7話 商業ギルド
態度悪い受付から身分証をもらい門をくぐって街に入ると、召喚された国で見た城下街よりこの街は小さいが、建物自体はあんまり変わらないなという印象だった。大きな建物はレンガ作りだが、普通の家は簡易木造でインフラの整備状況は現代日本よりかなり遅れている感じだ。門から真っすぐ直線に石畳の道が出来ていて人通りが多いのでこれがこの街のメインストリートだろう。メインストリートからの脇道を覗くと土を踏み固められた道で、全部が石を敷き詰められた道にはなっていないみたいだ
身分証の期限は5日間なので、すぐにギルドに行かなくてもいいかと考え、取り合えずメインストリートに並ぶ店を眺めながら道を歩いて行く。しばらく歩くと屋台が立ち並ぶ大きな広場に出た。ここがこの街の中心みたいで、広場の真ん中には大きな掲示板があり、内容は、騎士団の訓練が行われる日時、野盗出没情報、街道の通行止め案内、各都市への馬車の時刻表なんかが掲示してあった。その隣にはこの街の大まかな地図が貼られており今通ってきた道はこの先、街の外の街道まで繋がっていて水の国の都『水都』まで続いているらしい。逆に今来た道を戻ると火の国に向かうらしい。
俺を召喚した国は火の国って名前か。あの国に戻るつもりは無いから名前とかどうでもいいか。
更に地図を見るとこの広場から左右にも石畳の道が伸びているが、右に進むと同じく外の街道まで繋がっていて、そこを進むと光の教国って所に繋がっているらしい。左の石畳の道は外壁手前で道が途切れているようで、何で途切れている道がこんなに整備されているか不思議だ。
地図で大体の街の全体像を覚えたので、次に広場に並ぶ屋台を眺める。肉や野菜、果物っぽい物や、串焼きなんかが売っている。そんな中俺は一つの屋台が目についた、そこには異世界言語で『絶品スープ鉄銭2枚』と書かれていた。
並んでる時に飲んだスープはかなりの薄味だったが、あれがこの世界の標準だとは思いたくないので、試しに1杯買ってみる事にする。これで味が薄かったら『自室』での食事が多くなり、こっちで食べる機会はかなり少なくなるだろう。
「すみません。1杯下さい。」
鉄銭2枚を渡しながら、声を掛けるとすぐに同じぐらいの大きさのコップに注がれたスープが手渡される。
「コップは後で返却してくれよ。」
ああ、やっぱりコップは返却なのね。量はあんまり変わらないな、匂いは・・うん、前の奴より強い。さて、お味は・・・・お!美味い!普通にしっかりした味じゃん。門の外の奴より全然いい感じ。でもどっちがこの世界の標準の味か分かんねえな。
「おう、どうした?あんまり口に合わなかったか?」
俺がスープを飲みながら考えていると、気になったのかお店の人から声を掛けられた。
「いえ、かなり美味しいし自分の好みなんですが、門の外で食べた奴がかなり薄味だったので・・・」
「ああ、それな!門の外のはウチから買った奴を更に水で薄めて売ってるんだよ。それでウチと同じ値段で売ってんだから詐欺もいいとこだろ?街ん中でやられたら流石に文句言うけど街の外だから文句も言えない訳よ。まあ街の外の屋台なんて詐欺みたいなもんだし、買う奴はよっぽどの世間知らずぐらいだろ」
・・・その世間知らずがここにいますね。そうか、俺は軽く騙されてたのか。よし、一つ学んだぞ、これから街の外の屋台では何も買わねえ。
それ以外にも外の屋台はこの辺の屋台で買った物を半分に切って同じ値段で売ったり、倍の値段で売ったりしてると教えてくれた。街の外の屋台は詐欺ばっかりじゃねえか。
その後別の屋台で何の肉か分からない串焼きを買って広場のベンチに座り腹を膨らませながら広場を歩いている人達を観察する。
冒険者ギルドがあるぐらいだから冒険者っぽい人も多いな。あとは小奇麗な格好は商人かな?やたらと豪華な馬車が通ったけどはあれは貴族か。従者も何人も連れてるから多分そうだろう。この世界にも貴族っているのか、ラノベや漫画なんかだと貴族って高圧的で面倒くさいから、こっちも同じか?関わらんようにしとこ。
◇◇◇
「すみません。一つ下さい」
腹が膨れたのでさっき見て気になっていた屋台であるものを買う事にした、ついでにそこでギルドの場所を聞く事にする。
