77話 人生2度目の牢屋
本日2回目です
あの後、拘束された俺は貴族の家まで連れて来られて今は牢屋に入れられている。牢屋は俺が二人寝られるぐらいのスペースで布団代わりだろうボロ布が1枚置かれていて、部屋の隅にはトイレだと思われる小さな穴が開いている。牢屋に入ったのは人生2度目だが、あの時と違いミーサさんのような美人はいなくて一人ぼっちだ。この狭い空間に大人二人はさすがに狭すぎるから、それはそれで大変だろう。
ギイ!
『影収納』で牢屋の鍵を回収して扉を開けると、錆びついて軋む音が響く。『探索』で周囲に兵士がいない事は確認しているので気にせず部屋から出る。兵士の姿は無いが、『探索』でお隣さんがいる事は分かったので軽く挨拶をしにいくと、そこにはメイド服を着たかなり痩せた女が床に横たわっていた。
「お、おい!大丈夫か?・・・寝てる訳じゃないよな」
声を掛けるが反応が無いので、『影移動』で牢屋に入り込む。『影収納』で牢屋の鍵を開けてもよかったが、この女が実はものすごい極悪人の可能性もあり、万が一を考えて鍵はそのままにしておいた。俺が牢屋に入ってきても一向に目覚める気配がないので、おでこや首筋に手を当てて状態を確認する。
生きてはいるけど、衰弱してるのかな。この痩せた顔を見れば食事も満足に与えられていない事が分かるけど・・・どうする?助けるか?牢屋に入れられているって事は悪人の可能性もある・・・あのデブ貴族の事だ、冤罪で牢屋に閉じ込めている可能性もあるな。幸い牢屋の鍵はついたままだから、取り合えず助けて悪人だったらそのまま放置していこう。
そう考えて、未だに目を覚まさない女を抱きかかえてから口に下級ポーションを少し流し込む。特に吐き出す事もせず飲み込んだ為、再びポーションを口に流し込むという作業を何度か繰り返し、全て飲ませた。
・・・飲ませてしばらく待つが、女は一向に目を覚まさない。もしかしてポーションってケガしか効果ないのか?だとしたらポーション無駄にしたなあと考えていると、女が身じろぎしてゆっくりと目を開いた。
「う~ん。・・・あれ?・・・まだ生きてるのか・・・って誰?」
女は目覚めると大きく伸びをして、自分の手を顔に当てるとボソリと呟いた後、開いた指の隙間から俺を見つけたみたいで、少し驚きながらも俺をしっかり見つめて質問してきた。目を覚ましてくれて良かった、ポーション効果あったのかな。
「ああ、怪しいもんじゃない。ただのお隣さんだ。挨拶しに来ただけだ。」
「いや、ここにいる時点で怪しい人でしょ?・・・ああ、ついに当主様が我慢できなくて処分しにきたんだ・・・そんなに急がなくても、私もうすぐ死ぬっていうのに・・・ホントに最悪な人に仕えてたな、さっさと辞めてればよかった・・・みんなは良い人だったんだけどな。・・・ああ、ごめんなさい。最後だと思ったら色々考えちゃった。それじゃあ、あんまり痛くしないでね、出来れば私が死んだ事をシャンに伝えてもらうと助かる。あと、私の髪を遺品として渡して欲しい。あと、私の事は忘れて新しい人を見つけて下さいって伝言も伝えて」
・・・要望多いな。もうすぐ死ぬって言ってるけど、これなら当分死ぬ事はなさそうだ。取り合えず悪い奴じゃなさそうって考えてもいいけど、もう少し話を聞くか。
グー
話を聞こうとした所で、女の腹から大きな音が鳴る。結構な音だったので俺は思わず笑ったら、女は顔を真っ赤にさせてそっぽを向いた。
「もう、今から死ぬってのに何でお腹空くんだろ。殺し屋さんにも笑われるし、ホント最後まで最悪だな私」
「何か勘違いしているけど、俺は殺し屋じゃないぞ。お隣さんで挨拶しに来たって言っただろ?腹減ってるならこれ食べるか?」
屋台で買った串焼きを取り出し女の目の前にかざすと、俺の手から素早く奪い取って行儀なんてどこ行ったって感じでむしゃぶりついて食べ出す。装備品や荷物は全て没収されてるからしれっとポケットから取り出したように見せたけど不思議に思う余裕なんてなさそうだ。
