76話 教国の聖女
俺が『首渡し』だと広まってからしばらく経った。あれから碌でもない奴等から絡まれる事が増えたけど、火の国の追手では無い事を確認してから丁重にお断りしている。一応火の国からの追手が来る事も考えて別の国に移動しようかと考えてもいるけど水都に知り合いも多いし何となく居心地よくて出て行く事をズルズル引き延ばしている。それに師匠の命令もあるしとか言い訳している今日この頃。
「明日っすね、どんな人なんですかね。噂じゃメッチャ美人だって話ですよ」
依頼を終えて戻ってきた俺はトマス達に捕まり、一緒に飯を食べながら明日この国に来るという光の教国の聖女を話題にしている。明日来る事は既に都中に広まっているので、俺達だけじゃなくて他の冒険者連中も話題にしている。
「街中をパレードしながら城まで行くみたいッス。聖女様の顔が見れるらしいのでアニキも明日行きましょう」
元々聖女がどんな奴か気なっているので、トマス達の誘いは断るつもりはない。『聖女』・・・光の教国の勇者で、噂によると『女神』と同じ『蘇生魔法』が使えるから『聖女』と言われているらしい。今回聖女がこの国に来るのは、光と水の国が良好な関係を築いている事をある国にアピールする為だと言われている。そのある国とは最近兵士を大量募集したり、武器を大量に集めていたりと、きな臭い動きをしている火の国だ。その辺の国の事情って奴はどうでもいい。それよりも明日『聖女』の顔だけは確認しておきたい。『聖女』が全く知らない奴なら俺のクラスから召喚されたのは俺と一緒に召喚された9人だけの可能性が高い。逆に『聖女』がクラスメイトなら他のクラスメイトも召喚されている可能性がかなり高くなり、ノブもこっちに召喚されている可能性が高い。取り合えず明日、噂の『聖女』様の顔でも拝ませてもらおう。
「『光』・・・・よし!何とか維持はできるようになったな」
この国に来てから『自室』で寝る前に、対『光』の弱点克服の為、『影魔法』の特訓をしている。マリーナさんに聞いた『教祖』に『光』が効きにくかったという話を聞いたからだ。特訓はボールを握らせた腕を影魔法で作り、そこに『光』を使ってもボールを握った状態を維持できるようにするというものだったが、これが意外に難しかった。難しかったがほぼ毎日頑張った結果、維持だけはできるようになった。なるにはなったが、実際は自分で『光』を使ってるからいつ来るか分かってるので不意打ちを食らうと耐えられるかは分からない。かといって誰かに手伝って貰う訳にもいかないので、困っている。最悪奴隷を購入するって手もあるが、特訓の為だけに購入するってのもどうかと考えている。
「おはよう。ディー」
「ウッス」
「二人はまだ寝てんのか?」
「ウッス」
朝起きて朝食を食べに行くと下でディーが朝飯を食べていたので、俺も相席させてもらう。この宿の朝食はあんまり美味しくないが、こいつらがいる時は朝食を食べている姿を見せないと心配されるので、我慢している。ディーと二人きりなんて珍しいが、別に緊張する間柄でもないので、今日の打ち合わせを軽くしてから部屋に戻った。
「へへへ。アニキ、ここですよ。いい場所でしょ?」
俺に自慢しながらトマスは部屋の主に銅貨3枚を渡している。この部屋の主はトマスの昔馴染らしい。窓から外を眺めると大通りに面している3階の部屋なので、通りを歩く人が見下ろせる。これならパレードもよく見えそうだ。
「かなりの穴場だな。これなら聖女様の顔もよく見えそうだ」
「多分大丈夫だとは思うッスけど、実際見てみないとどうなるか分かんないッスからね」
「ウッス。兵士達が集まりだしたッス。もうすぐ始まるッス」
言われた通り、大通りを兵士が一列に等間隔に並びながら、歩く人々を整理していく。瞬く間に大通りを歩く人は誰もいなくなり、通りの両脇は新品同然のフルプレートの同じ鎧を着た兵士が並んでいるだけになった。
「あの並んでる奴等が新設されたばかりの第3騎士団か、第2と第1はどこにいるんだろうな」
