84話 各自のスキル
「ふう~。ただいま~」
あれから1時間水の国とは反対方向に移動した後、俺は『自室』に戻って来た。ついこの間までは誰もいなかったので無言で帰宅していたが、今は部屋にレイ達がいるのが分かっているので自然と「ただいま」が口から出てきた。
・・・・・
?返事がないな。どうしたんだろ?
不思議に思いつつ部屋の扉を開けると、レイと委員長は普通にいた。いたのだが、委員長は何故か泣いていて、気まずそうにしているレイは何故か左の頬だけが赤くなっている。・・・飯は?
「え、えっと。ただいま」
「おかえり」
「おかえりなさい」
俺が声を掛けるとレイは気まずそうな表情を慌てて笑顔に変えて、委員長は少し顔を隠して涙をぬぐった後に無理やり笑顔を作って返事をしてくれた。
「え、ええと。喧嘩はよくないぞ。これからどうするか決まってないけど、しばらくは一緒にいるんだから仲良くしないと」
「あ、ああ、大丈夫。喧嘩じゃないわ。私が一方的に悪くて怒られてただけ。・・あっ、ごめん、ご飯作ってなかった!瞳!手伝って。ギンジは料理中こっちに来ないでね」
どう見ても喧嘩中にしか見えなかったが違ったのか?レイに言われて委員長も普通についていったのでレイの言う通り違ったみたいだ。特にやる事もない俺は手をつけていなかった杉山達の戦利品の確認をする。
おお、上級ポーション3つもある。杉山と浅野とあのお偉いさんのかな?・・・・ああ、また不動在庫が増えた。今回鎧セット60ぐらいか。マジでこの呪われた装備どうにかしたいな。他には目ぼしい物はないな。
「・・・・怜ちゃん、酷いよ」
「だからごめんって・・・・」
戦利品の確認をしていると、二人の会話が少し聞こえてくるが内容はよく分からない。ただ、何となくレイが怒られているのは聞き取れた。
「「いただきます」」
「・・・・いただきます」
委員長だけ元気がないのが気になるがご飯を食べ始める。今日はオーク肉の生姜焼きだ。うめえ。
「しかし、俺の家の物だけで生姜焼き作れるなんて凄いな」
「別にこれぐらい難しくないわよ、ただやっぱり野菜が欲しい。ギンジ明日はいい加減食材買いに行くわよ」
「野菜の前に服買わないとな。いや、その前に今後の事を話合わないと駄目だな」
「この後の事は決まってるよ。土屋君この後どこかで宿をとってくれる?」
・・・あれ?決まってるの?俺何も聞いてないけど・・いや、今日の事だけじゃなくて今後の事なんだけど・・・
レイを見ると困った顔をしている。委員長は俯いていて表情が読めない。何で宿?って思ったがよく考えれば男の俺がいると寝れないからだとすぐに気付いた。委員長の俺への気持ちは流石に気付いたが、だからと言って同じ部屋で寝るのは嫌なんだろう。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
気まずい空気の中食事を済ませると俺は再び外に出て近くの街か村を目指す。結局今後の事は何も話が出来なかった。まあ、明日でもいいかと思い移動を開始する。そしてすぐに村を見つけたので『影移動』で村に潜り込むと言われた通り宿をとった。
(言われた通り宿とったから、俺このまま寝るぞ。喧嘩の原因は良く分からないけどレイはちゃんと委員長と仲直りしろよ)
(いや、違うから、そうじゃないって、仲直りは終わってるから。ギンジは取り合えず部屋に戻ってきて)
何でだ?意味が分からんなあとか思いながら、言われた通り部屋に戻ると玄関にレイが立っていた。
「終わったら呼んで」
「・・・何が?・・・おい」
俺の質問には答えずレイは外に出て行った。マジで意味が分からない。委員長に聞けば分かるかなと思い部屋の扉を開けると委員長が思いつめた顔で座っていた。
「ぎ、銀次・・君・・・大事なお話があります」
・・・・あれ?銀次君?委員長俺の事、苗字で呼んでたよな?
