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影魔法使いの冒険者  作者: 日没です
4章 水都のEランク冒険者
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78話 水都の影商人

「どうするよ。今からギンを助けに乗り込むか?」

「いや、アニキはギルドで待ってろって言ったんですよね。アニキがそう言ったんなら俺達はそれを信じて待ちます」

「でも、さすがに今回はあのギンでも厳しいわよ。みんな見てる前で貴族を斬りつけたんでしょ?言い逃れしようがないわ」

「だから、私は行くって言ってるでしょ。あんた達がどうしようが勝手だけど、私は助けて貰った当事者だから、命に代えてもギンを助けるわ」

「腹減ったあ。あっ?これ食っていい?」

「おい!ギン!今お前を助けに行くかどうか話してるんだ!真面目に聞け!」


・・・・・


「「「「ギン!」」」」

「あんた無事だったのかい」

「ほら、だからアニキの言う通りしてれば問題なかったんですよ」

「お前どうやって許してもらったんだ?」

「あ、あのギン、助けてくれてありがとう」


心配させたんだろう、色々言われるが、今はちょっと忙しい。誰かの食いかけの肉を一切れ口に入れる。


「リコル、斬られた腕は大丈夫か?」

「ああ、助かった。ありがとよ」


腕には包帯を巻いているので、まだ、完治した訳ではないが無理をしているようには見えないので、大丈夫なんだろう。


「そう言えば何でリコル達はガーネットを助けにいったんだ?」


派閥も違うし接点も無かったので不思議に思っていた。


「前に一度赤狼に襲われたのを助けて貰ったからな」


赤狼ってCランクの魔物でDランクのリコル達だと厳しい相手だな。


「だからあれはこっちの目的だったから助けた訳じゃないって何回も言ったじゃない」

「そっちはそう思うのは勝手だけどこっちもそう思っちまうんだよ!」

「・・・なら仕方ないか。助けてくれてありがと」


リコルの答えにニコニコ笑いながらガーネットが抱き着いた。リコルは困った顔しているけどこれってガーネットからのフラグ立ってね?俺もお前の事助けたんだけど・・・まあフラグ立ってもそれはそれで困るけど。



「それでアクアフォース家はどうなったんだ?」


ガーネットの態度に俺も含めて驚いているが、ゴドルだけは気にしていないようだ。こいつは最近リマから一言ぐらいなら会話して貰えるようになり浮かれているから他は目に入らないみたいだ。


「ああ、多分大丈夫だ。詳しく説明している時間は無いが、明日には面白い事になるはずだ」


みんな聞きたいだろうけど、今は詳しく説明している時間はない。・・・カラミティは・・・あそこだな。


「じゃあ、ちょっと用事済ませてくる」


まだまだ話したそうなみんなを置いて俺はイケメン集団の中に入って行く。そうして入って行ったイケメン集団の中心には思った通りカラミティがいて、隣に座るイケメンからご飯を食べさせて貰っていた。


「よお。悪いな、飯食ってる時に、ちょっと、頼みがある」


イケメンに食べさせて貰っている姿にドン引きしながらも顔には出さず話しかける。


「はっ?何あんた?今更私のクランに入れてって言っても遅いわよ」


俺が話しかけるとニコニコしながら飯を食べていたカラミティの顔が一転、眉間に皺を寄せてこちらを睨みつけてくる。あれから一度も絡んでないし、カラミティも俺の事避けてるから嫌われている事は知っている。俺もこいつ嫌いだし。


「違えよ。頼みってのはこの手紙をアクアフリーデン家に届けてくれないか?って事だ」

「は?ホントにあんた何様?なんで私があんたの頼み聞かなきゃいけないのよ。それにアクアフリーデン家って・・・・・ちょっと、その手紙って中を見てもいいの?」


何かを察したのか、カラミティは不安そうな顔で手紙に手を伸ばす。


「見てもいいけど、他の奴には見せるなよ」


そう注意すると、イケメン集団から少し離れた所に行き、手紙を読み始める。イケメン集団は心配そうにカラミティを見ているが、そのカラミティは手紙を読み進めていくうちにどんどん顔が青ざめていく。中身はカラミティにとって良くない事が書かれているからそうなるのは分かる。と、手紙を読むのをやめて俺の方にズカズカ歩いてくる。


「ちょっと、こっち来て!・・・個室を借りるわ!」


俺の手を引いてギルドの個室に入って行く。扉を閉めるなりカラミティは俺に大声で質問してくる。


「これは何?何でこんなヤバい物あんたが持ってんのよ?しかもフリーデン家に届けろって、あんた、私とフォース家の関係知ってて言ってるわよね?」

「この手紙の出所は秘密だ。あとお前とアクアフォース家の関係も当然知ってる。知ってて頼んでる、お前に頼んだ理由は『深海』がムカつくからその嫌がらせだな。お前も好きじゃないけど、お前は俺が『首渡し』だって知っても1回も金要求してこなかったからまだマシだ。別に断ってもいいぞ。その時は自分で持ってくだけだから」