どこかの国がきな臭い動きをしてるもんだから、この国も最近第3騎士団を新設したので、今回がそのお披露目の意味もあるんだろう。冒険者連中も結構な数採用されたと聞いている。
「第1騎士団は聖女様と光の教国使節団の護衛と王城の警備で第2騎士団は街の巡回と平民に紛れて警戒してるんだと思いますよ」
トマスに言われて、向かいの建物の屋上に目をやると、ほとんどが東の城門側を見ながら、今か今かと待っている中、何人か明らかに周囲に目を配ってる奴等がいる。多分あいつらが第2騎士団の連中なんだろう。しかし思っていた以上にすごい警備だ、聖女様ってのは超VIP待遇らしい。『勇者』って肩書は同じなのに俺なんてDランク冒険者なんだけどな・・・こっちの方が気楽で好きだけど。
なんて思っていると、遠くから歓声が聞こえてきて、それがどんどん大きくなってくるので聖女様ご一行が近づいてきているのが分かる。
「アニキ!来たッス!聖女ッス。・・・まだ遠いッスね、顔がよく見えないけど黒髪で白い服着て周りに手を振ってるッス。一つしかない二階建て馬車の上で一人で手を振ってるからすぐに分かるッス」
実況してくれるのはいいけど、そんなに身を乗り出していると落ちるぞ。身を乗り出している3人が落ちないように後ろに待機して注意しておく。聖女で俺が知りたい事は俺の知り合いかどうかだけで、チラリとでも顔が見れたら十分。こいつらみたいに身を乗り出してまで見たいとは思っていない。
「あ、見えた。結構美人ですね。笑顔で手を振ってるから、貴族平民分け隔てなく接するって噂はホントみたいですね」
「ウッス」
「いやあ、分かんねえぞ。心の中ではどう思ってるのか・・・あっ、アニキ見えてないッス。お前らどくッス」
俺が見えていない事にようやく気付いたベースがスペースを開けてくれるので、俺も窓から顔を出して聖女様を見させてもらう。
・・・・・あいつは
笑顔で周囲に手を振る聖女の顔を見た瞬間、俺は固まってしまった。
まだ半年ぐらいしか経っていないので見間違えるはずがない。息が荒くなり、動悸も早くなってくる。あの時見捨てられた事を思い出して、怒りが湧いてくる。奥歯をギリッと嫌な音が出るくらい噛み締める。
丁度正面に来た、今なら投げナイフが当たりそうだ。殺すつもりはないが、手足に当てるぐらいはしていいか?・・・やるか?
「アニキ?ちょ!駄目ですよ!何考えてるんですか!」
隣のトマスが何かを察したのか慌てて叫ぶ。その声が聞こえた訳でもないだろうが、『聖女』がこっちに顔を向け、俺の方を見てきたので少しだけ目が合った気がするが、すぐに視線を外されたので気のせいだっただろう。
俺は窓から離れて部屋に置かれたイスに腰かけ大きく溜め息をつく。
・・・・・俺を見捨てた、あいつが聖女。笑えるな。出来れば顔も見たくなかったが、これでノブがこっちに来ている可能性がかなり高くなった。会いたくはなかったが、接触してノブを知ってるか聞き出さないと、あいつから、
水着窃盗事件の被害者だけど俺を見捨てたクラスメイト
『大野怜』から。
◇
「だから大野さんからも水着の件は冤罪だって言ってくれよ!あの場にいたから俺が金子達に嵌められたって分かるだろ!」
金子を殴って1週間の停学から復帰したら、俺が水着窃盗事件を起こした事が学校中に広まっていた。俺の停学中に金子達が積極的に広めた結果らしい。あの場にいた何人かのクラスメイトは俺が嵌められた事が分かっているのに、ノブと委員長以外は誰も噂を否定してくれなかった。まあ、友達でもない唯のクラスメイトにそこまで期待する方がどうかと思い諦めた。そして金子を殴って停学になり、対応が後手に回った事も俺のせいだ。
取り合えず学校だけでも水着を盗んだ事は事実とは違う事を認めてもらう為に、停学があけてから何度も担任の沼田に訴えても聞く耳持たず、もう処分も決まって終わった事を蒸し返すなという態度で話にならないので、被害者本人の大野にお願いしたのだが、
「土屋君が金子君達に嵌められた事は分かってるの」