「ああ、分かった」
呼び方が気になったが、そんな顔してるって事は何となく今から何を話すのか分かったので、まずは話を聞こうと思い委員長の対面に座る。
「・・・銀次君はもう私の気持ち分かっちゃったでしょ?」
少し無言が続いたけど委員長が覚悟を決めた顔で聞いてきた。確かにあれだけ暴走したら、俺じゃなくても気付くだろう。
「えっと。委員「瞳って呼んで!」・・・ああ。流石にあれでヒトミの気持ちには気付いたよ。ただその気持ちは嬉しいんだけど、俺、レイと・・・」
あれから毎晩している。レイから誘ってくるけど、付き合うとかそういう話にはまだなっていない。レイからも少しだけ待ってと言われている。
「それは怜ちゃんから聞いたよ。学校にいた時はギンジ君が恋愛対象になる事なんて絶対ないって言ってたのに・・・久しぶりに怜ちゃんに本気で怒ったよ」
レイの頬が赤くなっていたのはそれが原因かな。
「でもまあ、死にそうな所を助けられたなら好きになるのも仕方ないかなって思ったの。その時のギンジ君の顔がすごい格好良かったって言ってたよ。今度私にも見せてね」
委員長・・・ヒトミこんなに喋る子だったかな。しかもレイが俺の事好きって言ってるけどホントかな?言われた事ないぞ?
「はい、これで私だけの話はお終い。これからは私と怜ちゃんから銀次君にお願いがあります。銀次君は怜ちゃん呼んで下さい。」
戸惑っていると一方的に話を打ち切られた。まだ頭が混乱しているけど言われた通りレイを呼ぶ。
「・・・・・は?いや・・・ちょ?は?う~ん?」
レイを呼ぶと、ヒトミと二人で可笑しな提案をされたので再び頭が混乱する。二人が何を言っているのか理解できなくてアホみたいな声が出た。
「だから、早い話私達二人と付き合って下さい」
「だ、駄目かな」
・・・いや、別に全然駄目じゃない。二人とも可愛いしヒトミには日本にいた時から良い印象もっていたし、レイの方は自分でも単純だと思うけど助けた日から気持ちがかなり傾いている。だからむしろ良いんでしょうか?ってぐらいだけど、二人ともホントにそれでいいのか。
「まあこの世界は一夫多妻、一妻多夫も普通みたいだから、問題ないよね」
「うん。俊介達も一杯恋人いたな~」
・・・まあ確かにカラミティとか、『深海』の所は凄い事になってたな。身近だと『鉄扇』か、カイルも両手に華だったな。
「えっと。ヒトミもレイもそれでいいのか?」
俺はもう一度正面に座る二人に確認する。
「うん。それでお願いします」
「宜しくお願いします」
きっぱり言うから俺も納得する事にした。
「分かった。じゃあこちらこそ宜しく」
「うん。えへへ~、ようやく彼女になれた」
俺を見ながら満面の笑みで笑いかけてくるヒトミ。そして何故レイは服を脱ぎだす。
「あれ?しないの?」
「いや、流石に付き合い始めていきなりは無いだろ」
脱ぎだしたレイを止めると何故か不思議そうに聞いてくる。あれ?俺がおかしいの?まあ、付き合う前にレイとはしてるけど、ヒトミはまだ早いだろ。
・・・・朝だ。両手を上げて伸びをしようとしたがどちらも上がらない。金縛りだ!・・何て事は無くて右手にヒトミが抱き着いて寝ている。左手にはレイが抱き着いて寝ている。つまりはそう言う事だ。そして、どうでもいい事だけど股間に『治癒』すればすぐに復活する事が昨日分かった。都市伝説は本当だった。ただレイは躊躇いなく『治癒』をかけてきたけどその『治癒』って1回銀貨5枚するはずなんだけど・・・いや聖女の治癒ならもっと高いだろう。でその後は3人で寝たのだけど、一人用布団に3人で寝るのは無理があるので、早めに布団を追加で買おうと考えた。
「おはよう。ふああ~~よく寝た」
「おはよう、レイ。ヒトミは・・・まだ起きる気配はないな」
「ああ、瞳は朝弱いからもう少し寝かせてあげて、じゃあ朝ごはん作るから、ちょっと待っててね」
