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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
4章 水都のEランク冒険者
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83話 再びの帝都

朝だ。いつものように目を覚ますと見慣れた天井が見えるので、『自室』で寝たのが分かる。両腕を上げて伸びをしようとした所で右腕に重しがあって上げられないので仕方なく左腕だけで伸びをして頭を覚醒させる。ふと、右を向くと、大野・・・レイが隣で寝ていた。


「ふああ~~。良く寝た・・・おはよ」


レイも俺が起きた事で目が覚めたらしく大きく伸びをすると、隣の俺に気付いたのか、それとも自分の今の格好に気付いたのか布団を被りなおして目だけ出して挨拶してくる。


「ああ、おはよう。良く寝れたか・・・・」

「うん、ギンジが横にいたからぐっすりだった」


顔を隠しながらも目だけ笑ってレイが答えてくる。



・・・・あああ・・・・やってしまった。


昨日の事を思い出して反省中。


「ギンジは何でそんなに落ち込んだ顔しているのよ。私から誘ったんだから気にしないでいいわよ」


ギンジ・・・・昨日レイに名前で呼ぶようにお願いされる代わりに俺も名前で呼ばれるようになった。未だに慣れない。


「スキル」


当の本人はケラケラ笑っていたが、何か思い出したのか慌ててスキルを確認し出すと、大きなため息をついた。


「ふう~。やっぱり噓だったんじゃん」

「何が嘘だったんだ?」

「『蘇生魔法』。処女じゃなくなると使えなくなるから、絶対するなって周りから嫌になるぐらい言われてたの」

「おい、それって!」

「大丈夫。今スキル確認したら残ってた」


ふう~。焦った。ただでさえ使える奴が貴重な魔法、恐らく『蘇生魔法』とか魔法の中でもかなりレアだろう。それを俺が原因で使えなくなったなんて知られたら教国から賞金がかけられる。でも何で教国はそんな噓教えてたんだろ?大野が前原みたいに毎日違う人と寝てるなんて噂が出ると体裁が悪いとかかな。


「だから捕まった時もそっち系の事はされなかったの。火の国もその噂を知っていたのか金子君達にかなりきつく言っていたみたいで、杉山君とかそれでずっとイライラして私にきつく当たってきたんだ」


思い出したのか少し声のトーンが下がり落ち込んだ様子の大野を抱きしめると大野も俺の背中に手を回して抱きしめてくる。


しかし『水都』の城で前原の奴は無理やり大野を襲うような感じだったけど、その話知らなかったんだろうか?


少し疑問に思いながらも、しばらくそのまま抱き締め合っていたが、これ以上は俺の理性が再び限界になりそうなので、何とか耐えて布団から出る。レイは名残惜しそうな顔をしていたが、流石に我慢してもらう。


「さて、朝飯でも食うか。何が食べたい?って言っても簡単な物しか作れないけどな」

「だったら、私が作る。これでも料理が趣味だからそこそこ作れるよ」


そう言うレイに朝飯を任せて俺は昨日の服を洗濯する。


「♪♪~♪♪~~」


隣のレイは何やら上機嫌で料理をしている。昨日ほどじゃないがやっぱりまだ怖いので料理中は隣にいてとお願いされたので、洗濯機を回した後、暇な俺はレイが使えるっていう『蘇生魔法』について質問する。


「そう言えば、『蘇生魔法』使えるって言ってたな。それって死んだ人を生き返らせる魔法なのか?」

「そうだよ。ただ、寿命で死んだ人や、死んでから30分以上経過した人は生き返らないけど・・・どうしたの?」


返ってきた答えは少しだけ見えた希望を打ち砕いた。ドアールの街の人たちはどう見ても半日以上は経過していたので、やっぱり生き返らせる事は不可能なようだ。当然師匠達も無理だろう。


