ。今からヒトミが最上級魔法使うって!」
少し離れた所で魔法の練習していたレイに声を掛けると、練習をやめてこっちに来た。
「ヒトミって『隕石』使えたの?」
「いや、今回初めて使うよ。本を読んだ限りだと『火球』を上から沢山落とすっぽいからもしかしたら本物の『隕石』と違うかもしれない」
「まあ、やってみたら?」
「うん。行くよ」
軽い感じで二人は話すと、ヒトミは手を上に掲げる。俺もその動きに釣られて上を見上げると、
・・・ヤバい。あれ何個だ20?30?まだ増えてくぞ。
上空には火球が多く浮いている。こんなん明らかにオーバーキルだぞ。
ヒトミが手を振り下ろすと上空の火球が大岩目掛けて落下を始める。最初の1発が着弾した音は聞こえたが、以降は耳を影魔法で拘束したので何も聞こえなかった。ただ、ヒトミがとんでもない魔法を使った事だけは分かった。俺の影魔法大概チートだと思ったが、『隕石』の暴力的な攻撃力を前にするとかわいいものだ。
「・・・うるさかったね。えへへ~」
「ホントよ。使う時は前もって許可とってよ」
・・・二人はかなり軽い感じで言っているが俺はドン引きしている。ヒトミはいい、『隕石』使った張本人だし、それよりもレイだ!何でこんな平然としていられるんだ?
「ああ、瞳の『隕石』より規模は小さいけど戦争の時誰かが使ってるの見たからね」
俺が聞くと、忌々しい顔で答えてくれた。って事は金子達の中で誰かこれを使える奴がいるのかよ。金子達の中で使える奴を特定して早めに対処しないとこっちがやられるな。
「怜ちゃんは光魔法の最上級『聖なる審判』使えないの?」
「今まで、その練習していたから見せてあげる。まあ私も実物見た事ないし本で読んだだけだから違うかもしれないけど・・・行くわよ!『聖なる審判』」
レイが唱えると、目の前に無数の光の矢が現れ、円形上に並んでグルグル回りだした。数はちょっと数えられないぐらいある。
「ゴー!」
ノリノリでレイが言うと回転が速くなり、1本1本の『光矢』が見えなくなるぐらい早く回転する。そして、
ボゴン!!その中心が爆発したと思ったら、そこからは連続して爆発が起こる。恐らく無数の『光矢』が円の中心に降り注いでいるんだろう。更に性質が悪いのは地面から光の槍が無数に生えては消え生えては消えを繰り返している。これは上からも下からも穴だらけにされる魔法だ。
「すご~い。何かピカピカしてキレイだったね~」
「・・・瞳、花火じゃないんだから、その感想はおかしいわよ」
気の抜けるような会話をしている二人はとても先ほどの凶悪な魔法を使った人物に見えない。俺が思っていた以上に魔法はヤバい。そりゃあ、使える奴はかなり貴重だよ。
しかし上級までの魔法は『矢』、『壁』、『槍』、『球』、『嵐』の頭に属性名をつける法則に従って分かり易いのに、最上級だけなんで法則から外れてるんだろ?