そう言って俺の体操服を勝手に着る。外の気温は激寒だけど、エアコンも入れていない『自室』は何故か丁度いい気温なので半袖でも問題はないだろう。ただいつまでも俺の体操服はどうかと思うので早めにレイの寝間着も買おうと決めた。
「さて、今後の事を話す前に今までどうやって生きて来たか各自聞かせてもらおうかな。まあレイからは移動中軽く聞いたけど、ヒトミにもう一度聞かせてやってくれ」
朝食を食べ終わった所で、俺から話を切り出す。ヒトミも起きてこっちで支給された、ダボッとしたこげ茶色のワンピースっぽい服を着ている。
「じゃあ、まずは私から、召喚されてすぐにギンジ君が城から逃げ出したって聞いて、自分で探しに行く為に色々頑張ってたんだけど、1ヶ月ぐらいしたらギンジ君が魔物にやられたって大臣の人にこれを見せられたの。それでもう何もかも嫌になってそれからずっとあの部屋に引き籠ってた」
最初はヒトミが話始め、途中俺のボロボロになった学生服と学生証をどこからか取り出した。制服を懐かしいと思えるぐらいに月日は経っている。そして本当はすぐに城から連れ出された俺が自分から逃げ出した事になっていると初めて知った。杉山と浅野の反応から俺の死んだふり作戦は成功だったのは分かっていたがヒトミには悪い事をしたと少し反省した。
「次は私ね。私は光の教国に召喚されてからずっと魔法の訓練していたわ。で、ギンジも知ってるように水の国に行ったら戦争に巻き込まれて捕まってギンジに助けられたって所ね」
「一応死んだように『偽装』はしてきたけど、レイは教国に帰るつもりは無いのか?」
「無いわよ。あの国には裏切られたからね。水の国へは表敬訪問だって話だったのに戦争に参加させられるし、金子君達が近くまできたらみんな私を置いて逃げ出したのよ。酷くない?そんな国はもう信用できないし、何より好きな人と一緒にいたいから」
嬉しい事を言ってくれるレイにお礼を言ってから俺の話を始める。
「じゃあ、次は俺の番な。少し長くなるぞ」
そう言って二人に俺が今までどうやって過ごしてきたか話をした。レイには移動中本当に軽く話しただけなので、かなり詳しく話した。
「・・・なんか、凄いね。ギンジ君がこれだけ逞しくなってるのも納得だよ」
俺の話を聞き終わると、ヒトミが俺の体をペタペタ触りながら感想を言ってくる。
「凄いなんてもんじゃないわよ。よく今まで生き残ってこれたわね」
レイが呆れたように言ってくるが、俺もそう思っている。本当に今まで運が良かった。
「でも、ギンジの好きになった人か~。見てみたかったな~」
「ホントホント、ギンジ君。私のアピールに全然気付かないし、津村君とだけ笑顔で話してるから、もしかしてそっち系?なんて悩んだりもしたけど違ったみたいで良かったよ。でも、どんな人だったんだろうね、気になるね」
・・・ヒトミがさり気に酷い事言ってる。でも傍から見たらそう見えてたのかな。あの時はノブぐらいしか喋る奴がいなかったから仕方なかったんだけどな。
「写真ならあるぞ、見るか?」
2人ともエレナの事が気になっているようなので、スマホを取り出して操作を始める。
「「・・・・・」」
「・・・ん?どうした?」
二人とも何故か驚いて固まっているので不思議に思い聞いてみる。
「どうした?じゃないわよ!何でスマホ使えてるのよ!」
「あれから半年以上は経ってるよね?何で充電切れてないの?」
ああ、二人が驚いている理由はそれか。まあ普通は無理だと思うけど『自室』は充電できるんだよね。
「ああ、この部屋スマホの充電できるぞ。そこにコードあるから好きに充電してもいいから。まあ、充電出来ても電波繋がらないから写真ぐらいしか使い道がないんだけどな」
俺が二人の後ろのコードを指差すと、すごい勢いで振り返りコードを確認する。
「私のスマホとか制服は全部教国に置いてきちゃったから、ヒトミ充電しなよ」