あの後何度か『深海』とか『大海龍』のメンバーから金を要求されていた事もあったのであのクランにはいい加減うんざりしていた。そしてAランクで顔も知られているカラミティの方が話が俺より早く進むと思っての事だ。


「これを持って行けばフォース家は確実に没落するわね。そうすると、この手紙を持ち込んだ私はフリーデン家の覚えが良くなり、派閥に取り入ろうとしている『深海』の一歩先に行ける。なるほど、『深海』への嫌がらせね。でも私が我慢してデブに抱かれたのが無駄になったと思うと腹が立つわね」


やっぱりこいつあのデブとヤッてたのか。デブ貴族の奴こんな美人となんて少し羨ましい。


「そもそも『魅了』使えばデブとヤル必要もなかったろ。何で使ってないんだ?」

「・・・『魅了』なんて私は使えないけど、まあ、もし仮に貴族に『魅了』使ってるのがバレたら処刑されるから危なすぎて普通は使わないわ」


態度でバレバレだ。この期に及んでまだ『魅了』が使えないと言い張るカラミティだが、貴族に使わない理由は分かった。


「まあ、いいけど。分かったら今日中にアクアフリーデン家に持って行ってくれ。持って行かなくても俺がまだ他の証拠の手紙持ってるから、どっちにしてもあのデブの家は終わりだ。カラミティも近づかない方がいいぞ」

「分かってるわよ。火の国に情報売る家には危険すぎて近づかないわ。取り合えずこの手紙はありがたく使わせてもらうけど、別に借りを作ったなんて勘違いしないでね」

「分かってるよ。それじゃあ、頼んだぞ」


個室から出ると、まだ夕方には少し早い時間なのでこれからダルクさんの所に相談に行こうと決める。出口に向かっていると、ゴドル達に囲まれ、カラミティと何を話していたか聞かれるが、明日になれば分かるとだけ言って俺はダルクさんの店に向かった。



「ダルクさんを呼んでもらえますか?」


ダルクさんの店に行き、店員にダルクさんを呼んでもらう。相変わらずダルクさんの店は俺みたいな冒険者の格好で入る店じゃない。一人だけ浮いているので申し訳なく思ってしまう中、暫く待つと店員さんが戻ってきて奥に通される。


「今日はどうしました?もしかしてまた野盗を潰してきたんですか?」

「いえ、今日はダルクさんに裏ルートを紹介してもらおうと来ました」


あのデブ貴族の宝剣の時に裏ルートに流す方法があるってダルクさん言ってたから、多分知ってるんだろうと当たりをつけて聞いてみた。


「はあ・・・私の店では駄目な理由を教えて頂いてもいいですか?」

「今回の商品は貴族の家から盗ってきたからこんなのばっかりなんですよ。流石にダルクさんの店じゃ取り扱えない事は分かるし、多分裏ルートに流す他ないかなって思って」


そう言ってデブ貴族の家から収納してきた家具等を取り出す。まあ収納した時に気付いたが、大半の家具にデブ貴族の家の家紋が入っている。これが無ければ普通に売れるのに。


「な・・こ・・・これは・・・ギンさんの言う通りウチでは取り扱えないですね。ましてや盗品と言いましたから冒険者ギルドでも無理この数ではこの国の裏ルートでも無理だと思います。」

「え?マジで?・・・・どうしよう」


いきなり不良在庫になったと言われたので衝撃で固まってしまう。タダでさえ鎧セットっていう不良在庫がまだあるのに、ここで更に増えるとは思わなかった。


「いえ、ギンさん。この国ではってだけで、多分他の国なら売れますよ。よその国の貴族の紋章なんて誰も気にしないですし、貴族の中にはそういった紋章入りの物を集める変な人もいるって聞いた事もあるので大丈夫だと思います。ただ、私はこの国の裏ルートの影商人しか知らないので、そいつから他の国の影商人を紹介してもらうのが、手っ取り早いんですが、果たして紹介してくれるかどうか」


うん、取り敢えず何で『闇商人』じゃなくて『影商人』なんて言い方になるのか聞くと、闇は建国王妃を表すので悪い意味ではないらしい。代わりに影が悪い意味になっているんだと、ちくしょう、影嫌われ過ぎだろ。


「取り合えず、ダルクさんの知ってる影商人に会ってきますよ。会えなかったらその時はまた考えます」




教えて貰った影商人の店は、大通りからかなり外れたスラム街の薄暗い路地の行き止まりにあった。周辺の家の壁や道の様子からこの辺はかなり治安が悪い事が分かる。当然この辺にいる奴等もガラが悪く、この辺では見慣れない俺をジロジロ見てくるし、こっちに向かって来ようとする奴等もいたが、途中で仲間に止められて幸い絡まれる事はなかった。


そうして店のドアを開けると階段が下に続いているので警戒しながら下に降りて突き当りの部屋に入ると、見るからにガラの悪い奴等が5人椅子に座り酒を飲んで寛いでいた。寛いではいるが『探索』で全員赤反応なので、俺は更に警戒を強める。


