81話 久しぶりのドアールの街
みんな俺の言う通り明日から避難すると約束してくれた後、俺は都を飛び出して街道を走っている。『身体強化』スキルを使っているのでかなりの速さだが、それでもドアールまではまだかかる。そうして夜通し走ったが、『快足』スキルのおかげか疲れは無く、昼過ぎ頃に『探索』に反応があった。その反応は街道を埋め尽くしてかなり長い列になっている、恐らく敵の騎士団だろう。そして反応があるから金子達もいる。ただ今はドアールの街の様子を見に行くのが先だ。大野は・・・・反応無いからあの中にいないな。どうしたんだろ?捕まったって言ってたから捕虜としてどこか別の場所にいるのか?
このまま鉢合わせする気もないので俺は街道から外れて森に入り、『影移動』で金子達をやり過ごす。幸い向こうに気付かれる事無くすれ違う事が出来たので、俺は更に先を急ぐ。そうして日が暮れる前にはドアールの街が見えた。
久しぶりに見たドアールの街は見た目は何も変わっていなかった。違っていたのは夕暮れのこの時間でも門が閉まっていた事、そこを警備している奴等が火の国の鎧を装備している事だった。
エレナに何度呼び掛けても返事をしてくれないし、金子達が都に向かって進軍しているのを見た時に分かっていた。それでも分かりたくなくて必死で頭の中で否定していた。だけど鉄格子の門の向こうで人が大勢血を流して倒れているのを見ると信じない訳にはいかない。
——————ズッ
影を伸ばす。
ドシュ!
門の外で警戒している3人の兵を足元から影で貫く。股から頭まで影が突き抜け、そのまま影に沈んでいく。
「おい、どうし・・・」
「な?何だ?応援を呼・・・」
「ひぃいいい・・・」
異変を感じたのか門の向こうに現れた兵士を即座に影で拘束して同じようにトドメを刺して影に沈ませた後、『影移動』で街に入り、周囲の惨状を一つずつしっかり確認するように歩いている。
・・・酷い。なんだこれ、酷すぎだろ。何で一般人まで殺す必要があるんだ
所々に倒れている人を避けながら街の中心に向かっていくと、倒れている人の数がどんどん多くなってくる。そうして街の中心の広場まで来た。そこは最後に見た屋台が立ち並ぶ賑やかな光景は既にない。広場には机やイス、家具なんかが積み上げられたバリケードが出来ているのでここで防衛していたんだろう。ただ、そのバリケードも所々破壊されていて近くには冒険者の格好をした人が大勢倒れていた。その中には俺の知り合いも大勢いる。左肩から先が無くなって倒れているのは『尾無し』の時に俺に文句言ってきたシーラだ。近くには黒焦げの奴が倒れているが手には見覚えのある赤い盾を持っている。
「・・・あ・・・ああ・・・みんな」
余りの惨状に勝手に声が漏れる。広場から貴族街の方を向くとそこには『鉄扇』メンバーが倒れていた。ウィートは体に穴が開いていた。近くに落ちている盾にも同じような大きさの穴が開いていたから盾ごと何かが貫通したようだ。サーリーは肩から斜めに体が切り裂かれている。カールは殴られたんだろうか、体中に打撲の跡がついていた。更に胸に刺し傷のあるギルマス、首を斬られたミーサさんも倒れている。
「・・噓・・・・噓だ・・・・何で」
貴族街の方に向かうと更に一般人の死体が多くなっていく。脇道にもバリケードがしてあるのでみんなここに避難してきたらしい。そうして更に進んでいくと、ついに目的の人物エレナを発見した。この雪がチラつく寒い時期にも関わらず彼女は服も着ずに教会の入口にもたれるように座っていた。傷一つなかったエレナの体には、今は見ただけで分かる大きな傷が腹に刻まれていて、その傷から流れた血が彼女の下半身を赤黒く染めていた。そしてエレナがもたれていた両開きの扉の片方は外れていて、中の様子が伺えるが、中には子供や老人、女の人がたくさん倒れていた。その中にガジやサラ、孤児院のチビ達の姿も見える。教会の周りにもスーティン含めて多くの人が倒れているが、大半は若い女性で服を着ていない。ここで何が行われていたか考えたくない。そうして惨状を確認した俺は教会の壁に書かれた伝言に目を向ける。
『いつでもこの女の仇討ちに来い!偽勇者!本物の勇者杉山』
壁にはこっちの文字で書かれて矢印がエレナに向いていた。
「エレナ。ごめんな。戦争が始まったって聞いた時にすぐに向かっていれば良かった。ごめん。みんなもごめんな」