「いや、生き返らせたい人達がいたんだけど、30分以上は経過しているから結局無理だなって思ってな」

「そう・・・ごめんね」

「いや、レイが謝る事じゃないって。こっちこそ気を使わせて悪い・・・・ほら、もう焼けたんじゃないか?」



「「いただきます」」


目の前にはレイが作ってくれたいつもと違う朝食が並んでいる。冷凍保存してあるご飯をレンチンして包んであるラップを皿替わりに食べていたが今日は器にしっかりと盛られている。そして買ってからすぐに作るのが面倒で結局2,3回しか使わず冷蔵庫でずっと放置されていた味噌を使った味噌汁。そして目玉焼きにベーコンを焼いた朝食のお手本のような朝食が目の前に並んでいる。


「いやあ、あの短時間でこれだけ作れるなんてレイは凄いな」


朝食を食べながらレイを心の底から褒め称える。レイは料理が趣味だというのは本当みたいでかなり手際良く料理していた。俺だと絶対にこんなに手際よく出来ない。


「別に大したもの作ってないから。味噌汁もホントはしっかり出汁をとってから作りたかったけど無かったから、出汁の素使っちゃったし、おかずもレタスとかトマトとか野菜が欲しかったんだけどね」


俺は十分凄いと思ったがレイは全然満足していないみたいだ。しっかり出汁とるって煮干しとかからだよな。俺そんなの買った事ないぞ。


「それにしてもギンジの冷蔵庫全然食材入ってないじゃない、学校行ってる時、何食べてたの?」

「朝は食パンか冷凍してあるご飯チンしてインスタントスープか寝坊して食べないか。昼は学食で、夜は冷蔵庫にある物適当に、インスタントラーメン、コンビニ、外食のどれか」

「はあ~。そんな生活体壊すよ。こっちに来てからは外食ばっかりって昨日言ってたよね。って事はあんまり野菜食べてないでしょ?」

「ぶ・・・葡萄なら」


そう言えば結構葡萄の在庫減ったな。どこかで補充しよう。


「葡萄は野菜じゃないから、これからは私がしっかり栄養管理するから覚悟しておいてね。それで、昨日は聞きそびれたけどこの部屋は何?メッチャ日本なんだけど」


さり気にこれからも一緒にいるみたいな事レイは言ってるけど、ついてくるのかな?教国に帰らなくてもいいんだろうか?


「俺のスキルだ。『自室』って奴で、ここは俺の部屋だけど使ったものが勝手に補充されてたりするからホントに日本の俺の部屋かは良く分からない。ベランダの外、床下、天井の上に何しても壊せない黒い壁があるから多分違うとは思う」

「へえ~。すごいスキルね。特にお風呂が凄い!昨日お風呂で久しぶりにシャンプーとボディソープ使って体を洗ったああって気持ちになったわ。大体こっちの人達『洗浄』に頼りすぎ。きれいになってもサッパリ感が全然ないから気持ち悪いのよ」


レイはこの世界の風呂事情に文句を言っているが、俺もよく理解できる。こっちの石鹸全然泡立たないし、髪がゴワゴワになるしで全然体を洗った気にならない。唯一水都の大浴場ぐらいが高かったけど俺を満足させてくれた。


「それでこれからどうするの?」


朝食も食べ終わり皿を洗っている俺の横でレイが聞いてくる。


「委員長を助けに行くつもりだ。浅野の話だと、もうすぐ殺されるらしい。だからその前に助け出す」

「瞳?瞳もこっちに来てるの?え?殺されるって何で?」


レイは委員長・・・田中瞳がこっちに来ていると聞いて驚く。確か二人は仲が良かったはずなので心配していたんだろう。


「委員長もこっちに来てるぞ、俺や金子達と一緒に召喚されたからな、ただずっと引き籠っているみたいで役に立ってないから処分されるんだって」

「た、大変じゃない!すぐに助けに行かないと!・・・・あっ・・・でも・・・あう・・・困ったな」


助けに行こうと言ったレイは何故かその後、困り顔になり助けに行くのを渋りだした。仲良かったと思っていたけど実は悪かったのかな。


「仲悪くても我慢してくれよ。委員長は俺を庇ってくれた人で結構恩を感じているから、殺されると分かったら助けない訳にはいかない」

「仲悪くないわよ。・・・ただ・・・うう・・・瞳、怒るだろうな・・・・でも仕方ないか。よし、助けに行こう。私も覚悟を決めたわ」


助けに行くだけなんだけど、覚悟を決める程のものじゃないと思うんだが・・・いや、城に乗り込むから危険はあるか?