「あ、ありがとう」
「ほら、これがエレナだ」
2人の会話に強引に入っていき二人にスマホの画面を見せる。そこには焼肉を美味しそうに食べているエレナの姿が映っている。多分ターニャが撮ったやつだろう。
「うわ、すごい美人。髪真っ赤」
「おお、すごい美人だ。・・・胸大きいわね。・・・ギンジって年上好き?」
「別にそんな事は無いと思う。たまたまだよ」
ちなみにエレナ程ではないがヒトミは大きかった。レイも大きいと思うけどヒトミよりはって所だ。
「うわ!これ誰?絶対ギンジ君が捕まえた悪い人でしょ?」
「どれどれ?うわーこれは凄い。絶対悪人だわ、これ」
2人が見ていた画像は師匠とギースさんが笑顔の画像だった。二人とも酷い言われようだ。そもそも捕まった奴がこんな笑顔な訳ない。
「アハハ!違う違う。その人は俺の恩人だ。こっちがさっき言ってた俺の師匠で、こっちの大きい人がギースさんだ。顔は怖いけどいい人達だから。で、こっちが二人のパーティメンバーのケインさんとエステラさん、ターニャだな」
「うわ、こっちはすごいイケメンと美人さんだ。えっ?この3人が今の顔怖い人とパーティ組んでたの?」
「ああ、みんな良い人たちだったよ。それでこれが・・・」
久しぶりに師匠達の顔を見て少しテンションの上がった俺は1枚1枚画像に写った人が誰か説明していく。
「へえ~ギンジ君。結構大変な目に遭っても楽しく過ごせていたみたいだね。それで?この人達どこにいるの?私も会ってみたいな」
俺の説明が終わるとヒトミが楽しそうに聞いてくる。
「もう、ほとんど殺された。師匠達は別の奴だけど、他は金子達に殺されたよ」
「・・・・・は?」
「・・・・・噓」
ヒトミもレイも俺の言葉に固まる。そう言えば俺の目的を二人には伝えていなかったのを思い出した。言えば二人から軽蔑されて俺から離れていくかもしれないけど今のうちにしっかり伝えておこう。
「二人には正直に言っておくけど、俺は金子達を全員殺すつもりだ。俺の大切な人や場所を滅茶苦茶にしたんだ、許すつもりはないし、何を言われてもやめるつもりもない。ホントは今すぐにでも復讐しに行きたいけど、ここで二人をほったらかして行く訳にもいかないからな。行動を開始するのは二人が自分の力で生きていけるようになってからにする。それまではあいつらの情報を集めるぐらいにしておく。」
多分、Dランク冒険者になれば、俺がどうなっても生きていけるだろう。
「・・・・・」
「・・・・・うん、分かった。私も協力する。ただ一個だけお願いがあるの。大久保さんは私に譲ってくれない」
「怜ちゃん?」
「何でだ?あいつも許すつもりはないぞ?」
あいつも大人や子供で魔法の練習をしていたと兵士から聞いたので、俺はレイの頼みでも許すつもりはない。と思ったが、どうやら違うようだ。
「あいつが一番私を傷付けたの。ギンジも見たでしょ?あの時の私の顔?あれほとんどあいつのせいよ。しかも私の髪まで切って・・・それに・・・それに・・・」
「分かった!大丈夫だ!レイ!落ち着いて。ゆっくり深呼吸だ」
話している内にあの時の事を思い出したのかブルブル震えて涙をボロボロ流しだしたレイを抱きしめて落ち着かせる。毎晩レイは色々言いながらうなされているので、もしかしたら関係があるのかもと思っていたけど、この様子だと聞かない方がいいだろう。
「ふう~。ごめんねギンジ。大丈夫、落ち着いたわ。」
言いながら俺の胸から顔を離す。ヒトミは何を考えているか分からないが、こっちを無表情で見ている。
「その話は本当なの?こっちにも国際条約みたいな物があって、街に攻め込むのは禁止だって見た事あるけど・・・」
ヒトミは引き籠っていたのによく知ってるなと感心したが、どうやら最初の1ヶ月はこっちの事を猛勉強してその時に覚えたらしい。