俺が間に合っていたとしても何がどう変わったか分からない。もしかしたらこの場に死体が一つ増えていただけかもしれないが、それでも間に合わなかった後悔からエレナやみんなに謝ってしまう。
『念話』が繋がらなくなった時点で覚悟はしていたし、目の前のエレナは『探索』では中抜きの丸なので、もう死んでいる事は分かっている。ただそれでももう一度エレナの顔を見たいと思い赤く長い髪をかき上げて隠れた顔を確認する。
・・・・うっ・・・何で・・・こんな・・・
「う、う、あああああああああああああああああああああああああ」
エレナの顔は俺の覚えている形をしていなかった。殴られたのか顔全体が腫れ上がって肌もおかしな色になっていた。
「くそっ!くそっ!あいつら!殺す!殺してやる!」
エレナの顔を見た瞬間、間に合わなかった後悔は金子達への怒りで全て置き換わった。どれ位、金子達に殺してやると言い続けただろう。顔を上げると辺りは日も落ちて暗くなっていた。そして先程まで地面に倒れていた死体がきれいに無くなっている。死体だけじゃない、家や街壁も全て無くなっている。この街のみんなの遺体はこのまま放置して行けないので、後できちんと埋葬する為に俺が『影収納』に入れた。街もこのまま火の国に利用させたくは無かったので全て収納した。辺りには何も残っていない。いや、辛うじて街の外にある共同墓地は残っている。そして、東と南の門があった所に黒い人型のオブジェが残っているのが見える。
「俺の質問に答えろ。答えないと殺す」
まずは東の門にいた騎士団を首だけ解放して質問を始める。
「ドアールを攻めたのは誰の指示だ?」
「貴様!何者だ!わた・・・」
ボトッ
最初に口を開いた奴の首が落ちる。
「隊長!貴様!・・・」
2人目もすぐに静かになる。3人目に顔を向けると怯えた顔に変わる。
「・・・・・・・」
何も答えないので3人目も首が落ちる。
「答える奴はいないか?」
残り5人。俺から目を逸らし仲間とアイコンタクトを取り何か相談しているようだ。
「時間切れだ。お前らはもういい、あっちの門の奴等に聞く事にする」
くるりと踵を返し残り5人に背を向け南門に歩き始める。背後で首が落ちる音がした。
「勇者様だ!勇者様があの戦いじゃ肩慣らしにもならないって言いだしたらしくて、この街に攻め込んだんだ」
南門にいた最後の一人がようやく話をしてくれた。
「あいつらはどれぐらい強いんだ?」
「そりゃあ、もう有り得ねえぐらいだ、勇者様達みんな上級魔法をバンバン使ってたし、何人か最上級魔法も使ってたと思う、水の国の軍を開始早々蹴散らして、あっちの勇者の首をあっという間に取って、聖女を捕まえたぐらいだ」
水の国の軍にはAランクパーティとそのクランメンバーもいたはずだ。こいつの話がホントなら金子達かなり強くなってるな。復讐するにしても各個撃破していくか強い仲間を集めてからじゃないと、みんなの仇が討てそうにない。そういえばこいつの話で思い出したけど大野はどうしたんだ。
「捕まった聖女はどこだ?水都に向かっている中にはいなかったぞ?」
「聖女は一足先に帝都に送られた。勇者様も護衛についてる」
って事は二手に別れたのか。杉山の野郎はどっちだ。
「杉山はどっちにいる?」
「スギヤマ?誰だ?」
「お前らの国の勇者の一人だよ。知らねえのか」
「勇者様なんて俺らが近づけるはずないだろ。名前も知らねえよ」
第3騎士団のこいつが近づけないって金子達かなりVIP待遇だな。それで調子に乗ったのか。・・・・まあいい、必ず後悔させてやる。そう思いながら、しばらくこいつから色々情報を聞き出す。
「勇者は何人来ている?」
あんまり聞きたくないがこれも聞いておかないと駄目だろう。これで9人と答えが返ってきたら委員長も復讐の対象に入る。委員長ならそんな馬鹿な事をしないと信じているが、
「全員で来ていると聞いた」
答えは俺が望んだ物では無かった。あの委員長が、クラスから孤立した俺にノブ以外で唯一話しかけてくれたり俺を庇ってくれた委員長が・・・まさかという気持ちだった。
「・・・ああ、そうか、分かった」
「じゃあ、早く解放して・・・・」
最後の一人の首を落としてから俺は大野に『念話』で呼びかける。
(おい!大野、お前の近くに杉山はいるか!)