「今日は帝都方面に移動する。それで帝都に着いたら少し様子を探ってから作戦を考える」


今日の予定をレイに伝えると異論は無いようで頷いてくれる。作戦を考えるって言っても『影移動』で侵入する事になるだろう。


「じゃあ、今日はレイはここでお留守番な夕方には戻ってくるから昼飯は適当に食べておいてくれ。俺は移動しながら食べる。夜は一緒に食べよう」

「嫌」


・・・・?


「よし、じゃあ、行ってくる」

「嫌だって言ってるでしょ!一人にしないで!」


聞き間違いかと思ってそのまま外に出ようとしたが聞き間違いじゃなかったみたいだ。レイが、かなり力を入れて抱き着いてくる。


「・・・・まだ怖いのか?」


コクリと頷かれる。そう言えば朝起きてからもずっと俺から離れなかったな。仕方ない、あんまり着く時間は変わらないだろから、また抱っこして移動するか。


「あと、トイレもずっと我慢してる」

「・・・えっ?・・・・いやいや、さすがにそれは無理だぞ。俺がトイレ行ってた時はどうしてたんだ?」

「布団に潜って震えてた。でも短時間だったし、ギンジもトイレにいるって分かってたから我慢できたけど、多分私一人でトイレは無理だと思う。・・・どうしよう」


・・・・どうしようと言われても。



「終わった。ごめんね~助けてもらったのに無理ばっかり言って。でもギンジのこの『影魔法』すごい便利ね。おかげでトイレも一人で怖くなかったわ」


部屋で待っていると戻って来たレイの言葉に呆れてしまう・・・トイレの中に影で手を作ってやったあの状況を一人というのだろうか。



「よし、それじゃあ行こうか」


そして体操服の格好でレイは言ってくるが外が冬だという事を忘れているな。流石にその格好で外には出せないので、影で服を着替えさせてやる。俺の服だから大きいが我慢してもらおう。


「ふぇ?・・え?・・・何で?着替えてるの?どうやったの?」

「俺の『影魔法』だ。便利だろ?」

「すご~い。ホントに便利ね」


褒めてくれるレイの服の裾を折り曲げて長さを調整してから出発した。



「ねえ、これも『影魔法』なの?」


抱っこして運んでいるレイが俺の移動速度を不思議に思ったのか質問してくる。


「いや、こっちは『快足』と『身体強化』スキルだ。『影魔法』は関係ないな」

「そうなんだ。でもギンジってホントに便利なスキル持ってるね」


なんて何気ない会話をしつつ数日後帝都に辿り着いたが、遅い時間なので門は閉まっていた。門の前には兵士が二人警備しており、その前には閉門に間に合わなかったんだろう人達が10人程列を作っている。


「これは朝まで待つしかないよね~」


門から離れた場所で木の影から様子を伺ったレイが諦めた口調で言うが、門は鉄格子なので、俺からすれば無いも同じだ。


「いや、このまま潜入する。レイこっちに来て、手を握ってくれ」


言われた通り俺の手を握ったレイと影に沈んでいく。驚いて声をあげそうなレイの口を塞ぐが沈んでいく恐怖にバタバタ暴れるのでしっかりと抱きしめておく。


「ほら、もう潜ったぞ。聞こえるかもしれないからあんまり大きな声を出すなよ。あと俺から離れると影から弾かれて外に飛び出すから注意な」

「ええ?何ここ?私地面にどんどん沈んでいったよね?何で?」


ものすごく混乱しているレイを落ち着かせる為にしっかり説明をする。説明が終わると納得したのかしてないかボケッとした顔で辺りを見渡している。


「ほ、ホントに『影魔法』って何でもありね。」


レイの言う通りだとホントに思う。この魔法自由度高すぎる、多分今俺が理解している以上に便利な使い方もあるだろう。まあ、今はそれを考えている場合じゃない。影に潜った俺達は列の最後尾に移動する。