「その国際ルールを破って金子達が攻め込んだんだ。嘘だと思うならドアールの街のみんなの死体は俺が持ってるから見るか?」
「・・・・ごめんなさい。こんな事言っておいてアレだけど怖くて見る勇気はないよ。ただ、復讐するにしても一度俊介と話をさせてもらっていいかな?」
俊介って・・・川崎か、確かヒトミの幼馴染って聞いた気がする。
「幼馴染だったな?別にいいけど、あいつらは人殺しだからな、日本にいた頃と全く違う人物だと思っておいた方がいいぞ。まあ、俺もだけどな」
「・・・えっ?ギンジ君もなの?」
「私を助ける時に杉山君と浅野さんを・・・ね」
レイが口を挟んできた、レイには二人を殺した事は話したが、まだ言ってない事もある。
「付け加えるなら100人以上は殺ってる」
「「・・・・は?」」
「ちょ、ちょっと!聞いてないわよ!何でそんなに」
当然のように驚く二人。俺も二人の立場なら驚くっていうかドン引きするだろう。ただ、これは本当の事なので二人にはしっかり話しておく。
「レイを助ける時に杉山達と一緒いた騎士連中、その前『水都』では野盗団を潰してたからな。誓って言うが一般人を殺した事はないぞ」
言い訳をしたけど、良く考えれば二人からすれば悪人だろうが人殺しには変わらないな。
「・・・まあ、それなら・・・それでも多いわよ!」
「・・・・そんな」
レイは呆れたような感じだけど、ヒトミは本当にショックを受けている。
「二人とも驚いてるけど、こっちの世界は日本より命が軽いから気をつけた方がいい。二人には可能な限り手を汚させないようにするけど、それでも絶対じゃないから。いざって時の覚悟だけはしておいてくれ」
「・・・きっついな~」
「・・・・」
やっぱり一度死にかけたからか、レイはその時がくれば覚悟を決められそうだ。ただ、呆然としているヒトミは厳しいだろう。
「さて、暗い話は置いておいて、これからの話をしよう。取り合えず俺に何かあっても生きていけるように二人には冒険者になってもらう。で、ホントはまだパーティ組んでないから聞くのはルール違反なんだけど、これからパーティ組むつもりだから先に聞かせてもらう。二人はどういうスキルを持ってる?」
しばらく悩んでいたヒトミが答えを出したのか納得したので、俺は話を再開する。レイは思った通りすぐに納得したので俺のスマホで写真を撮ったり、俺の画像データを見たり、自撮りモードで自分の身だしなみを整えたりして遊んでいた。
「私は『光・回復・蘇生』の3つの魔法ね」
「ええ!!怜ちゃん3つも使えるの?凄い!しかも『蘇生魔法』って歴史上女神様しか使えなかった魔法だよね。凄い!」
レイの答えにヒトミが大騒ぎする。確かに魔法3つは凄いな。しかもヒトミの話だと『蘇生魔法』滅茶苦茶レアじゃねえか。いいのかな、そんな人物を俺が連れまわしてて、教国は大騒ぎになってるんじゃ。
「私は『火』と『マジックボックス』しかないや」
「はあ?瞳『マジックボックス』持ってるの?それ無限に物が入るスキルだよね?いいな~私も欲しかったな~」
今度はレイがヒトミを羨ましがる。『マジックボックス』って俺の『影収納』と同じ感じなのか。そう言えばさっきからヒトミは、どこからともなく俺の制服とかスマホとか取り出してたな。
「俺も魔法は『影魔法』しか使えないな。あとは自室、探索、念話、暗視、潜伏、快足、罠師、偽装、投擲、隠密、身体強化だな」
スキルを呼び出して確認しながら二人に教える。
「多・・」
「多すぎ。何でギンジだけそんなに持ってるの?不公平過ぎない?」
「いや、最初は影魔法と自室、探索、念話だけだったけど、他は後から覚えたんだよ。まあ、大半はどうやって覚えたか分かってなくていつの間にか覚えてたって方が正しいけど」
「あれ?でもギンジ君『マジックボックス』は?持ってるよね?」
さっきからちょこちょこ色々な物を取り出していたのを見られていたのかな。ヒトミって意外と目敏い?