(・・・・あっ、・・・土屋君・・・・いるよ・・・杉山君、浅野さんが・・いるよ)
(そうか。今お前どこにいる)
(・・・・分からない。・・・火の国に入ったって・・・・聞こえて来たけど)
(そうか。事情が変わった。いまからついでに助けてやる。もう少し待ってろ)
(・・・ごめん・・・もういいよ・・・・多分・・・私・・・・もう駄目)
(大野!おい!しっかりしろ!)
『念話』は繋がっている感覚はするが返事が返ってこなくなった。これは急がないとマズいかもしれない。俺はチラリと墓地の方に目をやる。
師匠、みんなドタバタしてすみません。今度はもっと落ち着いた時に会いに来ます。
師匠達にそれだけ伝えて俺は南に向かった。
「見つけた」
国境を越えて街道を進むと道を塞いで野営している50人程の集団の反応があった。俺は見つからないように道から外れ森に入り可能な限り近寄ってから集団を観察する。自国に戻って安心したのか寛いだ様子だ。見張りもいるがあくびをしたり、他の奴等と話していたりで大分気が抜けている。『探索』だと大野はあの真ん中の鉄格子のついた馬車の中にいるようだ。さっきからその馬車に兵士が近づいては、にやにや眺めてから去っていくがここからでは誰かが倒れている事ぐらいしか見えない。で、その馬車の近くにあるでかいテントの前に杉山がいた。野営なのにイスとテーブルを出して酒と料理を楽しんでいる。隣には浅野と更にお偉いさんみたいな人も一緒にテーブルで食事をしていて、その周りを兵士が警戒している。こちらはお偉いさんがいるからか、さっきの見張りと違ってしっかりと周囲の警戒をしている。そんな奴等に囲まれているぐらいだ、聞いていた通り勇者ってのはかなりのVIP待遇のようだ。
さて、ここからどうしようか。兵士の話だとあいつらかなり強いんだよな。捕まえて少し話を聞きたいけど出来るかな?取り合えずいつもの様に影で捕縛して、様子を見てみるか。捕縛が破られたら一度撤退して作戦を練り直そう。
————ズッ
雑に作戦を決めてから行動を開始する。茂みに隠れながら『探索』で確認しつつ全員の足元に影を広げたが、誰にも気付かれない。
『捕縛』。よし、これでしばらく様子見だ。破られたら一度撤退して作戦を考えよう。大野が心配だが、俺が死んだら助けにきた意味ないからその時はもう少しだけ我慢してもらおう。
・・・・・・動きがないな。もしかして捕縛破れないのか?