「そんなに慌てて食うと喉につかえるぞ。ほらスープもあるからゆっくり食え」
すごい腹が減っていたんだろう、スープもすぐに飲み干す。どれだけ食べていなかったか分からないが、さすがに一気に食べ過ぎると体に良くないのでもう1杯スープを渡した所で終わりにした。ポケットからスープ取り出したようにしたけど、不思議に思わないんだろうか。それともまだ意識がはっきりしてないのかな。
「はあ~。食べた。えっと、ありがとうございます。殺し屋さん?」
「いや違えって、殺し屋じゃねえから。それよりあんたはなんで牢屋に入れられてたんだ?何か悪い事したのか?」
「してないよ!奥様がいない時に当主様に夜伽の相手を命じられたけど、私にはシャンがいるからって断ったんだ。そしたらあのデブ怒って私をここに閉じ込めたの!それから何も食べさせて貰えなくてもう死ぬんだなって考えてたらあなたが現れたの。・・・・そう言えばあなたが来てから体調が良くなったわ。起き上がるのも声を出すのも辛かったのに・・・寝ている時に何かした?」
おっ!って事はポーション使った意味があったみたいだ。良かった。
「ああ、ポーションを飲ませてみたんだけど、効果があったみたいで良かった」
「ポーションはケガだけじゃなくて疲労回復とかにも効果あるの知らないの?風邪引くと下級ポーション飲んだりして栄養補給したりするんだけど・・・お腹は膨れないけど」
その話は初めて聞いた。そうか衰弱している時にも効果はあるのか、良い事聞いた。まあポカリ的な効果もあるって覚えておけば大丈夫だろ。
「それよりもさっきの話は本当か?それなら牢屋から出してやってもいいけど」
「・・・出しては欲しいけど、許可なくここから出たら今度はホントに殺されるから遠慮しておく。最後まで足掻いて生きてシャンに会う可能性は残しておきたいしさ」
「そうか、逃げたかったら鍵は外しておくから気が変わったら逃げろよ・・・そう言えばシャンってこの屋敷にいるのか?」
「うん、ここで庭師してる。あっ出来れば私はまだ元気って伝えておいてくれない?」
「会ったら伝えておいてやるけど、あんまり期待するな。じゃあ、俺は逃げるから、それじゃあな」
「うん、ありがとう、そっちも気を付けてね。あっ!もし運悪く執事長に会ったら抵抗しない方がいいいよ!いい人だけどこの屋敷で一番強いから!『三兄弟』っていうBランク冒険者を一人で返り討ちにしたぐらいって言えば強さは伝わるかな?」
・・・・・・
牢屋の扉を開けて出ていこうとしたら、聞き捨てならない名前が出てきた。ここで何で『三兄弟』の名前が出てくるのか・・出ていこうとしたが色々聞きたい事が出来たので再び牢屋に入る。
「ど、どうしたの?」
「いや、その『三兄弟』って奴について少し話が聞きたくなった」
いきなり戻ってきた俺に少し動揺している女に葡萄を渡して安心させてから話を聞く。
「私も聞いただけだからホントか分からないけど、なんか今の当主が先代当主を暗殺する為に雇ったのが『三兄弟』って噂。で、その依頼を成功させたけど、それをネタに更にお金を脅し取ろうとしたから執事長に返り討ちにされて、先代当主を殺した貴族殺しとして賞金首になって都を追われたってのが私が聞いた話」
「ちょっと待て!別に暗殺しなくても長男が後継ぐのは普通だろ?」
確かこの国の貴族ってそんな感じだったって聞いた気がする。
「これも噂だけど、先代は現当主の弟に後を継がせるつもりだったみたい。それを知った当主が先に動いて自分が当主の座について、弟を追放したんだって」
基本長男が継ぐのが一般的だけどあまりにも駄目過ぎると、下の兄弟に継がせる事もあるらしい。その場合長男は駄目の烙印を押されて日陰生活するそうだ。って事は現当主は駄目な奴なようだ。まあ、デブ貴族の親だし、何となく分かる。