「いや持ってない。俺のは『影魔法』の応用だ。ヒトミのと同じで容量制限ないっぽいからほとんんど同じもんだ」
「二人とも便利なスキル持ってていいな~。っていうかギンジはちょっとおかしいわよ、便利スキル持ち過ぎよ。大体この『自室』なんてスキル聞いた事ないわよ。どうやって覚えるのよ」
「いやこれは最初から覚えてたからどうやって覚えるのか俺でも分かってない」
「そう言えば『念話』は?怜ちゃんには繋いでるよね?不公平だから私にも繋いでくれる?」
う・・・正直繋ぎたくない。あの時のレイは俺の中でムカつく奴だったから繋いだが今となっては『念話』自体切りたいけど切り方が良く分からないので繋がったままなんだよな。
「正直繋ぎたくない。本音を言えばレイと繋いだ奴も切りたいけど切り方が分からん。ああ、別に二人が嫌いとかじゃないぞ。・・・ただ俺が『念話』繋いだ奴ってレイ以外みんな死んでるんだよな。だから縁起が良い物じゃないし、二人にもしもの事があったらと思うとな」
少し困りながらも正直に自分の考えを二人に伝える。
「私は死なないから大丈夫。危なくなったらまたギンジが助けてくれるでしょ?」
「そうだよ、私達はギンジ君から絶対離れないから大丈夫。何かあった時に連絡取れた方が絶対いいから、だから繋いで?」
結局二人に負けてヒトミにも『念話』を繋いだのだが、ホントに大丈夫か心配になってくる。繋いだヒトミは嬉しそうに『念話』でレイと話をしているが、俺の頭を通してなので正直五月蠅くてかなわない。
「あっ。切った?」
「切れたね」
「すまん、俺の頭の中で響いて集中できん」
「へえ~って事はヒトミと『念話』で内緒話するとギンジにも聞かれるから意味ないって事か。それじゃあこれはどうだろ」
レイが言うと頭に呼び出しがあるので『念話』を繋ぐ。
(ヒトミ、聞こえる?あっ、ギンジはこのまま何もしないでね)
レイが『念話』の実験を始めた。指示通り俺は何もしない。
「ヒトミ、今私とギンジ『念話』繋いでるけど聞こえてない?」
「うん、聞こえてないよ」
「じゃあ、ギンジ、ヒトミと『念話』繋いで」
(繋いだぞ)
(繋がったよ)
(ああ、聞こえるね。って事はこの『念話』って必ずギンジを通るんだね。あとギンジが繋がないと絶対聞こえないって事か・・・ギンジとなら内緒話可能ってわけね)
(それ分かって何か意味あるのか?)
(さあ?ただヒトミと『念話』で内緒話は無理って事が分かっただけでも収穫かな。ギンジには聞かせたくない話とかも出てくるだろうし)
(おいおい、俺に聞かせたくない話って何だよ。気になるじゃないか)
(ん~。まあ分かり易いのとかだと生理かな。ギンジは聞きたい?)
(・・・・・いえ、結構です。多分役に立ちません)
速攻で白旗を上げる俺。
「じゃあ、行ってくる。昼には一度戻ってくるから」
「いってらっしゃい」
話も終わり俺はヒトミとレイを『自室』に置いて街道を移動する。
あれから数日程進んで、俺達は今、風の国の国境都市ウインドグラニカに入る為の列に並んでいる。本当は闇の国に向かいたかったが、そうすると水の国を通る事になり、そこにはまだ金子達や大勢の兵士がいるので万が一を考えて風の国に来た。国境都市と言っても、ドアールと違い国境を越えてから2つ程村を挟んでいるので、火の国の国境から少し距離がある。安全を求めるなら更に別の国に向かえばいいが、それだと金子達が動いた時に手遅れになる可能性があるのと、あんまり移動をするとレイの存在がバレる可能性があるって事で、しばらくこの街で暮らす事に決めた。そうして最初の頃とは違い今度は3人で国境の街に入っていった