一応警戒しつつも茂みから出て、杉山の方に近づいていく。近くまできたがやはり動きがないので、安心していいみたいだ。
動けないなら先に大野を助けてからにするか。
そう考え杉山達を放置して大野のいる馬車に目を向ける。
!!・・・・酷え、マジかこいつら、クラスメイトだぞ。ここまでするか。
「おい、大野!大丈夫か!しっかりしろ」
大野の状態に気付くと慌てて馬車に近づき声を掛ける。大野はこちらの呼びかけにピクリとも反応しない。鉄格子の鍵を『収納』して中に入り大野を抱き起す。遠目からでも怪我をしているのは分かっていたが、近づいて抱き起すと大野は思っていた以上に酷い状態だった。
この寒い夜空の中、大野は何も着ていなかった。全裸で真冬の夜に放置されていた。その体は痣だらけで腫れ上がり酷い暴行を受けた事が分かる。特におかしな方向を向いている右の足首と左腕の腫れが酷いので骨が折れているだろう。更に顔も酷い状態だ。色んな奴から可愛いと言われていた面影が何も残っていない。刃物でつけられた切り傷だらけとなった顔が目が隠れる程に腫れ上がり、鼻も折れていた。肩の後ろぐらいまであった黒い髪も適当に短く切られている。
大野の状態を確認した後、上級ポーションを取り出し体全体に振りかける。完全にではないが、大部分の腫れや傷が治っていくので外傷はこれでいいだろうが大野は目を覚まさない。次は中級ポーションを取り出し、大野の口に含ませる。すぐに喉が動いて、コクコクと飲み干したので、これで内臓系のダメージも安心だろう。
「大野!おい、しっかりしろ!大丈夫か?」
大野の汚れた体を『洗浄』できれいにした後、俺の服を影で着させてから軽く頬を叩いて大野を起こす。
「・・・う・・・誰?・・・土屋君?」
「よし、大丈夫そうだな。良かった。用事を済ませるからもう少しだけ待っててくれ。今から俺のスキルで少しの間、視覚と聴覚が無くなるが心配するな。そのまま横になって寝てればいいからな」
抱き起していた大野を再び床に寝かせてからその上に俺が着ていたマントを被せてやる。冷えた体をすぐにでも温めないといけないが、今は我慢してもらう。今から俺がやる事は弱った大野は見たり聞かない方がいいだろうと考えて影で目と耳を塞いでおく。
そして杉山の所に歩いて行き、杉山と浅野の対面の椅子に座るお偉いさんの首を飛ばして『収納』した後、空いた椅子に腰かけて、二人の目の捕縛を解除する。
キョロキョロ周囲を確認していた二人だったが、目の前に座る怪しげな奴に気付くと驚いて目を見開く。今の俺は目だけしか出していない状態で誰かは分かっていないだろうから、頭に巻いていた布を外して顔を見せてやる。二人ともお化けでも見るような目でこっちを見てくるが、死んだと思っていた俺が目の前にいるんだ、当然の反応だろう。
「久しぶりだな」
「て、てめえ。土屋!何で生きてやがる」
「死んだんじゃなかったの?」
首から上の捕縛を解放してやると、二人とも俺が生きていた事に驚いた様子だ。だが、その質問に答える前に、
ボゴッ!!!
俺は椅子から立ち上がり前のめりになりながらも机越しに杉山の顔を殴りつける。影でしっかり固定しているので衝撃が後ろに逃げる事なく伝わる。俺の手も痛いがこいつらに対する怒りで我慢できる。殴られた杉山は鼻が潰れてボタボタ鼻血を垂らし始めた。
「ちょっと!何してんの!いきなり殴りつけるとかマジありえなくない?」
浅野が五月蠅いな。チラリと目だけを向けて、影で口を塞いでおく。これから杉山にする事を見ればこいつの口も軽くなるだろう。
「・・・はぁ・・・はぁ。土屋!・・・てめえ・・・何しやがる」
未だに自分の立場を分かっていない杉山が鼻血を流しながら俺に凄んでくる。
「仇討ちにきてやったぞ。歓迎してんだろ?」
「・・・は?じゃあ、お前があの女の言っていた勇者だってのか」
エレナはこいつに何か言ったのか?まあ、もうどうでもいいか。今の言葉でこいつが本当にエレナに酷い事をした事が分かったので、今から仇を討つだけだ。