「なら!」
大野も理解しているなら、あのクソ担任に言って事実と違うと分からせる事が出来る。被害者本人が言えば担任でも動かざるをえないだろう。
「でも、ごめんなさい、この件は何も口にするなって言われてるの。もし口にしたら次は私を標的にするって・・・だから協力は出来ません。ごめんなさい」
「な!・・・・誰に言われたんだ!」
返ってきた言葉は俺の希望を打ち砕いた。犯人は金子達だと分かっているが、大野を問い詰めてしまう。
「ご・・ごめんなさい」
そう言って大野は走って逃げていった。残された俺は、被害者からも見捨てられたので、これでどうしようも無くなった気がして、ただ、呆然とするだけだった。
◇
「アニキ!さっき何しようとしたんですか?」
「ヤベえッス!さすがに『聖女』はマズいッス」
「ウッス、マズいッス、追われるッス」
大野を乗せた馬車が通り過ぎていった後、トマス達から怒られている。先輩として恥ずかしい。
「い、いや、なんか当たりそうだなって思って・・・ハハハ」
大野と知り合いだとは言えないので、少し苦しい言い訳をするが、信じてくれるだろうか。
「思ってじゃないですよ!当てたら大事件ですよ!こんな所で腕試ししないで下さいよ」
「笑いごとじゃないッス!いくらアニキでも脳筋過ぎるッス!流石に『聖女』の周りには結界張ってあるから弾かれるッス」
「ウッス、投げたら俺達まで捕まったッス!酷いッス!」
簡単に信じてくれたけど何か俺の事誤解されてる気がする・・・気のせいだろうか?取り合えず怒っている3人に飯を奢るって事で許してもらい、広場に向かうがパレードのせいか今日はいつも以上に人が多い。
「どうか!お許し下さい!」
「許してやるから、こっちの女に来いと言っている!」
何を食おうか選んでいると、近くで叫び声が聞こえた。
「お、アニキ!騒ぎですよ!見にいきましょう」
「行くッス。ちょっと通してくれッス」
「ウッス。通るッス」
何が楽しいのか3人はウキウキで騒ぎの方に向かって行くので、俺は仕方なくその後ろをついていく。腹減ってるから先に飯を食べたいなあ。
・・・あれは・・・確かガーネットとそのパーティメンバーか・・・その二人が例のデブ貴族に絡まれてるな。
騒ぎの元はデブ貴族でガーネットの腕を掴んでいる。パーティメンバーは床に頭を付けてデブ貴族に謝っているって状況だ。
「あれは例の伯爵家の嫡男ですね。それで相手は『紅の水』のガーネットとリーですね」
情報は大事だから集めておけとトマス達には教えているが、俺の知らない奴の名前まで知っている事に少し感心してしまう。そう言えば、パレードの時部屋も借りてたし案外顔が広いのかもしれない。
「トルティのアニキとリコルのアニキッス!向かってるけど大丈夫ッスかね」
言われて周囲の人込みの中からトルティとリコルが騒ぎの中心に向かって行く。ゴドルとヤーツとは今日は別行動みたいで、周囲に見当たらない。二人はデブ貴族に頭を下げながら近づいていく。少し遠いので何を話しているか分からないが、謝っているみたいだ。トルティが頭を下げているリーを抱き起している隣で、リコルがガーネットの腰に腕を回して何やら貴族と話している。ガーネットが不安そうな顔でリコルを見ているので、俺も大丈夫か心配になってくる。
次の瞬間、何を思ったのかデブ貴族が剣を抜いてリコルを斬りつけたので周囲から悲鳴が上がる。咄嗟にガーネットを庇ったリコルだったが腕を結構深く斬られたみたいで、かなりの血が流れている腕を押さえながらその場に蹲る。ガーネットが心配そうにリコルの肩に手を置いて何か話しているが、すぐにデブ貴族から腕を引かれて連れていかれそうになった。
「本当に申し訳ございませんでした!どうか!ご容赦下さい!せめてガーネットではなくぶつかった私で勘弁して下さい!」
それに気付いたリーが再び頭を地面に当てて大声で謝っている。え?貴族にぶつかっただけで無理やり連れていかれるの?しかもリーがぶつかったならガーネット関係なくね?