「もう一つ、『三兄弟』が当主に依頼されたから先代当主を殺したって言えば別に賞金首にならなかったんじゃないか?」
「現当主はどうしようもないぐらい駄目だけど、こういう人を嵌める事だけは上手くて、最初から証拠は何も残してなかったか執事長が返り討ちにした時に証拠を奪ったかって話。あと貴族と平民だからね、どうやっても貴族の言い分が正しくなっちゃうよ」
まあ、どういう事でもこの家のせいで『三兄弟』が都を追われた結果、師匠達が殺されたのか。師匠達も冒険者だから運が悪かったで終わらせるべきなんだろうけど・・・・・うん、無理だ!俺にはそう考える事が出来ない。話を聞けば聞く程、この家に怒りが湧いてくる。
「この伯爵家の当主達はどうしようもない奴等だって事が分かった。他にこの家で伯爵と同類の奴はいるか?」
「そんな奴いないよ。この家に雇われている人はみんな良い人達ばかりだよ。先代が立派な人だから昔から仕えている人達は、恩を感じてあんな駄目当主でも我慢して仕えてくれるし、若い私達をなるべく当主達に関わらせないようにしたり、庇ってくれるすごい良い人達ばっかりだよ」
「そうか。ありがとう。これは情報料だ。」
金貨を女に投げてからこの家に八つ当たりする事に決めた俺は牢屋を後にする。間接的にだが師匠達『カークスの底』を全滅に追いやったこの家は許せない。ただ、許せないと言っても俺の逆恨みだって事は分かっているので命までは取ろうと思わない、せめてこの家に大ダメージを与えられたらそれでいい。まずは『三兄弟』について聞きたいが当事者の貴族は素直に話してくれないと思うので執事長を捕まえる事にしよう。
そう考えて牢屋がある地下から上に向かう。途中で没収された装備などを回収し、『探索』で屋敷の様子を確認すると、何故か全員が屋敷の一角に集められているようだ。これは好都合。俺は足取り軽く、その場所に向かって行った。
「ククク、いいかお前ら今日は我が家をコケにした馬鹿を捕らえたからな、兵士達は誰も屋敷に入れるな、メイド達は食事の準備だ、今日は豪勢にしろ。執事達は拷問部屋の準備だ」
「ミネラル様!お待ちください、今回は屋敷に忍び込んだ賊ではないのですよ」
集められている1Fのロビーに行くとデブ貴族と誰かが言い争っている声が聞こえる。デブ貴族を誰かが抑えているって所か。
「うるさい!貴族に斬りつけたんだ賊より性質が悪いわ!」
「で、ですがそれもミネラル様が斬りかかったのが原因と聞いています」
そう、デブ貴族が斬りかかって来たから体が反応したんだ。先に攻撃した方が悪い。
「黙れセバス。お前の意見などどうでもいい!」
「・・・・・」
あっ。セバスって人が諦めた。もう少し俺を助けようと粘って欲しいな。
「噂の『首渡し』か、結構な大物じゃないか流石私の息子だ。ああいう有名になって勘違いした平民が泣き叫び許しを乞う姿が今から楽しみだ」
デブ貴族達の話が終わると恐らく現当主だと思われる奴が会話に混ざって来た。
「あなた!何回も言ってますけど『首渡し』ですからね。なるべく綺麗に処理してくださいね」
「分かっておる。今回はアクアカーゴ家の奥様じゃったか。相変わらず私には理解できん世界じゃ」
「フフフ、理解してもらおうとは思ってませんよ。あなたはただ、『首渡し』の顔をできるだけ傷付けずに死体を私に渡してくれるだけでいいのですから」
・・・・最悪だな、こいつら。聞いた通り救いようがないからこっちも罪悪感が全く無く行動できるから有難い。
「えっと、聞いててドン引きなんだけど、お前らいつもこんな楽しみ方してんの?趣味悪いからやめた方がいいぞ」
俺が答えると、1階ロビーに集められた奴等含めて貴族達もこちらに振り返る。さすがデブ貴族の親だ、父親は3倍、母親は2倍ってぐらいに太っている。あいつらが座っているイスは特注だな。・・・それで多分あの爺さんが執事長だな。背筋をピンと伸ばして、複数いる執事服の奴等の中でもあの爺さんだけが動じる事無くこちらを見ている。ただ姿勢正しく立っているように見えるが、いつでも動けるように構えている事が分かるので、明らかに他の奴等より別次元の強さだと分かる。ただ、既に影は広げているので、爺さんがどう動こうが対処はできる