ボトッ
「うぎゃあああああああ!俺の手が!!!痛えええええ!」
「ほら、歓迎してんだろ。一方的にやられてどうすんだ?」
左腕を影で切り落とされて叫び声をあげる杉山を煽る。
「クソッ!クソッ!土屋てめえ殺してやる。土よ!俺の・・・ぐあああああああ」
杉山が詠唱を始めた途端頭に警報が鳴り響いたので、さっき斬った傷口を『火』で焼いてやると詠唱中断して大声で叫び出す。
「・・・土屋・・・分かった、悪かった・・・許してくれ・・・」
これで早くも心が折れたのか謝ってくるが、ドアールの街のみんな、ましてやエレナにあれだけの事をしたんだ、当然許す訳がない。
ボトッ
「うがああああああああ、何で・・・・俺の腕・・・謝ったのに・・・」
これで両腕が無くなったな・・・もう少し苦しませてから殺すか。
「仇討ちに来たって言っただろ?何で謝ったら許して貰えると思ってるんだ?そもそも俺に謝ってどうすんだよ」
「・・・はぁ・・・はぁ・・・噓だろ・・・噓だよな・・・土屋君、ごめんなさい。・・許して・・・下さい」
「だけど、これって叫び声が五月蠅いな。だからもういいか、あっちでエレナとドアールの街のみんなに謝って来いよ」
椅子から立ち上がり杉山に近づいてから、腹の部分の捕縛を解除して片手剣で腹を斬りつける。これで暫く苦しんでから死ぬだろう。
「あ・・・あ・・・噓・・・痛い・・・痛いよおお・・・死にたくない・・・死にたくない・・・死にたく・・・」
暫く待つと杉山が死んだ。俺が手に掛けて静かになった元クラスメイトに特に何も感じない、野盗を殺した時と何も変わらないしエレナの仇を討てたがあまり喜びも湧いてこない。やっぱり金子達全員をやらないと気が晴れないんだろうか。そんな事を思いながらも事切れた杉山の首をいつもの作業のように切り落とす。
さて次は、浅野か。
浅野に目をやると怯えた目で俺を見つめて涙目になっている。こいつの悪行もドアールの街にいた奴から聞いているので当然許すはずはないが、まずは話を聞きたい。これだけ怯えていれば正直に話してくれるだろう。そして分かった事、これだけやっても浅野が何もしてこなかった事から口を捕縛すれば魔法は使えないようだ。
「・・・あーし・・・杉っちのやった女の人に何もしてないよ、やったのは杉っちと和田ちゃんだよ」
・・・和田もか・・・あいつも苦しめてから殺してやる。
「今回委員長も参加しているのか?」
あの兵士は全員と言ったが俺はいまだに委員長が参加していたとは考えられなかった。だけどこれで浅野の答えによっては委員長も復讐の対象に入る。
「委員長は来てないよ。ずーっと部屋に引き籠ってる」
・・・??あれ?嘘ついてる感じしないな。どういう事だろ。
「俺が聞いた兵士は勇者は全員で来ているって言ってたぞ。お前噓ついてるのか?」
「いや、いや、違うし、嘘なんかついてないし。その兵士が委員長の事知らなかっただけみたいな?委員長こっちきてから1ヶ月ぐらいは頑張ってたけど、あーしにまで魔法の練習置いて行かれたショックで引き籠ったから。委員長、学校じゃ優等生だったじゃん。みんな出来るのに自分だけ出来なかったのがショックだったみたいな?」
浅野の言う事だが、こっちの話の方が信ぴょう性があるな。
「って事は委員長は戦争に参加してないんだな?無事に城にいるんだな?」
「参加してないけど、無事かどうかは分からないかな?引き籠ってから誰にも会おうとしないし。それに今回の戦争が終われば委員長処分されるみたいな?」
「どういう事だ?」
「勇者と言っても役立たずの引き籠りを置いておく意味はないって。今回聖女が手に入ったら、もういらないから処分しようって王様と大臣が言ってたし。ただ俊介が処分する前に1回だけ幼馴染とヤリたいって言ってたからそれまでは待つみたいな」