「いらん!いらん!近頃は巨乳ばっかりだったからな、久しぶりに小さいのや普通位のと遊びたい気分なのだ。・・・・まあ、二人同時ってのも悪くないか。グフフ」
デブ貴族が最低な事を言っている中、ガーネットがキョロキョロ周囲に視線を向けていると、ある一角で視線が止まる。その先には同じクラン『大海龍』リーダーの『深海』メンバーがいた。相変わらず両脇に美女を抱えているが、その美女達はガーネット達をニヤニヤ眺めていて嫌な感じだ。そうして視線を向けられた『深海』メンバーはあろう事か回れ右して人混みに消えていきやがった。それを見たガーネットは絶望した表情に変わりながらも再び視線を彷徨わせていると、俺が目に入ったのか視線が俺に止まり、少し明るい表情になりかけたが、すぐに俺から視線を外して助けを求めて周りを見渡している。
・・・はあ。斬られたリコルの状況も気になるし、一度一緒に依頼受けただけの奴だけどあんな顔されたらな。
「トマス達は絶対に出てくるなよ。命令だ」
「アニキ!何するんすか?」
トマスの言葉を無視して騒ぎの中心に向かって行く。今日はムカつく奴の顔を見たし、このデブ貴族も嫌いだから躊躇はしない。
「てい!」
ガーネットの腕を引っ張ってどこかに連れて行こうとしているデブ貴族に蹴りを入れる。ガーネットが一緒に引っ張られないように押さえていたので、貴族だけが派手に転がった。
「き、貴様!何をする!」
転がった後、怒鳴りながら真っ赤な顔で俺を睨みつけてくる貴族。隣ではガーネットが驚きの表情で俺を見ている。
「すまん!そんな道の真ん中で突っ立ってるから当たった」
「嘘つくな!貴様『てい』とか言ってただろ。・・・・・うん?貴様『首渡し』だな。グフフ」
俺が誰か分かると、汚らしい笑顔と笑い声で俺を蔑んだ目で見てくる。何か悪だくみでも考えたんだろうけどどうせ碌でもない事だ。
「ああ、そうだ、久しぶりだな。・・・それで俺の女に何か用か?」
そう言ってガーネットの腰に腕を回す。確か師匠からこうしろって教えられたけど、合ってるかな?これでガーネットが嫌がったら俺はタダのピエロだけど、そんな心配はないようで、俺の服をギュッと握って震えている。なにこいつ可愛いんだけど。
「ブハハハ、お前はどれだけ男がいるんだ?今も斬りつけてやったが後何人斬ればいなくなるんだ?ブハハハ・・・・まあいい、それよりも『首渡し』。今、貴族の私を蹴っただろう、この罪はどう償う?貴様の女を差し出すだけでは許されんぞ」
「蹴ってねえよ。当たっただけだ、お前、無駄に横に広いから当たりやすいんだよ。もう少し痩せろ」
俺の言葉に汚い笑顔から一転して顔を真っ赤にして怒った表情に変わる。周りからクスクス笑い声が聞こえてくるから更に顔を真っ赤にさせる。こいつ沸点低いな。
「くっ・・・まあ、いい、ここはギルドではないからなババアでももう助けられんからな。まずは腕の一本でも貰おうか。それで我が屋敷で拷問だな。ククク。動くなよ『首渡し』、これは貴族の命令だからな、平民が命令に背くと処刑だぞ。フハハハハハ」
腰の剣を無造作に振り上げながら、命令してくる。だからさっきリコルも何も出来ずに斬られたのか。リコルなら十分躱す事もできたのに不思議だったんだ。
ヒュン!