「ダルクさんからの紹介で来た。買取を頼む」

「はあ?ダルクだあ?買取って何の事だ!今すぐ回れ右して出て行け!じゃねえと腕の1本は覚悟してもらうぞ!」


俺に一番近い場所にいた奴が酒臭い息をかけながら、俺に凄んでくる。何か仕掛けてくるかもしれないので油断はしない。


「お・・おい、ちょっと待て。ダルクの紹介って・・・こいつ『首渡し』だ!ヤベえ奴が来た!全員動くな!絶対だ!武器も捨てろ!こいつの前で下手に動くと頭と体がサヨナラするぞ!貴族だろうが構わず攻撃する頭のイカれた奴だ!絶対怒らせるなよ!」


多分この中で一番偉い悪人顔が俺が『首渡し』だと気付くと、周りに大声で注意する。周りの奴等も武器に掛けていた手を離して両手を挙げて無抵抗の意思表示をする。


・・・・・俺はどんな風に言われてるんだ。一回調べてみるのもアリかもしれない。



「ダルクさんからはここでも買い取れないだろうって言われたけど一応見て貰っていいか」


連中が落ち着いてから商談に入る。


「あ、ああ。でもここで買い取れない物なんてないぞ。ダルクの野郎嘘ばっかり言いやがって」

「ほら、これだ」


そう言ってカバンから家紋入りの短剣を取り出す。


「お、おお。こりゃアクアフォース家の短剣か。なかなかヤベえもん持ってんな、さすが『首渡し』だ。ただ、まあこれぐらいなら買い取ってやる金貨3枚だ。・・・おっと、こういう店で値段交渉は無しだ。言い値で売るか売らないかだけだ。どうする?」

「売る、次はこいつだ」


そう言って今度は家紋入り鎧を取り出す。鎧を見た影商人の顔が引き攣ったのが分かる。周りのお仲間もかなり驚いた顔をしているので、これはかなりヤバいものだってのが分かった。


「こ、これは、かなりヤベえ。ヤベえがウチなら買い取ってやる大金貨1枚だ。これを買い取れるのは多分この国だと俺の店ぐらいだ。どうする?」

「売る、次は・・・って1個1個こうするのも面倒くさいから一遍に出していいか?」

「ちょ、ちょっと待て。まだあんのか?」

「ああ、まだまだあるからさっさとやるぞ。この後も予定が入っていて忙しいからな」

「・・・・すまん。無理だ。ダルクの言う通り、これ以上は国に目を付けられる可能性があるから買い取れん」


あっさりギブアップした影商人。そんなに貴族の家紋入りの物はヤバいやつなのか?


「それじゃあ、こういった家紋入りの物を買い取ってくれる店を教えてくれ。他の国の影商人なら買い取って貰えるはずだとダルクさんから聞いた」

「ああ、情けねえがこっちとしてはそうしてもらうと有り難い。まあ、大概こういった物は光の教国で売るのが鉄板だから、そこの影商人を紹介してやる」

「何で光の教国が鉄板なんだ?」

「そりゃあ光の教国が他の全ての国と隣接しているって地理的要因があるからだ。そこの裏ルートに流せばそれこそどこにでも流れるからな。後を追うのが難しくなるんだよ」

「まあ、詳しい事はいいや、光の教国の影商人なら買ってくれるんだな?そいつはどこにいる?」

「紹介状と地図を書いてやるから、少し待て」



「ほら、書いたぞ。しっかしあの駄目貴族って言っても貴族は貴族。よくあそこから盗み出せたな。あそこは先代からの凄腕執事やメイドが未だにいるって話だけどな」


手紙を差し出しながらも、俺の出した家紋入りの剣と鎧セットを見ながら呆れたように言ってくる影商人。


「まあ、方法は企業秘密だ。それよりもあの家は近々取り潰しになるけど、それでも家紋入りの物は取り扱えないのか?」

「当たり前だ。取り潰された家でも貴族の物を取り扱ってるなん・・て・・・・・おい!今何て言った?アクアフォース家が取り潰しって言ったか?」

「ああ、カラミティがちゃんと仕事してれば明日には動きがあるはずだ。まあ、無くても火の国に情報売ってるんだ、近いうちにあの家は取り潰されると思うぞ」

「こ・・こいつは・・・おい・・・すぐにボスに報告!こりゃあ、明日朝一でアクアフォース家派閥を切り捨てる事になるか・・・」

「おい、俺の言う事信じていいのか?噓かも知れないぞ?」

「アクアフォース家の家紋入りの物をたくさん売りにきた奴が言った言葉だぞ、信じるしかないだろ」

「まあ、そっちがいいなら俺はもう何も言わないけど。取り敢えず、短剣は紹介状を書いて貰ったお礼だ。タダでやるよ。じゃあな」


慌ただしく部下に指示を出している影商人に声を掛けてから俺は店を出た。店を出ると当たりは真っ暗になっていた。やはりこう寒い時期は明るい時にいた道端で座り込んだり寝ていたりした人は全くいなくなっている。俺は辺りに誰も見えない貧困層の暮らすスラムから今度はこの国の富裕層が暮らす方に向かって進んでいった。


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