マジであの国はクソだな。物扱いしやがって人を何だと思ってやがる。それに大野をあれだけ酷い目に遭わせておいて協力してくれるとでも思っているのか。
「お前それを聞いて委員長を助けようとかしなかったのか?」
「い・・・いや・・・委員長の事は、俊介に・・・そう、幼馴染の俊介に任せるみたいな」
目が泳いでいるから委員長の事を全く助けるつもりは無かったな、こいつ。
「じゃあ、大野の事はどうだ?あれだけ酷いケガしてたんだぞ?何で助けなかった?」
「い、いや。あーし、『回復魔法』使えないじゃん。直してあげたいって思ってたんだけど無理だったんよ」
「ドアールの街で虐殺したのは何故だ?ルールで攻め込むのは無しのはずだろ?」
「・・・あ、あーしは反対したよ。だけど男子が魔法をもうちょっとぶっ放したいとか、女とヤリてえとか言い出して勝手に攻め込んだみたいな」
アウトだな。さっきから目が泳ぎまくっていたから、委員長は見捨てたし、大野を回復させるつもりも無かったんだろう。更にドアールの街での事は俺は聞いているので浅野が嘘をついているのは分かる。
「人を使って魔法の練習は楽しかったか?」
「ち、違うし。あれはあーしに攻撃してきた奴等に反撃しただけだし!」
俺の言葉にピクリと体を震わせ、浅野は必死に言い訳を始めるがそれも噓だと分かっている。
「それは逃げ惑う子供に対しても反撃って言うのか」
「・・・・・」
俺の言葉に黙り込む浅野。浅野がドアールの街でやった事を俺は知っていると分かってくれただろう。これで逃げ場がなくなった浅野が今から何をしようとするかは分かる。黙り込んだと思ったら下を向いてブツブツ小声で早口で何か言っているが、頭に警報が鳴り響いているので、詠唱を始めているのだと分かる。
「はい、残念」
詠唱を唱え終わったんだろう下を向いていた浅野がバッっと顔を上げた瞬間、影で口を塞ぐ。さっきから体はずっと捕縛されて動かない事をこの馬鹿は忘れていたんだろうか?口を封じられた浅野は魔法が発動できないようで、目で必死に何とかしようとしているが、無駄だろう。
「お前は委員長の情報くれたから苦しませずに殺してやるよ。この後、金子達もそっちに送ってやるから寂しくはないぞ。あと、ドアールの街のみんなにはちゃんと謝っとけよ。じゃあな」
最初と同じように怯えた顔で涙目になっている浅野だが、気にせず影で首を切り落とす。その後は捕縛している騎士団の首をどんどん落としていくが、『偽装』の為、大野と委員長と同じぐらいの身長の女騎士を選び、そいつらだけは心臓を突き刺してトドメを刺す。
騎士団が使っていた馬も全て開放して、騎士団の死体を全て影収納に収めると、周りは野営で起こした焚火の音が周囲に響くだけになった。そして大野のいる馬車に行き偽装工作として先ほどの女騎士の遺体の心臓に杉山が持っていた剣を突き刺してから油を振りかける。その後大野を抱えて馬車の外まで連れだしてから『火』を唱えて死体を燃やすと、油を振りかけたおかげでよく燃えた。DNA鑑定とかないこの世界ならこれで大野が死んだと騙せるし、杉山が裏切ったように見えるので俺の存在がバレる事は無いはずだ。
そうして抱きかかえた大野の目と耳を開放してから話しかける。
「大野、もう目を開けても大丈夫だ。全部終わったけど、ここにいると人に見つかるかもしれないから少し移動する。それまで静かにしててくれ」
俺の言葉にゆっくりと目を開けて俺を見ると、コクンと頷いてから俺にしがみ付いてきたので、俺も移動を開始する。金子達が戻ってくるまで委員長は殺されないみたいな事を言っていたけどあの国の奴等が約束守るとは信じられない。それに今から金子達を追いかけて襲撃を仕掛けても、大勢の兵士に守られた金子達を全員殺せる可能性はかなり低い、というより多分先に俺が殺されるだろう。だから金子達への復讐は後回しにしてまずは委員長を助ける為に、俺は二度と行く事はないと思っていたクソムカつく国の都『帝都』に移動を開始した。