「き、貴様!何故ここにいる!・・・セバス!こいつを捕らえろ!」
俺に気付いたデブ貴族は慌てて命令する、こいつの両親はニヤニヤした顔で値踏みするように俺を見ているから気分が悪い。
「ミ、ミネラル様・・・あ、あなたは・・・何て人を・・・連れてきたんですか」
俺が動きを注意していた爺さんだったが何かに気付くと、体を震わせ始めて、絞り出すように言葉を口にする。
「何を言っておる、セバス、早く捕まえろ」
「む、無理です!!馬鹿だとは思っていましたが、何て方に絡んでいるんですか!!この国はもう終わりだ!ホントに何て事をしたんだ!この馬鹿が!」
爺さんが体を震わせながら絶望した顔をして伯爵達を怒鳴りつけているが雇い主にその態度はいいんだろうか?別に俺はこの伯爵家に大きなダメージを与えたいだけで国を滅ぼそうとは思ってないけど。
「セバス!貴様!私に向かって何と・・・」
もうこいつらの声は聞きたくないので話している途中だが影で拘束して全員を黙らせる。静かになったので執事長の爺さんだけ口と耳の拘束を外して少し話をさせてもらう。
「爺さん、聞こえるか?耳と口だけは使えるようにした。少し話が聞きたい」
「・・・・・はい・・・・あ、あのこの度はこの家の者が大変失礼致しました。それで大変差し出がましいお願いですが、どうかその怒りはこの家だけにしておいて頂けないでしょうか?国を滅ぼす事だけは何卒ご容赦を」
・・・・この爺さんは俺をどんな奴だと思っているんだろ?そもそもこの爺さんかなり強いって話だよな、それが俺と戦う事なくこの態度・・・何かのスキルかな?
「そんなに怖がらなくても国にも爺さん達にも何もするつもりはないよ」
「そうですか。お心遣いありがとうございます」
「ただ、爺さん結構強いって聞いてるけど何でそんなに俺を怖がっているんだ?俺はまだDランク冒険者だからそこまで強いとは思ってないんだけど?」
「またまたご謙遜を。私など何も出来ずに殺す事も・・・いえ、水都をすぐにでも壊滅できる実力をお持ちのはずです」
・・・影使えば出来るのかな?やるつもりはないけど。
「私には『力比』という相手が自分と比べてどれだけ強いか分かるレアスキルがあります。私も長く生きていますが、あなた様のように圧倒的な強さの人を見たのは初めて・・・いえ、そう言えば若い時にチルラトで一度だけ見た事がありましたか」
影使えば水都壊滅出来るのか考えていたら爺さんが話を続けた。『力比』って変わったスキルだけどあると便利そうだな。ギルドで教えてもらえるかな。それよりも、
「そいつの顔とか覚えているか?」
爺さんの話が本当ならチルラトで見たそいつは水都を壊滅出来るぐらいの奴だ。もしかしたら召喚された俺達が倒すべき敵?かと気になった。
「ええ、今日まで他に見た事が無いくらいの美女でした。黒く長い美しい髪を持ち、同じ黒い髪を持つ娘と手を繋いでチルラトを歩いていました。あれが『ワインの黒姫』だったんだろうと私は思っています」
「『ワインの黒姫』?」
「今は廃れましたがあの街では昔はワイン作りが盛んでして、ワインの出来が格別いい年はどこからか黒い髪の絶世の美女『ワインの黒姫』が現れてワインを大量に購入していくという都市伝説です」
へえ~。ワインの黒姫か。・・・まあ都市伝説だな。ただ、爺さんが若い時に見たその美女は気になるけど、よく考えたら今はもうお婆さんか死んでるかだな。あんまり俺達の召喚には関係なさそうだ。
「それで話を戻すけど、この国や爺さん達には何もするつもりはないけど、伯爵家には今から色々するつもりだ。悪いな」
「この家は近い将来取り潰される運命だったので、それが少し早くなったと思えばいいだけです」