「どうしたの?このまま行かないの?」


列の後ろで立ち止まった俺を不思議に思いレイが尋ねてくるが、多分だけどこのままだと門番か並んでいる奴に気付かれるだろう。この国の騎士団と鬼ごっごしている時、『影移動』中でも狼やゴブリンに見られていたので、多分地面に何かしら目印があると考えている。今までは一人だったので確認できなかったが、後でレイに確認してもらおう。


「ああ、このままだと見つかるからちょっと注意を引き付ける」


そう言って地面に影で手を作り、その手にはドアールの街のレンガを持たせている。それを


ドガン!!


思い切り外壁に投げつけると当然当たって大きな音がするので兵士や並んでいる人全員の注意がそちらに向く。


「な、何の音だ?」

「分からん、ちょっと見てくる」


全員の注意がそっちに向いている間に俺達は気付かれる事無く門を通過し、人気のない場所で影から姿を現す。


「ふう、何とか上手くいったな」

「何か手慣れてない?っていうかギンジはこんな事しなくても普通に城に入れるんじゃない?火の国の勇者だよね?」

「移動中少し話したけど、俺は召喚されてすぐに殺されそうになったから、誤魔化して死んだ事になってる。ここで詳しくは話せないからまた今度な。取り合えず城の近くまで行こう」


そうして二人で周囲を警戒しながらも一般の人のように帝都を城に向かって歩いて行く。城が『探索』の範囲に入った所でマップに反応があった。委員長だ。浅野の言ってた通り川崎が戻ってくるまで、まだ生かされていたようだ。あいつ等が戻って来るまでまだ時間はあると思うが、のんびりはしてられない。このまま助け出す。その前に一度確認しておこう。


「うん、影だけが移動してるね、知らなかったら恐怖でしかないわね、これ」


俺が『影移動』で移動してレイの周りをグルグル回ると、レイもそれに合わせて動いてきたから俺の予想は合っていたようだ。結局今まで通り注意して移動する事には変わらない。



「誰も来ないね」

「ああ、せめて廊下の見張りがどこかに行ってくれると部屋に入れるんだけどな」


無事に城に潜入した俺達は今、委員長の部屋の前にいる。ただ委員長の部屋以外の各部屋に見張りの兵がいて影から出ると見つかるので、誰か委員長の部屋に入らないか調度品の影で待機している状態だ。水都でも同じ事していたな。


委員長の部屋のドアは隙間が無いので『影移動』で入れないし、影から出て扉を開けるには隣の部屋の見張りに見つかってしまう。各部屋に見張りがいるのは多分他の部屋も勇者の個室なんだろう。委員長の部屋だけ見張りがいないから、かなり扱いが雑になってるみたいだ。こっちとしてはそれは好都合だけど、役立たずと思われてるのは本当のようだ。そして水都と同じように見回りの兵士が頻繁に巡回しているので、見張りを影で捕縛して強引に侵入してもすぐにバレそうなので誰か部屋に来るのを待つしか出来ない。



「誰か来た」


しばらく待つとようやくメイド服を着た美人がトレーを手にこちらにやってくる。委員長以外の勇者は全員出払っているのでこの部屋に用があるはずだ。俺の予想通りメイドさんは委員長の部屋の前で立ち止まりノックをすると、返事を待たずに中に入って行く。当然俺たちもメイドさんの影に潜んで中に入る。


・・・・・国が変わっても変わらないか・・・痛えええ。


上を見上げていたらレイが頬を力一杯つねってきたからすごい痛い。


「ちょっと!何見てんのよ!」

「パンツ?トランクス?」

「もう今はそんなの見てる場合じゃないでしょ。あとで私の見せてあげるから我慢しなさい」


・・・見せてくれるの?・・・あれ?俺が助けた時、裸だったし、俺は女物のパンツとか持ってないし、街にも寄らずにまっすぐここまで来たし・・・レイってずっとノーパンじゃね?