「一つ鉄銭1枚ね」
安・・・くはないか?日本だとパック売りだったような買った事無いから値段覚えてねえけど一房で鉄銭1枚ならそこまで高い事はないな。鉄銭1枚の価値は良く分からんけど、色々屋台見た感じだと多分100円ぐらいだろ
お金を払い商品を購入して一粒口にしてみる。
少し酸味が強いけどやっぱりこれ葡萄だよな。久しぶりに食うとうめえな。・・・・『自室』の冷蔵庫にはないから少し買って持っときたいな。そういえば『影収納』って入れてる間時間経過するのか。これも確認しとかないと駄目だな。
買った葡萄をすぐに食べ終わると、再び店の人に声を掛ける。
「すみません。あと20個下さい。」
「20!?」
俺の言葉に驚きの声を上げる店のおばちゃん。
「あんた、そんなに葡萄好きなのかい?20も買ってくれるんならおまけで一つ付けてあげるよ。・・・代金は銅貨2枚ね」
ふむ。やっぱりこれは葡萄で合ってるのか。あと鉄銭10枚で銅貨1枚か、って事は。
「おばちゃん、ありがとう。大きいのしかないけど大丈夫?」
そう言って銀貨を1枚取り出して渡すと、お釣りで銅貨8枚返ってきた。やっぱり10枚で一つ上の硬貨になるみたいだ。って事は鉄銭1枚100円と考えると、今の俺の手持ちは鉄銭、銅貨が300枚以上、銀貨150枚以上、金貨1枚だから、銀貨だけでも150万以上は持ってんのか。やべえ俺金持ちじゃん。ありがとう、クソムカつく国の兵士とオッサン。
そんな事を考えながらお釣りを受け取り葡萄を何も考えずに『影収納』偽装用のカバンに入れると、おばちゃんが少しびっくりした顔で俺を見ている。何でだ?『影収納』バレてないよな。
「あんたそれ『魔法鞄』かい?若いのに良くそんなもん持ってるね」
カバンの容量がおかしいのバレバレでした。しまった、カバンの見た目あんまり気にせず葡萄を放り込んでた。この大きさのカバンにさすがに21房も葡萄入んねえよな。今度から気を付けよう。それよりも『影収納』みたいな便利な物も売ってるんだ。
「あはは、まあ祖父の遺品でして、容量は見た目の倍入るぐらいなんですよ」
咄嗟に口から出鱈目を言う。実際の容量は自分でも把握できてないんですけどね。
「まあ、それなら何とか手が届くかな。何にせよお爺さんの遺品なら大事にしなさいよ」
おばちゃんの口ぶりから『魔法鞄』は高いっぽいな。変なのに狙われるかもしれないからもう少し大きいカバン買ってバレないようにするか。
「そういえば、おばちゃんちょっと街の事について聞きたいんだけどいい?」
「葡萄20房も買ってくれたから答えられる事なら答えるよ」
「ありがとう、それじゃあまずはギルドってどこにあるの?」
俺がそう聞くとおばちゃんは呆れた表情になる。
「ギルドなら目の前にあるじゃないか。左が商業ギルド道挟んで反対に建ってるのが冒険者ギルドだよ」
おばちゃんの教えてくれた方を見ると、なかなか立派な建物が建っている。この広場に来た時からあの建物には気づいていたが商業ギルドの方の入り口にお金のマークが書かれてあったので銀行かなと思ってたし、冒険者ギルドには剣のマークが書かれてたので武器屋かなと思っていた。
「あんた、この街初めてかい?だったらギルドから少し奥は教会があるけどそこから先は領主様や貴族様達の家があるから行かない方がいいよ。」
おばちゃんがご丁寧に忠告してくれるが、その口ぶりからやっぱり貴族とは関わらない方がよさそうだ。
「じゃあ装備とかを売買できる場所ってどこか分かる?」
場所を聞くついでに『影収納』に入っているムカつく国の鎧セットを早めに処分したいのでどこか売れる場所がないか尋ねてみる。
「そりゃあ、商業ギルドだろうね。冒険者ギルドは売ってる物の品質は商業ギルドと変わらないけど、買取は商業ギルドより少し安くなっちまうらしいよ。まあベテラン冒険者は馴染みの店で交渉してギルドより高値で買い取ってもらうらしいけど」
そうか売るなら商業ギルドか良い事聞けた。
「泊る場所ってどの辺にある?」
最後の質問をするとおばちゃんはまたまた呆れた顔になる。