貴族の剣が俺の腕に向かって振り下ろされ周りからは息をのむ声が聞こえる。
カキン!ザシュ!
「ぐああああああああ、腕があああ」
デブ貴族の技も型も何もない、ただ振り下ろされただけの剣を自分の武器ではじき返してから、返す刀で手首を突き刺すと、手に持っていた剣を落として大声でわめき出す。
「ギン!あなた何やってるのよ!相手は貴族よ!」
「ぎ、ギン。そ、それはマズいぞ、すぐに逃げろ」
助けたガーネットからは非難されるが、腕を斬られたリコルは俺を心配してくれる。こんな状態でも俺を心配してくれるなんてリコルは良い奴だ。
「あああああああああああああああ、痛いいいいいいいいいい」
「ったく、うるさいな。お前が斬りかかってきたんだろ。ちょっと待ってろ。まずはリコルからだ。ほら、リコル傷を見せろ」
騒いでいるデブ貴族に文句を言いながらもリコルの傷に中級ポーションを振りかける。まあ、まだ少し傷が残っているがこれぐらいなら大丈夫だろう。で、残った中級ポーションをデブ貴族の手首に振りかけてやる。こっちは完全に傷が塞がった。
「う~ん。これでいいか。中級ポーション使ったから代わりにこれもらっとくな」
少し悩みながらもデブ貴族が落とした剣を拾い『影収納』にしまう。武器の目利きなんて出来ないが貴族の持ってた剣だ、中級ポーションと同じ金貨1枚の価値ぐらいはあると思うので貰っておこう。
「ふざけるな!貴様この私を蹴り飛ばすだけでなく、斬りつけおったな!お前たち!こいつを捕まえろ!貴族に逆らう重罪人だ」
主人が斬られたにもかかわらず、相変わらずやる気なさそうに取り巻きの兵士が武器を構える。こいつ自身か伯爵家が、なのかは良く分からないが、やっぱりあんまり慕われてないみたいだ
「ガーネット、リコル連れてギルドに行ってろ。リコル達にはちゃんと礼を言っとけよ」
俺の指示でガーネットが周りの兵士を警戒しながらリコル達と離れるが、デブ貴族の標的は俺に変わっているので離れていくガーネット達には何も言わない。取り巻きの兵士達も道を譲ってくれるぐらいだ、あいつらは見逃されたんだろう。俺の方はどうしようか。このまま逃げてもいいけど、それだとお尋ね者になるな。少しやる事が出来たから今、お尋ね者になるのはちょっと勘弁だな。取り合えず捕まって夜になってから逃げ出すか。それで大野にノブの事聞きに行って他の国に向かうって所かな。
「俺を捕まえた後はどうするんだ?」
いまだに武器を構えて動きを見せない兵士に囲まれながら今後の予定をデブ貴族に質問してみる。
「まずは屋敷に連れ帰ってから父に報告だ。貴様、楽に死ねると思うなよ。貴族に逆らった事を死ぬまで後悔させてやる!ほら!お前ら、さっさとこいつを捕まえろ!」
命令されても顔を見合わせるばかりで動こうともしない兵士達。やる気ねえ。暫く待つとようやく隊長格っぽい人が俺に近寄ってきた。
「すみませんが、命令なので拘束させてもらいます。あ、暴れないで下さいね」
そう言って俺の両腕を縄でグルグル巻いて拘束していく。捕まるつもりなので暴れるつもりは無い。周囲からは貴族に捕まった憐れな平民とでも見られているんだろうか、可哀そうなものでも見るような視線を向けられていた。