意外にも俺の言葉をすんなり爺さんは受け入れてくれた。先代から仕えているって聞いたから忠誠心高いと思っていたんだけどな。
「この家に忠誠や未練はないのか?」
「先代が現当主に暗殺され、弟のミシェル様が追放された時に、そんなものは失くしました」
「そう、その暗殺に『三兄弟』って奴等を使ったのは本当か?」
「それについては当主自ら動いていたので、詳しい事は分かりませんが事実です。一度だけそいつらが、「暗殺の件で話があるから当主に会わせろ」と怒鳴りこんできた事がありました」
「その『三兄弟』が当主に暗殺を依頼されたっていう証拠はないのか?」
「私達も証拠を見つける為に屋敷に残って働いていますが、残念ながら見つかっていません。もしかしたら最初から口約束だけで、証拠は何も残していなかったのかもしれません。その証拠があれば現当主を失脚させて、ミシェル様が当主の座に就く事が出来るかもと我慢して現当主に仕えていたのですが・・・」
忠誠心も無いのに何でまだ働いているのか不思議だったけど、暗殺の証拠を見つける為だったのか。『私達』って言ってるから他にも仲間がいるんだろう。もしかしたら全員かもしれないな。
「分かった。それでこの伯爵家は個人的な恨みがあるから色々するつもりだけど、そうするとミシェルってのが戻って来る事も出来なくなるし、爺さん達も仕事なくなるな。悪い」
「それは気にしないで下さい。先程も言いましたがこの家は近いうちに取り潰される事になるでしょう。私達も最近ミシェル様の件については諦めました。今は屋敷の者達にどんどん暇を出している所です。」
「さっきも言っていたけど、その理由は?」
「当主自ら火の国に情報を流しています。証拠となる手紙も私のポケットに入っています」
うわ~。最悪だな。それは流石に駄目だわ。駄目だけど俺にとっては都合がいいな。その証拠を敵対派閥に渡せば俺が何もしなくても勝手に没落するんじゃないか。
「その手紙を敵対派閥の家に渡せばどうなると思う?」
「そうすると良くても爵位剥奪、悪ければ処刑ですか・・・いや、先代の影響もあるからやはり悪くても爵位剥奪ですね」
先代は死んでもかなりの影響力を持ってるな。爺さん達が言うようにかなり立派な人だったんだろう。そう言えばギルマスの婆さんも嘆いていたな。
「じゃあ、その手紙は俺が預かる。今日中にその敵対派閥の伯爵家・・・アクアフリーデン家だっけ?に渡す」
そう言って爺さんのポケットからいくつかあるうちの2通の手紙を取り出す。一応中も確認するが、本物だろう。そうして立ち去る前に爺さんの手に白金貨を6枚程握らせる。
「これは?」
爺さんは影魔法でまだ目が見えないので、何を持たされたのか分からず困惑した様子だ。
「ああ、この家に仕えてる奴等は仕事なくなるからな。当面の生活費だ、爺さんなら平等に分けてくれると信じてるぞ。今からこの家のもの全て奪っていくから礼はいらないからな。ああ、あと牢屋に捕まってた女からシャンって奴に伝言「私はまだ元気」って伝えておいてくれ、それじゃあ、もう少しだけそのままで我慢しててくれ」
爺さんにそう言った後、俺はこの屋敷の部屋を周り家具や調度品、あるもの全てを『影収納』に入れていく。爵位剥奪されても高い家具とか売り払えば贅沢して生きていけるからな、ちゃんとゼロから平民生活始めてもらおう。雇われている人達は離れで暮らしていると聞いたので、この屋敷の物は遠慮せずどんどん収納していく。そうして全て回収した俺は正面玄関から堂々と外に出た所で全員を解放してやった。
さて、これからこの証拠を直接アクアフリーデン家に持って行ってもいいけど、それよりも俺に何度も金を要求してくる『深海』の奴等に嫌がらせを兼ねてカラミティにお願いしてみるのもアリか。Aランクで貴族からの信用もあるだろうあいつに任せた方が俺が動くより事が早く動き出しそうだし。断られたらしょうがないけど、1度だけ頼んでみるか。