「何言ってんだい、そんなの探せばどこにでもあるに決まってるじゃないか?ほらあそこ、こっちも、ここから見えるだけでも5つはあるじゃないか」
そうは言うが、どれか宿か全然分からないと思ったけど・・・あれか!入口にベッドのマークが書かれた建物か。こっちは基本的に建物の入口には何屋か連想できるマークが書かれているみたいだからマークを覚えた方がいいか。
「大体街の中心が値段が高くて入り口に近くなれば安くなってくるよ。中には中心に近いのに安い宿もあるけどね。まあ、その辺は自分で頑張って探しな」
なかなかいい話が聞けたのでお礼を言っておばちゃんの屋台から離れる。
さて、今からどっちのギルドに行こう。鎧を売りに行くか、冒険者登録に行くか。・・・やっぱりさっさと処分したいから商業ギルドから行くか。
◇◇◇
結論から言うと兜が1個しか売れなかった、というかそれ以上売れなくなった。あの後すぐに商業ギルドに行き買取カウンターに並んでいる時点でカバンしか手に持っていない自分の馬鹿さに気づくべきだった。自分の番になってカバンから鎧セットを取り出そうとした所で、固まる。
ここから鎧セット取り出したら『魔法鞄』持ちって勘違いされるな。かなり高価なものらしいからあんまり目立つ事するとトラブルに巻き込まれる。兜だけにするか。
そう考えてカバンから兜を取り出すと目の前の買取担当の人が目を見開いた。
やば!兜も思ったよりでけえ。カバンのサイズ明らかに超えてるわこれ。早いとこ大きいカバン買わないと。
かなり焦ったが目の前の人は驚いた表情をしただけで何も言わない。さすがに商業ギルドだけあってよく訓練されている。
兜を渡すと素材や劣化状況を確認していた担当さんだったが、何かに気付いたのかまたまた驚いた顔をする。
「失礼ですが、これはどちらで手にいれたのでしょう?」
オッサン達から奪い取ったやつだけど、盗品売るのって駄目なのか?何かヤバい感じ?
「用を足しに森に入った時に落ちてたんで、お金になるかなと思って拾ったけどマズかったですかね」
元々売る時に考えていた言い訳を答えると、納得した表情をしてくれたので少し安心する。
「えっと、お値段の方から言わせてもらうと金貨1枚で買い取りますが、偽物だと言っても流石にこんな危ない物はウチ以外に持ち込まないで下さいよ」
本物なのになんか偽物で危険物扱いされてる。何でだ?呪われてんのか?
「ここ見て下さい。このマークこれは火の国のシンボルです、でこのシンボルの中の数字『Ⅰ』って書いてるでしょう。これ第1騎士団を表してるんですよ」
俺の頭に?マークが見えたのか、担当の人が説明してくれた。その説明通り兜の後ろに火のマークがありその中に『Ⅰ』の数字が書いてある。という事は手持ちの鎧とかにも書いてある可能性が高そうだ。後で確認しておこう。
「だからこれは火の国の第1騎士団の兜に偽装されてるんですよ。、ここが水の国で良かったですね、火の国でこんな偽物でも持ってるのがバレたら即牢屋行きですよ。ここ以外の店に売ってたら火の国にバレてトラブルになる可能性もありましたよ。まあウチに売ってくれるならこのまま黙って溶かして再利用しますけど」
・・・担当の人これが偽物だと思っているみたいだけどガチの本物なんだよなあ。これって中々厄介な代物だったのか・・・どうしようあと70セット以上あるんだけど・・・どっかに捨てようかな。
「そんな危ない物だと知りませんでした。ああ、当然売りますのでバレないようにお願いします。あと大き目のカバン欲しいんですけどどこで買えます?」
本物だと買い取ってもらえそうにないから、このまま偽物って事にして売り払う事にした。
「でしたらこちらにお持ちしますよ。で兜との差額をお渡しするで宜しいでしょうか?」
結局大き目のリュックを銀貨3枚で購入し、お釣り銀貨7枚となった。やっぱり10枚で一つ上の貨幣に上がるみたいだ。
偽物だと思われても兜一つで金貨1枚・・・10万か・・・兜だけでも700万・・・セット全部売れたらとんでもない金額になるな・・・売れないけど。
そうして兜を売り払った俺は商業ギルドを後にして道を挟んだ冒険者ギルドに足を踏み入れた。