「もう、またほとんど手を付けていない。いい加減しっかりしたらどうですか?他の勇者様は国の為に働いていますよ」


馬鹿な事を考えているとメイドさんが委員長に文句を言い出した。だけど委員長からは何も返事が返ってこない。


「そう言えばあなた以外の勇者様が『聖女』様を仲間にしたそうですよ。国王様含めて全員大喜びでした。『聖女』様がこの国に来たらあなた本当に必要なくなるんじゃないですか?」


このメイドさん美人だけど性格がかなりきついな。ちょっと引くわ~。隣のレイはあんな事されて本当に仲間になると思われているのがムカつくんだろう、怒った顔をしている。


「・・・チッ。」


何も答えない委員長に舌打ちをした後、メイドさんは部屋から出て行った。こっわ。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


今のメイドさんの態度にドン引きして言葉が出てこないが、いつまでもこうしてはいられない。レイと顔を見合わせて目で合図をすると、ゆっくりと影から姿を現す。念の為、影で床と壁を覆い音が部屋の外に漏れないようにしておく。委員長の部屋は立派なベッドと机とイスが置かれていて、本来この部屋を使う人物はかなりの重要人物だと予想されるが、机に置かれた食事はパンとスープだけでこの部屋の豪華さに全く釣り合っていない。


この豪勢な部屋に委員長の姿は見当たらないが、ベッドの布団が盛り上がっているので委員長はそこだろう。レイと目で合図をしてゆっくりと近づいていく。


「瞳~、起きてる~?」


レイが呼び掛けると布団がモソモソ動いたので、委員長は起きているんだろうが、布団に潜ったまま出てこない。


「お~い。委員長。起きてくれ~」


今度は俺が声を掛けると、布団が跳ね上がったのでかなりビビった。布団を跳ね除けたのは当然委員長だったが、久しぶりに見た委員長の顔はかなりやつれていた。髪の毛はボサボサで寝不足なのか目の下の隈が酷い事になっている。


「何で私じゃなくてギンジの声に反応するのよ」


隣でレイがブツブツ文句を言っているが、委員長はそれに気付いた様子も無く驚いた顔で俺たちと部屋を見渡している。


「ああ、何だ。私ついに死んじゃったんだ。自分で死ぬことも出来なくてだらだらと生きてたけど、これでようやくか。まあ、最後に好きな人と親友が迎えにきてくれたから少しはマシかな」


驚いた顔で俺たちを見ていた委員長だったが、何故か納得した表情に変わり、何やらおかしな事を言い始める。


「ちょ、ちょっと、瞳。何言ってるの?どうしたのよ?」

「怜ちゃんは、あんまり変わんないな・・・ちょっと太った?」

「太ってないわよ!失礼ね!」

「でもここにいるって事は怜ちゃんも死んじゃったんだ」

「いや、死んでないわよ・・・死にそうな目にはあったけど」


何か委員長が人の話を聞かずにおかしな事を言ってどんどん話をしていく。


「土屋君は・・・かなり逞しくなってるね。前よりも体が引き締まって格好良くなったけど、これって私の趣味かな。あんまり筋肉が好きって思ってなかったけどこれはこれでいいね」


俺の体を遠慮なくペタペタ触りながら、またまたおかしな事を言っている。委員長とはここまで気安い仲じゃなかったんだけど、何か委員長の中で俺との距離感がバグってるな。


「うん、いい!すごくいいよ!えへへ~」

「ちょ、ちょっと。瞳。離れなさい」


嬉しそうに俺に抱き着いてくる委員長とそれを必死に引き剥がそうとするレイ、そして状況が理解できず混乱している俺。・・・何だこれ?


「もう、怜ちゃん邪魔しないで、折角、土屋君が格好良くなって迎えに来てくれたんだから・・・って事は・・・別にいいよね・・」

「・・・!ちょ、委員長!近い!近い!むぐっ・・・」

「ちょ!瞳!馬鹿!何しているのよ!」


・・・・委員長にキスされた。意味が分からない。慌てて離れようとするが委員長にがっしりホールドされて離せない。


「えへへ~。しちゃった~。けど結構リアルだな~。幽霊ってこんな感じなんだ。あんまり生きてる時と変わらないね」

「・・・・いや、委員長まだ死んでないから。俺もちゃんと生きてるから。足見てくれ、ちゃんとついてるだろ」

「はあ~。瞳ったら暴走し過ぎよ。言っとくけど私も当然生きてるから。殺されそうだった所をギンジに助けてもらったんだから」


呆れたように言いながらもレイは委員長の頬を結構強めにつねっている。


「痛い!痛いよ、怜ちゃん。!!・・・・??・・・!!えっと、ホントに二人とも生きてるの?」

「「生きてるよ」」

「・・・・もしかして私やっちゃった?」


委員長はレイの方をゆっくり見ながら不安げな顔で聞く。


「そうね。これでギンジにもバレちゃったわね」


呆れたようにレイが答える。委員長の顔がみるみる赤く染まっていく。


「きゃ・・・・・・・・・・・・」


そして大声で叫ぶ直前で俺が影魔法で口を塞いだので委員長は声にならない声をあげている。影で部屋を覆っているので外に聞こえないと思うけど念の為だ。


「委員長、ちょっと落ち着いて俺の話をしっかり聞いて欲しい。このままだと委員長は殺されるって聞いたから俺達助けに来たんだ。で、俺の話を信じて一緒に来るか?来るならもうこの城に戻ってこれないけどどうする?」


委員長にキスされたドキドキが収まっていないが、人に見つからない内に行動したいので委員長をしっかり見据えて返事を待つ。


コクリ


俺の話を聞くと待つ事もなく、すぐに委員長が頷いてくれたので、影を解除する。


「よし、分かった。委員長は荷物をまとめてくれ。レイは、中で詳しい説明を頼む」


『自室』で扉を出してレイに指示する。


「ギンジは?どうするの?」

「俺は少し『偽装』してから城を脱出する。城を出たら1時間ぐらい移動してから戻ってくるからご飯作っておいてくれ。ああ。これオーク肉な好きに料理してくれ」

「分かった。ギンジ、気を付けてね。瞳行くわよ」


荷物をまとめた委員長の背中をレイが押して『自室』に入って行く。


「ね、ねえ、何か二人とも仲良くなってない?名前で呼び合ってるし」


委員長がレイに質問しているのが聞こえてきたが、扉が閉まると声は聞こえなくなり、扉もスーと、どこでもドアみたいに消えていった。


ドアが消えた所で俺は偽装工作を開始する。まずは準備していた死体をベッドに乗せ、浅野の持っていた剣を死体の胸についた傷に差し込む。そして油を振りかけてレイの時と同じように火をつけ死体を燃やす。窓を開けて空気を入れると部屋もよく燃えるが別に気にしない。こんなクソみたいな国の城なんて全て燃えればいいんだ、とか考えながら影に潜り、しばらく待つと外が騒がしくなってきた。外に漏れ出た煙に気付いたようだ。


「火事だ!!!」

「水魔法使える奴を連れてこい!急げ!!」


扉が大きな音を立てて開かれて兵士が二人部屋に飛び込んでくると、すぐに火に気付いたのか大声で叫び出す。その声に気付いた多くの兵士が部屋に入ってきて『水』を使って火を消そうと頑張りだす。俺は消火活動を頑張っている兵士を無視して影に潜ったまま部屋から出て城の外に向かう。途中慌てて走っていく何人もの兵士とすれ違ったが気付かれる事は無かった。そして俺は火事で大騒ぎになっている城の裏庭っぽい所にいる。巡回や見張りの兵士も火事の対応にあたっているのか周りに人はいないので丁度いい。影からドアールの街を見張っていた兵士とレイを運んでいた兵士の死体を全て出す。杉山と浅野が裏切ったと思わせる為に、こいつらの死体は『影収納』に入れたままにしておく。


兵士の死体を全て取り出すと、服だけ着た首を落とされた大量の死体が山積みになったので、かなりの地獄絵図だ。まあ、自分たちの国の兵士だ、埋葬は自分達でやれ。そう心の中で呟いて俺は城を後にした。


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